神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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最後の話。

物語は終わらず、けれどここで一度幕を下ろす事にしよう……。


Last.Episode ~夢にまで見た日々~

――夢を、見た。

 

 広がる白い世界、意識ははっきりしているのに視界は霞んでいるのかはっきりしない。

 ……夢だと完全に認識しているのに、一向に醒めないのも可笑しな話である。

 けれどこの世界は変化せず、僕はただ視界を動かす事も出来ずに佇んでいる。

 

 でも――なんだか心地良い。

 暖かなお湯の中に漂っているような、優しい気分にさせてくれるこの夢は、不思議な魅力を感じさせてくれた。

 眺める景色が変わらないのは少し寂しいけれど、このままでも構わないと思わせる空気の中で。

 

“――お寝坊さんですね、フィア”

 

 優しい声が聞こえ。

 視界の中に、女性らしき人影が映り出した。

 

 少しだけ色素の薄い金の髪、背丈はあまり高くなく僕と同じくらいか。

 相変わらず視界は霞んでいる為、女性の顔立ちはわからない。

 

 けれど、何故なのか。

 僕は目の前に現れた女性を知っていると、当たり前のように思い。

 同時に、女性を見てどうしようもなく心が暖かくなった。

 この女性と話したい、触れたい、抱きしめてほしいと様々な欲求が溢れ出していく。

 でも無駄だ、意識はあっても身体の感覚がない以上、僕はこの場から一歩も動けない。

 

“疲れているのね、無理もないわ。あんなに……頑張ったのだから”

 

 慈しむように、褒めるように、女性は言う。

 心が踊る、褒められているのが嬉しくて身体の感覚があったらきっと僕は飛び跳ねているだろう。

 彼女に褒められるのが嬉しくて堪らない、当たり前のように僕の意識はそう訴えている。

 

 ……彼女は、何者だろう。

 何処かで聞いた事のある声、でも極東の人達やマリアやケイトとも違う声。

 そこで気づく、この声はあの戦いの時。

 ラケルの攻撃から自分を守ってくれた女性の声だと、思い出した。

 それだけではない、僕がグリードに敗れ螺旋の樹の下層に落とされた時、僕を導いてくれた声とも同じだった。

 

 思い返せば、この声の主は何度も僕を助けてくれていた。

 彼女もマリアやケイトと同じ、既にこの世には存在しない人なのだろう。

 だとすると、この女性は何故僕を助けてくれたのか。

 

“もうあなたを助ける事はできないけど、きっと大丈夫よね。だってあなたの傍にはあなたを愛してくれる人達が居るのだから”

 

 その言葉を聞いて、心に影が落ちる。

 この女性はもうすぐ僕の前から居なくなる、そして……もう二度と会う事はできなくなる。

 それがわかってしまったから、あれだけ踊っていた心は急速に冷え切ってしまった。

 

 嫌だ、そんなの認めない、待ってほしい、

 彼女に対してそう言いたいのに、声が出てくれない。

 今の僕にできる事は、ただ彼女の言葉を聞く事だけだった。

 せめてお礼が言いたい、助けてくれてありがとうと。

 それだけの願いすら、今の僕には叶えられない。

 

“これからも沢山の試練があなたを待っているわ。辛い事や苦しい事も沢山待っているでしょう、でも大丈夫よフィア”

 

 女性が近づいてくる。

 僕の目の前に来た彼女は、優しく愛するように僕の頬を指でなぞった。

 少しだけくすぐったい、でもどうしようもなく幸せな気持ちが溢れていく。

 ……あなたは誰? どうして僕をこんなにも。

 

――こんなにも、愛してくれるのですか?

 

 そう、この女性は僕を愛してくれている。

 その理由がわからない、だってこの女性が僕に向けている愛情はとても大きくて美しいものだ。

 こんなにも無類の愛情を向けられているというのに、どんなに記憶を遡っても僕はこの女性が何者なのかわからない。

 出会った事はある、それも何度も何度も。

 だというのにわからない、思い出せない、それがもどかしくて悲しかった。

 

“――さあ、新たな道を選択する朝がやってきましたよ?”

