少しでも楽しんでいただけると幸いです。
第2部捕食53 ~再び動き出す物語~
―――僕は悪だ。
どんな理由があろうとも、人が人を裁くなんて悪だ。
だから、僕は決して拭えない罪を背負って生きていく。
人では無くなった僕だけど、だからってその罪が消える事はなく。
命尽きるまで、大切な人達の為に戦い続ける。
この、狂いし神々に支配された世界で……。
「――にゃあぁぁぁぁっ!!?」
「うわぁっ!!?」
フェンリル極東支部、通称“アナグラ”内部で暮らしているある1人の青年の朝は、騒々しいものだった。
「……アリサちゃん?」
青年――抗神カズキがベッドから起き上がると、わなわなと身体を震わせ口をパクパクと動かしている1人の少女が。
彼女の名はアリサ・イリーニチナ・アミエーラ、カズキの恋人であり彼と同じくゴッドイーターとして、アラガミと戦っている少女である。
先程の変な悲鳴はおそらく彼女が放ったものだろう、一体どうしたのかとカズキは首を傾げて……すぐさま、その理由を理解した。
(ああ、“また”か……)
おもわず、カズキは頭を抱えたくなった。
というのも、アリサが指差す先……正確にはカズキの隣に……1人の少女がすやすやと眠っているからだ。
やや不健康そうな青白い身体、まだまだあどけなさしか見えない10歳くらいの少女。
しかし、長く美しい青水色の髪の上、すなわち頭には金色に輝く第三の目が。
当然ながら、このような容姿を持つ存在が、ただの人間の少女なはずはなく……。
「うにゅ……あ、おはよーかずき!」
「……はぁ、僕のベッドに潜り込むなって言ってるでしょ? ――“ラウエル”」
「えぇー、いいじゃんよー!」
ぷくーっ、と頬を膨らませる少女……ラウエルに、カズキはため息をついてしまう。
「よくないですよ、私だってまだカズキと寝た事ないのに!!」
「怒る所はそこ?」
「そこ以外に何があるっていうんですか!?」
「いや…………いいや」
相変わらず、恋人は自分が関わると少しズレた発言が目立つ。
「とにかく、着替えするから2人は先に食堂に行っててくれる?」
「はーい!!」
「くぅぅ……ラウエルばっかりズルい……」
「……ふぅ」
甘いなぁ、そう思いつつカズキはアリサへと近寄って。
「んっ……」
「んむっ!?」
彼女の唇を、自分の唇で塞いだ。
「……これで、許してくれる?」
「…………こ、こんな事で許すと思ったら大間違いですよ!!」
「ありさ、すっごいうれしそう」
「っ、そんなわけないじゃないですか!!」
「はいはい」
「はいはいって、私怒ってるんですからね!!」
とは言うものの、アリサの口元には隠せない程の笑みが浮かんでおり、喜んでいるのが手に取るようにわかる。
苦笑しながら、カズキはラウエルと共にアリサを外へ連れ出した。
「ふふっ……」
今日も騒がしい朝だけれど、確かな幸せを感じられる朝だ。
着替えをしつつ、カズキはそう実感するのだった。
■
――あの戦いが終わり、既に1ヶ月という月日が過ぎていた。
「アーク計画」は、「エイジス崩落事故」という事件の中に隠蔽され、またその計画を強行しようとしたヨハネスも、「エイジス崩落事故に巻き込まれて死亡」という公式の会見を行い、粛々と闇に葬られた。
宇宙船も全て地球へと戻り、この支部から去っていったゴッドイーター達も戻ってきた。
いつもの極東支部に戻ったが……色々と変化も訪れている。
まずラウエル、彼女は無事あの戦いから生還し……その際、オラクル細胞が変化。
元々小さな身体が更に縮み、10歳程度の小さな少女の姿に。
そして、シオと同じように身体のほぼ全ての器官が人間と同じような体組織に変わってしまった。
頭部の第三の目以外は、普通の少女となんら変わりはない、だから今ではカズキ以外とも会話ができるように。
