そんな中、アラガミ達がある動きを見せていた事に、カズキ達はまだ気づいていなかった……。
――エイジス島、居住区予定跡地。
物資回収任務をジーナとエリックに任せ、カズキとアリサはもう一つの任務である接触禁忌種のアラガミ討伐に赴いていた。
数多くの死闘が繰り返され今ではアラガミの巣窟と化してしまったせいか、居住区跡地は見るも無残な光景を映し出している。
ジャリジャリという音を足元から響かせ、2人は神機を持つ右手に力を込めながら歩を進める。
表情には僅かな緊張と警戒、しかしその立ち振る舞いは歴戦の戦士を思わせるそれであった。
「……カズキ、感じますか?」
「いや……近くにアラガミの気配は感じられないね」
周囲に意識を向けながら隣を歩くカズキに声を掛けるアリサ、カズキもまた警戒を緩める事なく彼女の問いに答えを返した。
「おかしいですね、接触禁忌種のアラガミが増えたから今回の任務が発注されたって聞きましたけど……そのアラガミどころか、普通のアラガミも殆ど姿を現さないなんて」
「向こうも警戒しているのかもね、自分達の命を奪おうとする者達が現れたって」
「まさか。アラガミにそんな知能があるとは思えませんよ、シオちゃんやラウエルじゃあるまいし……」
「単純な知能から来る警戒じゃなく、オラクル細胞による捕喰の危険性から来る警戒だったら?」
「成る程、進化するオラクル細胞でしたらそんな機能が追加されてもおかしくはありませんね」
とにかく警戒を緩めずにアラガミを捜すとしよう、改めて心に決め2人は辺りを散策する。
そんな中で――カズキは不思議に思った事をアリサへと問うた。
「ところでアリサ……」
「はい、どうかしましたか?」
「あのさ……どうして水着のままなの?」
そう、アリサは何故か未だに水着のまま任務を行っている。
もちろん上にはパーカーを羽織ってはいるものの、健康的な生足やらが露出しており正直目のやり場に困ってしまう。
しかも暑さからかアリサの肌には汗が滲んでおり……カズキの視線が自然と彼女の豊かな胸元へと向けられるのは仕方ないと言えた。
「……こっちの方が動きやすいからです」
「今の間は何?」
「べ、別にカズキが欲情して襲い掛かってくれないかなぁとか、さりげない色仕掛けでこの夏私は女になりますとか、そんな事考えてませんから!」
「…………」
なにやら盛大な自爆をしているアリサに、カズキはツッコミも忘れポカンとしてしまう。
というか今の言葉に聞き捨てならない類のものが聞こえた気がする、というより明らかに気がするではない。
ちょっと待て、これでは彼女が襲ってほしいと言っているようなものではないか……しかしそれをそのまま訊き返す訳にもいかなかった。
(……でも、もしそうならアリサも“そういう事”を望んでるって事なのか?)
恋人となりそれなりの時間が経った。
カズキは心からアリサを大事にしているし、アリサもまたカズキを心から大切に想っている。
相思相愛の2人は、いつか一緒になる――先輩のリンドウとサクヤのように結婚して夫婦になる事だって考え始めていた。
別段おかしくはない、もうすぐアリサは16歳となりカズキと夫婦になる事だってできるし、2人だってその未来を夢見た事は一度や二度ではない。
しかしその途中もしくは夫婦となった際に行われる行為――所謂“夜の営み”とも呼ばれる性行為に対しては、まだ漠然とした考えしか持っていなかった。
そもそもカズキは自分がアラガミとなり彼女との行為によってどんな結果を生み出すのかが恐く、彼女に迫られても鋼の精神で我慢を重ねてきたが……今の彼女は自分と同じアラガミとなっている。
だから大丈夫、という問題ではないかもしれないが、少なくとも危険性は限りなくゼロに近いとカズキ自身直感でそう感じ取っていた。
ただそれでも――まだ早いと自分に言い訳をして、問題を先送りにしている。
それは何故か、答えは単純明快――ただ恐いだけ。
性行為を行い男と女の関係となってしまったら、もしかしたら何かが変わってしまうかもしれない……この日常に大きな変化が訪れてしまうかもしれない。
今のような残酷で無常な世界だからこそ、カズキは変わらない日常を欲している。
(だけど、このままにはできない……)
自分は男でアリサより年上、だからというわけではないが……ちゃんと自分から彼女に新しい一歩を踏み出すようにリードしてやらなければならないと思っている。
その感情に男の意地というものも混じってはいるが、それでもカズキは――
「っ、来る……!」
思考を中断させ、カズキは上空へと視線を向けた。
アリサも一瞬後にカズキと同じ行動をとり、神機を持つ手に力を込める。
――上空から、アラガミ達がカズキ達に向かってきていた。
そのアラガミはアイテール、サリエル種の接触禁忌種に指定されているアラガミだ。
更に2人は別のアラガミがこちらに近づいてきている事を感知。
「アリサ、このままじゃ囲まれる。場所を変えよう!!」
「了解です!!」
その場で跳躍する2人、およそ4メートル近いジャンプで近くの家屋の屋根へと着地する。
2人が行動を見せた事によって、近づいている3体のアイテール達も戦闘態勢に入ったかのように鳴き声のようなものを上げた。
一度アイテール達から視線を外し、カズキはこちらに近づいてくるアラガミの正体を見極めようと感知した場所へと向けて視線を送る。
近づいてくるアラガミは――ディアウス・ピター。
「カズキ、別方向から“ポセイドン”も近づいてくるみたいです!!」
「ちっ………!」
ポセイドン――クアドリガ種の指定接触禁忌アラガミだ。
どうやら任務内容に誤りはなかったらしい、しかしここでカズキにある疑問が浮上する。
このエイジス島に来てから、アラガミとの交戦は殆どなかったというのに今になって一気に押し寄せてきている、まるで温存していた戦力を一斉に投入したかのようだ。
しかしアラガミにそんな知能は無い筈、ではオオグルマのように誰かが一時的に操っている……?
