神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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カズキとアンノウン。
フィアとグリード。

両者の死闘は、激しさを増していく。
果たして勝利の天秤は、どちらに傾くのか……。


第4部捕喰215 ~最後の死闘~(後編)

「――――」

 

 痛みと熱を感じ、カズキは失っていた意識を覚醒させる。

 ぼんやりとした視界は、赤い空を映している。

 何があったのかを思い出しながら、彼は肉体の喪失感を自覚しつつ。

 

「――ここまでだねカズキ、何度か負けちゃった事はあったけど……最後の勝負は、ワタシの勝ちだ」

 

 自分を見下ろし、歓喜の笑みに見せ付けてくるアンノウンを見た。

 ……まだ彼の意識は混濁している、けれど何が起きたのかは理解できていた。

 あの瞬間、“光の剣”に呑み込まれた“殺生石”は内側に宿っていたエネルギーを解放させた。

 

 言うなれば巨大な爆弾と同じ、強大なオラクルエネルギーによる爆発がカズキを襲い。

 ……左腕と右足を喪う傷を与えられる事になった。

 それだけではない、視線だけを自身の身体に向けてカズキはおもわず笑いたくなった。

 全身に無事な箇所など無い、皮膚は裂かれ骨は折れ、痛みはあるのに残る右腕と左足はピクリとも動かない。

 

 まさしく死に体、彼のレトロオラクル細胞が必死に修復を試みているが、どのくらいの時間を有するのかは想像もできなかった。

 そもそも、そんな悠長な事を目の前の存在が許す筈もない。

 アンノウンの言う通り、既に勝敗は決したと言えるだろう。――――けれど。

 

「……っ、ぁ……」

 

 けれど――カズキの瞳はまだ死んでいなかった。

 動く事などできない、普通の人間ならばとうに死に絶えている怪我を全身に受けても尚、彼の心は戦う意志を失ってはいなかった。

 その常軌を逸した闘志に、アンノウンは僅かばかりの恐怖と彼に対する惜しみない賞賛の意を込めながら。

 

「もう終わりだよカズキ。“殺生石”のエネルギーをまともに受けて生きているだけでも凄いのに、戦うなんてできるわけないってわかるでしょ?」

「っ、ぐ……!?」

 

 立ち上がろうとする彼の胸元を、右足で踏みつけた。

 絶対的な敗北を思い知らせるように、遠慮なく彼を踏みつけるアンノウン。

 その屈辱的な行為を前にしても、カズキは何もできずされるがままであった。

 如何に進化を続けた彼の強靭な細胞を以てしても、再生にはまだ時間が掛かる。

 そして相手がその再生を待つ筈もなく、アンノウンの言う通り既に結果は見えてしまっていた。

 

「楽しかったよカズキ。本当に楽しかった……思い返せば、瞬きほどの快楽だったよ」

 

 懐かしむように、アンノウンは言う。

 口調に狂気の色は無く、まるで純粋無垢な童女のような慎ましさすら感じられた。

 事実、今のアンノウンは最後の勝負に勝ったという事実で心が満たされ、この上なく純粋な思いを抱いていた。

 彼女にとって抗神カズキは雌雄を決する猛者であり、殺してやりたいと思う玩具であり……同時に、自身の総てを捧げたくなる愛すべき者であった。

 

 そう、アンノウンはカズキを愛している。

 その愛はアリサのようなモノではないものの、確かにアンノウンはカズキを愛していた。

 強く、純粋で、大きな愛情をアンノウンはずっと彼に向け続けていたのだ。

 たとえそれが常人には理解できず、彼に決して届く事のない歪みに歪んだ愛情だったとしても。

 それでも彼女は、今この瞬間も彼を愛し続けていた。

 

「…………アンノウン」

 

 それを死の淵を前にして、カズキも理解に至る。

 ……ああ、なんて純粋で理解できない愛情なのだろう。

 彼はアンノウンとは決して相容れない、たとえ幾年の時が経とうともそれは変わらないとしても。

 最後の最後で、彼女が自分に向ける愛情だけは忘れないと胸に刻む。

 

