その誓いを果たすため、カズキはついに目覚めの時を迎えた……。
――カズキが目覚めて初めて見たのは、見慣れた白い天井。
「―――っ」
ここが医務室だと理解し身体を起き上がらせると、身体がだるさを訴え頭もクラクラした。
しかし――カーテン越しに聞こえる喧騒が、ただ事ではないという認識をカズキに与え、彼はすぐさまベッドから降りカーテンを開ける。
(っ、これは……!?)
目の前に広がるのは、地獄絵図。
沢山の一般人が寝かされ、その誰もが身体を血で濡らしている。
痛い、助けて、聞こえるのは呪詛のように繰り返されるその言葉ばかり。
混乱しそうになる己を制しながら、カズキは視線を泳がせ……見知った少女を視界に捉える。
「カノン先輩!!」
「えっ――!? あっ、目が覚めたんですねカズキさん!!」
カズキの目覚めに心から喜びつつも、カノンは自分が受け持っている怪我人の治療を続ける。
「カノン先輩、一体何が起きてるんですか?」
「そ、それが……アラガミが外部居住区に侵入してしまって……」
「アラガミが!?」
「避難は終わったんですが、タツミさん達は暴動を鎮圧するので精一杯で……今、第一部隊の人達だけでどうにか防衛してる状態なんです!」
「っ、カノン先輩、ありがとうございます!!」
言うやいなや、人の波を器用に抜けながら、カズキは医務室の外へ。
そのまま向かった場所は――神機保管庫。
「リッカちゃん!!」
関口一番、カズキは自分の神機を整備してくれているリッカの名を叫ぶ。
「カズキ君、よかった……目が覚めたんだね」
「心配かけてごめん、それより僕の神機は!?」
「整備は終わってるよ、けど……大丈夫なの?」
「大丈夫、むしろ健康過ぎるくらいさ!!」
そう言い放つカズキだが、その言葉はあながち間違いではない。
身体は軽く、あれだけあった捕喰欲求は微塵も感じられない。
まるで、自分の身体がそっくりそのまま新品に入れ替わったかのようだ。
「……わかった。ちゃんとできてるよ」
言って、リッカはカズキに神機を見せる。
「………これは」
神機の刀身パーツを見て、カズキは目を見開く。
白銀の刃は厚みたっぷりで重厚な造り、白銀の刀身は長さが六尺――すなわちカズキの長身と同じくらい長く、それでいて持つと凄まじいまでに軽かった。
バスタータイプの刀身でありながら、その実扱いやすさはショートタイプの如し。
まるで、中世に登場する偉大な騎士が持つに相応しい魅惑の騎士剣のようだ。
「戦乙女の腕と槍、そしてカズキ君の放電チェーンソー改に火刀、さらに冷却ブレードを溶かして接合させた、新しい神機だ。
わたしもそれなりに神機の刀身パーツを見てきたけど、こんなに美しい仕上がりになるとは思わなかったよ……」
それも全て、あの戦乙女の部位が今までのアラガミとは一線を画していたからに他ならない。
(凄い……吸い込まれそうだ……)
刀身の輝きはただ美しく、こんな状況だというのにおもわず魅入ってしまう。
それに……妙に、手に馴染んだ。
(……この力で)
今度こそ、守るのだ。
自らの手で壊しそうになってしまった少女を、そしてこの世界を守らなくては。
「ありがとう、リッカちゃん」
「……気をつけてね、無茶だけはしたらダメだよ?」
その言葉に大きく頷きを返し、カズキは地を蹴り外部居住区へと向かう。
「っ」
初めに感じたのは――酷い血の臭い。
人間と、アラガミの血の臭いで思考が焼けてしまいそうになる。
「…………」
目を閉じ、意識を奥底へと追いやり気を張る。
すると、すぐさまカズキの超人的な聴覚が何かを破壊するような音を拾った。
(こっちか―――!)
目を見開き、カズキは音がした場所へと一気に走る。
そのスピードは、前の彼よりも遥かに速い。
(……成長してる。僕の身体が)
人間、しかもゴッドイーターですら超えたカズキの身体能力。
しかし、今の彼は前の彼よりも更に肉体能力が向上している。
そこから導き出されるのは、一つの真実。
――進化したのだ。
戦乙女の腕を喰らい、カズキの中のオラクル細胞が。
アリサを喰らおうとした際、自分の中にあった激しい捕喰欲求は綺麗に消え去っている。
それも、カズキの身体が進化した何よりの証拠の一つ。
あの戦乙女が、自分を助けてくれたのだろうか?
