神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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黒き帝王、ディアウス・ピターを倒す為に、カズキ達は戦場へと赴く。

しかし、ピターによって統率力があるヴァジュラやマータの奇襲を受け、カズキは仲間を一時撤退させ1人残りピターに挑む。

だが蓄積されたダメージによってピターに力及ばず、絶体絶命の状況に陥っていた……。


捕喰44 ~人と神との分岐点~

「―――くそっ、いててて」

「我慢しなさい、ほら」

 

 顔をしかめるコウタを戒めつつ、サクヤは彼の腕に持ってきた包帯を巻いていく。

 

「ソーマ、大丈夫ですか?」

「……ああ、問題ねえよ。いちいち心配するんじゃねえ」

 

 いつも通りの口調を返すソーマだが、その顔には疲労の色が濃い。

 当たり前だ、彼だけで一体何匹のヴァジュラとマータを倒したのか。

 

――ここは、戦闘エリアから少し離れた場所にある朽ち果てた教会。

 

 一時撤退したリンドウ達は、ここで応急処置を行っていた。

 

「――よし、行くか」

「ちょっと待ってリンドウ、まだ貴方の治療が」

「んな事言ってる場合じゃないだろサクヤ、今こうしてる間にもカズキは戦ってんだ。

 ――これ以上、呑気に休んでる場合じゃねえんだよ」

 

 神機を持ち立ち上がるリンドウ、しかしすぐに身体を震わせ顔をしかめる。

 見ると、彼の服の至る所から血が滲み出ている。一目で重傷だというのがわかる程に。

 リンドウに駆け寄り、サクヤは無理矢理彼を座らせる。

 

「今の状態で言っても意味はないわ、貴方も隊長ならそれくらい理解しなさい!」

「…………悪いな」

 

 強い口調でサクヤに言われ、リンドウも観念したのかその場に座り込みおとなしく治療を受ける事に。

 

(…………こんな)

 

 状況は、はっきり言わなくとも拙いものになっている。

 コウタとソーマは負傷、特にコウタのダメージは大きすぎる、暫くは戦えないと思った方がいい。

 リンドウも決して小さくはない怪我を負い、サクヤもまた疲労の色が濃い。

 アリサは比較的まだ余裕があるが……それでも、刀身や装甲が軋みを上げている。

 

「――――っ」

 

 それがどうした、今だって彼は戦っているのだから。

 

「アリサ、全員の治療が終わるまで待ちなさい!」

 

 駆け出そうとするアリサに、サクヤが制止の声を上げる。

 

「っ、けど……!」

「最低限の事をしないと役に立たない事ぐらいわかるでしょ?

 貴女も傷ついているし、カズキを助けたいなら今自分ができる事をしなさい」

「――――っ」

 

 歯を食いしばり、アリサはその場で立ち尽くす。

 確かにサクヤの言う通り、自分1人が向かった所でたいして役に立てない。

 それはわかっている、わかっているが……できる事なら、今すぐにでも向かいたいというのに。

 

(こんな……! 私はどうしてこんなに弱いの!!)

 

 自分1人では何もできない、守りたいと誓った人すら守れないなどお笑い草だ。

 だが――今はそんな悔しさを感じている場合ではない。

 必死にそう言い聞かせ、アリサは皆の治療をしようとして――

 

「――――」

 背後に、何かの気配を感じ取った。

 

「なっ、こいつは―――!」

「ヴァルキリー!!?」

 

 全員が身構える。

 だが、ヴァルキリーはアリサ達に襲いかかる事はせず……左手を、アリサに向かって突き出した。

 

「えっ?」

 

 攻撃するのか、一瞬そう思ったがどうやらそういうわけではなく……ヴァルキリーはそのまま動かない。

 

「……来てほしいって、言ってるの?」

 

 そんなバカな、自分でもそう思いつつヴァルキリーに問いかけると――こくりと、頷きを返された。

 

「――――」

 

 右手に神機を持ったまま、アリサはヴァルキリーの左手を自身の左手で握りしめる。

 

「アリサ!?」

「おい離れろ! 何やってんだよ!!」

 

 当然のごとく、仲間達は口々にそう言うが……アリサは握った手を放そうとは思わなかった。

 根拠などない、だが……このアラガミは、自分達の敵ではないと思ったのだ。

 ラウエルやシオのように、特別な進化を果たしたアラガミだと。

 だって、そうでなければ……何故このアラガミは前にカズキを助けたのだ?

