神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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クジョウとの戦いを終え、フィア達は「中層部」への調査を開始する。
さて、今回の物語は……。


第4部捕喰204 ~極東支部のとある一時~4

「――潤いが足りないと思わないか!?」

「…………はあ」

 

 くわっと目を見開いて熱弁するハルオミに、シエルは冷ややかな視線と反応を返した。

 螺旋の樹内部の調査を進めている中、シエルは休息の為にラウンジへと赴き静かな時間を過ごしていた。

 だというのに、いきなり現れたハルオミに上記の言葉を大声で放たれれば、彼女の反応は当然と言えるだろう。

 寧ろ優しいくらいである、フィア達男性陣だったら間違いなく容赦のない拳の一撃を叩き込んでいたから。

 

「螺旋の樹「中層部」の調査も順調に進んでいる、カズキ達クレイドルの面々が用意してくれたベースキャンプのおかげでスムーズに行えていると言えるだろう」

「はい、確かに仮拠点を設置した事により活動時間が増えたのは大きな利点だと思います」

 

 神融種のような脅威はあるものの、概ね順調に調査は進んでいるとシエルは考えている。

 先行していたブラッドの面々には既に休暇を与えられており、現在の調査は防衛班やクレイドルの面々が当たっていた。

 因みにこのような運用方法に決めたのは、意外にもフェルドマンである。

 今までの事を考えると驚くべき事ではあるが、それだけ極東との協力関係がより強固なものへと変化している現れであろう。

 

 この戦いを通じて、新たな絆が少しずつ育っている。

 その事実は大変素晴らしく、尊いものだとシエルは思い返しながら口元に笑みを浮かべていたが。

 そんな彼女の大人な考え方とは違い、ハルオミが考えている事はまったくの別物であった。

 

「近い内に「上層部」へと続く道を見つけられるかもしれない、まさしく好調な調査だ」

「ええ、そうですね」

「しかしだ! やはりそれでも皆の疲労は計り知れない、つまり“潤い”があった方が良いと俺は思っているんだ!!」

「はあ、潤いですか……」

 

 尚もハルオミに対し、素っ気ない態度を見せるシエル。

 それもその筈、彼女は今のようなハイテンションで話すハルオミは碌でもない事を言い出すという認識を抱いているからだ。

 まあ彼女の気持ちはよくわかる、そのせいで過去にフィアに迷惑が被っているのだから、シエルにとっては余計に警戒するのは当然と言える。

 

「そこでだ、俺は考えた!!」

「…………」

 

 少し冷めてしまった紅茶を一気に飲み干し、シエルはすぐに立ち上がれるように準備を始める。

 

「潤い……即ち可愛い女の子達が扇情的な恰好をすれば、俺達はすぐにでも元気になると!!」

「失礼します」

 

 やや食い気味にそう言って、シエルはさっさと立ち上がった。

 やはり碌でもない事を言い出してきた、というか最低である。

 それ以前に、百万歩譲って元気になったとしても、同姓である女性達のモチベーション向上はどうするのか。

 他にも色々とツッコミ所があったものの、付き合っていられないシエルは足早にムツミへとカップを持っていった。

 

「ちょっと待ったー!!」

「……すみません、それ以上喋らないでくださいませんか?」

「おおぅ……なんという冷たい視線、だが……それもいい」

「…………」

 

 神機を持っていない事を、シエルは強く後悔した。

 もし持っていたら、即座にフルーグルを目の前の男に叩き込んでやったというのに。

 

「なあシエル、協力してくれないか?」

「お断りします、それ以前にハルオミさんの提案はとても不謹慎だと思います。皆さん樹の調査でそれこそ神経を擦り減らしているというのに……」

「だからこそ、だ。確かに最優先事項は螺旋の樹の調査なのは俺だってわかってる、だがかといってそればかりに目を向けてしまえば俺達人間なんざ簡単に壊れちまう。立ち止まる事だって必要さ」

「それで、本音は?」

「可愛い女の子達のちょっとエッチな姿を見たい!!」

 

