最初の任務も無事生き残り、しかし……まだ戦いは始まったばかりだ。
「…………」
目を醒ます、ベッドから起き上がると……そこは、神機使いになった自分が与えられた部屋が広がっていた。
「……おはよう。父さん、母さん、ローザ」
写真に挨拶を交わし、ホワイトのF制式の制服に着替え、部屋を出る。
「よっ!!」
「あっ……」
部屋を出た瞬間、誰かに肩を叩かれた。
振り返ると……そこに居たのは、活発そうな少年。
彼の名は藤木コウタ、彼と同じ日にゴッドイーターとなった新人である。
「おはよっ、カズキ」
「おはよう、コウタ」
「初任務どうだった? オレなんかめちゃくちゃ緊張しちゃってさー」
「…………」
ペラペラとよく喋るなぁと思いつつ、カズキは暫くコウタの話を黙って聞く事に。
「そうだ。カズキってバガラリー知ってるか?」
「バガラリー? いや、知らないけど」
「マジか!?」
目を見開き驚くコウタ、そんなに驚く事なのだろうか……?
「バガラリーっていえば、過去に大人気だった番組じゃねえか。ホントに知らないの!?」
「うん」
「ガクッ……まあいいや、知らないなら教えてやるよ。オレの部屋で観ないか?」
「……せっかくだけど、今日は極東支部を色々見ておきたいから」
「そっかぁ……じゃあしょうがねえな。でも絶対面白いから、暇があったら言えよな?」
そう言って、コウタは手を振りながら自分の部屋へ戻っていった。
初めて会った時も思ったが、随分と賑やかな少年である。
コウタと別れ、カズキはエントランスへと足を運ぶ。
「よぉ新入り、何してんだ?」
そんな彼に軽い口調で話しかけるのは、カズキの上官である雨宮リンドウだ。
タバコを噴かしながら、だらしなくソファーに座り込んでいる。
そんなリンドウに視線を向けながら、カズキは口を開いた。
「リンドウさん、ここ禁煙じゃないんですか?」
「おぉ、そうだったな」
今思い出したようにそう言って、リンドウは口からタバコを離し携帯灰皿で火を消す。
別に咎めるつもりはないが、この光景を彼の姉であり周りからは恐れられている雨宮ツバキ教官に見つかったら、大変だ。
下手すると自分まで説教をされかねない、そう思いカズキはその場から去ろうとしたのだが…リンドウに呼び止められた。
「そういや新入り、ここには慣れたか?」
「……まだ、正直わかりません」
「それもそうか。まだここに来て4日しか経ってねえんだもんな。俺としては早く背中を預けられるようになってもらいたいもんだが……今のお前でも大丈夫なミッションが無くてな。まあ、気長にやればいいさ」
そう言って口元に笑みを浮かべ、再びタバコを取り出すリンドウ。
「ダメだよリンドウさん、ここは禁煙なんだから……」
しかし、1人の少女によってタバコは取り上げられてしまった。
「なんだよリッカ、ちょっとくらいいいじゃねえか。新入りは多目に見てくれてるぜ?」
「呆れてるだけだと思いますけど……」
そう言ってため息をついたのは、整備班の楠リッカ。
汚れたツナギにタンクトップを身につけ可愛らしい顔立ちを持つ彼女であるが、オイルが付着しているせいでその魅力も半減している。
「キミも、いくらリンドウさんが上官だからって、遠慮なんかする必要はないんだよ……?」
何故か矛先がこちらに向けられた、反論しても意味はないのでカズキはおとなしく頷いておいた。
「リッカくん、君は少し上官に対する敬意というものが足りない気がするんだが?」
「リンドウさんも、そんな事じゃ部下に示しがつきませんけど……?」
冷静にそう言い放つリッカ、するとリンドウは少しばつが悪そうに視線を逸らし頭を掻いた。
「こりゃあちょっと雲行きが怪しいな……ちょっとサクヤにビールでも貰ってくるか」
わざとらしくそう口にしながら、リンドウは立ち上がりエレベーターへと向かう。
……逃げたな、カズキにもわかるくらいわかりやすい逃亡だった。
と、リンドウは何故かこちらに戻ってきた。
「わりぃ新入り。言うの忘れてた、お前この後任務があるからな」
「………はい」
「……リンドウさん、普通そういう事は言い忘れないと思うけど……」
「そう言うなよリッカ、それより今回の任務は俺は同行しない。代わりに、第一部隊の副隊長である橘サクヤが同行するからな。まあ死なない程度に頑張れ」
相変わらずの軽い口調でそう言うと、リンドウは今度こそエレベーターに乗り込み行ってしまった。
「……リンドウさん、凄い人なんだけど……こういう所があるから、親しみやすいんだよね……」
「それ、わかるよ。初任務の時もそのおかげで緊張がほぐれたから」
「……リンドウさんは、キミはまったく緊張してなかったって言っていたけど?」
「そんな事ないよ。殺すか殺されるかの世界だから、緊張しないわけがないさ」
「あはは、ごめんごめん。そんなの当たり前なのにね。それより、まだ神機使いになって日が浅いから、無茶だけはしないでね? 神機の代わりはあっても、キミの代わりは世界中探したってないんだから……」
そう告げるリッカの瞳には、不安と心配、そして「無茶はしないで」という優しさが込められたものだった。
「……リッカちゃんは、優しいね」
他人のことを考える事ができる人間は、貴重な存在だ。
だから、カズキは彼女の優しさに感謝しながら言葉を紡いだ。