 それに今だって、目の前に補喰対象である人間が居るというのに、まったく襲ってはこないではないか。

 

「きゃっ!!」

 

 自分の身体が宙に浮いた。

 ヴァルキリーが、アリサの手を握りしめたまま大きく跳躍したのだ。

 

「ひゃぁぁぁっ!!?」

 

 情けない声を出すアリサ、だがヴァルキリーが五メートル近い跳躍を何度も行っていれば、恐くてそんな声も出てしまうだろう。

 しかし、そのスピードはアリサ達が普通に走るより速く。

 そのおかげか、すぐさま戦闘エリアへと戻ってくる事ができ……。

 

「―――カズキ!!」

 

 アリサは、建物の上に着地したヴァルキリーの隣に立ち……今にも補喰されそうになっているカズキを発見して。

 ヴァルキリーに、行かせないとばかりに強い力で引っ張られた。

 

「放して、カズキが――」

 危ないの、そう叫ぼうとして――アリサは、何かの鼓動を耳に入れる。

 

「えっ……な、に?」

 

 

 

 

 

 

―――死ぬ。

 

 目の前には、大きく口を開けるディアウス・ピター。

 まるで極上の餌にありつけたかのように、心なしか喜んでいるようにすら思えた。

 ……ああ、僕の命はここで尽きるのか。

 まだ死にたくない、諦めたくない。

 

 けど――もう身体が動かないのだから、仕方がない。

 

―――お腹すいた。

 

 負けないと誓ったのに。

 

―――お腹スいた。

 

 この力で、戦えない人達も守りたいと願ったのに。

 

―――お腹スイた。

 

 こんな所で、僕は死ななくてはならないのか。

 

―――お腹スイタ。

 

 死にたくない。

 

―――オ腹スイタ。

 

 死にたくない。

 

―――オナカスイタ。

 

 死にたくない………!

 

―――オナカ、スイタ!!

 

 

 

 

 

 

「――――えっ?」

 

 空気が、変わった。

 ピターがカズキを喰らおうとした瞬間――カズキの姿が消える。

 いや、消えたのではなく……一瞬で跳躍してピターから離れた。

 

 神機を右手で持ちながら、ぐったりとうなだれているカズキ。

 ……彼の身体から、闇色の霧が立ち昇っている。

 あれはバースト状態になった時に出るオーラ、補喰もしてないのに何故?

 

「――――っ!!?」

 

 ぞくりと、身体が震え上がる。

 私……カズキを見て恐怖してるの……!?

 違う、あれは……あれは、カズキじゃない!!

 

「――――オ」

 カズキの口元が、歪な形の笑みを浮かべる。

 

「オオォォォォォォッ!!!!」

「っ」

 

 凄まじい声に、私は耳を塞ぐ。

 まるで獣そのものだ、今のカズキは……人間じゃ。

 

「ギャオォォォッ!!!」

「ガァァァァァッ!!!」

 

 ヴァジュラとマータが、四方から囲うようにカズキへ向かっていく。

 

「――ウオオォォォォッ!!!」

 

 遠く離れたこの場所まで、神機を振るった際の風切り音が響き。

 ヴァジュラとマータの顔が、横一文字に斬り裂かれた。

 

「っ、速い……!?」

 

 カズキの斬戟は、確かに私なんかよりずっと速い。

 けど今は、それよりもずっと速く……それでいて重い一撃だ。

 

「ウゴァァァ!!」

「ギィィィアァァァッ!!!」

 

 近くにいるヴァジュラやマータに飛びかかり、無差別にその身体を喰らっていくカズキ。

 そこには微塵の容赦も躊躇いもなく、いつもの彼と違い補喰を心の底から楽しんでいる。

 アラガミを、餌としか見ていない。

 

「オオォォォォォォッ!!!」

「あ…あ……」

 

 ……いけない。

 これ以上は、戻れなくなる。

 カズキをあのままにしていたら……もう、私の知っているカズキが消えてしまう。

 そう思えて、私は急ぎ彼の元へと向かおうとしたら。

 

〈――殺される、行かない方がいい〉

 

 私の頭に、少女の声が響き渡る。

 

「えっ―――!?」

 

 この声……まさか、ヴァルキリーから!?

 

〈あれはもう人間じゃない、見るもの全てが食物にしか見えてない……アラガミ〉

「っ、あなたが…喋ってるの?」

 

 私の問いに、ヴァルキリーは頷きを返す。

 どうして、いきなりヴァルキリーの声が聞こえるように……。

 

〈触れ合っているから、それに……神機に身体の一部を混ぜた〉

「はい!!?」

 

 身体の一部を私の神機に混ぜたって……いつの間に!?というか、大丈夫なんですかそれ!?