 爽やかな笑顔で、最悪の発言を恥ずかしげも無く言い放つハルオミ。

 ここまで自分に正直だと怒りすら湧かないと思いつつも、シエルはあからさまな不快感を彼へと向ける。

 しかしさすが極東のエロ兄貴担当、シエルの絶対零度の睨みにすら少しビビリつつも引き下がったりはしなかった。

 

「頼む、協力してくれ!! そして他の女の子の協力も取り付けてくれ!!」

「嫌です、ハルオミさんが見たいだけじゃないですか」

「そんな事はない、俺の同志となってくれた者達も渇望しているんだ!!」

「それにしたってお断りです。それとナナさんや他の皆さんに同様の頼みをしないでくださいね? 失礼します」

 

 これ以上は付き合えない、あくまでシエルは態度を崩さずにさっさとラウンジを後にした。

 一度自室に戻るために廊下を歩きながら、先程のやり取りを思い出しシエルは大きなため息を吐き出した。

 彼の言い分の一部は理解できるものの、あの煩悩全開の発言は何とかならないものだろうか。

 あれではフィアに悪影響を及ぼしてしまう……なるべく彼をハルオミと2人だけにしないようにしようと、シエルは新たな決意を抱きながら自室へと戻り。

 

「あ、シエルちゃん」

「……ナナ、さん?」

 

 自室の前で、普段とは違う恰好をしたナナを見て、シエルはポカンとしてしまった。

 そんな彼女に駆け寄り、ナナはその場でくるりと回って自らが身に着けている衣装を彼女へ見せる。

 

「どう? 可愛いでしょう?」

「……ナナさん、その格好は?」

「へへー……前にシエルちゃん、フィアの前でメイドさんになった事があったでしょ? あの時の衣装を着たシエルちゃんの写真を見ていつか着てみたいなーって思ってたの、そうしたらハルさんがわざわざ用意してくれたんだー!!」

(ハルオミさん……)

 

 あのエロ親父は本当に……頭を抱えたくなったシエルであった。

 けれど、それとは別にナナのメイド服姿は似合っていると思った。

 

 前にシエルが着た白を基調としたものとは違い、ナナのは落ち着いた黒を基調としたメイド服であった。

 勿論メイドカチューシャ標準装備、彼女の髪型も相まってなんだかネコ耳メイドを思わせる。

 ロングスカートタイプなので、普段のナナの恰好を考えても露出がほぼないという珍しいものだ。

 ナナ自身、メイド服を着て喜んでいたので、シエルはとりあえずハルオミに罰を与えるのは止める事にした。

 

「シエルちゃん、似合ってるかな?」

「ええ、とっても。可愛らしいと思います」

「えへへ……」

 

 シエルの本心からの言葉を聞いて、ナナの表情が綻ぶ。

 普段は元気が有り余っているような彼女だが、こういう反応を見ると確かに彼女も“女の子”だと改めて認識する。

 まあ、自分が言えた話ではありませんが……ナナ以上に女の子らしくない自分をふと顧みて、シエルはちょっとだけ心にダメージを負った。

 

「よーし、それじゃあフィアの所に行ってくるねー!!」

「えっ……」

 

 言うやいなや、ナナは一目散にフィアの部屋へと向かって走っていく。

 いつものように走るのでスカートが捲れ上がっているが、ナナは気づかないのかそのまま駆けていくが……対するシエルは、それどころではなかった。

 拙い、このままでは先を越されてしまう。

 ……お前も前にメイド姿で抜け駆けしただろというツッコミは無しの方向で、今のシエルにいつもの冷静さは存在していない。

 

 なのでシエルは奔った、自らの自室へ。

 そしてクローゼットを開き、とあるものを取り出し大急ぎで着替え始める……。

 

 

 

 

「――おーい、起きろ少年」

「フィアー、起きてー」

「……んっ……?」

 

 まどろみの意識の中、自分を呼ぶ声が聞こえフィアは目を醒ます。

 しかし彼が居た場所は自室のベットの中ではなく、現実味の無い不可思議な空間であった。

 地面も空も何もかもが白に包まれた世界、その中で立っているのはフィアと……彼を優しく見つめる、2人の女性。

 

「……マリア、それと……ケイト?」

 

