アリサの1日を、紹介しよう……。
こんにちは、アリサ・イリーニチナ・アミエーラと申します。
私がこの極東支部に配属されてそれなりに月日が経ち、アラガミと戦う日々が続いていますが……概ね、特に問題なく過ごしています。
当初の私は無駄にプライドが高く、傲慢の塊で……そのせいで、取り返しのつかない事態を引き起こしてしまいました。
でも、ある人のおかげで私は救われ……自分でも丸くなったと思います。
それにこの支部の人達は皆優しく、あんな失礼な態度だった私を許し受け入れてくれました。
私もそんな皆さんの優しさに応えるために、新型として恥ずかしくないように戦っています。
……と、まあ、自分の状況を話すのはこれくらいにして。
唐突ではありますが、私は15歳の女の子です。
死と隣り合わせの戦いに身を投じている私ではありますが、女の子らしい経験をしてみたいと思っていたり。
たとえば……恋、とか。
――実は私、気になる人が居るんです。
その人は、私と同じ第一部隊の新型神機使いであり、この間隊長クラスになった抗神カズキ(19)
今の私が在るのも、全て彼のおかげといっても過言ではありません。
感謝してもしきれない恩を受け、それに報いるために彼の役に立とうと躍起になっている内に……その、気になるようになっていました。
けど、私自身少し素直じゃない部分と、この気持ちが恋なのかわからないのも相まって、「仲の良い友達」ポジションに嵌っています。
私としてはそのポジションでは不満ですし、この気持ちが本物なのか早く確かめたい。
というわけで、私は宣言します!!
今よりもっとカズキと親密になって、この気持ちが何なのかはっきりさせると!!
さて、思い立ったら即行動ですね。
そんなわけで、私は部屋を出てカズキを捜す事に。
部屋には……居ない。
それを確認してから、今度はエントランスロビーに向かい……居ました。
近くにはソーマも居ましたけど、無視してカズキに声を掛けました。
「カズキ!」
「ん? やぁ、アリサちゃん」
私を見て、ふわりと優しい笑みを向けてくれるカズキ。
その笑顔を見ると、自然と口元が緩んでしまいそうになりましたが、慌ててそれを隠します。
よし、ここはお茶でも誘って親密度を……。
「ごめんアリサちゃん、これからソーマと任務に行かないといけないから」
「………最近、多いですね」
そう、最近カズキとソーマがやけに仲が良いといいますか……2人だけでミッションに行く事も多々ありますし……。
はっ、ま、まさかソーマもカズキを狙って!?
いや、そんなわけ……ないですよねぇ?
「……おい、何か失礼な事考えなかったか?」
ジト目でソーマに睨まれました、勘が鋭いですねまったく……。
「……そろそろ“アレ”なんだ」
少し声を落としてそう告げるカズキ。
……カズキは定期的に、アラガミを文字通り食べないといけない身体になっているんです。
その原因を作ったのも私でして……本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。
けど、私がそう思っているのがわかると、彼は困った顔をしてしまうのでこれ以上考えるのは止めましょう。
今更過去は変えられない、だからこれからカズキを守る事で罪を償うのが賢明ですね。
……あれ? そういえば、ソーマはカズキの身体の変化をいつ知ったんでしょうか?
気になって訊いてみると。
「この間、ソーマと一緒に懲罰房に行ってたでしょ? その時に色々話して、彼は理解してくれたんだ」
ああ、なる程。そういう事ですか。
「おい、そろそろ行くぞ?」
「あ、うん。それじゃあアリサちゃん、また後でね」
「はい、また後ほど」
しまった……「私も行きます」って言いそびれた。
くぅ、アリサ一生の不覚です……。
「おーいアリサ、カズキ見てないかー?」
内心悔やんでる私に、うるさい人が近づいてきました。
藤木コウタです、同じ第一部隊の仲間でムードメーカー的存在ではあるのですが……たまに、ちょっと……いえ、かなりウザイなぁと思う時があります。
「ウザイですね」
「いきなり面と向かって失礼な事言われた!?」
おっと、つい本音が出てしまいました。
「何ですか? 私、あなたと違って忙しいんですけど」
「えぇー……どうしてオレの時はそんなつっけんどんな態度なんだよ。
カズキの時は、猫被ってるくせに……」
「誰が猫被ってるんですか誰が、失礼ですね。それよりカズキならソーマと一緒に任務に行きましたよ。
あなたも、遊んでないでカズキを見習ったらどうですか? そんなだから同期なのに階級が違うんですよ」
「ぐふっ!!」
変な呻き声を上げ、コウタはよろよろと後ろに下がる。
自分でも思う所があったんでしょうか……予想外の反応です。
うーん、それにしても……どうも彼に対してついつい冷たい言い方をしてしまうみたいですね、私は。
まあ、コウタなら別にいいですけど。
「……にしても。ソーマの奴、前より物腰が柔らかくなったというか……相変わらず距離を置いてる部分もあるけど、少しは話をしてくれるようになったよな?」
「……そうですね。カズキのおかげですよ」
本気の殴り合いを経て仲良くなる、なんだか随分と古くさい友好ですが……ソーマが私達に少しでも歩み寄ってくれているというのは、嬉しいものです。
……ただ、なんだかカズキに対しては私達より物腰が柔らかというか、ぶっちゃけるとツンデレみたいにしてるんですよね。
ちなみにツンが3でデレが7くらい。
カズキって、男も女も魅了するような変なスキルでも持っているんでしょうか……?