 

〈そんな事どうでもいい、行けば……喰われる〉

「けど、カズキを放っておくわけにはいきません!!」

 

 彼を守ると誓った、なら自分がやるべき事はただ一つ。

 

〈――殺されるだけ。無駄〉

「…………」

〈アリサもわかってるはず、行けば……無様に殺されるだけ〉

 

 ヴァルキリーの言葉が、私の足を止める。

 わかっている、言われなくてもそれくらいは。

 今のカズキの動きは、私では追いつけない程に速くなっている。

 そんな私が今の彼に近づけば、どうなるかなど容易に想像できてしまう事などわかっているのだ。

 でも、それでも私は……。

 

「アリサぁ!!」

「リンドウさん、みんなも……!」

「おいおい……カズキの奴、どうしたんだよ!?」

「っ、アイツの中のアラガミが……暴れてやがる」

「ソーマ、そりゃどういう意味だよ!?」

「まさか……前みたいに、暴走を?」

「…………っっっ」

 

「ウオオォォォァァァァァァォッ!!!」

「ゴアアァァァァァッ!!!」

 

 周りのヴァジュラ達を全て駆逐したカズキが、今度はピターへと向かっていく。

 激突するピターの脚とカズキの神機。

 

「あっ……!?」

 

 メキメキという嫌な音が響き、カズキの神機本体が歪な形に変形した。

 限界を迎えたんだ、リッカさんが危惧してた事態が現実に……!

 

「チィ―――! アアァァァァァァッ!!!」

 

 忌々しげに神機を投げ捨て、カズキの両腕が変化する。

 それは剣ではなく――巨大な爪。

 ピターにも引けを取らない程にまで巨大化し、まるで両腕だけ別の生き物のようになった。

 

「ゴァァァッ!!!」

「オオォォォォォォッ!!!」

 

 真っ向からぶつかり合う両者、体格差など比べるべくもないというのに……お互いの力はまったくの互角だった。

 ……けど、その代償にカズキの心が消えていく。

 あの優しくて、暖かな心を持ったカズキが……この世界から、消えてしまう。

 

「――――」

 

 私は、何を躊躇っているのだろう。

 死ぬのが恐い?行っても無様に殺されるから助けない?

 ……そんなもの、何の言い訳にもならないじゃない。

 

〈――行っても無駄だって、どうしてわからないの?〉

 

 ヴァルキリーが感情の込められていない……否、どこか呆れを含んだ声を私の頭に投げ込んでくる。

 

「私は、カズキを守ると誓ったの」

〈殺されるだけ、あれはもう……人間じゃない〉

「違う、まだカズキの心は残ってる。私はまだ……諦めない」

〈たとえ残っていたとしてもどうやって戻すの? それに、今向かっていったら餌として食べられるだけ〉

 

 

「――それが、何だっていうの?」

 

 

〈えっ……?〉

「今の私が在るのはカズキが居たから、私のこの命はとっくの昔からカズキのものなの。

 だったら、彼の為に失ったとしても……後悔なんかしない」

 

 あの時だってそうだった、カズキが暴走してアラガミ化になりかけた時だって。

 私は、命を懸けて彼を救いたいと願った。

 ならば、今こうして命を投げ捨ててでもカズキを救う事に、どうして躊躇いが生まれるというのか。

 

「カズキは、この世界に必要な人。アラガミから弱き人々を守る希望の光なの、その光を守るためなら……私は、どんな事だってしてみせる」

〈……どうして、そこまでして救おうとするの?〉

「そうね……」

 

 理由は、まあ色々ある。

 今言った事も理由の一つだし、けど……何よりも。

 

「私は――彼を愛しているから。抗神カズキという存在が、この世のどんなものよりも大切だから。 だから守るの、私の全てはあの人のもの……それは、未来永劫変わらない」

 

 言ってて、少しだけ恥ずかしくなった。

 けれど、何故かヴァルキリーには聞いてもらいたいと思ったのだ。

 不思議な事に、私はヴァルキリーをもうアラガミとして見ていない。

 何ていうか、私にとってとても大切な……。

 

〈――そっか、やっぱりお姉ちゃんは凄いね〉

「えっ?」

 

 急に、ヴァルキリーの口調や声色が変わった。

 先程まで機械的だったのに、今は無邪気な子供らしい高い声にきちんと感情が込められている。

 

