神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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アラガミの少女を匿う事になってしまった、カズキ達第一部隊。

不思議な少女の出現により、彼等の物語は別の動きを見せる……。


捕喰28 ~日常~

――アナグラの早朝。

 

 今日も今日とて、人類の守護者たるゴッドイーター達による戦いの1日が始まる。

 そんな中、2人の少女はほんの少しばかり緊張した面持ちでコツコツと足音を鳴らしながらある場所へと向かい――鉢合わせとなった。

 

『あっ』

 ベテラン区画、カズキの部屋の前で……アリサとカノンが同時に声を漏らす。

 

「………カズキに、用ですか?」

「は、はい。その……一緒に食事でもと思いまして」

「……私もです」

 

 互いに積極的な動きを見せる2人、想いを寄せるカズキと親密になりたい。

 そう思い、早速行動に移したのだが……どうやら、考えている事はお互いに同じだったらしい。

 

「………一緒に、行きますか」

「そうですね」

 

 互いに微笑み、カズキの部屋のインターホンを鳴らす。

 正々堂々と競う、そんな約束を交わしている2人は、恋のライバルとは思えない程に仲が良い。

 互いに互いの想いをわかっている、だからこそ……お互いの邪魔はしたくないのだ。

 ……しかし、いつまで経っても返事が返ってこない。

 

「あれ……?」

 

 おかしい、眠っているのだろうか?

 

「カズキなら居ねえぞ」

 

 首を傾げる彼女達に、1人の男性が声を掛ける。

 振り向くと、そこにいたのは……部屋から出てきたリンドウだった。

 寝起きなのか、髪はボサボサで目は半開き、それでもタバコを吸っている辺り、生粋のスモーカーのようだ。

 

「あっ、おはようございます。リンドウさん」

「よぉ、相変わらず健気に頑張るなお前達」

「………?」

 

 からかうようなリンドウの言葉に反応するより、アリサはとある「臭い」に反応した。

 

(何だか、リンドウさんから生臭い匂いが……)

 

 食物のそれではない、だとすると……。

 

「……リンドウ〜?」

 

 と、リンドウの部屋からけだるげな声が聞こえ。

 

「サクヤさん……?」

 

 出てきたのはサクヤ、しかし……何故か裸で身体をシーツで包んでいた。

 ……同じ部屋から出てきたリンドウとサクヤ。

 サクヤは裸、そして2人から臭う生臭い匂い。

 

「…………」

 

 そこから導き出される答えを理解した瞬間、アリサは顔を真っ赤にした。

 

「……どん引きです」

 

 とりあえず、悪態を吐いておく事にした。

 

「??」

 

 対するカノンは、リンドウとサクヤの情事を理解できなかったのか、首を傾げている。

 とはいえ、2人とも大人なのだから別段おかしくはない、それよりカズキが居ないとはどういう事なのか。

 まだ早朝、別段早いわけではないが……こんな早くに出掛けるのも不自然だ。

 

「ミッションですか?」

「さーな。どこに行ったか知らねえんだ」

「………そうですか」

 

 使えない、そんな暴言を上官であるリンドウに吐きそうになったのをどうにか堪えつつ、アリサは肩を落とす。

 見ると、カノンも自分と同じように残念そうに眉を八の字にしている。

 探しに行くのもいいが、今日も自分達には任務がある、そうゆっくりもしていられないのだ。

 

(仕方ないですね……)

 

 彼と一緒に朝食を食べる、囁かながらも彼女達にとっては重要であるイベントは諦めよう。

 アリサとカノンは同時に諦め、失礼しますとリンドウ達に一礼してからその場を後にする。

 ――お盛んですね、そんな皮肉を去り際に放つのを忘れずに。

 アリサの言葉に、サクヤはほんのりと顔を赤くさせ、リンドウは視線を逸らし頭を掻く。

 だが、カノンにはその言葉の意味がわからなかったのか、首を傾げるばかりだった。

 

 

――場所は変わり、サカキ博士の研究室では。

 

 

「いただきます」

「イタダキ、マス……?」

 

 アラガミのコアに向かって両手を合わせ、食事の始まりを意味する言葉を放つ青年と、それを真似する1人の少女の姿があった。

 否、この少女は人間ではなく……人間に限りなく近い進化を果たしたアラガミなのだが。

 青年――カズキとアラガミの少女は、用意したアラガミのコアを文字通り口に含み食べ始める。

 