とはいえやはりアラガミ、食事はシオと同じくアラガミを摂取しなければならないし、サリエル種と同じように空を飛び毒粉やレーザーを撒き散らす事ができるので、当初はこのアナグラ内でも危険視する声は多数あった。
しかし第1部隊、及びサカキやツバキの説得の甲斐あって、今ではそういった声もかなり少ない。
そしてもう1つ、シオの存在も極東支部の者達に明かされる事となった。
こちらも、まだシオの存在を疑問視する声があるものの、概ね受け入れられており、既に面倒見の良いタツミやカノンといった者達は、彼女と打ち解けている。
まだまだ解決していない問題もあるけれど、またいつもの日常が戻ってきたわけで。
「おーっす!!」
「おはよう、コウタ」
「なんだ、コウタですか」
「ですかー」
「相変わらず酷いなお前ら……」
「ははは……」
相も変わらず、コウタはちょっと不憫だとカズキは思った。
「にしても……両手に花だよな」
「何言ってるんですか、私がカズキの恋人なんですからね」
ぎゅっと、アリサはカズキの腕にしがみつくように抱きつく。
……胸の感触がまた強くなったが、カズキは鋼の精神で我慢。
「あ、でも両手に花というより親子みたいだな」
「えっ?」
「ほら、カズキとアリサがパパとママで、ラウエルが娘とか」
「な、なななななっ!!?」
「? ぱぱと、まま?」
「うーん……」
こんな大きな子供が居る歳ではないが、確かにラウエルは妹というより手の掛かる娘と言った方が正しいかもしれない。
「カズキと……カズキと夫婦……えへ、えへへへ……」
「……また旅立っちゃったよ」
トリップしてしまったアリサに、カズキとコウタは苦笑。
これは暫く直りそうにないな、そう思っている彼等に近づく一組の男女が。
「よぉ、相変わらず仲睦まじいな。羨ましい限りだ」
「おはよう、みんな」
「おはようございます、リンドウさん、サクヤさん」
頼れる先輩であるリンドウ、そしてサクヤと挨拶を交わすカズキ達。
「でもリンドウさん、羨ましいというのは語弊がありますよ」
「そうそう、何せ結婚したんだから羨ましいのはこっちですって」
「はは、そうか?」
頭を掻きながらリンドウは笑い、サクヤはほんのりと頬を赤く染める。
――そう、2人は一週間前に結婚式を挙げ夫婦になったばかり。
さすがに2人ともゴッドイーターなので、新婚旅行はできないものの、それでも幸せだというのはよくわかる。
「まあ……俺もいつまでも先延ばしにはできないからな、失ってから初めて大切さに気づく……なんて馬鹿な真似はしたくねえ」
だからこそリンドウは、どこか目を背けていたサクヤの想いを受け入れる決意を抱いた。
……尤も、その想いを抱くきっかけは、目の前のカズキとアリサのおかげなのだが。
互いを想い愛し合う幸せと喜び、それは何物にも変えられないものだと気づかさせてくれた。
(ったく、年下に教わるとはな)
「…………はっ」
(アリサちゃん、戻ってきたみたいだね……)
「さてとアリサちゃん、今日も1日頑張ろうね?」
自分達はゴッドイーター、弱く罪なき人々を守るためにアラガミと戦い続ける存在だ。
まだ少し余韻が残っていたアリサだが、カズキの言葉を聞いて。
「はい、カズキ!」
満面の笑みで、そう返したのだった。
■
「――ゴチソウはどこだ〜♪」
楽しそうに、シオは地下街エリアを走る。
「おい、今回のアラガミは食うんじゃねえぞ?」
「えー、なんでー?」
不満そうに、シオはソーマへと振り向く。
「あのなぁ……博士が言ってただろうが、今回のアラガミは目撃例が少ないから、コアは無傷で持ち帰れって」
「そーなのかー?」
「…………そうなんだよ」
「ソーマ、そんなにイライラする事ないだろ?」
「逆にお前は何でイライラしないんだと訊きたいぜ……」
まあ訊いた所で無駄だろう、目の前の青年は馬鹿みたいにお人好しだから。
「それにシオちゃん、今回のアラガミは食べても美味しくないと思いますよ?