 フィアを見つめるのは、かつて地獄の中にいた自分を支え守ってくれたマリア・ドレイクと。

 ハルオミの大切な女性であり、フィアが扱うニーヴェルン・クレイグの元の持ち主であった神機使い、ケイト・ロウリーであった。

 既に亡くなっている2人が目の前に現れた、その事実がフィアにこの場所は謂わば自分達の精神が混ざり合った世界なのだと理解する。

 過去に何度か似たような体験をしている故か、フィアは特に驚く事をせずに2人に笑いかけた。

 

「2人とも、久しぶりだね」

「うん、久しぶりフィア!!」

「まーわたし達はずっと君の中から見てきたから、久しぶりって表現は些か違うかもしれないけど……まあ、久しぶりだね」

「今回はどうしたの? 何か……あった?」

 

 今まで、マリアとケイトが自分に語りかけてくる時は、必ず何かが起きる前兆であった。

 なのでやや警戒した口調で問いかけるフィアであったが、そんな彼の不安を払拭するように2人はあくまで明るい口調で言葉を返す。

 

「別に何かあったわけじゃないよ、ただやっと話せるレベルまで回復したから、フィアも寝てるし久しぶりに話がしたくなっただけ」

「わたしは、ハルがいつも君に迷惑を掛けてるみたいだったから……ちょっと謝りたくてね」

「そうだったんだ……。――別にハルオミが迷惑だと思ったことはないよ、たまに鬱陶しい時はあるけど」

「うーん……ハルは昔っからあんなんで、ギルからもよく怒られててねー。まったくもぅ、わたしが生きてた頃から全然変わってないんだから」

 

 そんな事を言うケイトであったが、彼女の口調には穏やかな笑みが浮かんでいた。

 ハルオミが変わらずに今を生きている事が嬉しいのだろう、優しく包容力のあるケイトらしい態度だ。

 

「それはそうとフィア、まだ決められないの?」

「何が……?」

「シエルとナナ、どっちが好きなのかまだ決められないのかって事だよ!」

「…………」

 

 それは、フィアにとってあまりに不意打ち過ぎる問いかけであった。

 まさかマリアの口からそんな事を言われるとは思っていなかったというのもあり、フィアは口を閉ざし固まってしまう。

 そんな彼の態度に、マリアとケイトは揃ってにやーっという擬音が聞こえてきそうな笑みを見せ始めた。

 

「ずっと見てたけど、もういい加減答えを出さないといけないんじゃない?」

「うっ……」

「見てる側としては初々しい事この上ないけど、確かに男の子なんだからちゃんと答えを返さないといけないと思うなー」

「ううっ……」

 

 居た堪れなくなって、フィアは2人から視線を逸らす。

 2人はフィアの態度に益々笑みを深めていくのだが、視線を逸らしている彼がそれに気づく事は無い。

 

「そんな難しく考えなくていいと思うよ? それにね……フィアはもう、自分の中で答えを出してるんだから」

「えっ?」

「そうそう。――落ち着いて自分自身を見つめれば、答えはきっと見つかるよ」

 

 刹那、フィアの視界が真白に染まっていく。

 ……どうやら夢の終わりが迫っているらしい、当たり前のように理解しつつフィアは口を開いた。

 

「またね、2人とも」

「うん。――頑張ってねフィア、無理したら駄目だよ?」

「わかってるよマリア、それで……あの……」

「――言わないで。きっと喜んでくれるけど……同時に悲しむから」

 

 少しだけ泣きそうな顔で上記の言葉を口にするマリアを見て、フィアは何も言えなくなった。

 もうこの話は二度としないと心に決める、喪った過去を蒸し返すような真似は本来許されないのだから。

 

「ハルがまた迷惑掛けちゃうと思うけど、許してね?」

「大丈夫だよケイト、それ以上にハルオミには助けられてるから」

 

 嘘偽りのない言葉を返すと、ケイトは満足そうに笑う。

 愛する人がお世辞ではない心からの賞賛の言葉を告げられるのが、嬉しいのだろう。

 そして、フィアの視界が眩く白い光に包まれて。

 