「もうすぐ世界全てが捕喰されるけど、やっぱりあなたはワタシ自身が殺してあげる」

 

 カズキから足を降ろし、右手で手刀を作り、大きく振り上げるアンノウン。

 数秒後に迫る死の恐怖に苛まれながらも、カズキの表情に恐怖の色はなく。

 あるのは、燃え盛るような“決意”と“生への執着心”のみであり。

 

「――言った筈だぞアンノウン。この世界は……終わらせない!!」

 

 猛る気合。

 瞬間、カズキの声に応えるかのように細胞が一気に活性化。

 だがその時には、彼の眼前にはアンノウンの手刀が迫っており――――

 

「――――」

 

 驚愕が、アンノウンを襲う。

 相手は死に体、彼女にとって軽く小突くだけでも容易に命を狩り取れる状態だった。

 けれどアンノウンは決して容赦はせず、カズキという存在に最大限の敬意と愛情を込めて今の一撃で終わらせようとした。

 だというのに、彼女の手刀は空気を切り裂くだけで終わり。

 

――死に体である筈のカズキは、アンノウンから離れた間合いの位置に立っていた。

 

「……嘘、でしょ」

 

 その事実に、アンノウンはあの時――カズキに消滅させられそうになった時と同じように、驚愕の表情を端正な顔に刻ませる。

 回避したというのか、あの身体で?

 絶対に不可能だと断言できる、それほどまでに彼の身体に刻まれたダメージは尋常なものではない。

 そこで漸く彼女は気づく、自分が大きな“思い違い”をしていた事に。

 

 確かに、先程までの彼ならばアンノウンの一撃を回避する事はできなかっただろう。

 しかしである、死の直前となって彼の細胞が更なる進化を遂げたのか、それとも彼の想いを形にしようとした結果なのか。

 ……既に、彼の右足は“再生”を遂げていた。

 その足を用いて回避したのだろう、されどその再生とて完璧ではなく左腕は損失したままであった。

 

「…………」

 

 右手のみで神機を握り締め、カズキは静かに身構える。

 互いの距離はおよそ八メートル、カズキとアンノウンならば一息で踏み込める距離だ。

 しかし彼はその場から身構えたまま動こうとはせず、見ると息も大きく上がっていた。

 それでアンノウンは理解する、今の彼に残された力などたかが知れていると。

 

 現に損失した左腕は一向に再生の兆しを見せず、それはそのまま彼の残された力の矮小さを物語っている。

 先程の回避で今度こそ終わり、ただ死ぬのが少し遅くなっただけに過ぎない。

 次の一撃で決まる、彼がどう足掻こうともアンノウンの勝利は揺らがないだろう。

 

「………………ふぅぅぅぅぅ」

 

 こちらの勝利は揺らがない、それは決定された事実だ。

 それなのに、アンノウンにはどうしても自身が今の彼を打倒するイメージが沸き上がらない。

 片腕だけになった満身創痍の相手を前にしても、彼女の脳裏には死神の姿がちらついた。

 故に加減も油断もせず、彼女は再び“それ”を作り出した。

 

「っ…………!」

 

 荒れ狂うオラクルエネルギー。

 アンノウンの両手から生み出される物体は、先程彼の身体に重傷を負わせた“殺生石”であった。

 今度こそ勝負を決めるつもりだ、それに込めるエネルギーは先程の比ではない。

 

「――――――」

 

 それでも、今の彼の瞳に一片の迷いも恐れも存在していない。

 身体の至る所に激痛が走り、叶う事ならば今すぐに倒れ込みたいと思ってしまう程に衰弱しているけれど。

 内に宿る闘志と、躍動する細胞は未だかつてない程に高まり続けている。

 

「――これで幕引きにしよう、カズキ!!」

 