 

 瞬間、女性の指の感覚が頬から離れ意識が混濁していく。

 夢から醒める、それを当たり前のように理解して必死に抵抗した。

 手を伸ばす、感覚などないのにがむしゃらに手を伸ばす。

 けれど届かない、届くわけがない。

 白い世界が消えていく、その中で僕は瞳に彼女の姿を焼き付けようとして。

 

“この世界でも真っ直ぐに育った“子供達”。どうかこの子を支え、導き、愛し、共に歩んでくださいね――”

 

 僕ではない、誰かに向かって自らの願いを告げながら。

 最後に、僕に向かって微笑んで。

 

 ――夢は、こうして終わりを告げた。

 

 

 

 

「…………」

 

 見慣れた自室の天井が、フィアの視界を埋め尽くす。

 ……何か、夢を見ていたような気がした。

 けれど思い出せず、やがてフィアはベッドから起き上がり、いつもの服に着替え、外を見た。

 そこから見えるのは極東支部と外部居住区、いつものアナグラから見える景色が広がっている。

 ……その光景を見る度に、フィアは自分が生きていると実感できていた。

 そして同時に、この世界はまだ終わりを迎えていない事も認識できて、安堵する。

 

 暫し外を眺めてから、フィアは廊下へと出る。

 コツコツと足音を響かせながら、彼はエントランスロビーへと向かい。

 

「おはよう、フィア」

「おはよう、カズキ」

 

 右手を挙げながら、カズキと朝の挨拶を交わした。

 その後フィアは、カズキの身体の隅々を見るかのように眺め始める。

 一頻り眺め続けた後、フィアは安堵したような吐息を零し、彼を見るカズキは苦笑を浮かべた。

 

「……心配、掛けちゃったみたいだね」

「ううん。気にしないで、でも……もう大丈夫みたいだね」

「ああ、流石に三週間もあれば回復できるさ」

「…………そうか、もう三週間か」

 

 あの戦いから、三週間という時間が流れた。

 結果だけを先に言えば、終末捕喰は阻止されこの世界はまだ存続している。

 とはいえ、終末捕喰そのものは確かに発動し、今もその活動を続けていた。

 

 ……終末捕喰が発動し、まずは螺旋の樹が呑み込まれ消滅した。

 けれどフィア達全員の“願い”と“血の力”、そして様々な“偶然”が重なった結果――終末捕喰は穏やかで緩やかな速度で少しずつ発動するという小規模なものへと変わっていった。

 即ち、当面の間は終末捕喰による世界の再構築という脅威は薄れ、人々はまだこの世界で生きる事が許されたという事である。

 

 それだけではない、螺旋の樹があった場所――つまり終末捕喰が発動している場所には、自然豊かな大地が形成されていた。

 そこではアラガミの姿はなく、またオラクル細胞の不活性化を招くという異常現象が見られるため周囲のアラガミも決して近寄ろうとはしない。

 まるでまだ世界にアラガミという脅威が存在しなかった旧時代の世界を縮小したような、真の意味での“聖域”が広がっていた。

 

「フィア達は大丈夫? 何せ“普通の人間”になってしまったから……」

「……前と違ってすぐにお腹が空かなくなったのは、少し驚いたかな」

「ははは。どうやら大丈夫みたいだね」

 

 暢気な返答に、カズキはつい笑ってしまった。

 

――フィア達ブラッドの皆は現在、神機使いではなくなっている。

 

 当然腕輪もなく神機も使えず、この三週間はずっと極東の中で生活するだけであった。

 休暇も兼ねて許可は貰っているとはいえ、正直落ち着かない。

 一度終末捕喰に巻き込まれ肉体が再構築したが故の現象だと推測されているが、真偽は不明である。

 しかし一方、同じく螺旋の樹の最上層部で戦っていた筈のカズキは、今もアラガミとして存在していた。

 

「カズキはどうして僕達みたいに普通の人間に戻らなかったのかな?」

「うーん、そもそも僕は“聖域”の外で倒れていたらしいから、もしかしたら終末捕喰に巻き込まれなかったのかもね」

「でも、アンノウンに勝った後の事は何も覚えていないんでしょ?」

 

 だとすると、彼はあの瞬間も螺旋の樹の中に居た筈である。

 それなのに終末捕喰に巻き込まれなかった、どうにもおかしな話である。

 カズキもフィアと同じ考えなのか、その表情は怪訝なものになっていた。

 

