一刻も早く強くなる為に、彼は今日も戦場へと赴く……。
「今日は鉄塔エリアにザイゴートの討伐だ。お前と一緒に行くのはソーマとエリックだな」
アナグラ内のエントランス。
そこに呼び出されたカズキは、リンドウに今回のミッション内容を聞いていた。
「……今回も、リンドウさんは一緒じゃないんですか?」
「ん? あぁ、今回もちょっとお忍びのデートがあってな」
「サクヤさんとですか?」
「……ちげえよ。ってか何でサクヤの名前が出てくるんだ?」
「恋人同士かと思いましたから」
2人のやりとりは見ていて自然であり、端から見ると恋人同士にしか見えない。
だからこそカズキはそう言ったのだが、リンドウはなんともいえない表情で頭を掻く。
「あー、なんだ。あいつは……うん、まあ……少なくとも恋人ではないわな」
「じゃあ、夫婦ですか?」
「……お前、結構天然なのかもな。
とにかくそういうわけじゃねえし、話は以上だ。エリックはともかくとして……ソーマは少しとっつきにくい面もあるが根は悪い奴じゃない、まあ仲良くしてやってくれや」
じゃあな、死ぬなよ。そう告げてリンドウはその場を後にする。
「……新しい刀身パーツ、使ってみようかな」
残されたカズキはぽつりとそう呟きながら、まずは神機保管庫へと足を運んだのだった。
――そして、神機を持ってアナグラを出る
すると、そこには2人の青年が車の前でカズキを待っていた。
無論、この2人も神機使いであり、今回のミッションで同行する事になる人達だ。
「やあやあ、君が新しく入ってきた新型クンだね?」
青年の1人、赤い髪にサングラスを付けた方がカズキに近づき話しかけてきた。
「ボクの名前はエリック・デア=フォーゲルヴァイデ、ヨロシク」
「宜しくお願いします、エリック先輩」
手を差し伸べてきたエリックと、握手を交わす。
「先輩なんて堅苦しい呼び方はしなくていいよ、ボクとキミは人類の為に戦うゴッドイーターなのだから」
「はあ……」
少し自分に酔っているかのようなエリックの言葉に、カズキは曖昧な返事しか返せない。
悪い人ではないようだが、カズキとしては少々とっつきにくい印象だ。
「――――行くぞ」
もう1人の青年が短くそう言い、カズキと目も合わさずに運転席へと座り込む。
先輩とはいえ、あまり良い態度とは言えないが、カズキは気にせず車に乗り込む。
「ソーマ、せっかくの新型クンなんだ。自己紹介くらいしてもいいんじゃないか」
「……ソーマだ。別に覚えなくてもいい」
「…………」
冷たく、自分に近づくなと威嚇するような口調に、カズキはおもわず押し黙る。
雪のように白い髪を隠すようにフードを被ったこのソーマという青年は、どうやら自分に対して友好的ではないらしい。
「すまないね新型クン、彼はちょっとぶっきらぼうなんだよ」
エリックのフォローに大丈夫ですと応えつつ、カズキはソーマの瞳を盗み見た。
(……悲しそうな瞳、この世の全てを否定するような……)
冷たく重い、闇のように暗い瞳は、ずっと見ていると心が凍りついてしまいそうだ。
けれど同時に、この闇を消し去りたいとも……思ってしまった。
「――おい、新入り」
「えっ……」
彼の方から話しかけてきた、多少驚きながらも視線を向ける。
「死にたくなければ、俺にはあまり関わるな」
「…………」
それだけ言うと、ソーマは再び運転に集中する為に前を向く。
しかし、カズキはその言葉の意味を理解できず……暫し、ソーマへと視線を向けていたのだった。
―――鉄塔の森
かつては近隣の都市に電力を提供していた発電施設であったが、ここもアラガミにより地下施設の侵食により、大部分が水没し……更に環境の変化による緑化によって、さながら森林のようになっている。
先程リンドウが言っていた鉄塔エリアの名称であるこの場所を、カズキ達は神機を構えつつ歩を進めていた。
「今回はたしかサイゴートの討伐だったよね? 油断する気はないけど、こんなミッションならボク1人だけでも楽勝だと思うよ?」
くだけた様子で話すエリック、端から見ると隙が多すぎる状態だ。
先輩を疑うつもりは毛頭無いが、大丈夫なのだろうかと少し心配になり、ちらりと後ろを向いて――
「――――っ」