「……ちゃん付けされるの、初めてだよ」
「そうなの?」
「うん。……それにしてもキミは面白いね、なんというか……不思議な人だ」
「ふーん……」
褒めているのかよくわからない事を言われたが、褒められたと勝手に解釈する事にした。
それじゃあ、任務頑張ってね。そう言ってリッカはその場を離れエレベーターへ。
おそらく、自分の成すべき事――神機の調整に向かったのだろう。
すると、リッカと入れ替わるように1人の女性がカズキに近づいてきた。
「はじめまして新人君」
「あなたは……?」
「私は橘サクヤ、今回あなたと一緒にミッションをこなす神機使いよ。一応上官になるけど、そんなに堅苦しくなる必要はないからね?」
柔らかい微笑み、どうやら彼女もリンドウと同じく部下を大切にするタイプの人物のようだ。
「よろしくお願いします、サクヤ先輩」
「先輩はいらないわ。……もしかして、リンドウにも先輩って呼んだりした?」
こくりと頷くカズキ、すると……サクヤは何故か可笑しそうに笑い出した。
「あの……どうかしましたか?」
「あ、うぅん。ただリンドウが先輩って……なんだか似合わないなぁと思って」
まだくすくすと笑うサクヤ、どうやらリンドウとサクヤは昔からの顔なじみのようだ。この様子を見ればわかる。
「――さて、と。それじゃあそろそろ行きましょうか?」
先程までの気さくな雰囲気は消え――アラガミを倒すゴッドイーターとしての顔になるサクヤ。
それに習い、カズキも表情を引き締め頷きを返したのだった。
――嘆きの平原
かつてはとある都市があった場所だったが、アラガミによって崩壊し、今では決して降り止まぬ雨と竜巻によって廃墟と化している。
雨に身体を濡らしながらも、カズキとサクヤは歩きながらブリーフィングを開始していた。
「今回の相手はコクーンメイデンよ、遠距離からは光弾、近距離では身体に隠した針を突き出して攻撃する厄介な敵よ。
つかず離れずの距離を保って、無理に踏み込まないでね?」
「わかりました、サクヤさん」
「うん、君は素直ね。リンドウにも見習わせたいわ」
そう言って表情を僅かに崩すサクヤだったが――すぐに元の険しい表情に戻った。
何故なら――視界に問題のアラガミ、コクーンメイデンを捉えたからだ。
「わたしは後方で援護するから、君は新型らしく臨機応変に戦ってね?」
「はい。じゃあ――いきます!!」
「えっ?」
一瞬だけキョトンとしたサクヤだったが、その瞬間にカズキはコクーンメイデンへと向かっていった。
(ホント、リンドウの言った通り肝が据わった子ね……)
行動に迷いが見られない、初めて戦うアラガミだというのに……これにはサクヤも驚いた。
「―――っ」
コクーンメイデンの頭部が開かれ、発射口から光弾が放たれる。
それをカズキは右にステップして回避、すかさずもう一度地を蹴って間合いを詰める。
バスタータイプの剣――クレイモアの柄を強く握り直し、そのまま一刀両断しようと振り上げようとして。
「避けて!!」
「っ」
後ろから聞こえたサクヤの声を拾い斬撃を中断、コクーンメイデンの右横に回り込む。
瞬間、今度は腹部が開き中から無数の針が一斉に飛び出した。
(………油断した)
サクヤの声が無ければ、まともに受けていたかもしれない。
自分の未熟さに歯噛みしながら――カズキは刀身を振り上げ相手の頭部に叩き込む。
舞い散る鮮血、うなり声に似た悲鳴を上げながらコクーンメイデンの動きが止まった。
「そこっ!!」
その隙を逃さず、サクヤは砲身を構え射撃を開始した。
銃口から放たれたのは、火属性を持つ複数の弾丸。
更に、間髪入れずに今度は氷属性のレーザーを放ち、コクーンメイデンの身体に穴を開けていく。
――そして、カズキは必殺の一撃の構えをとった
「これで―――」
自身のオラクル細胞を活性化させ、刀身に禍々しい黒色のオーラを込め――そのまま勢いよく振り下ろす!!
バスタータイプの剣のみ可能な技、チャージクラッシュ。
発動までに時間が掛かるが、威力は凄まじいこの技をまともに受け……コクーンメイデンは、己が血と肉片を辺りに撒き散らしながら――絶命した。
「…………」
神機を捕喰形態に変形させ、コクーンメイデンの死体を喰らう。
これで任務完了だ、そう思うと同時にカズキの口からは自然と安堵の溜め息が零れた。
「……コアの採取完了、終わりましたよサクヤさん」
「お疲れ様、それにしても新人とは思えないくらいいい動きだったわよ」
「いえ、さっきの攻撃はサクヤさんの声がなかったらまともに受けてましたから、まだまだです」
それでも充分凄いわよ、そう言って笑みを見せるサクヤ。
「さてと、これでこのミッションはおしまいよ、帰ってさっぱり――」
さっぱりしたいわね、そう続けようとして――サクヤの表情は凍り付く。
「………ウ、ソ」
掠れた声が、ただ目の前の現実を信じられない事を、告げている。
しかし――それはカズキも同じだった。
「あれ、は……」
見た事がある、アラガミのデータが入ったターミナルで。
いずれ戦う事になる――けれど今の自分では絶対に適わないと断言できるアラガミ。
―――ヴァジュラ
雷を操る巨大な虎のような形相のアラガミが、自分達を完全に捕捉し……喰らおうとしていた。
To.Be.Continued....