「っ、――――!」
考えている暇は無い、とにかく今は近づいてくるアラガミの殲滅が最優先だ。
アイテール達が放ったレーザーを回避しながらカズキは自身にそう言い聞かせ。
――体内のオラクル細胞を活性化させ、戦闘を開始した。
まず狙ったのは自分達に一番近い距離にいるアイテール達。
カズキは屋根から跳び、アリサはその場で神機を銃形態にして神属性の銃弾をアラガミ達へと撃ち放つ。
まるで機関銃のように放たれた銃弾は、アイテール達の頭部やスカート部分、所謂弱点部位を的確に狙い撃ち動きを止めた。
その隙にカズキは一体のアイテールとの間合いをゼロにして――上段から神機の刃を振り下ろした。
飛び散る鮮血と肉片、彼の一撃はアイテールの一体を頭部から斬り裂き左右に分ける。
近くの屋根に着地すると同時にもう一度跳躍、続いて横薙ぎに神機を振るい――二体目のアイテールも一撃の元に二つに分けた。
カズキが五秒も待たずに二体のアイテールを駆逐した頃、アリサも神機を剣形態へと可変させ最後のアイテールに向かって跳躍。
残りのアイテールがアリサの接近に気づき、鳴き声を上げながらレーザーを放とうとして――真横からの銃弾によって動きを止められた。
カズキの援護によって隙が生まれたアイテールに、アリサは躊躇いなく神機を振り下ろし頭部を切断。
鮮血を撒き散らしながら落ちていくアイテール、無論神機が刺さったままなのでアリサも同様に落ちていくが、当然そのままにはせずに彼女は右足に力を込めてアイテールの身体を足場代わりにして大きく跳躍。
空中で神機を銃形態にしてから、合流したカズキと共に地面に落ちたアイテールの身体に銃弾の雨を浴びせていった。
接触禁忌種、通常のアラガミよりも強力な種のアラガミ三体を三十秒も掛からずに撃破。
凄まじい戦闘力を発揮する2人に、新たなアラガミがその場に現れる。
「――グォォォォォォォッ!!!」
咆哮が聞こえ、2人はそちらへと視線を向ける事なくその場を離脱。
刹那、先程まで2人が立っていた場所に大型の雷球が降り注いだ。
新たに現れたアラガミ――ディアウス・ピターへと視線を向けながら、2人は早速間合いを詰めようとして再びその場から離れる。
――辺り一面を包むような爆音、そして機械じみた咆哮が響く。
現れたのはピターだけではない、クアドリガ種の指定接触禁忌とされるポセイドンもだ。
背中のミサイルポッドから発射された大型の火球は周囲の家屋を粉々に破壊し、周囲を焦土に変えていく。
「ピターは僕が、アリサはポセイドンをお願い!!」
「わかりました!!」
言うと同時にカズキは動き、またアリサも彼の指示に従ってポセイドンへと吶喊する。
間合いを詰めながらカズキは体内のオラクル細胞に働きかけ、左手を異形の存在へと変化させた。
それは目の前の相手、ピターの腕を思わせるような巨大な獣の腕へと変貌を遂げ、それを振り降ろしカズキはピターの頭を地面へと沈ませる。
「ゴアアッ!!」
「――――っ」
衝撃と痛みが左腕に走る。
見ると、ピターが全身から電撃を放ちカズキの左腕が感電していた。
顔をしかめおもわず左腕を引っ込めようとしてしまうが、カズキは耐えながら間合いを詰め神機を振るう。
剣戟は風切り音を響かせながらピターのマント部分へと命中、そのまま引き裂くようにその部位を破壊した。
痛みからか雄叫びを上げるピターから離れつつ、カズキは左腕を元の人間の腕へと戻す。
すると、先程の電撃によって焦げたのか左腕は肌が浅黒く変色を遂げており、カズキは舌打ちをしながら再びピターへと接近。
迫るカズキにピターもただやられるわけにはいかないと、再び全身から電撃を放とうとして――その前に、カズキの神機がピターの腹を横一文字に裂いた。
「ギィガアッ!!!?」
「遅い」
神機をピターの腹に刺したまま手を放し、カズキは両腕を再び変化させる。
