ローザメインの話は初めてかな……?
――それは、とある日のアナグラ。
「リッカー」
「ん? ああ、ローザか」
一瞬アリサが神機保管庫に来たのかと錯覚したリッカであったが、子供っぽい笑みとアリサよりも高い声によりローザである事がわかった。
「遊びに来たよー」
「あのねえ……ここは本来関係者以外立ち入り禁止なんだけど?」
「細かい事は気にしない気にしない」
「細かくないよ……」
呆れるリッカをよそに、ローザは保管庫の神機へと視線を向けていく。
数多くの神機が専用のアームに固定されており、ローザはそれを見ながら一言。
「……色々なアラガミが居るんだね。どれも美味しそう……」
「ラウエルみたいな事言わないの、みんなだいぶ慣れたとはいってもそういう発言を聞くと吃驚するんだから」
「えへへー、ごめんねリッカ」
あまり反省の色のない謝罪に、リッカは肩を竦め呆れ返る。
とはいえローザは既にカズキ達と同じアラガミ化を果たしている、人工のアラガミと同じような神機を見てそう思うのも無理からぬ事……なのかもしれない。
「あ」
「ローザ、どうしたの?」
見ると、とある神機へと視線を向けているローザ。
彼女が見ている神機を見て、リッカは僅かに表情を曇らせた。
――ローザが見ている神機、その適合者は先日アラガミによって殉職したのだ。
神機は回収できたものの、神機使いの肉体はどこにも無かったという報告を受けている。
だからこそ、その神機を見ると胸を締め付けられたかのような痛みが走るのだ。
慣れなければならないのはわかるが、それでも誰かの命が失われるというのは堪えるものなのは道理なわけで。
「……このアラガミ、じゃなかった神機……悲しそう」
「え?」
「一緒に戦ってきた人が居なくなって、悲しんでるよ」
「何、を……」
ローザの言っている事がわからず、リッカの表情が怪訝なものに包まれる。
そんな彼女をよそに、ローザは手を伸ばし……まるで慈しむように、神機へと触れた。
「っ、ローザ! 何をしてるの!?」
「大丈夫だよ。ローザは侵喰されないから」
「えっ…………え?」
彼女の言葉通り、適合者ではないローザが触れても神機に変化は訪れず……彼女はそのまま神機の柄を握り締め、軽く振るった。
「……うん、もうキミを使ってくれる人はいなくなっちゃったんだね。でもローザが居るからもう寂しくないでしょ?」
「…………ローザ、一体何を言っているの?」
「リッカには聞こえない? 神機の声がさっきからずっと寂しいって言ってるよ?」
「神機の、声……?」
ローザの言葉に当然ながらキョトンとするリッカであったが、かつてカズキとアリサに言われた事を思い出した。
『神機ってね、人工のアラガミのようなものだから……生きているのかもしれないね』
『生きてる?』
『ええ、アラガミ化したせいかもしれませんけど……時々、私達って神機の声が聞こえるようになっているんです』
「……ローザは、ここにある全ての神機の声が聞こえるの?」
「うん、お兄ちゃん達は時々しか……しかも自分の神機の声しか聞こえないみたいだけど、ローザはいつでも神機達の声が聞こえるの。だからこの子が悲しんでいるってわかるんだ」
「……そんな事が」
にわかには信じられない、しかしローザもカズキ達もそんな嘘をつく人達ではないし何より嘘をつく必要だってないのだ。
「……主人を無くしてる神機が、ここにはいっぱいあるんだね」
「うん、新しい適合者が見つかる事ってなかなか無いから……」
「そっか。……あ、そうだ!!」
「…………?」
何か思いついたのか、ローザは神機を元の場所に戻したと思った時には、一目散に保管庫を飛び出していった。
そして向かった先は――カズキの部屋。
「お兄ちゃん!!」
「ローザ、どうしたの?」
「お兄ちゃん、ローザね……神機使いになりたい!!」
「…………はい?」
■
「――適合者のいない神機を使いこなすだけでなく侵喰もされず、更には神機の声が聞こえるか。うーん……これは素晴らしい能力だね、どうして今まで黙っていたんだい?」
「だって博士に言ったら変な実験に付き合わされるから嫌だったの」