 アンノウンが動く。

 “殺生石”のエネルギーそのものが、カズキの命を奪わんと放たれる。

 その一撃はまさしく“砲撃”と呼べる、超高エネルギーの塊である黒い極光へと変貌し彼に襲い掛かった。

 地面を焼き削りながら迫るそれを、カズキは臆する事無く真っ向から立ち向かう。

 再び神機の刀身に“光の剣”を展開させながら、右上段に構えつつ走り続け。

 

 されど――彼はその一撃を振り下ろす事をしないまま。

 あっさりと、黒い極光を放つ“殺生石”の砲撃の中へと呑み込まれてしまった――――

 

 

 

 

 戦斧が奔る。

 巨大な獲物は眼下に居るフィアの身体を両断しようと振り下ろされた。

 

「――――!!!?」

 

 しかし。

 グリードの攻撃は、突如として戦斧に襲い掛かった“衝撃”によって阻まれる。

 それでも彼自身に対するダメージは無く、けれど――その二秒にも満たぬ妨害によって攻撃が遅れた結果。

 

――フィアの離脱を、許してしまっていた。

 

 視線を前方へ、既に彼はおよそ六メートル離れた距離まで離脱している。

 彼の隣には、先程グリードの邪魔をした存在――シエルが銃口をこちらに向けたまま身構えていた。

 

「グリードォォォォォォォッ!!!!」

 

 叫び、フィアは己が力を解放する。

 猛るオラクルの嵐、形成される骨組みの翼がそのままフィアに力を与えていく。

 その猛るエネルギーの強大さ、2人の瞳に宿る絶対の意志を感じ取り、グリードは勝負に出る。

 

「――そうか。どこまでも親である私の手を煩わせたいか、フィア!!」

 

 戦斧を振り上げるグリード、同時に己が獲物に大気に漂うオラクルエネルギーを込めていく。

 吹き荒れる嵐、戦斧の刀身に宿るは純粋なる“風”であった。

 否、その勢いはもはや風ではなく全てを蹂躙する旋風と同じ。

 それを解き放てば、フィアはおろか彼の隣に居るシエルすら全身をズタズタにして命を奪うであろう。

 

 だが、2人は逃げない。

 この瞬間こそが勝機、彼が最大の一手を放つ事こそが勝利へと繋がる道だと理解する。

 ……受け切れるか、などという不安は抱かない。

 何が何でも突破する、たとえ腕が千切れ足が吹き飛ぼうとも届かなければこちらの敗北が決定するのだから。

 フィアとシエルは互いに合図を送る事無く、けれどその心は確かに繋がっていた。

 

 

――そして、その最後の攻防は。

 

――深々とした静寂を暫し迎えてから、爆発するように始まった。

 

 

「――――!」

 

 飛び出した。

 両足に充分な力を込め、フィアは一息で相手との間合いを詰めようと地を蹴る。

 それと同時に、グリードは向かってくる彼に向かって必殺の一撃を繰り出した。

 

 地面に叩きつけられる戦斧、そこから放たれるは全てを呑み込み削り砕く旋風の咆哮。

 巻き込まれれば終わり、かといって今更回避する事も叶わないそれを。

 フィアは、自らの意志で飛び込んだ。

 

「なっ――――」

 

 彼の行動に、グリードは僅かに驚き息の呑む。

 明らかな自滅、勝利を捨てたであろうその行動に呆れよりも驚きが増した。

 ……とにかくこれで終わりだ。

 フィアは死に、放たれた旋風は背後に居るシエルを巻き込みグリードに勝利を齎す事は決定した。

 

 …………決定した、筈であった。

 

「っ――――」

 

 二度目の衝撃が、グリードを襲う。

 旋風が彼を呑み込んだ瞬間、突如としてその中で爆発が起こったのだ。

 彼が何か仕掛けたのか、一瞬そう考えたグリードであったがそれは間違いだ。

 時間がゆっくりと流れる中、グリードは前方――先程から不動のまま佇むシエルを見た。

 

 それで理解する、先の爆発は彼女が齎したものだと。

 銃口からここからでも判る程の煙が吹き出ている、それは即ち彼女が銃撃を放った証拠に他ならない。

 