今度彼が変形させたのはピターの腕ではなく――スサノオの剣を思わせるような尻尾の部分。
スサノオの部位の中でも貫通性に特化した強力な部位であり、カズキはそれを突き放ちピターの身体を串刺しにした。
「ッ、カ……!?」
ビクンと痙攣を起こし、ピターの巨体が地面に沈む。
骸と化したピターの身体から両腕を抜き取り、付着した血を振り払ってから元に戻す。
まだ戦いは終わっていない、次にアリサの援護に回ろうとカズキは刺さったままの神機を持って彼女の元へと向かおうとして。
――援護は必要ないと、アリサを見て理解した。
「――――オオォォオォォッ!!!」
巨体を動かしながら、見境なく火球を飛ばしていくポセイドン。
爆音が鳴り止まぬ事はなく、熱が周りの空気を焼いていく中でも――アリサはただ冷静に目の前の敵と対峙していた。
体内のオラクル細胞を自らの意思で活性化させ、強化した両足から繰り出される凄まじい機動力を駆使し、自身を駆逐しようとするアラガミの攻撃を縫うように移動しながら回避している。
相手の懐に入った、それと同時にアリサは神機を横薙ぎに振るう。
ぶんっ、という鈍い音を響かせながらアリサの一撃はポセイドンのキャタピラのような脚部を粉砕。
返す刀で振り上げて縦一文字の裂傷をポセイドンの身体に刻ませる。
「捕喰……!」
苦しげに唸るポセイドンに、アリサは神機を捕喰形態へと移行させ――その身体に喰らいついた。
すぐさまアリサに先程以上の力が宿り、彼女は跳躍しながら銃形態に可変させつつポセイドンの真上へ。
「――そこです!!!」
濃縮アラガミバレットが銃口から発射、都合九つの火球がポセイドンへと叩き込まれ……ミサイルポッドが粉々に破壊された。
それだけでは留まらず、アリサの放った銃撃はポセイドンの身体を容赦なく抉り砕きそして。
「はあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
落下速度をプラスしたアリサの急降下斬撃が、ポセイドンの頭部を完全に破壊して沈黙させた……。
「…………ふぅ」
大きく息を吐き出してから、アリサはすかさずポセイドンのコアを神機で摘出し、アラガミは霧散した。
そういえばコアを抜き忘れていた、彼女を見てカズキは思い出し急いでピターとアイテールのコアを回収しに向かう。
「カズキ、大丈夫ですか?」
「こっちは大丈夫、コアの回収も終わったよ」
とりあえず一度戻るとしようか、そう告げながらカズキはアリサへと視線を向けると……。
「ぶふっ!!?」
盛大に噴出し、慌ててアリサから視線を逸らした。
「カズキ……?」
一体どうしたというのだろう、キョトンとするアリサであったが……なんだか胸元に違和感を覚え視線を下に向け、その意味を理解する。
「っ、きゃあ!!?」
――水着が、解けていた。
あれだけの動きをしたのだ、細い紐で支えているビキニタイプの水着ではある意味こうなっても仕方ないと言えるかもしれない。
顔を真っ赤にさせ、胸を両手で庇いながらしゃがみ込むアリサ。
「…………見ました?」
「…………ごめん」
気まずい空気が、2人の間に流れる。
不可抗力とはいえ女性の胸をはっきりと見てしまった、大きいとは思っていたがカズキの想像を遥かに超えた大きさだった……。
(って、何を考えているんだ僕は!!)
とにかく謝らなければ、そう思いカズキはそのまま口を開き謝罪の言葉を告げようとして。
「あーもう、どうせならベッドの上で見せたかったのに!!」
「はいぃっ!!?」
予想の遥か斜め上を行くアリサの発言を聞いて、おもわずずっこけてしまうカズキなのであった。
「ところでカズキ、私の胸を見た感想はどうですか?」
「そ、そんな事言えるわけないだろ!!」
To.Be.Continued...
この番外編はもう少し続きます。
イチャイチャと戦いをごっちゃにするのはよくないかもしれませんね………。