だとすると――あのアラガミ、は。
(――今は、そんな事を考えてる場合じゃないな)
思考を戦いのそれに戻し、カズキは戦場へと足を運ぶ。
と、真横から自分を喰らおうとするアラガミ、コンゴウが迫ってきた。
「は―――!」
横殴りの一撃を足を止めて回避し、すかさずカウンター気味の一撃を叩き込む。
剣戟はコンゴウの頭部から、まるでバターを斬り裂くように呆気なくその身体を両断した。
神機の破壊力、そしてパワーアップした自分自身の腕力に驚愕しつつ、再び地を蹴り戦場へ。
そして、カズキの視界がアリサ達の姿を捉えた。
第一部隊の面々が、様々なアラガミに囲まれている。
中には、この間のプリティヴィ・マータの姿も。
「っ、どけぇぇぇぇっ!!」
とにかく、手当たり次第にアラガミを斬り裂いていき――アリサの前に。
「っ、カズキ!!!」
「目が覚めたのか!!」
カズキの出現に、第一部隊の面々からは笑顔が浮かぶ。
「フン、生きてたか……」
無愛想なソーマですら、口元に優しげな笑みを見せた。
「……みんな、ごめん。心配ばかりかけて……」
「なーに、こうしてヒーローばりにカッコいい登場をしたんだ。
当然、後のアラガミの処理は全部やってくれるんだろ?」
「ちょっとリンドウ……」
「いいですよ」
「へ?」
おもわず、こんな状況だというのに間の抜けた声を出してしまうリンドウ。
「みんなに迷惑をかけたんだ、それくらいやってやるさ」
「……おぅ、じゃあ頼むわ」
「リンドウさん!!」
「じ、冗談だって」
アリサに責められ、顔を引きつらせるリンドウ。
「……みんな、もう一頑張りだからね」
「おぅ!!」
「フン、隊長なんだから前衛はやれよ」
コウタは気合いを入れ直し、ソーマの顔にも活力が戻る。
「しょうがねえ、もちっと頑張るとするか」
「リンドウ、先輩なんだから後輩に負けたらダメよ?」
リンドウも余裕を見せ、サクヤはそんな彼を軽く戒めながらも、この戦いで初めて笑みを見せた。
「……アリサちゃん」
「…………」
見つめ合う2人。
カズキは申し訳なさそうに表情を歪めるが、アリサはほっとしたような笑みを浮かべる。
「……信じてましたよカズキ、必ず帰ってくるって」
「ごめん、僕は」
「いいんです。あの時の事は気にしないでください、だから……今までと同じように、共に行きましょう!!」
「アリサ、ちゃん……」
「――私、あなたを守ります。必ず守ります、あなたは……私の大切な人だから」
強い眼差しで、アリサはカズキを見つめる。
それに対し、カズキもまた強い意志を持った瞳で彼女を見つめ。
「――僕も、必ず君を守るよ。君は……僕の大切な人だから」
はっきりと、強い口調でそう告げた。
「おら、2人してラブコメしてんじゃねえよ!」
「さっさとアラガミを殺せ、阿呆」
「うるさいですよ、リンドウさん、ソーマ!!」
「あはは……」
だが確かに、これ以上話をしている場合ではない。
アラガミ達も、カズキの突然の出現に動揺を見せていたが、今ではじりじりと彼等を喰らおうと迫ってきている。
「――見せてやる」
神機を右手で持ち、カズキは自身の左手を見やる。
すると――カズキの左手が、異形の形へと変貌していく。
「これは……!?」
アリサが驚愕の声を上げる中、彼の左手はだんだんとある形へと変わっていき……。
変化を終えた時には――神機の刀身パーツのような形に、変わっていた。
(………できた)
体内のオラクル細胞を変化させ、左手を神機に変える。
進化したこの身体に刻まれた知識を、半信半疑ながら行ったが……どうやら成功したようだ。
すぐさま地を蹴り、一番近くにいたザイゴートに狙いを定める。
ザイゴートも迫るカズキに気づくが、一刀の元に斬り伏せられた。
(………よし)
破壊力も、使い勝手も問題ない。
神機でいうロングタイプの刀身は、彼の新しい武器となってくれた。
それに……この左手で斬りつける事で、自分のオラクル細胞を活性化させる事もできるようだ。
もはや、カズキの身体に人間の部分は殆どないと言ってもいい。
(……それがどうした)
そんなもの、誰かを守れるのならば無意味な事実でしかない。
2つの神機を構え、彼は再びアラガミへと吶喊した。
カズキの変化に驚く第一部隊の面々だが……誰一人として、彼の異常を不気味と思った者はいない。
当たり前だ、たとえどんな姿になろうとも……カズキがカズキであるのならば、彼は大事な友人であり仲間なのだから。
「よーし、カズキに負けじと続けー!!」
「テメェもいけ、リンドウ!!」
「―――ふぅ」
ゆっくりと息を吐き、カズキは左手を元に戻す。
周りには山のようなアラガミの死骸が広がり、血の池が生まれていた。
「はぁ…はぁ……もう、無理……」
コウタはその場に座り込み、ただただ荒い息を繰り返している。
だが、それはサクヤやアリサも同じであり、立っているのはソーマとリンドウ、そしてカズキだけだ。
「おーおー……おじさんはもう今日は働きたくないですな」