「まあいいさ。僕は今この世界で生きているし、戦う為の力も残ってくれた。ただその事実だけで充分だ」

「…………戦う力、か」

 

 今のフィアに、アラガミと戦う力は残っていない。

 グリードの実験によってアラガミ化した肉体も、人間の戻ってしまっている。

 それ自体は喜ばしい事だろう、けれど失ったものも存在してた。

 

 今の彼には、もうマリアとケイトの声は聞こえない。

 まだ礼すら言えずに別れてしまったのは悲しい、けれど二度と話す事はできないと当たり前のように理解したしまっていた。

 元々あの現象は本来ありえないものだったのだ、そう思わなければ……納得などできるわけがない。

 だからせめてフィアはもう届かぬ2人にひたすら感謝しながら、前に進んでいく。

 

「――――それで、どうするんだい?」

「えっ?」

 

 突然の質問に、キョトンとしてしまうフィア。

 

「これからの事さ。――ブラッドのみんなはラウンジに集まっているよ」

「…………」

 

 それが何を意味するのか、フィアは瞬時に理解する。

 カズキに一声掛けてから彼はすぐさまラウンジへと向かい、そんな彼の後ろ姿をカズキは優しく見守るように見つめていた。

 ……彼等は人間に戻った、ならばこのまま人として生きる選択も選べるだろう。

 もう充分に戦ってきた、この世界を救った英雄である彼等がどんな生き方をしようとも咎める者はいないだろう。

 ただもちろん他の生き方だってある、自分達にできる事は彼等の選択を見守り、祝福するだけだ。

 

――それよりも、カズキはすぐに任務に出る事を考えなくてはならなかった。

 

「――カズキ、もう出歩けるんですね」

「――――」

 

 その声を聞いた瞬間、カズキは自分の行動の遅さを呪いたくなった。

 背後から聞こえた楽しげな少女の声は、彼の妻であるアリサのものだと振り向かなくてもわかる。

 けれど今のカズキは彼女に振り向きたくなかった、そしてできる事ならすぐにでもこの場から逃げ出したかった。

 だが無意味、まるで彼の心中を読んだかのようにアリサは素早く彼の前に回り込み……にっこりと可愛らしい笑みを浮かべた。

 多くの男を魅了するであろうその可憐な笑みはしかし、今のカズキには地獄へと招く死神にしか見えない。

 

「寂しかったですよカズキ、この三週間ずっとベッドの上に居て……しかも私はクレイドルの任務で忙しくて看病もろくにできませんでしたから」

「し、心配掛けちゃってごめんねアリサ……」

「謝る必要はありませんよカズキ。――だって、今からこの三週間分の愛を注いでもらえばいいだけの話ですから」

 

 瞬間、カズキは背後を向いて彼女に背を向けながら駆け出した。

 それは完全なる逃亡であり、しかしアリサには通用しない。

 

「どうして逃げるんですかー?」

「ファッ!?」

 

 全力で逃げ出した、だというのに一瞬で追いつかれカズキは素っ頓狂な悲鳴を上げてしまう。

 それにより生じてしまう隙を逃さず、アリサは凄まじい力でカズキの腕を掴みそのまま彼の身体を引っ張っていく。

 

「い、いやだー!! せっかくベッドから降りられるようになったのにーっ!!」

「三週間我慢してきた私を褒めてくださいよカズキ、で・も……その分反動が物凄い事になってますけど」

「枯れちゃう、今度こそ枯れちゃうから!!」

「大丈夫です。とあるルートから入手した精力剤を一ヶ月分用意しましたから」

「ノォォォォォォォォォォォォッ!!!!」

 

 こうして、カズキはアリサによって自室へと連れて行かれてしまった。

 その間も何人かは2人のやりとりを目撃したのだが、誰一人として助ける者は居なかった。

 邪魔をすれば磨り潰されるとわかっていて助けようとする剛の者は居ない、それに何よりなんだかんだとイチャついているこの夫婦に関わりたくないというのが大多数の意見でもあった。

 …………合掌。

 

 

 

 

「――さて。みんな、この休暇はどうだった?」

 

