神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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アラガミの少女を迎え、何やらカズキ達は秘密を抱えたまま日常を過ごす事になる。

さて、今回の物語は……。


捕喰29 ~シオ~

「……名前、ですか?」

 

 サクヤの問いに、サカキはそうだよと返しながら言葉を続ける。

 

「いつまでも「この子」では可哀想だからね、とはいっても私はそういう事に関して苦手でね。

 というわけで、君達に名付け親になってほしいわけだよ」

「名前、か……」

 

 確かにこのアラガミの少女には名は無く、呼び方をどうしようかカズキ達も困っていた。

 とりあえずカズキは思考を巡らせる、彼も得意とはいえないが頼まれた以上は真面目に考えなければならないと思っているし、なにより変な名前を付けるわけにはいかない。

 と、急にコウタが不敵な笑みを浮かべ始める。

 

「ふっ……オレ、こう見えてもネーミングセンスには自信あるんだよね……」

「………嫌な予感しかしないんですけど」

 

 恥かく前に止めておいた方がいい、そんな視線を向けるアリサだったが、コウタには意味を成さず……少し溜めを入れてから、自分が考えた名前を口にした。

 

 

「そうだな、たとえば―――ノラミとか」

 

 

「…………」

 

 部屋の温度が数度下がった。

 その場に居た全員が突っ込みを入れようとしたが、彼が本気で考えたであろう名前をバカにするのはさすがに可哀想だと、我慢する中。

 

「―――どん引きです」

 彼に容赦がないアリサだけは、絶対零度の冷たさを孕んだ声で、彼の考えた名前を否定した。

 

(アリサちゃん……)

 

 気持ちはわかる、というか彼女がどん引きするのは目に見えていた。

 だがそれでも、それでもわざわざ言う必要は無かったんじゃないかと言ってやりたい。

 

「ありえないです、最悪です。もうどん引きどころか超どん引きです」

(そんなに!?)

 

 彼女はノラミという単語に何か恨みでもあるのだろうか、そう思える程に攻撃的な言葉を放つ。

 しかし、それにはコウタも黙ってはおらず反撃に移った。

 

「何だよー!! じゃあアリサは何か良い名前でも思い付いたのか!?」

「な、何で私がそんな事を………!」

「ははーん……自分のセンスの悪さが露見されるのが恐いんだろー?」

 

 コウタ反撃開始、先程とは立場が完全に入れ替わっている。

 

「え、えーと……カズキは何かいい名前とかありますか!?」

「えっ?」

「こらー、何逃げてるんだよ!!」

「に、逃げてませんよ。私はただ部下として隊長であるカズキの意見を訊こうと思っただけです!」

「いや、あきらかに逃げじゃんそれ!! ってかカズキに押しつけただけじゃん!?」

(確かに……)

 

 これにはさすがのカズキも苦笑、とはいえ真面目な彼はそのまま考えてしまうのだが。

 

「……アイリスとか、どうかな?」

「っ、それです! 私も同じ名前を考えていたんですよ!!」

「嘘つけー!! えー、やっぱノラミでしょ?」

 

 ですよね、とリンドウ達に同意を求めるコウタ。だが、現実は過酷であった。

 

「いや、ノラミはねえだろ」

「………うん」

「えぇぇぇぇぇっ!!?」

 

 哀れなりコウタ、本気で却下されるとは思っていなかったのだろう、その場に崩れ落ちてしまった。

 そんなコウタは放っておく事にして……カズキはいつものように沈黙しているソーマにも、声を掛けた。

 

「ソーマ、何か良い名前とかある」

「………俺には関係ねえよ」

「………?」

 

 ある意味では予想通りの反応、しかし……何やら違和感を感じたカズキ。

 何故か、ソーマは視線を逸らしている、関係ないと言っておきながらこの態度は……。

 

「ソーマ」

「なんだよ?」

「………考えてくれてるんでしょ?」

「っ、ばっ、そんなわけねえだろうが!!」

 

 これまた予想通り、すぐさま否定の言葉を返してきた。

 だが甘い、既にソーマの事をよくわかっているカズキに、そんな誤魔化しは通用しなかった。

 

「嘘付いてもダメだよ、考えたなら発表してみて」

「……何で嘘だとわかるんだ、テメェは」

「だってソーマ、嘘付いてる時はいつも声を荒げるもん。嘘、つき慣れてないからだろうけど」

「っ………!!」

 