タバコを吸いつつも、リンドウは明らかに疲れの色を見せている。
「……おい、サボってねえでコアの摘出手伝え」
「うん。リンドウさん達は休んでてください」
「あっ、私も手伝います」
「無理しなくていいよ、アリサちゃん」
アリサの頭を優しく撫で、ソーマと共にアラガミの死骸からコアを摘出していくカズキ。
疲れが優先されたのか、アリサは厚意に甘えようと息を吐いて座り込む。
「……しっかし、派手に壊れちまったなぁ……」
対アラガミ装甲だけでなく、外部居住区まで廃墟と化した。
これでは、ただでさえギリギリの生活だった人々も、更に追い込まれてしまうだろう。
「対アラガミ装甲は、僕達が摘出したコアを用いれば新しいのができますけど……暫くは、アナグラに一般人が居る生活が続きそうですね」
だが仕方ない、いくら新しい偏食因子を用いたとて、装甲がすぐに完成するわけではないのだ。
だというのに一般人を外に放り投げるほど、フェンリルは…いや、極東支部は非情ではない…筈だ。
「まあなんとかなるさ、カズキも戻ったしな」
「…………」
「お前が居ないと、アナグラも活気がないっていうか……アリサ辺りも、使い物にならなくなりそうだからな、お前がいないとさ」
「なっ、何言ってるんですかリンドウさん!!」
赤い顔でリンドウにくってかかるアリサ。
それを、カズキは苦笑しながら見つめていた時だった。
「―――――」
その場で、ゆっくりと振り返る。
そこに居たのは――全身を漆黒の毛で包まれた、人型のアラガミ。
『っ!!?』
カズキを除く全員が、突然のアラガミの出現にすぐさま身構える。
「こいつは……!」
「リンドウ、このアラガミを知ってるの?」
サクヤの問いに、リンドウは忌々しげに表情を歪ませながら、頷きを返す。
「見たのは一度だけだけどな、けどこいつは――」
「―――八年だ」
「えっ……?」
「カズキ……?」
「八年間、僕はお前を忘れた日はなかった……あの時とは姿を変えているけど、僕にはわかる。
――ようやく、お前を殺せる時がやってきたんだ」
キッと、アラガミを睨むカズキ。
その瞳はただ恐ろしく、アリサ達はおもわずその場から一歩後ろに退がってしまった。
表現できない程に大きな憎しみと怒りを抱いたカズキに、誰もが声を掛けられない中。
「……こいつは、カズキの両親の仇なんだよ」
リンドウは静かに、このアラガミの正体を口にする。
「っ、こいつが……!?」
「……カズキの、家族の仇」
それを聞いて、カズキの豹変ぶりも納得できた。
「――今こそ、報いを受けてもらう。お前が今まで奪ってきた命、その全てに頭を下げながら……あの世に行け!!」
怒声と共に、一気に踏み込むカズキ。
「カァァァァァッ!!」
アラガミも、凄まじい金切り声のような叫びを放ちつつ、突撃する。
一秒にも満たぬ時間で両者は間合いを詰め、カズキの剣戟とアラガミの拳がぶつかり合った。
「ぐ……っ!!?」
耳を塞ぎたくなるような衝撃音を辺りに響かせ、両者共に大きく弾かれる。
(く……手が、痺れ……)
「ア゛ァァァァァァッ!!!」
再び迫るアラガミに、カズキは左腕を変形させた剣で受け止める。
「っ、――のぉっ!!」
鍔迫り合いになっている間に、右手の神機でアラガミを斬ろうと振り下ろすが、それを関知したアラガミはすぐさま距離を開け攻撃を回避した。
「ちぃ―――!」
舌打ちをしつつ、カズキは再び攻撃に移ろうとしたが……。
「ギィィィィィッ!!」
気味の悪い鳴き声を発し、アラガミはそのまま脱兎の如くその場から立ち去った。
「なっ――待て!!」
「おっと、ちょいとストップだ」
すぐさま後を追おうとするカズキを、リンドウが止めた。
「っ、何で―――!」
「頭冷やせ、今俺達がやる事はアレを追いかける事じゃない、偏食因子を持ち帰って対アラガミ装甲を一刻も早く作ってもらう事だ。
お前は第一部隊の隊長なんだ、私欲で動いていい立場じゃないってのは、わかるよな」
「…………っ」
リンドウの言葉は充分に理解できる、できるが……カズキはギリリっと悔しそうに歯を鳴らす。
しかし、それで幾分かは冷静さを取り戻したのか。
「……すみません、リンドウさん」
頭を下げ、そのままアナグラへと歩いていってしまった。
「……アイツの、あのアラガミに対する憎しみはハンパじゃない。
わかっていたが、ありゃ予想以上だな」
憎しみは人を変えてしまう、彼にはその感情に支配されてほしくないとは思うが……。
「……あいつがあのアラガミをぶっ殺したいと願うなら、俺達はそれに協力してやればいい。
あいつが暴走しないように、俺達で何とかしてやればいい。それだけの話だ」
「………だな」
ソーマの言葉に、その場にいた全員が頷きを返す。
そして、先に行ったカズキと一緒に、アナグラへと帰還するのだった……。
(……しかし、あのアラガミはなんでいきなり現れやがったんだ……?)
To Be Continued...