「や、やだなあ……そんな事をするわけがないじゃないか」
「サカキ博士、せめて視線を逸らさずに言ってください。怪しいを通り越してもはやどっちなのかわかりません」
ジト目でサカキを睨む抗神兄妹、サカキの冷や汗の量が増えていくが知った事ではない。
「でもローザ、いきなり神機使いになりたいって言っても……」
「神機は使えるから大丈夫だよ。他に何か問題でもあるかな?」
「…………」
カズキの視線が、先程から沈黙を貫いているツバキへと向けられる。
彼女は黙ってローザの話を聞いており、反対も賛成もせずじっとしていた。
「お兄ちゃん、ローザ決めたの。お兄ちゃん達が頑張ってるのにローザだけが何もしないわけにはいかないよ、戦える力があるなら正しい方向に使っていかないと!」
「それはそうかもしれないけど……」
「――ローザ、その決意は本物か?」
突如として口を開き、いつものような厳しい口調でツバキは問うた。
その雰囲気にローザは僅かに恐がるように表情を歪ませたが……すぐさまツバキに対して反論の意を返す。
「本物だよ。ローザだって戦える、戦える力を戦えない人達の為に使いたいってずっと思ってた。ローザはアラガミで人間じゃないけど……この心は、ちゃんと人間のままだから」
「…………」
力強い眼差し、いつもの子供っぽいものとは違う戦士のものだとカズキとツバキは理解する。
本気だ、この子は……それがわかったカズキはおもわずため息をつき、ツバキは静かに口を開く。
「――まずは、基礎訓練からだ」
「えっ?」
「如何にヴァルキリーだった頃の戦闘経験を持っているとはいえ、神機使いとしての経験はない。よってお前は暫し私と共に基礎訓練を行ってもらう、厳しくするが……乗り越えられるというのならば、認めてやろう」
「本当!?」
「サカキ博士、そしてカズキ、問題ないな?」
「ボクとしては戦力が増えるという点に関して文句も問題も無いよ、むしろ賛成だね」
「…………」
「お兄ちゃん……」
「……ツバキ教官は厳しいから、本当に頑張らないとダメだよ?」
そう言って、カズキは優しくローザの頭を撫でた。
……決意が本物ならば、カズキとしては何か言うつもりは無い。
ローザはこう見えて頑固なのだ、それに……自分で考え自分で決めた道ならば、精一杯応援してやりたいとも思っている。
「お兄ちゃん……うん、ローザ頑張るよ!!」
「…………」
■
「――僕の選択って、正しかったかな?」
「さてね、でもカズキ君は応援したかったんでしょ?」
「ローザが決めた事なら、応援してあげたいっていう気持ちは間違いじゃないと思いますよ?」
場所は再び神機保管庫へと変わり、カズキはリッカと偶然そこに居たアリサへと先程の事を話した。
ローザが神機使いを目指す、それを聞いて当初は2人とも当然驚きの表情を見せ、やがてカズキの問いかけを聞きなんともいえない表情を浮かべる。
「カズキ君とローザ、ようやく一緒に暮らせるようになったからそう思う気持ちもわかるけどね……」
「応援したいけど気持ちは複雑……なかなか難しいです。私も家族が神機使いになると聞いたら悩むと思いますし……」
「そうだよね。でもローザの決意は本物だし今更止めにするなんて事はできないけど」
ただそれでも、考えてしまうのだ。
彼女が神機使いになる事に対しての反対はない、だが――それは“アラガミと戦う事に関してだけ”だ。
贔屓目で見るわけではないが、ローザはいずれ神機使いとして大成する。それはカズキだけでなく他のメンバーも同意見であった。
だからこそ――その力を“利用”されないかが心配なのだ。
「…………一枚岩じゃないからな、フェンリルは」
「? カズキ、何か言いました?」
「いや……なんでもない」
カズキの第六感は、嫌な事ばかり感知する。
それによって助けられた事だってあるものの、嫌な能力だと彼は思う。
(どうか、これが気のせいでありますように………)
自らの心にそう願いながら、カズキは話題を変えるために口を開くのだった。
To.Be.Continued...
はい、おしまいです。
さて次はギャグメインにしようかな……。