新たな仲間であるアネットとの別れが、すぐそこまで迫っていた………。
「――アネットちゃん、緊張しないで」
「は、はい……」
カズキに言われ頷きを返すアネットだが、その顔から緊張の色が消える事はない。
そんな彼女にカズキは苦笑し、彼の後ろに居るコウタとアリサは呆れたような表情を浮かべる。
「あのさぁカズキ、緊張するなって言うのが無理だろ?」
「そうですよ、だって今回の討伐アラガミは『ハガンコンゴウ』なんですよ?」
――ハガンコンゴウ。
第二種接触禁忌種と呼ばれる、コンゴウ種のアラガミである。
ヴァジュラのように電撃を操り、金色の肉体を持つ強力なアラガミだ。
第一部隊でもあまり交戦経験がないというのに、カズキはまだ新兵であるアネットを討伐メンバーに加えたのだ。
というのも、今日が研修最終日であり、卒業試験としてこのミッションを選んだわけだが……ご覧の通り、アネットはガチガチに緊張してしまっている。
「まだアネットさんには早いと思うんですが……」
「そんな事ないよ、それに何も1人でハガンコンゴウを倒せだなんて言ってないし。
あくまでもチーム戦において、自分がどう立ち回ればいいのかを理解してもらうのが目的なんだから」
「だったら、もっと楽なミッションでも良いんじゃないか?」
「それだと緊張感が無いでしょ?」
『…………』
意外と鬼だこの人、3人はあっけらかんと言い放つカズキに顔を引きつらせた。
「アネットちゃん、自分の戦い方ならもうわかってるはずだ。それができれば、大丈夫だよ」
「………はい」
まだ不安はある、だが……そんな事を言っている場合ではない。
いつアラガミが襲ってくるのか、わからないのだから――
「―――来る!!」
「えっ―――」
カズキの声に、アネットは顔を上げる。
地響きが起き、何かが近づいてきているのが否が応でも理解でき、そして。
「ガオォォォォッ!!」
ドシンと、空からハガンコンゴウが振ってきた。
それだけではない、まるでハガンコンゴウに従うようにザイゴート達も現れる。
「自分の戦い方を理解するんだアネットちゃん、それじゃあ散開!!」
言うやいなや、カズキ達はそれぞれ違う方向へと走っていく。
だが――アネットだけは、その場に残り真正面からハガンコンゴウと対峙していた。
「アネット!?」
「アネットさん、危ない!!」
「ガオォォォォッ!!」
雄叫びを上げ、アネットに丸太のような腕を振るうハガンコンゴウ。
たとえゴッドイーターといえども、まともに受ければ間違いなく致命傷になるそれを。
「っ、ん………!」
ガツンという鈍く重い音を響かせて、アネットは完全にタワーシールドで防ぎきった。
「す、すげぇ……」
コンゴウ種の腕力はアラガミの中でも上位に位置する。
その中でも、ハガンコンゴウのパワーは接触禁忌種だけあって群を抜いているはずだ、だというのにアネットは僅かに後退しただけで完璧な防御を成し遂げた。
「せー、のぉっ!!!」
装甲を閉じると同時に、ハンマーを横薙ぎに振るうアネット。
「ゴ、ァ……!?」
まるで大砲のような衝撃がハガンコンゴウに響き、その巨体が地面を削りながら後退していく。
「…………」
『アネットちゃんの長所は、その高い攻撃力と防御力だ。
だからアラガミの攻撃を回避するんじゃなくて、確実に防御して反撃する方法が一番向いてると思うよ』
自分に合った戦い方、移動速度の遅さを逆手にとったカウンタータイプの攻撃方法。
しかし敵はハガンコンゴウだけではない、ザイゴートの群れもアネットへと向かっていく。
(一対複数の場合、このカウンター型だけじゃ通用しない、だから―――!)
その場で神機を銃形態へ移行、向かってくるザイゴート達に爆発系の銃弾を確実に浴びせていく。
(複数の小型アラガミに対しては銃撃を、そして大型アラガミには……カウンターでダメージを与える………!)