 コアといっても球体なものはもちろん、肉の部位のような形のものもあるのだが、端から見ると異様そのものである。

 しかし、彼等の周りに居るのは事情を知るソーマと、興味深そうにその光景を眺めている、サカキだけしか居ない

 

「うーむ、このアラガミの少女に至っては人間ではないというのがわかっているから驚きはしないけど、カズキ君のそれは実に面白い。

 ちなみに、どんな味がするんだい?」

「うーん……説明するのが難しいですね、美味しいんですけど……普通の食物とは違うから、いまいち例えが出ないというか……」

 

 白身魚のような淡白な味わい、牛肉のようなコクのある濃い味わい。

 一般的な表現をすればそうなるのかもしれないが、アラガミの味はいまいち表現できないというのが、カズキの正直な答えである。

 たとえば――これはカズキの個人的な意見ではあるが、グボログボロやヴァジュラは美味しいと思えるし、ボルグ・カムランやザイゴードはあまり美味しいと思えない。

 旨いか旨くないか、それ以外の的確な表現はアラガミに対して適合しないのだ。

 それを聞き、サカキは若干残念がるが……すぐさまいつもの食えない表情に戻る。

 

「前にも言ったようにカズキ君の身体は半分がアラガミと同じだ、だから端的に言うとアラガミを喰らえば喰らう程、君の身体は強靭なものとなり強くなっている。

 それと、身体が破損した場合もアラガミを摂取する事で復元できる可能性もあるわけだ。

 しかし本当に珍しいケースだよ、普通ならばとうの昔に完全なるアラガミ化を果たしてもおかしくはない、というよりなって当たり前と言った方が正しい。

 けれど、カズキ君の場合人間の細胞とオラクル細胞が見事に結合しているんだ。普通ならばオラクル細胞が人間の細胞を捕喰してしまうというのにね」

 

「だから、僕の意識はまだ人間のままで居られると?」

 

「その通り。まさしく君はこの子とは違う進化を果たした存在といえる。

 この子はアラガミでありながら、人間という「とりあえずの進化の袋小路」に迷い込んだ存在であるなら、カズキ君は人間でありながら「アラガミという無限の進化を果たす可能性」をその身に宿した存在だ。

 この子が君に対してすぐに心を開いたのも、経緯や道は違えど自分と同じような普通はありえない特別な進化を果たした存在だと、本能的に理解しているんだろうね」

 

 少し興奮気味なサカキの言葉を耳に入れつつ、カズキは一度食事を止めアラガミの少女を見やる。

 少女は一心不乱にコアを口に含み、次から次へと飲み込んでいる。

 その姿におもわず苦笑しつつ、カズキは一度少女の手を掴み食事を中断させた。

 

「ちゃんとよく噛まないとダメだよ、急がなくてもごはんは逃げたりしないから」

「………?」

 

 キョトンとする少女、しかし顔を俯かせ必死にカズキの言葉を理解しようと考えているのがよくわかる。

 それを見て、カズキはそっと手を離すと……少女は、先程とは違いゆっくりとした動きで少しずつコアを口に含み租借していく。

 

「ほぅ……」

 感嘆の声を漏らしたのは、サカキ。

 

「この子、知能が高いんですね」

「うむ。知能の高さでいったら人間でいう第二成長期を超えた頃だから、決して低いわけじゃない。

 ただ、今までこの子は人間のような生き方をしていなかったから、言葉を話せないだけであって、こうして君達がコミュニケーションをとり続ければ、すぐにでもそこらの女の子と変わらなくなるだろうね」

 

「……ゴチソウ、サ、マ?」

 

 首を傾げ、カズキを見ながら少女は呟く。

 食事を終えた後に言う言葉だと、少し前にカズキが教えたのだが……正しいのかどうか訪ねているのだろう。

 

「うん、そうだよ。偉いね」

 

 その可愛らしい態度におもわず顔を綻ばせながら、カズキは優しく少女の頭を撫でる。

 くすぐったいのか、少女は身をよじるが同時にもっとしてほしいと近づいてくる。

 それに苦笑を浮かべつつ……おもわず、カズキはこの少女に妹の影を重ねてしまった。

 見た目はまるで違う、けれどこのような無垢な部分や甘えようが……似ているのだ。

 