「エリック、上だ!!」
ソーマの声と、カズキが動くのはまったくの同時だった。
「え―――」
上を向くエリック、しかしその時には既にアラガミが彼の命を奪おうと口を開け……。
「し―――!」
間一髪、カズキの剣――クレイモア改が、問題のアラガミ――サイゴートに突き刺さった。
即座に左手も柄を握りしめ、着地と同時に力を込めながら振り上げる。
すると刃がサイゴートの身体を切り裂き、絶命した。
「あ………」
「エリックさん、大丈夫でしたか?」
目に入りそうになったザイゴートの血を拭いながら、無事を確認するカズキ。
突然の事で驚きが倍増したのか、エリックは頷くだけで言葉を発しようとしない。
「チッ――油断するからそうなる。コイツが居なかったら、お前は今頃アラガミの餌だぞ?」
「あ、う……」
「っ、ソーマさん、エリックさん!!」
「――わかってる。それとさん付けなんかしなくていい、というか気安く呼ぶな」
悪態を返しつつ、ソーマは自身の神機を構え、次々と現れるザイゴート達に狙いを定める。
黒い卵のような形に、大きな一つ目と女性の上半身が突き刺さったようなアラガミ、ザイゴート。
まるでカズキ達を囲むように現れたそれは、ゆらゆらと不規則な動きで宙に浮きながら……彼等の出方を窺っているように見える。
「――死にたくなければどっかに隠れてろ、邪魔さえしなければ勝手に戦うんだな」
そう言うやいなや、ソーマは即座に近くに浮いていたザイゴートに跳躍。
その動きは凄まじく速く、一息で間合いを詰めた後――気がついた時には、ザイゴートの身体は2つに分かれていた。
(速い―――!?)
着地と同時に、再び今の自分の位置と近いサイゴートに狙いを定めるソーマ。
ザイゴート達も、ソーマが危険な存在だと理解したようだが――その時には既に三体、サイゴート達の死体が出来上がっていた。
やっぱり凄い、ソーマの戦いにどこか恐れすら感じながらも、カズキはザイゴートに向かう。
すると、卵状の身体にあるザイゴートの巨大な口が開かれ、中から放たれたのは――空気弾。
圧縮されたそれは、まともに受ければ激痛が伴うものの、カズキはそれを左に跳んで回避。
着地後、もう一度跳躍して狙いを定めたサイゴートの頭部に一撃。
女体部分に刃が突き刺さり、苦しげな呻き声を上げるザイゴートだが、まだ致命傷には至っていない。
「こ―――のっ!!」
ザイゴートを刀身に突き刺したまま、カズキは神機をハンマーのように地面へ振り下ろす。
ゴッドイーターとしての人間離れした怪力により、地面に小さなクレーターを作りだし、その衝撃によりザイゴートは絶命。
次のザイゴートを倒すために、カズキは再び神機を構え直し――
「終わったね。まあ……これくらいならば当然だよ」
残り全てのザイゴートは、ソーマとエリックによって全員地に沈んでいた。
「…………凄い」
全部で8体居たザイゴートを、僅か数十秒で倒しきってしまった。
それも、自分が倒した以外の7体を、2人がかりとはいえ、だ。
「…………」
無言でザイゴート達のコアを捕喰状態で回収していくソーマ、その顔には戦いによる緊張も終わったという安堵感も無い。
まるで、アラガミだけを殺すような機械のように……。
「新型クン、さっきは本当にすまなかったね。キミが居なければ本当に危なかったよ、ありがとう」
先程とは違い、戦っている内に冷静さを取り戻したようで、エリックもいつもの口調に戻っている。
「………いえ」
「けど、やはりソーマは凄いもんだよ。ボクが二体倒している内に、五体も倒すなんてね」
「…………」
やはり、彼はゴッドイーターとして超一流の能力を有しているようだ。
もしかしたら、あのリンドウよりも上かもしれない。
そう思うカズキに――ソーマの冷たい視線が向けられた。
「……ちょっとは役に立つみたいだな」
「えっ……」
「………さっきも言ったが、もう一度忠告しておいてやる。
死にたくなければ……俺みたいな化け物に関わるな」
それだけ言うと、ソーマは鉄塔エリアの外に停めてある車へと足を運ぶ。
「――さあ、ボク達も戻るとしようか」
ソーマのあの言葉を聞いたはずなのに、エリックは別段気にした様子もなくカズキに話しかけてくる。