――グリードが旋風に呑み込まれた瞬間、彼女は二発目に装填したブラッドバレッドを撃ち放った。

 

 射程を犠牲にし、威力と広範囲に及ぶ爆発を引き起こすブラッドバレッド。

 “エクスプロージョン・ノヴァ”を、彼女は躊躇いなくフィアが呑み込まれた旋風の中心へと撃った。

 結果、内部で広範囲の大爆発を引き起こし、旋風は霧散して。

 

「っ、は――――!」

 

 爆発をまともに受け、全身を焦がしながらも迷いなく進むフィアが飛び出してきた。

 まさしく捨て身の戦法、否、戦法と呼ぶにはあまりにもお粗末で無謀なものであった。

 しかしこうでもしないと相手の隙を突く事などできない、通常のアラガミのような正攻法が通用しない以上、自身の肉体を犠牲にしてでも隙を作らなければ勝負にすらならない。

 だからフィアは、真っ向からグリードが放った必殺の一撃へと飛び込んだ。

 シエルが、彼女が必ず突破口を開いているとただ信じ続け。

 

「っ、おおおおおおっ!!!!」

 

 絶好の機会を得たフィアの一撃は。

 されど、グリードによって弾かれ右手に持っていたニーヴェルン・クレイグが彼の手から離れ宙に吹き飛んでいった。

 

「――――」

 

 化物だ。

 相手の必殺の一撃を耐え、反応できないであろうタイミングで渾身の一撃を叩き込んだ。

 なのに防がれ、獲物を弾かれるという結果を見せ付けられては、相手を化物だと呼んでしまうのは致し方ないだろう。

 

 

 されど。

 フィア達の攻撃は、まだ終わっていない。

 

 

「っ、はぁっ!!」

 

 その場で大きく跳躍する。

 自らグリードと離れるという、愚行とも言える行動を見せるフィア。

 当然相手も、逃げ出した彼を追撃しようとして。

 

――神速の一撃が、死神の鎌となってグリードへと襲い掛かる。

 

「っ、ぬああぁっ!!!!」

 

 強引に上体を逸らし、迫り来る神速の一手を回避するグリード。

 その一撃――最後の一発であったフルーグルを撃ったシエルの表情が、凍り付く。

 届かなかった、当たるというイメージと確信を持って放った一撃が、何故回避されたのか理解できない。

 

 

 そこへ。

 空中に跳んでいたフィアが、グリードに向かって左手に持つラグナロクを投げ放つ……!

 

 

「ぐああっ!!!?」

 

 鮮血が、グリードの身体から噴き出していく。

 ラグナロクの刀身は、見事グリードの左肩を捉え初めてこの戦いにて彼に明確なダメージを与える事に成功する。

 ……だが、そこまでだ。

 フィアは無刀、シエルも全ての力を解き放ちもう銃撃に回すオラクル細胞は存在しない。

 

「…………」

 

 今度こそ、終わりだ。

 ダメージは与えたが、一秒後にはグリードは反撃に移る。

 そうなればフィア達に防ぐ手段はなく、瞬殺されるであろう未来はしかし。

 

“――――今だよ、ケイト!!”

“了解!! フィア、受け取って!!!!”

 

 限界を超えた彼等に、力を貸す者によって防がれる事となる。

 フィアとシエルの脳裏に響く、マリアとケイトの声。

 瞬間、弾き飛ばされ地面に突き刺さっていたニーヴェルン・クレイグが動き出す。

 誰も触れていない、だというのにその神機は地面から抜け担い手の元へと戻っていった。

 

――この時を、ケイト・ロウリーの意志はずっと待っていた。

 

 死んだ身である自分に何が出来るのか、考えた末に彼女は本来起こりえない“奇跡”を願った。

 彼女の意志が神機を動かし、たとえフィアと遠く離れた位置にあっても必ず彼の元へと戻るという奇跡を、彼女は願ったのだ。

 