 ラウンジの一角にて、フィアを含むブラッド隊全員とリヴィの姿があった。

 当然その中には再び人として生きる事を許されたジュリウスの姿もあり、漂う空気が穏やかなものなのは言うまでもない。

 ジュリウスの上記の問いに、まずはナナが答えを返した。

 

「すっごいゆっくりした! 前よりお腹空かなくなったなーっていうのが一番吃驚したかな」

「何言ってんだ。充分大食らいだろうお前は」

「そうかなー? 神機使いだった頃の半分くらいにはなったよー」

 

 充分だっての、呆れを含んだ返答を返すギルにナナは唇を尖らせる。

 その光景を見た他の者は笑みを零し、当然その中にはジュリウスも含まれていた。

 穏やかで優しい時間、それをジュリウスと共有している。

 それはフィア達がずっと手を伸ばし続けて、漸く取り戻す事のできた願いの1つ。

 

「こんなゆっくりしたの、初めてかもな」

「でもロミオ先輩、なんだか最近お腹周りのお肉が……」

「うっ、やっぱナナもそう思うか? ごはんが美味しくてさ、ついつい食べ過ぎちゃうんだよな……」

 

 心配そうに自身のお腹を撫でるロミオ。

 それを見たナナが笑い、またしても全員の笑い声が場に響く。

 ……なんだか、涙が出てしまいそうになった。

 それだけの平穏が目の前に広がっている、それが涙が出るほど嬉しいのだ。

 

――だからこそ、全員の選択は決まっていた。

 

「――ねえ、みんな」

 

 静かに、フィアは口を開く。

 笑い合っていた皆は、その一言で静かになり視線を彼へと向けた。

 

「人に戻って、この三週間の間に色々考えたんだけど……僕、神機使いに戻ろうと思っているんだ」

「フィアさん……」

「正直に言えば、今の人としての生活も穏やかで魅力的なのは認める。だけど、やっぱり僕はマリアと交わした約束を果たしたいと思ってる」

 

 マリアを守るという約束は、もう果たす事は叶わない。

 けれど彼女と交わした約束はそれだけではない、「いつか、大きくなったら誰かを守れるようになってほしい」という約束は、今もフィアの中に宿り続けている。

 何よりも、仲間達と共に守る事のできたこの世界を、これからも守っていきたいという意志がフィアをこの選択へと導いた。

 未来がどうなるかなどわからない、この戦いに終わりはないのかもしれない。

 ただそれでも、フィアはこの選択を選びたいと心の底からそう願い、仲間達にその想いを打ち明けた。

 

「……私達が守ってきたものは、こんなにも穏やかで優しいものだ。それを守りたいと願うフィアの願いは……君だけのものじゃない」

「リヴィ……?」

「そうだな。俺もお前と同じ事を考えていたよ」

「ギル……」

 

 フィアに賛同するようにリヴィとギルはそう答え、他の者も頷きを返していた。

 ……そう、この願いは彼だけのものではなかった。

 他のブラッド達もまた、人間に戻りこの世界をその目と心で見続けた結果……再び戦う道を選ぶ決意を固めていた。

 

「――どうやら、みんな同じ考えのようだな」

「ジュリウス……」

「休暇は終わりだ。みんな行こう、俺達の歩むべき場所へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――世界は未だ、アラガミが我が物顔で闊歩している。

 

 その中を、七名の神機使いが駆け抜けていく。

 捕喰欲求に従い、その神機使い達に襲い掛かるアラガミ達。

 けれど襲い掛かったアラガミ達は、次々とその命を狩られ逆に捕食されていく。

 数十体という小型アラガミを、十分も経たずに全て倒してしまう彼等の部隊名は――ブラッド。

 新たにリヴィ・コレットを加えた“新生ブラッド隊”は、今日も人類をアラガミの脅威から守る為に戦い続ける。

 

「――よっしゃ、終わり終わりっと」

「ロミオ、周囲の警戒を怠るなよ?」

 

 神機を地面に突き刺し、早くも緊張感を解くロミオを軽く注意するジュリウス。

 

「わかってるって、ジュリウスもあんま無茶すんなよ?」

「お前に言われたらおしまいだな」

「なんだとギル!!」

「なんだよ!!」

 