しかし――カズキには先程の言葉が心の中で響いていた為、曖昧な返事しか返せなかった。
『死にたくなければ……俺みたいな化け物に関わるな』
(どういう意味なんだろう……なんだか、嫌な感じだ)
彼の言葉を反芻し、どこかすっきりしない何かを抱えつつ……カズキとエリックも鉄塔の森を後にした。
「お兄ちゃん!!」
「やぁエリナ、今日もちゃんと戻ってきただろう?」
「うん!」
アナグラに戻ってきたエリックに、リボンを付けた帽子を被った金糸の髪の少女が近寄ってきた。
「…………」
おそらく兄妹なのだろう、少女の見た目はまだ10歳程度に見えるし……恋人同士には見えない。
「新型クン紹介するよ、この子はボクの妹のエリナだ」
「……お兄ちゃん、この人は?」
「新人のゴッドイーターさ、今回ボクは彼に命を助けられたんだ」
「そうだったんだ……ありがとうお兄ちゃん。わたしエリナ、よろしくね?」
「…………」
何気ない少女の一言。
だが――エリナの放ったある単語によって、カズキの思考は真白に染まる。
『――お兄ちゃん!!』
「………ローザ」
「えっ?」
「っ、あ、いや……なんでもないよ。よろしくねエリナちゃん」
「あ、うん……」
「……それじゃあエリックさん、今日はありがとうございました」
「ああ、何かあったらまた頼むよ」
「…………」
頭を下げ、自室に向かうカズキ。
そのまま部屋に入り、カギもかけずにベッドへと倒れ込んだ。
「…………は、あ」
大きく息を吐き出し、寝そべったまま写真を取る。
「……今日も、生き延びる事ができたよ」
写真に写る家族に、ぽつりと呟くようにそう告げるカズキ。
無論、写真の中の家族は何も答える事はなく……カズキは自嘲めいた笑みを浮かべながら起き上がった。
「……神機、返しに行かなきゃ」
部屋に戻る事で頭がいっぱいで、神機を部屋まで持ってきてしまった。
ツバキ教官に見つかったら怒られるな、そう思いつつカズキは部屋を後にする。
―――そのまま、彼は真っ直ぐ神機保管庫へ
「―――おかえり」
神機保管庫に足を運ぶと、リッカがちょうどソーマとエリックの神機をメンテナンスしている姿が目に入った。
「どうしたの? 君だけ神機を直接渡しに来るなんて……ソーマ達と同じように、整備班に頼めばよかったのに」
「ごめん、先に部屋に帰っちゃったから……」
カズキの言葉に、リッカは苦笑を浮かべつつ、カズキに固定台に神機を置くように指示を出した。
「……なんだか、今日は少し元気がないね……」
「……そう、かな?」
リッカの言葉にどきりとしながら訊くが、彼女はそうだよと返しながら頷きを返す。
「全員無事に返ってきたようだけど……何かあった……?」
「…………」
別に、何かあったわけではない。ただ……。
「……ちょっと、家族の事を思い出してた」
「そうなんだ……ご家族は、もしかして……」
「うん、まあ、ね……」
お茶を濁すような曖昧な言い方、しかしリッカにはすぐにわかった。
今の時代、なんら珍しい事ではないけれど……やはり、そういう類の話はリッカの胸に痛みを走らせる。
「ごめん、暗くなるような事言って……」
「うぅん……私も、父をアラガミに殺されてるから……気にしないで」
俯くカズキを、リッカは軍手を外した手で頭を撫でてあげた。
彼の方が年上で、背だって自分より遥かに高い。
だというのに、今の彼はなんとなく……年下の子供のように見えたのだ。
「ありがとうリッカちゃん」
「ん……そう言ってくれると私も安心できるよ、新人なんだから無理だけはしないでね?」
こくりと頷くカズキに、リッカは微笑みを返す。
……自分は神機を振るってアラガミと戦う事はできない。
けれど、こうしてカズキの心を少し晴れさせる事ができたのは、嬉しかった。
「そうだ……ちょうど休憩しようと思ってた所だったんだけど、君も一緒にどうかな?」
「うん、喜んで」
微笑を浮かべつつそう答えてくれたカズキに、リッカは何故か嬉しくなって「じゃあ行こうか」と、彼の手を掴み引っ張り出す。
そして、2人は他愛ない話をしながら保管庫を後にする。
――繋いだ手は、放さないまま
To.Be.Continued...