――見慣れた自室の天井が、視界に広がった。

 

 起き上がる、きちんと睡眠は摂れていたのか身体から疲れが消えている。

 それだけではない、久しぶりにマリアに出会えたからか……フィアの精神もいつも異常に穏やかなものになっていた。

 もしかしたらマリア達は、樹の調査で疲弊している自分の心を癒すために現れてくれたのかもしれない……フィアはそう思った。

 ただ、疑問に思う発言も残されてしまったが。

 

「……答えを出してる、か」

 

 それはつまり、自分はシエルかナナ……どちらかに異性としての好意を抱いているという事なのか。

 それとも、2人のどちらにもそういった感情を抱く事はないという事なのか……どちらにせよ、今のフィアにはわからなかった。

 けれどフィアは焦りを見せず、ゆっくりと答えを見つけようと自身に言い聞かせる。

 もういい加減答えを出さなければならないというマリア達の言葉は正しいが、かといって明確な想いを見つけるまでは迂闊な答えは出せない。

 

 螺旋の樹の調査だって終わっていない、時間だってどれくらい残っているか判らない。

 手探りで進んでいる以上焦りは禁物、今の自分にできる事と出せる答えを見つける事だけを考えよう。

 改めて決意を抱きながらフィアは自室から出る、すると……廊下に見慣れた2人の少女の姿が視界に映った。

 

「シエル、ナナ……その恰好、何?」

「あ、フィア! ふふーん、あなたのメイドさんだよー♪」

 

 楽しげに笑みを見せながら、スカートを翻すナナ。

 

「どう? 可愛い? ムラムラくる?」

「ムラムラの意味はよくわからないけど、可愛いと思う」

「えへへー……ありがとっ」

 

 頬を赤らめつつ、ナナはフィアを抱きしめた。

 少し苦しかったものの、ナナが嬉しそうな表情だったのでフィアはおとなしくする事に。

 

「…………」

「あ……」

 

 ふと、後ろに居たシエルと視線が合った。

 彼女もナナと同じくメイド服姿であり、前に来てくれたものと同じものを身に着けている。

 よく似合ってる、ナナに抱きつかれながらフィアは感想を述べようとして……彼女の表情に気がついた。

 

 ほんの少しの怒り、寂しさ、そして自己嫌悪の色が複雑に混ざり合い瞳に現れている。

 けれどシエルは精一杯それを表に出さないように努めていつものような冷静な表情を見せている、隠せてないのに隠そうともがいていた。

 その姿は悲しそうで、儚くて、同時に――尊く映った。

 シエルから視線を逸らせず、シエルもまたじっとフィアを見つめ続ける。

 

――それが、どれくらい続いたのだろうか。

 

「……ナナ、そろそろ離れてくれる?」

「はーい」

 

 先に視線を逸らしたフィアは、少しふわふわした気持ちのままナナと離れる。

 ナナの暖かな感触と温もりが消えてしまったものの、今のフィアにそれを残念がる気持ちは存在していなかった。

 あるのは――疑問と、ほんの少しの心の痛み。

 けれど心の痛みの原因はわからず、浮かんだ疑問も答えが出せぬものであった。

 一体何故? どうして今自分は……。

 

「フィアー、せっかくメイドさん姿になったから、お茶でも淹れようか?」

「あ……うん、じゃあ僕の部屋に茶葉があるからお願いできるかな?」

「りょうかーい。シエルちゃんも手伝ってくれる?」

「あ……は、はい。了解しました」

 

 そうして、3人はフィアの自室へと赴き、楽しいお茶会を開催した。

 他愛の無い話をする頃には、フィアもいつもの調子を取り戻していたが……浮かんだ疑問が頭を離れる事はなかった。

 

 どうして、あの時。

 

 シエルと見つめ合った時、もっと――彼女を見たいと思ったのか。

 

 未熟な心を持つフィアには、結局それからも答えを出す事はできず。

 けれどその答えを得るきっかけとなる出来事は、すぐそこまで迫っていた……。

 

 

 

 

To.Be.Continued...




誰か……技術が向上する良い案をください!!
こんなんでも楽しんでいただけたら幸いに思います。
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