 完全なる図星だ、驚く反面疑問にも思う。

 何故そこまで読まれているのかが、ソーマにはわからない。

 

「ふふっ、友達だもん。一緒に居ればそれなりに理解できるさ」

「…………」

「……ソーマ、なんでそんなに嬉しそうな顔してるんですか?」

「っ、そんな顔なんかしてねえ!!」

 

 いやしてるだろ、あきらかに顔にやけてるし。

 全員の心のツッコミがソーマに向けられる、それを知らないカズキはひたすら彼の言葉を待った。

 その視線にいい加減耐えられなくなったのか……ソーマは観念したように口を開く。

 

「…………シオ」

 

「シオ? 調味料か?」

「リンドウ、わかりにくいボケはいいから」

 

 これ以上余計な事を言わないように、サクヤはリンドウを隅っこに追いやった。

 

「シオ……もしかして、綴りはchiot?」

「ああ」

 

 それを聞き、カズキは納得したように頷きを見せる。

 だが、他の面々は当然ながら意味がわからず首を傾げるばかり。

 

「質問ー、さっぱり意味が分からないんですけどー」

 生徒が先生に質問するが如く、右手を挙げ問いを投げかけるコウタ。

 

「Chiotで「シオ」。この綴りの場合「子犬」って意味があるんだ」

「子犬……」

「へぇ……ソーマ、お前結構しっかり考えてるんだな」

「うるせぇぞリンドウ………!」

「そんな恥ずかしがる事ないじゃない、いい名前だと思うわよ?」

「………チッ」

 

 言わなきゃよかったぜ、小さく悪態を吐きソーマは視線を逸らす。

 

「でも、子犬っていう表現もあながち間違いじゃないですね」

 

 あどけない顔、人懐っこい笑み、落ち着きなく動くその姿。

 それら全てが、子犬のようで愛らしい。

 

「えー、ノラミの方が絶対いいって」

「ふざけた事言わないでください」

「そこまで言う!?」

「当たり前です。天地がひっくり返ったとしてもありえませんよ」

「なんだよー! アリサなんか何も思いつかなかったくせに!!」

「なっ、だからアイリスって名前を思い付いたじゃないですか!!」

「アホか!! それ考えたのカズキだろ!!」

 

 ぎゃいぎゃいと言い争うコウタとアリサ、かなり不毛な争いである。

 それに若干呆れを見せつつ、いい加減止めてやろうとカズキが声を掛けようとした時だった。

 

「シオがいい!!」

 アラガミの少女が、声高らかにそう言ってきた。

 

「えぇー!?」

「おっ、こりゃあいい。コイツ自身が決めてくれると楽だからな」

「どうやら、決まりのようだね」

「よかったわねソーマ、気に入ってもらえたみたいで」

「……フン」

 

 ぶっきらぼうな態度を返すソーマだが、若干嬉しそうな顔は隠せていない。

 名前も決まって一件落着、これでこの話はおしまい……と言いたかったのだが。

 

「やっぱノラミの方がいいっしょ?」

 コウタだけは、いまだに納得できていないようだ。

 

「まだそんな事言ってるんですか、どんだけその変な名前に拘ってるんですかあなたは」

「変言うな!! 絶対ノラミの方がいいって、なぁ?」

 

 しゃがみ込み、シオに自分の考えた名前を売り込むコウタ。

 だがしかし、やはりというべきか現実は無情である。

 

「やだ」

 

 すっぱりと、清々しいまでの拒否の言葉。

 はっきりと告げられたその言葉は、コウタを串刺しにする。

 

「うわぁ……」

 

 当たり前の反応だとは思うが、コウタが少し不憫に思えた。

 

「――んだよチクショー!!!」

 

 藤木コウタ十五歳、また一つ世の現実を知って大人になりつつ、涙を流し研究室を飛び出していった。

 めでたしめでたし。

 

「……じゃあ改めて、よろしくねシオちゃん」

「うん、よろしくな、かずき!!」

「さも当たり前のようにコウタを無視したな」

「……お前、結構酷い奴だな……」

 

 カズキの思わぬ黒い部分を見たリンドウとソーマ。

 しかし、カズキはそんな2人を無視して、シオの頭を優しく撫でる。

 それに対し、シオはにぱーっと無邪気な笑みを返すのだった。

 

 

 

 

 