 当然、このような都合の良い現象は通常では起こりえない。

 だがここは螺旋の樹の最上層部、ここには大気中に地上とは比べものにならないオラクルエネルギーが漂っている。

 それ故に、既に肉体を失ったマリアとケイトが、フィアの肉体およびかつての自分の神機に残っていた細胞の中に眠る僅かな意志を呼び覚まし、2人はずっとその力を少しずつ蓄えてきた。

 全てはこの時の為、フィア達のような今を生きる者達の未来を作る為に、2人は死して尚も未来の為に戦ってくれていた。

 

「――――」

 

 その奇跡を目の当たりにして、グリードは息を呑みその表情を凍らせる。

 目の前で展開されている状況が理解できない、まるで夢物語を見せれているかのようだ。

 真なる神となり、この世の全てを蹂躙できる力を得た、哀れで傲慢な“人間”は。

 

「グリードーーーーーーーーーッ!!!!」

 

 最後の最後まで、己の敗北を信じないまま。

 最高傑作と称した自身の息子によって、その肉体を両断された――――

 

 

 

 

「………………」

「――お、おお、おおお」

 

 深く深く息を吐き出し、フィアは父であったモノを見る。

 両断された身体からは止め処なく黒い血を流し、大地を穢していく。

 そして、敗北した魔神は小さく呻き声を放ちながら醜くのた打ち回っていた。

 

「おお、おおおお……」

 

 この結果を信じられないと言わんばかりの呻き声。

 傲慢さを隠そうともしないそれは、フィアにとってただただ醜悪に映る。

 ……だが、それももうすぐ終わりを迎えるだろう。

 わかるのだ、グリードにもう戦う力が残されていないという事に。

 現に彼の身体は少しずつ崩れ始めている、フィアが放った最後の一撃は――彼の“コア”を両断していた。

 

「…………」

 

 全身に襲い掛かる倦怠感を無視して、フィアは倒れそうになる自分の身体を支えながらゆっくりとグリードへと歩み寄っていく。

 そして、神機を捕喰形態にして今にも消えそうな荒ぶる神を鎮めようとして。

 

「――死にたく、ない」

 

 そんな懇願を、耳に入れた。

 

「おお、おおお……死にたくない、死にたく……なぃぃぃぃぃ」

「…………」

 

 まるで呪詛のように繰り返される呻き声の中で、グリードは懇願する。

 自分が死ぬと理解して、それでもその事実を認めたくない彼は必死に生へと執着する。

 それは人として当然の姿であり、けれどこの男には決して許されない姿であった。

 沢山の罪なき命を踏み躙り、蔑ろにして、人を捨てたこの男に救いなど決して与えない。

 

「死にたくない、死にたくない、死にたくない…………」

 

 なんと往生際の悪い、醜く滑稽な姿なのか。

 けれど、フィアの中に在るこの男に対する感情は――“憐れみ”だけであった。

 あれだけ強く根付いていた怒りや憎しみは、既に消失してしまっている。

 

「……さようなら、グリード・エグフィード」

 

 掛ける言葉は、その一言だけ。

 最期まで「死にたくない」と喚く愚かな男を、フィアは一口で捕喰した。

 

「…………」

 

 今度こそ、今度こそ完全に自分の総てを奪った男に引導を渡した。

 その事実はゆっくりとフィアの身体に浸透していき……されど、彼の中に達成感や喜びといった感情は湧かなかった。

 理由はわからない、何処か空虚感すら覚えつつも彼はシエルの元へと戻っていく。

 まだ戦いは終わったわけではない、ラケルと戦っている仲間達の元へと向かわなければ。

 

「シエル、行こう」

「……フィアさん、あの」

「まだやらなきゃいけない事が残ってる。――あの男の事は、全てが終わった後に考えればいいさ」

 

 何処か自分に言い聞かせるように言って、フィアはシエルの手を取って走り出す。

 

――グリードが居た場所には一度も振り返らないまま、彼は再び未来へと向けて歩みを進め始めた。

 

 

 

 

To.Be.Continued...




次回、最終回(終わりではありません)。
最後まで楽しんでいただければ幸いに思います。
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