「あなた、一体……」

〈救いたいんでしょ? なら今は余計な事は考えない方がいいよ〉

「…………」

 

 確かにそうだ、今はカズキを助ける事だけを考えなければ。

 私は大きく頷きを返し、ヴァルキリーと共に建物からリンドウさん達の前に降りる。

 リンドウさん達はヴァルキリーを見て身構えるが、私は首を横に振ってこのアラガミが敵でない意志を告げた。

 

「大丈夫です。ヴァルキリーはカズキを助けるのに協力してくれます」

「……協力、だと?」

 

 ギロリとヴァルキリーを睨むソーマ、ああもう、気持ちはわかりますけど今はそんな事をしている場合じゃないんですよ!!

 

「今は信じてください、早くしないと……カズキがもう戻ってこれなくなるんです!!」

「け、けどさぁ……」

「お願いします!!」

「ア、アリサ……」

 

 躊躇う事なく、私は皆さんに向かって土下座した。

 

「……俺達は、どうすりゃいいんだ?」

「リンドウさん……!」

「リンドウ、ヴァルキリーを信じるの?」

「信じる訳じゃないさ、けどラウエルやシオみたいなケースもあるだろ?

 それによ、アリサみたいな良い女がここまでやってんだ、ここで何もやらなきゃ俺は男じゃねえよ」

 

 いつも通りの飄々とした笑みを見せるリンドウさんだけど、今はその笑みが凄く真剣なものに見える。

 他の皆さんも、リンドウさんの言葉を聞いて協力の意を見せてくださいました。

 

「でさ、具体的にオレ達はどうすればいいんだ?」

 

〈元に戻すには、お姉ちゃんの感応現象が必要だよ〉

「感応現象?」

〈お姉ちゃんの感応現象で、あの人の心を呼び起こして。他のみんなは、その間あのアラガミを食い止めてね〉

「――だそうです」

 

 皆さんはヴァルキリーの声が聞こえないので、私が代わりにその言葉を伝える。

 

「食い止めるねぇ……」

 

 懐からタバコを取り出し、火を点けて吸うリンドウさん。

 そして一吸い終わって地面に落とし、踏みつけながら。

 

「それはいいけどよ……ぶっ殺しても、いいんだよな?」

 ニヤリと悪そうな笑みで、そう言った。

 

「………はい、ぶっ殺しちゃってください」

 

 あいよ、と返事を返しつつ、ピターに向かっていくリンドウさん。

 

「……アイツの事、頼むぞ」

「アリサ、ヴァルキリー、頑張ってくれよ!!」

「あの子の事、ちゃんと戻してあげてね?」

 

 ソーマ達も、リンドウさんに続いてピターの元へ。

 

〈――抑えておくから、その間にお姉ちゃんは感応現象を引き起こして〉

「引き起こしてって……感応現象は必ず起きるものじゃないのよ?」

〈自分の絆を信じて。お姉ちゃんなら……きっと心を通じ合わせる事ができるはずだから〉

「…………」

 

 カズキとの、絆……。

 ……正直、それがあるのか不安ではある。

 私はカズキが好きだ、愛している。そしてカズキも私を愛してくれているはずだ。

 でも……私の愛は、ひどく子供で……絆を感じさせるようなものではないかもしれない。

 けど、それでも私は――カズキを助けたい、その気持ちだけは誰にも負けない!!

 

「オオォォォォォォッ!!!」

 

 新たな標的――ヴァルキリーを視界に入れ吶喊するカズキ。

 相も変わらず凄まじいスピードの斬戟だが、ヴァルキリーは槍や盾を上手く用いて攻撃を悉く防いでいる。

 

――私はまだ動かない。

  下手に向かえば邪魔になるし、今はヴァルキリーの合図を待たなくては。

 

「ガ……ッ!!?」

 

 ヴァルキリーの脚が、カズキの顎を蹴り上げる。

 怯んだ隙にヴァルキリーは左の盾を彼の右肩に添え、右の槍で彼の左肩を貫き地面に突き刺した。

 

「―――カズキ!!」

 ヴァルキリーの視線が、私に向けられ一直線に彼の元へと駆ける。

 

 

――お願い。

 

私はどうなってもいい、この命がほしいならあげるから……。

 

だから……お願い、カズキを元に戻して!!

 

祈りを込め、私の右手がカズキの身体に触れる。

 

――その、刹那。

 

私の意識は、ここではない何処かへと、運ばれていった……。

 

 

 

 

 

To Be Continued...

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