「――それにしても、シオちゃんって知能が高いですよね。もう話せるようになるとは思いませんでした」

「サカキ博士によると、シオちゃんの知能は僕達くらいと大差ないらしいから、すぐに言葉を覚えてもおかしくないらしいよ。

 アリサちゃん、ダージリンでいい?」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 場所は変わり、カズキの部屋。

 カズキは来客であるアリサに紅茶を淹れており、そんな彼に視線を向けながら、アリサは軽くショックを受けていた。

 

 というのも、彼の部屋――綺麗なのである。

 いや、それに対して文句があるとか悪いとかそういうわけではない。

 ただ――アリサ自身の部屋が汚いので、女である自分の部屋が汚くて男であるカズキの部屋が綺麗というのは、彼女にとってちょっぴり悲しい事実なわけで。

 まだ荷解きしていないダンボールがあるし、ベッドにはストッキングばかりか下着まで乱雑している始末。

 掃除しろよという話だが、アリサは所謂片づけられない女……なのかもしれない。

 

「はい、どうぞ」

 

 そんな彼女の葛藤など知るはずもなく、彼女の前に紅茶を置くカズキ。

 いただきます、一言そう断ってからアリサは紅茶を口へ含む。

 

「………美味しい」

「よかった」

「淹れるの上手ですね、こんな美味しい紅茶を飲んだの、初めてです」

 

 贔屓目なしで、素直に美味しいと思える味だ。

 器用だなぁとアリサが思っていると、カズキは苦笑しながらアリサに答える。

 

「ローザがさ、こういうのうるさかったから。

 僕にばっかり淹れさせるのに、文句ばっかり言ってやり直させるんだ、そのせいで否が応でも上手くなったんだよねぇ」

「………妹さんが」

「『お兄ちゃん淹れるの下手』とか言ってね、膨れっ面になってよく僕を困らせていたよ」

 

 懐かしむ顔で、カズキは思い出話に華を咲かせる。

 それを見て……アリサは僅かに口元に笑みを見せた。

 穏やかで、嬉しそうな彼。

 辛い過去を背負いながらも、こうして家族の思い出を大切に語る。

 それは一見普通なようだが、彼の場合……目の前で家族を失っている。

 それがトラウマとなり、昔の思い出すら語れなくなる者もいるらしい。

 だがカズキは、きちんと過去を受け入れているからこそ、こうして周りと何ら変わりなく思い出話を語る事ができるのだ。

 

「……妹さん、私にそっくりなんですよね?」

 

 ちらりと、棚に立てられたカズキの家族の写真に視線を向ける。

 そこに写っているカズキの義妹であるローザは、アリサ自身もよく似ていると思える程だ。

 小さい頃の自分を見ているようにさえ思える。

 

「そうだね。けどアリサちゃんの方がまだ良い子かも。ローザは我が儘な子だったから」

「………あの、私の方が“まだ”良い子って何ですか?」

「あ……」

 

 アリサにジト目で睨まれ、カズキはようやく自分の失言に気づいた。

 だが遅い、アリサは握り拳を作り今にもカズキに飛びかかろうとしている。

 

「ご、ごめん。別に他意はないから!」

「いーえ、絶対ありますね。わざわざ“まだ”なんて言ってる辺り、他意ありまくりじゃないですか」

「うっ………」

「カーズーキー?」

 

 ずいっと顔を寄せるアリサ、カズキは逃げようとするが、椅子に座っている為逃げられない。

 互いの顔が間近に迫るが、2人はそれに気づかずにどんどん近づいていく。

 

(…………あっ)

 

 ようやくそれに気づいたカズキだったが、それを指摘するのは躊躇われた。

 言えば間違いなくアリサが怒り出す、今も怒っているが。

 

「カズキ、聞いてるんですか!?」

「き、聞いてる聞いてる」

「ホントですか?」

「ほ、本当だってば」

 

 自分の顔が熱くなっていく事を隠しながら、どうにか離れようとするが……つい、彼女の唇に視線を向けてしまう

 ぷるぷると瑞々しい、若さ溢れた美しい唇。

 カズキも男、魅力的なアリサにここまで接近されて意識しないはずがない。

 

「? カズキ……?」

 

 何やら様子がおかしいカズキに、アリサも違和感を感じ――自分達の現在の状況にようやく気が付いた。

 

「っ、ぁ………」

 

 アリサの顔が真っ赤に染まる。

 不用意に近づきすぎた、これではお互いの吐息すらかかってしまうではないか。

 急いで離れなければ、そう思って……アリサはそのまま動きを止める。

 

「…………」

「……アリサちゃん?」

 

 今度はカズキが違和感を感じた、急にどうしたのだろうとアリサの顔を覗き込み……。

 

「えっ……?」

 

 彼女が、瞳を閉じて、カズキの唇に顔を近づけていく。

 ――動けない。

 彼女が何をしようとしているのか、それがわかっているのに……身体が動かせない。

 そして………。

 

――ガチッ!!