別に、それがいけないというわけじゃないんですけど……なんていうか、私としては少々微妙といいますか。
「ちぇ、カズキと一緒にバガラリー観ようと思ったのに……しょうがないから、何か任務がないか見てくるか」
そう言って、コウタはヒバリさんの所に行ってしまいました。
しょうがないからって何なんですか? 職務怠慢じゃないですか?
さて……私も緊急の任務が無いか訊いてみる事にしよう。
そう思った矢先――私は背後から誰かに声を掛けられました。
この声は……。
振り返ると、そこにいたのはやっぱりサクヤさんでした。
「ねえアリサ、今時間あるかしら?」
「えっ、大丈夫ですけど……もしかして、任務ですか?」
「違うわよ。アリサもだんだんカズキに似てきたわね、生真面目なのはいいけど、もう少し肩の力を抜かないと疲れちゃうわよ?」
「うっ……」
カズキのようになりたい、彼の助けになりたいと思ってる内に、どうも任務を優先するような考え方をするようになってしまったみたいです。
おかげで休暇、全然消化できてないんですよね……。
「実はこれから女子だけでお茶にしようと思って、あなたを探してたのよ」
「お茶、ですか?」
「ええ、緊急を有する任務も無いみたいだし……たまにはいいかなと思って」
どうかしら、と訊いてくるサクヤさん。
女子だけのお茶会かぁ……ちょっと楽しそうですね。
せっかくですから参加させてもらいましょう、承諾を意味する頷きを返し、私はサクヤさんと一緒にエントランスロビーを後にしました。
移動した先は食堂、贅沢を言えばお洒落なカフェテリアの方がよかったんですが、休暇ではない以上アナグラからあまり離れるわけにはいきません。
そこには既に、リッカさんとカノンさん、それと第三部隊のジーナさんの姿が。
さすがに、ヒバリさんやツバキ教官は来れなかったみたいですね。
「お待たせ、アリサを連れてきたわよ」
どこか楽しげな様子のサクヤさん、リッカさんとジーナさんも何だか楽しげに笑みを浮かべてますね。
ただ……カノンさんが困ったような、どこかこちらに対して同情するような表情を向けているのは、どうしてなんでしょう?
……なんか、嫌な予感がするんですけど。
さあさあ座ってと言われたので、とりあえず空いた席に座り込む。
けど――私とカノンさんが隣り合わせで、残りの3人が私達の正面に座るのには、何か意味があるんですか?
これじゃあ、まるで尋問される気分です……。
「さて、と……こんな機会はあまりないから、早速始めましょうか」
急に声のトーンを落とすサクヤさん、あの……一体これから何を?
私は首を傾げ、カノンさんは少し緊張した面持ちで、サクヤさんの言葉を待っていると――
「あなた達、カズキとどこまでいったの?」
楽しげに、そりゃあもう楽しげにそう言ってきました。
………。
…………えっと?