 また始まったよ、ロミオとギルのやりとりを見て他のメンバー達の反応は薄かった。

 これもまたいつもの光景である、あの2人はなんだかんだで良い連携をするからあのやりとりは2人なりのじゃれ合いのようなものなのかもしれない。

 

「…………」

 

 右手に持つ神機見つめつつ、フィアは自分がただの神機使いになった事を改めて自覚する。

 体内にオラクル細胞が存在するという事だけならば前の身体と変わらない、でも今の自分は前のような“怪物”ではなくなっている。

 確かな“人”としての神機使いになったという事実は、慣れるのに少々時間が掛かりそうだ。

 

「フィアさん、まだ身体が慣れないのですか?」

「そういうわけじゃないよシエル。ただ、アラガミじゃない自分が神機使いとして戦っているのに違和感を覚えただけだ」

「……フィアさんは人間ですよ、今も昔もその事実だけは変わりません」

 

 そう言って、シエルはフィアの頬を軽く撫でた。

 少しくすぐったくて気恥ずかしかったが、それ以上に嬉しかったのでフィアはそのままシエルの行動に身を委ねる。

 そんな彼にシエルは幸せそうに微笑み、そのまま抱きしめたい衝動に駆られたものの。

 

「はいストップ、シエルちゃんちょっと大胆すぎじゃない?」

 

 間に割って入ってきたナナによって、阻まれてしまった。

 ……ほんのちょっとだけ、シエルは頬を膨らませてナナを見る。

 彼女の態度にナナは若干驚きを見せつつも、何かを閃いたのか悪戯を思いついた子供ような笑みを浮かべ。

 

「えいっ!!」

「えっ……」

 

 フィアの頭に手を回し、そのまま彼を自身の胸へと引き寄せ抱きしめてしまった。

 突然の行動にフィアは反応が遅れ、そのまま彼女の胸の中に顔を埋めてしまう。

 瞬間、シエルは驚き、僅かに頬を赤らめ、そしてナナに向かって抗議の言葉を放った。

 

「ナナさん、なんて羨ましい……もとい、何をしているんですか!!」

「シエルちゃん、さり気なく本音が出てるね」

「そんな事よりもフィアさんを放してあげてください!!」

「だめで~す!!」

 

 見せ付けるようにフィアを抱きしめる力を強くするナナ。

 それを見て悔しそうに表情を歪めるシエル、なんだか「ぐぬぬ……」という呟きが聞こえてきそうだ。

 

 一方、フィアは現在酸欠と戦っていた。

 胸に埋められたままなのである、かといって強引に抜け出そうとすればナナにいらぬ怪我を負わせてしまう危険性があった。

 しかし2人はそれに気づかず、ぎゃいぎゃいと騒ぐだけで彼の変化には気づかない。

 

「……ふっ」

「ジュリウス、どうした?」

 

 彼等のやりとりを眺めていたジュリウスが、突如小さく笑ったのでリヴィは怪訝な表情で問いかけを放つ。

 すると、彼は見た事がないような純粋な笑顔を浮かべ。

 

「――帰ってこれてよかった、また皆と同じ道を歩めるようになって幸せだと、思っただけだ」

 

 喜びを隠し切れない口調で、リヴィの問いにそう答えを返す。

 彼の返答に、リヴィもまた口元に幸せそうな笑みを浮かべる。

 

『おいお前達。和気藹々とするのはいいが、たった今別のチームから救難指示があった。ポイントを送るから至急現場に向かってくれ』

 

 通信越しから放たれるマリーの声に、全員の雰囲気が一瞬で戦士のそれへと変化した。

 ナナはすぐさまフィアを放し、フィアもすぐに全身に視線を向けながら。

 

「――ブラッド隊はすぐに救難指示の出たポイントへと向かう。行くぞ!!」

『了解!!』

 

 全員に力強く指示を出し、仲間達もまた力強く返事を返した。

 

 

 

 

 

 戦いは、終わらない。

 失ったものは戻らない、悲しむ暇もこの世界は与えてくれない。

 それでも未来があると信じ、彼等はこれからも神を喰らう者として荒ぶる神達を喰らっていくだろう。

 

 

――物語は、これからも続いていく。

 

 

 

 

FIN... 

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