 

『っ!!?』

 鈍い音が、2人の口から響く。

 

「〜〜〜〜〜っ」

 

 痛い、それに最悪だ。

 半ば不意打ちな形でキスをしようとしたのに、失敗するなどありえない。

 

「いてて……アリサちゃん、大丈夫?」

「は、はい……」

 

 幸い、口の中は切れていないようだ、歯はまだ痛いが。

 

「……アリサちゃん、今の」

「…………」

「今のって……キス、しようとした?」

 

 というより、キスされたと言った方が正しい。

 別にそれに対して怒りを覚えているわけではない、ただ……何故そうしたのかを、教えてもらいたかった。

 するとアリサは、暫しの間カズキの問いに答えず黙り込んでしまい。

 

「あの……アリサちゃん?」

 

 少し遠慮がちに、カズキはもう一度声を掛けるが。

 

「……ご自分で、考えてください」

「えっ………」

「その……お茶、ご馳走様でした。それと、あのキスは……冗談とかそういうつもりはありませんからね!」

 

 一気にまくし立て、アリサは部屋を出ていく。

 部屋には、1人残されたカズキが茫然とその場に突っ立っているのみ。

 

「……冗談じゃないって、じゃあ……」

 

 今のは、何か特別な意味があったという事なのか?

 問いかけるべき少女は既におらず、カズキはその日1人部屋の中でアリサの言葉の真意を読み取る為に、思考を巡らせたのだった。

 

 

一方、アリサはというと。

 

 

「はぁ……」

 落ち込んでいた、そりゃあもう負のオーラ全開バリバリで。

 

「私……何してるんだろう」

 

 あろうことか、彼とまだ恋仲ではないというのにキスをしてしまった。

 失敗とはいえ、したも同然。おまけにあんな意味深な言い方をして完全に彼を困らせた。

 無論、アリサはキスがしたくて接近したわけではなく、所謂不慮の事故というやつだ。

 離れようとした、けれど視線がカズキの唇に向かってしまい……後は、抑えが効かずにあんな事を……。

 

「どんな顔して会えばいいんですか……」

 

 おもわず、頭を抱えて悶絶しそうになるアリサだったが。

 

「アリサさん、どうしたんですか?」

「っ、カノンさん……」

 

 通りかかったカノンの声で、どうにか我に返る。

 

「何かあったんですか?」

「…………」

 

 さっきの事を話すのは恥ずかしい。

 だが、カノンとは正々堂々カズキを巡って競っている、ちゃんと報告しなければ不公平だ。

 おかしな真面目さを出しながら、アリサは「実は……」という前置きの後、先程の事をカノンに話す。

 

「ふぇー……キ、キスですか」

「失敗でしたけどね……」

 

 話を聞き、カノンの顔が赤く染まり、それで思い出したのかアリサの顔も赤くなる。

 

「そ、それで告白は……?」

「……してません。けどキスの事は「自分で考えてください」って言いました……」

 

 今思えば、結構卑怯な物言いかもしれない。

 これでは、半ば想いを告げたようなものだ。

 

「うむむ……アリサさん頑張ってますね、次はわたしが頑張る番です!!」

 

 ぐっと気合いを入れるカノン、しかし顔が赤いままなのでいまいちしまらない。

 

(……抜け駆けした事に対して、何も言わないんですね)

 

 なんというか、本当にこのカノンという少女は人が良いというか、争い事が嫌いらしい。

 アリサとて修羅場にしたいわけではないが……すっかり毒気を抜かれた気分になる。

 

(……次は、ちゃんと成功させよう)

 

 指で唇をなぞりつつ、そう心に誓うアリサ。

 だがしかし、先程の事を思い出すと恥ずかしいのか、顔を赤くしてわたわたと慌てるのだった。

 

 

 

 

To Be Continued...

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