何せシユウ種の接触禁忌種――セクメトなんですから」
現在、カズキ、アリサ、ソーマ、そしてシオの4人はセクメトというアラガミの討伐ミッションを受けている。
接触禁忌種なだけあってセクメトは目撃例は少なく、この極東支部でも初めてらしい。
だから、サカキはカズキ達にこのアラガミの詳しい生態を調べる為に、コアを無傷で持ち帰ってほしいと頼んだのだ。
「美味しくないのかー……じゃあ、いいや」
「そういう問題じゃねえだろうが」
「まあまあ」
またもイライラを増すソーマ、なんだか彼はシオと兄妹のような関係を築いたようだ。
(なんだかんだで面倒見が良いからなぁ、ソーマは)
彼はまだ第1部隊の隊員だが、周りには部隊長になってほしいと願われているらしい。
口が悪いのは相変わらずだが、仲間思いで実力も折り紙付きという評価を受けたおかげで、今では彼を罵るような連中は殆ど居なくなっている。
その一部だって、彼の実力を妬み逆恨みしている輩だけなのだから、実質居ないと言ってもいい。
むしろ、密かに彼に憧れる女性達もちらほら居るらしいが……正直、今の彼にはシオの世話で手一杯なので、靡く事は万が一でもありえないだろう。
「おい、なに変な顔してんだ?」
「いや、なんでもない」
とにかく、カズキとしてもソーマと共に第1部隊で戦えるのは本意なので、文句などあるわけがないが。
「――居ましたよ」
「…………」
アリサの声に、カズキは表情を引き締め背中を壁に。
見ると、ちょうど死角になった部分にシユウに似たアラガミが。
「あれがセクメト……なんだか体つきが女性みたいだね」
「カズキ、それはセクハラですか?」
「ち、違うよ」
「バカな事やってんじゃねえ、とにかくオレが出たらカズキ達は射撃で援護――」
「どーん!!」
ソーマが作戦を告げようとした瞬間。
シオが、それはそれは楽しそうに右腕を変形させた銃で、セクメトへと爆発系の弾丸を撃ち放った。
その一撃は見事にセクメトへと命中、その結果……言うまでもなくセクメトに気づかれてしまい。
「こ、の……アホーーーッ!!!」
「わーっ!?」
ソーマらしからぬ大声で、シオに拳骨をお見舞いした。
「……仕方ないね、シオちゃんだから」
「仕方ないですね、シオちゃんですし」
カズキとアリサはそんな言葉しか思いつかず、とにかく臨戦態勢へ。
「グォォォォッ!!」
セクメトの背中にある巨大な両羽腕が動き、そこから次々と灼熱の火球がカズキ達に撃ち込まれる。
カズキ達は散開して火球を回避、アリサは神機を銃形態にしてセクメトの頭を狙い撃つ。
その隙に、カズキとソーマは地を蹴りセクメトとの間合いを詰め。
「っ」
「チッ――――!」
殺気を感じ後ろへ跳ぶ、刹那セクメトは身体を回転させアリサの銃撃を弾き飛ばした。
あのまま向かっていけば、あの回転攻撃に巻き込まれていただろう。
「――イタタギマス!!」
シオの楽しげな声が聞こえたと思った時には、彼女の右腕がまるで神機の捕食形態のようになって、セクメトの左脚に食らいついていた。
それを逃さずソーマは動き、アリサも後方から銃撃で援護。
頭部に何発か命中し、セクメトは身体を怯ませて。
「死ね」
ぶるんっと横一文字に振るわれたソーマの斬撃が、セクメトの身体をちょうど真ん中辺りで斬り裂いて――
「クッ――――!?」
斬り裂く、はずだったが。