「……おい、そろそろ時間だぞ」

 

 腕を組み、壁に背を預けていたソーマが、入口に歩を進めながらそう告げる。

 その声で我に返り、カズキは少女から離れ立ち上がった。

 これから早朝の任務だ、ソーマと共に行うので彼にもここについてきてもらったのだが……。

 

「……ソーマ、もしかして怒ってる?」

「…………何がだ?」

「ほら、君はこの子の事警戒してるから……」

「………お前が気にする必要なんかねえよ」

 

 それだけ返し、ソーマは先に部屋を出て行く。

 その声色に怒りは感じられなかったが、まだ少女を警戒していると如実に語っていた。

 

「ソーマ君はね、別にこの子を嫌っているわけじゃないよ。ただ……君に危害を加えないか心配なだけさ」

「えっ?」

「何せ君は彼にとって初めての「本音を話した友達」だからね、彼なりにその友情を大事にしたいと思っているんだよ。

 ただ根が素直じゃないし、初めての事だから上手く相手に伝えられないんだね」

 

 不器用だから、そう言ってサカキはいつもと違う優しげな笑みを見せる。

 それを聞いて、自分の不安が杞憂だった事をカズキは理解した。

 

「それじゃあ、僕はその友情を決して裏切らないように、努力しないといけませんね」

「君はそんな事はしないと思うけどね」

 

 そう告げるサカキに笑みを返しつつ、カズキは一度アラガミの少女の頭を撫でてから、彼の後を追う為に部屋を後にした。

 律儀にもエレベーター前で待っていたソーマと合流し、エントランスロビーへ。

 いつものように、ヒバリの元であらかじめ受注しておいた任務の確認をしようとしたのだが……。

 

「えっ……キャンセル?」

 

 申し訳なさそうにそう告げるヒバリに、カズキは首を傾げた。

 

「すみません。討伐対象だったアラガミが他のアラガミによって捕喰されたようで……最近、こういうのが多いんです。

 申し訳ありません、至急確認作業を行いますので」

 

 頭を下げるヒバリに気にしないでいいという合図を手で送り、カズキはその場を離れる。

 

「………またか」

「? またって?」

「一時期、こんな風に任務がキャンセルされる事があった。

 お前がここに来る前にも、何度か暫くの間こんな状態が続いた事があってな。最近は無かったがまた再発したか……」

「ソーマ、それって定期的に起こってたの?」

「ああ。だいたい一年周期で起こってたぞ」

「…………」

 

 討伐すべきアラガミが居なくなる、それはこちらとしても願ってもない話ではある。

 だが……同時に、不気味でもあった。

 これは一度や二度ではない、定期的にこの極東支部で起こっていた現象。

 それが、何となくではあるが気になり……ひどく、不気味に感じた。

 

「とにかくこの調子じゃ今日はまともな任務は出ないだろうな。

 俺は休む。お前も余計な事はしないで休めよ? 隊長が使えないと部下が困るからな」

 

 言って、ソーマはさっさと部屋に帰っていく。

 さてどうしようか、狂ってしまった予定を直そうとカズキは思考を巡らせていると――通信機から振動が。

 出てみると、聞こえたのは聞き慣れた少女の声。

 

「リッカちゃん、どうしたの?」

 

 通信の相手はリッカ、要件を訊くと神機保管庫まで来てくれないかというので、了解の返事を返し通信を切った。

 すぐさまエレベーターに向かい、そのままラボラトリ区画にある神機保管庫へ。

 

「カズキ君、急に呼び出してゴメンね」

 

 相変わらず顔を油で汚し、タンクトップにもんぺという生粋の技術者姿でリッカはカズキを迎え入れた。

 

「気にしないでリッカちゃん、それよりどうしたの?」

「うん。ちょっと来てくれないかな?」

 

 そう言ってリッカが案内したのは……もはやカズキ専用となった、武装パーツが並ぶ一角。

 その近くにある作業用の机の上に――見覚えのある物体が置かれていた。

 

「これは………!」

 

 カズキの口から漏れたのは、驚きの声。

 そこにあったもの、それは前にカズキとカノンが戦った正体不明のアラガミの右腕と、槍だった。

 どうにか斬り飛ばす事だけはできたが、結局逃げられ回収班によって本部へと送られたとばかり思っていたのだが……。

 