「ふぇ!? ど、どこまでって、それは……あぅぅ……」
顔を瞬時に真っ赤にさせ、慌て出すカノンさん。
しかし、私はサクヤさんの言葉をいまいち理解……してしまいました。
「ちょ、な、何を言ってるんですかサクヤさん!?」
うぅ、顔が熱い。きっと私もカノンさんと同じように顔を真っ赤にさせているのでしょう。
「……その様子じゃ、告白はしてないのね」
つまらないの、そう言ってジーナさんはため息をつきます。
「こ、告白って……まだ早いですよぉ」
「早い、ってことはする気は満々なんだね?」
「…………あぅ」
リッカさんの追い討ちに、カノンさん撃沈。
「アリサはどうなの?」
「わ、私は……」
「あんなにわかりやすく好意を向けているんだから、もちろん想いは告げるわよね?」
「………私、そんなにわかりやすいですか?」
瞬時に首を縦に振るサクヤさん達、……なんだか無性に悔しいです。
……けど、告白なんて考えた事がありませんでした。
「? どうしたの? 暗い顔になってるわよ?」
「……端から見てると、私はカズキに恋い焦がれているように見えるんでしょうか?」
「見える見える。男の人達は鈍いのが多いから気づいてないだろうけど、君の態度丸分かりだよ?」
「………でも、わからないんです」
呟きのような私の言葉に、その場に居た全員が首を傾げた。
「確かに、カズキの傍に居たいと思う時があります。彼の助けになりたいと思っています。
でも、それが受けた恩を返す為の使命感なんじゃないかって……」
彼を支えたいと、守りたいと願ったのも、初めは使命感だった。
だから、私のこの感情が恋なのかそうじゃないのか、はっきりと断言できなくなってしまう。
……私のこの気持ちは、恋? 使命感?
「あの……多分、恋だと思いますよ?」
「カノンさん……?」
少し遠慮がちに、けれどはっきりとした口調でカノンさんは言う。
「だって、同じ人を好きになりましたから……何となく、わかるんです。
カズキさんを見るアリサさんの瞳、凄く優しくて……恋する女の子ですよ?」
「…………」
あの……臆面もなくそう言われると、ちょっと恥ずかしいんですけど。
でも、私はカズキに恋……してるんですね。
使命感じゃなくてよかったと、思っている自分が居ます。
「…………好き」
「…………」
「好き、です……私、カズキが……好きです」
何度も、確かめるように「好き」と呟く。
その度に、心の中に暖かなものが流れていくような気がしました。
「あらあら」
「これはますます面白くなってきたね。カズキ君はどっちを選ぶのかな……? それとも、どっちも選ばないのかな?」
「そういうあなたはどうなのリッカ、あなたも彼の事好きなんじゃないの?」
「ええっ!?」
驚愕の真実です、私はおもわず声を荒げてしまいました。
「そうだね」
「えええっ!!?」
リッカさん、さらりと言わないでください。
くぅ、またしてもライバル出現ですか……!
「ああ、けど心配しなくても大丈夫だよ。私は別にカズキ君をとろうとかしないから」
『えっ?』
今度はカノンさんと2人でキョトンとした声を出してしまいました。
「確かに私はカズキ君が好きだよ、うん……多分、異性としてね。
でも私は、別にカズキ君と恋人同士になれなくてもいいの。一緒に話して笑いあって……そんな囁かな関係でも、私は満足なんだ」
「……どうして、ですか?」
「根っからの技術バカじゃないからかな? 私は彼の神機を整備して、必ずこの戦いから生き延びさせる為に努力する。――それだけで、私は充分」
「想いを告げて恋人同士になるだけが恋じゃないって事ね、人の数だけ様々な愛がある。
もう少し大人になれば、あなた達も理解できるんじゃないかしら」
そう言ってジーナさんは笑い、紅茶を口に含みます。
人の数だけ、様々な愛がある、か……。
何となくわかるような、わからないような……。
「だから2人とも、私の事は気にしなくていいから、ガンガンアタックを仕掛けた方がいいよ。
ただでさえ彼、結構人気者なんだから」
『ええっ!!?』
同時に驚く私とカノンさん。
けれど、カズキが男女問わず人気があるのは、薄々わかっていた事でした。
むむむ……拙いですね、ただでさえカノンさんという強力なライバルが居るというのに……。
「…………」
私、こんな風に異性の事で悩んだり考えたりするの、よく考えたら初めてですね。
今までは、アラガミを殺す事しか考えてなかったのに……変われば変わるものです。
でも、ちっとも不快じゃありません、むしろ……幸せすら感じます。
誰かを好きになって、その人の事で悩んだり迷ったりする事が、こんなにも嬉しくて幸せな気持ちになるなんて、思いませんでした。
「カノンさん、お互い頑張りましょうね?」
「はい! 頑張りましょう!!」
握手を交わし、お互いに笑い合う。
「あらあら……随分仲が良い恋のライバルね。わたしとしては修羅場を期待してたのだけど」
「ジーナ、滅多な事を言わないの」
なんだか好き勝手言ってるジーナさんですが、無視です。
――戦いは、まだまだ終わらないけど。
それでも、私は幸せです。
沢山の仲間、そして……大好きな人が傍に居る。
それだけで、いくらでも幸せになる事ができるんですから!
To Be Continued...