刀身は、セクメトの身体の三分の一の部分で止まり、彼が見せた隙を逃さずセクメトは動き。
「わぁーっ!?」
「っ、シオ!?」
その一撃は、ソーマではなくシオの身体を弾き飛ばし、彼女を壁に叩きつけた。
「し――――!」
地を蹴るカズキ、セクメトとの間合いを一息で詰め、その僅かな間で左腕のシオのように刀身へと変形。
X型に、セクメトの身体へと深い裂傷を負わせた。
「ソーマ、これやるー!」
言って、シオはソーマにあるものを撃ち放つ。
「っ、こいつは……!?」
全身のオラクル細胞が活性化、すなわちシオは新型しかできない“リングバースト”を行ったのだ。
「やっちゃえー!!」
「フン――!」
ぴょんぴょんと跳び跳ねるシオに、ソーマは僅かに笑みを浮かべながら、神機を持つ手に力を込める。
「――らぁぁっ!!」
雄叫びを上げ、ソーマはそれこそ力任せにセクメトの身体を斬りながら刀身を抜き取る。
「――おとなしくしてもらう!!」
ゴキゴキと、骨が軋む音がカズキの左腕から響く。
体内のオラクル細胞を意図的に操作、瞬く間にカズキの左腕はセクメトの巨体すら包み込む漆黒の腕へと変化する。
そのまま、セクメトを押し潰すように腕を振るい、相手ごとクレーターの中に沈めてしまった。
「グ、ゴ……!?」
今の一撃が効いたのか、セクメトからはくぐもった声が漏れる。
「ソーマ」
「わかってる」
カズキが言う前に、ソーマは必殺の一撃の準備に入っていた。
チャージクラッシュ、バスター系統の刀身のみ繰り出せるその一撃は、しっかりとセクメトへと狙いを定めており。
更にバースト状態になって、威力が増しているそれを。
「終わりだ」
ソーマは冷たく死刑宣告を告げ、セクメトの身体へと叩き込んだ――!
紫色のオーラ状の刀身は、セクメトの身体を綺麗に二つに分ける。
如何に強靭な生命力を持つアラガミでも、身体を二つに分けられて生きているはずもなく……。
セクメトは、断末魔すら上げずに生命活動を停止させた。
「――シオ、大丈夫か?」
「大丈夫、ぼーんって飛ばされてちょっと楽しかったよ!」
にぱーっと微笑むシオを見て、ソーマは金輪際心配しないようにしようと決めた。
「けどあまりたいした事ありませんでしたね、接触禁忌種なのに」
「そうだね、意外と苦戦しなかったね」
「……このメンバーなら当たり前だろうが」
カズキもアリサも、自分達の実力をまるでわかっていない。
それぞれ、単体でウロヴォロスを相手にできる程なのだ、特にカズキに至って純粋な能力ならば世界最強と言っても過言ではないというのに。
もしも第1部隊以外の部隊が相手をすれば、死者が出てもおかしくはないだろう。
接触禁忌種という存在は、それほどまでに強大な存在なのだ。
だというのに、目の前のバカップルはそれをまったく自覚していないのだから、たちが悪い。
まあ、だからといって慢心等は抱かないのだから、結果的には自分で自分の首を絞めるなどという状態には、ならないだろうが。
「でもこれで任務完了だ、お疲れ様みんな」
しっかりとセクメトのコアを抜き取り、カズキは労いの言葉を掛ける。
「早く帰りたいですね、ここっていつ来ても暑いですから……」
「そうだね、早く戻ろうか?」
「そうだな」
「はーい!!」
地下街エリアを後にするカズキ達。
――だが。
そんな彼等をジッと見つめていた影が居た事に。
彼等が気づく事はなかった……。
To Be Continued...