「サカキ博士が手回ししてくれて、技術班の方で自由に使ってくれってさ。

 だけどこれだけじゃ神機のパーツは作れない、だから……カズキ君に提案があるんだ。

 カズキ君は、アラガミに応じて武器を取り替えるでしょ? だから色々な刀身パーツを持ってる。それを幾つか溶かしてこれと“接合”させれば、今まで造った事がない武器が生まれると思うんだ」

 

「……でも、その武器を僕が使う事になってもいいの?」

「もちろん。というより君の武器を使わないとまともなパーツに仕上がらないんだから、宝の持ち腐れだよ?

 サカキ博士は自由に使っていいって言ってたし、私もカズキ君なら上手く使ってくれると思ってるからね」

 

 ニコリと微笑み、リッカは「どうする?」と視線でカズキの言葉を待つ。

 ……そこまで言われては、カズキとしても遠慮はしない。

 

「じゃあ、お願いできるかな? 処分する刀身パーツはリッカちゃんが決めていいから」

「任せて。必ずカズキ君がうなるようなものを造ってみせるから。

 そうだなぁ……一週間もあれば出来上がると思うから、楽しみにしててね」

「うん。宜しくね」

 

 これでまた、みんなを守れる力が生まれる。

 そう思うと、カズキは嬉しさを隠しきれず口元に笑みを見せるのだった。

 

 

 

 

 

―――朽ち果てた空母が地面に刺さったまま放置された、空母エリア。

 

 その一角は今――地獄と化していた。

 辺りに散らばるのは、十や二十では満たないあらゆるアラガミの肉片。

 その中には、リンドウのような実力者でなければ接触すら禁止されている、接触禁忌種であり神の名と体を持つアラガミ、スサノオやポセイドンのモノもあった。

 

 それら全てが無惨に喰い散らかされており、もはや原形は留めておらず地面は赤一色に染まっている。

 そんな狂った世界の中心で、新たな餌であるアラガミを貪るアラガミの姿が。

 三メートル弱はある人型の巨人、全身が漆黒の体毛のようなもので覆われ手足の指は互いに三本。

 

 その全てが剣のように鋭く、それを用いてアラガミの強固な身体を裂き砕き、ヴァジュラをベースにしながらもそれを何倍も醜く凶悪にした顔で、肉片を喰らい血を啜る。

 頭には捻れた角が二本、まるで古来に存在し人々を堕落させた悪魔のよう。

 否、悪魔の方がこのアラガミよりも遥かに可愛げがあったかもしれない。

 

――このアラガミこそ、カズキにとって一番倒すべきアラガミ。

 

 両親、そして義妹を奪った仇のアラガミだ。

 しかし――その容姿は彼の記憶しているものとは違っている。

 角は二本に減っており、身体つきもカズキが記憶しているよりも肥大化しているのだ。

 

――そう、このアラガミは凄まじいスピードで“成長”を遂げている。

 

 元々アラガミは上位の存在を捕喰し、優れた部分を取り入れ姿形を変えていく存在だ。

 だが、このアラガミはこの肉体をベースにしたまま“そのままの成長”を果たしている。

 今まで自らが喰らったアラガミの特徴を取り入れず、ただ自分を成長させる為のエネルギー源にしているのだ。

 

「…………」

 

 アラガミが立ち上がる、餌としていたアラガミ――こちらも普通の神機使いでは到底太刀打ちできない異形のアラガミ、ウロヴォロスを喰らい尽くし餌を失ったが故、新たな餌を求め辺りを見回す。

 だが――周囲にアラガミは存在しない、何故ならこの辺一体のアラガミは全てこのアラガミが喰らい尽くしてしまったから。

 どんなアラガミでもありえない食欲、そして凄まじいまでの強さと獰猛さ、禁忌種すらも容易く仕留めるこのアラガミは、まさしく「堕ちた神」と言えるかもしれない。

 

「ギィエェェェェェァァァァァッ!!!」

 

 常人には聞くに耐えない奇声を上げ、ソレは空母エリアから跳躍し瞬く間に姿を消した。

 

 

―――それから十数日、空母エリアにアラガミが発見されたという報告が、極東支部に届けられる事は無かったという。

 

 

 

 

 

To Be Continued...

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