それが、この一週間でカズキがアネットに出した彼女の戦い方。
自分の長所を伸ばし、短所すら織り交ぜて戦うこの方法は、どうやら上手く行ったようだ。
だがまだ安心はできない、どんな時でも油断は死を招くのだとアネットは自分に言い聞かせる。
「すっげぇな、アネットの奴」
「私達も負けていられませんよ、コウタ!!」
「おう!!」
アリサとコウタも、アネットに触発されたのか周りのザイゴートを撃破していく。
「し―――!」
地を蹴り、ハガンコンゴウとの間合いを詰めるカズキ。
「ゴアァッ!!」
その場で踏ん張り、力を溜めるハガンコンゴウ。
自身の中心に電撃を放つ合図だ、しかしカズキはそれには構わず近づき一閃。
刀身は硬い羽衣部分を切り裂き、ハガンコンゴウの顔に裂傷を負わせた。
「ゴアァッ!!?」
痛みからか、電撃の放つのを止めうずくまってしまうハガンコンゴウ。
「はぁぁぁぁ………!」
全身にしっかりと力を込め、体内のオラクル細胞を活性化させるアネット。
闇色のオーラが刀身に宿る、チャージクラッシュの準備が完了しそして。
「―――だああぁぁぁぁぁっ!!!」
上段から振り下ろし、チャージクラッシュを叩き込んだ―――!
「ガッ、ァ……」
あまりの威力にハガンコンゴウは掠れた悲鳴を口から絞り出しながら、身体が半分ほど地面に沈んでしまった。
――これで終わり。
自分の役目は終わりだと、アネットは後退する。
それと入れ替わるように、カズキがハガンコンゴウへと踏み込み。
「――終わりだ」
短くそう告げ、一撃でハガンコンゴウの顔面から背中にかけて真っ二つに斬り裂いた。
「………ふぅ」
一息つき、補喰形態でハガンコンゴウのコアを抜き取るカズキ。
「アネットちゃん、お疲れ様。合格だよ」
「あっ……ありがとうございます!!」
「アネット、強くなったよな〜。もう新兵なんてレベルじゃないって」
「いえ、カズキさんや皆さんのおかげです!!」
「ふふっ……」
とはいえ、これでアネットの研修は終わりだ。
そう思うと寂しいものがあるが……まあ仕方ない。
「それじゃあ戻ろうぜー、アネットの送別会もやらないと!!」
「そうだね、じゃあ――」
戻るとしよう、そう言おうとして……カズキは動きを止める。
「? カズキ?」
「………ごめん、先に行ってて」
「どうしたんだよ?」
「たいした事じゃないよ、すぐ行くから」
「………おぅ」
気にはなったが、深く気にする事なくコウタ達はその場を後にする。
――そして、1人その場に残ったカズキは。
「――ヨンデ、ル」
彼ではない声で、そう呟きを漏らした。
「ヨンデル……ダレ?」
ふらりと、夢遊病のようにおぼつかない足取りで、一歩一歩進んでいく。
その先は―――崖。
海が広がり、遙か先にはエイジス島が浮かんでいた。
「イカナイ、ト……」
行かなければ、自分はエイジス島へと……行かなければならない。
そんな強迫観念に突き動かされ、カズキはそのまま崖まで歩を進め―――
「――――っっっ」
すんでのところで自我を取り戻し、すぐさまその場を離れる。
「は、はぁ…はぁ…はぁ……」
額に浮かぶ脂汗を不快に思いながら、必死に息を整えていくカズキ。
「なん、だ…今、のは……?」
自分は今、何処に行こうとしていたのか。
何故、エイジス島に行こうとしたのか。
「――――」
帰らなければ、今すぐに忘れてこの場から消えろ。
内なる自分にそう警告され、カズキは振り返る事なく逃げるように駆け出した。
――自分の中に芽生えたある感情に、気づかないフリをしながら。
「…………」
不可思議な不快感もすっかり消え、平静を装う事ができたカズキ。
それにほっとしつつ、予定通りアネットの送別会が開かれたのだが……。
「えへへ〜、かじゅき〜♪」
「かじゅきさ〜ん♪」
「……どうしてこうなった」
彼を挟み込むように、アリサとアネットが抱きついている。
……事の始まりは、送別会が始まってから少し経った頃。
「今日は無礼講でーい!!」
と、妙なテンションでリンドウが酒を出したのが全ての原因である。
お酒は二十歳になってから、という事でカズキ達は断ったのだがリンドウは聞く耳持たず半ば無理矢理酒を飲まされた。
というより、カズキとソーマ以外があまりのしつこさに根負けしただけなのだが。
そういうわけで、女性陣+リンドウとコウタが酒を飲み……すぐさま酔っ払ったアリサとアネットがカズキに抱きつき、現在に至る。
「あのさ……2人とも離れて」
「やっ!!」
「やでしゅ!!」
「…………」
強い酒だったのか、2人の酔っ払い具合は半端ではなかった。
ちなみに、リンドウとコウタは酔っているが先程からヤジを飛ばしている。
今日は無礼講だからか、サクヤも困った顔をしているが、リンドウを咎めたりはしない。
ソーマは……既に隅っこに退避済み。
「アネットしゃん、かじゅきからはにゃれてくだしゃい!!」
「やです〜! 私もかじゅきさんにぎゅってしたいんです〜!!」
(って、痛い痛い痛い!!)
凄まじい腕力に、カズキの骨がミシミシと軋み出した。
「だめれすよ、かじゅきは私のこいびろなんれすから」
「いいじゃないれすか、ふだんからちゅっちゅしてるんれしょ〜?」
(酷いな……)
あまりの酔い具合の酷さに、カズキはおもわずため息が出る。
「ちゅっちゅしてるけどだめ〜! かじゅきは私のなの〜!!」
「ア、アリサちゃん……」
「ずるいです〜!!」
「ア、アネットちゃん……」
……ふにふにという柔らかい感触を感じ、カズキの思考はだんだんと正常さを無くしていく。
(落ち着け、こんな時こそ素数を数えるんだ……って、数えてる場合じゃないだろ!!)
彼も相当混乱しているようだ、普段はやらないような1人ツッコミをこなしている。
「だいたいですね〜、私はもうかじゅきとする事しちゃってるんですからね〜」
「まだしてないよ!!」
「まだ、って事はいずれヤるのか?」
「外野は黙ってなさい!!」
「んも〜、かじゅきってば……じゃあ、今ここでしちゃいましゅか〜?」
「何言ってるのさ!?」
「だめ〜、なら私もするの〜!!」
「アネットちゃんまで何言ってるのさ!! 頼むから落ち着いてよ……」
ダメだ、もう収拾がつかない、リンドウ達はヤジを飛ばすだけで驚くほど使えないし。
(サクヤさんはいつの間にか悪ノリ組に入ってるし、ソーマは居なくなってるし……第一部隊の面々は薄情者しか居ないのか!?)
とはいえ嘆いても始まらない、今こうしてる間にも2人はカズキに唇を近づけてきている。
「ああもぅ、2人とも正気に……」
と、ここで拘束されていた身体が急速に緩まった。
何かと思い、彼女達を見てみると……。
『……すー…すー……』
寝てました、そりゃあもう爆睡と呼べるほどに。
「…………」
助かった、安堵のため息を漏らすカズキ。
……少し残念と思ったのは内緒だ。
「なんだよ〜、アリサ達ここで寝ちまうなんて根性ないなー」
「そーだそーだ!!」
「そーだそーだ!!」
「リンドウさん達は黙っててください!!」
がーっ、と怒鳴って外野を黙らせ、カズキは2人をちゃんと寝かすために放そうとして……。
「………取れない」
さすがゴッドイーターというべきか、眠っているのに大の男顔負けの力でカズキにしがみついたまま離れない。
「もうそのまま一緒に寝ちまえよ」
「できるわけないでしょうが!!」
どうやら、まだカズキの苦労は終わらないらしい。
女の子に抱きつかれたままで、ただでさえ変な感情が湧き出てしまいそうだというのに。
勘弁してくれ、そう思いながらカズキは煩悩と戦いつつアリサ達をそれぞれの部屋へと送ろうと暫し奮闘していたのだった。
――――翌日。
「――それでは、お世話になりました」
カズキ達第一部隊に頭を下げるアネット、彼女の足元にはバッグが置かれていた。
「アネットちゃん、向こうでも頑張ってね」
「はい、ありがとうございます!!」
「でもさ、第一部隊だけで送り出すってなんか寂しいよなー」
「仕方ないわよ。みんな任務があるんだから」
口々に話を進めるカズキ達、しかし……全員の表情は晴れない。
当然だ、既にカズキ達にとってアネットはかけがえのない仲間なのだ、離れてしまうのに悲しくないわけがない。
だがそれでも誰もそれを口にしない、言えば悲しくなるだけだから。
「……カズキさん、あなたに教わった事、決して忘れません」
「うん、元気でね」
「はい、アリサさん……カズキさんといつまでも仲良くしていてくださいね?」
「は、はい……」
ほのかに頬を赤く染めるアリサに、アネットはニコリと微笑み握手を交わす。
もう一度一礼してヘリに乗り込んでいくアネット。
――そしてヘリが飛び、見えなくなるまでカズキ達は見守っていた。
「……行っちゃいましたね」
ぽつりと、呟くように隣に立つカズキに話しかけるアリサ。
「寂しくなりますね」
「うん、だけど……僕達とアネットちゃんの絆は消えない。
たとえ身体が離れても……この心に刻まれた絆は、絶対に消えないよ」
「―――はい!!」
ぎゅっとカズキの手を握りしめ、満面の笑みを浮かべるアリサ。
そんな彼女に、カズキも優しく微笑みを返すのだった……。
To Be Continued...