「――――ふぅ」
「お疲れ様です、カズキ」
――ロシア支部、エントランスロビー。
新人達の訓練、及び最前線でのアラガミの討伐、そして新型アラガミ『ヨルムンガルド』に対する対策。
それら全てをこなしながらロシア支部に来て既に半月、さすがのカズキにも目に見えて疲労の色が見えていた。
そんな彼にコーヒーを手渡すアリサ、『ありがとう』と彼女に告げてからカズキはそれを受け取り一気に飲み干す。
「……ふぅ」
「カズキ、あまり無理をしちゃダメですよ?」
「大丈夫さ。自分の限界ぐらいちゃんとわかってるよ、これでも第一部隊の隊長なんだから」
「…………」
嘘ばっかり、アリサは心の中でカズキを責める。
彼はいつだって自分の限界を超えてきた、その為に命の危機に晒された事だって一度や二度じゃない。
皆を守るため、自らの力を発揮して戦えない者達を助けるために、彼はいつだって自分の限界を超えていく。
だからこそカズキはゴッドイーターとして類まれな実力を有しており、しかしアリサはそんな彼を心配する。
これでは彼は戦いだけの生き方に進んでしまう、それはきっと……仲間が居たとしても変わらない。
だから自分がしっかりしなくては、いつだってどんな時だって彼を支えられるように強くないと……。
「――ねえ、アリサ」
「はい、なんですか?」
「あのさ……今から時間あるかな? もしよかったら、一緒に街の中を……」
「あ……」
その言葉で、アリサはカズキが自分との時間を大切にしようとしている事を理解する。
これなのだ……カズキはこうやって自分より相手を優先する。
もちろん嬉しい、嬉しいが……彼のそんな優しさが少しだけ辛いと思うのは…おそらく贅沢なのだろう。
「……はい、私でよければ」
「アリサじゃなきゃ嫌だよ、それじゃあ……30分後でいいかな?」
「はい、わかりました……」
約束事を取り付け、カズキはロビーから離れていく。
1人残されたアリサは……その後姿を、少しだけ寂しそうに見つめていた。
――30分後。
「お待たせ、アリサ」
「いえ、大丈夫ですよ」
居住区へと続くゲートの前で集合してから、2人は街へと足を運ぶ。
異常気象によって厳しい環境になったロシアであったが、その中でも人類は懸命に生き続けている。
その光景を見て、カズキは歩を進めながら優しい表情を浮かべていく。
「カズキ、どうしたんですか?」
「なにが?」
「凄く嬉しそうですけど、何か良い事でもあったんですか?」
「ううん、ただ……みんなこんな世界でも一生懸命生きているから、その光景がとても尊いものだなって思って……嬉しくなったんだ」
「…………」
ああ、まただ。
またこうやって目の前の青年は誰かの幸せを願ってしまう。
「カズキはもう少し自分の幸せの事だけを考えないとダメですよ!」
「考えてるよ、それに僕は今充分すぎるくらい幸せだもの。だって隣にこんなに可愛い奥さんが居るんだから」
「っ、あ、ぅ……えっと……」
不意打ち当然の言葉に、アリサの顔が真紅に染まる。
臆面もなく、当たり前だと言わんばかりにこんな事を言ってくるカズキの物言いにはまだまだ慣れそうにない。
「そ、それでもです! カズキは今よりもっともっと幸せにならないといけないんです!!」
「じゃあアリサがこれからも隣に居てくれればもっと幸せになれるから、何の問題もないよね?」
「う……うぅぅ、うー!!」
「いてて、どうしたのさ?」
真っ赤な顔でポカポカとカズキの胸を叩くアリサ。
自分がどれだけ恥ずかしい事を言っているのか、目の前の青年はまるで理解していない。
ドキドキしているのが自分だけというのがなんとなく悔しくて、けど確かな嬉しさもあるからこそアリサは可愛い抵抗しかできないでいた。
「…………カズキのあほー」
「どうしてさ?」
「自分の胸に聞いてください!」
「???」
首を傾げるカズキ、わかってはいたがこういう反応を返されるとアリサとしてはもう何も言う気が起きなくなる。
「もういいです……それよりも、どこか行く予定の場所はあるんですか?」
「そうだな……適当に見て回ろうかと思ってたけど、アリサはどこか行きたい所はある?」
「…………ええ、ありますよ。というより本来はロシアに戻ってからすぐに行かないといけない場所なんですけどね」
「?」
それ以上アリサは何も言わず、カズキは不思議に思いながらも黙って彼女についていく。
途中で花屋に寄り、アリサは二束の花を購入した。
だんだんと人気のない所へと向かっていき……着いた先は、共同墓地。
その1つの墓石に前で立ち止まり、アリサは購入した花束をそっと墓石の上に添えた。
そこでカズキはようやく気づく、この墓は……アリサの両親のものだと。
「……パパ、ママ、一番に来られなくてごめんね? 仕事で忙しかったから……って、それは言い訳になるよね」
「…………」
「でもね、今日は凄い報告があるの。ほら……見て? 私ね、結婚して素敵な旦那様ができたの」
とても嬉しそうに、本当に嬉しそうに……アリサは亡き両親にカズキを紹介する。
カズキも墓石へと視線を向け、一礼した。
「私、とっても幸せに生きてるよ……この世界は残酷かもしれないけど、今を一生懸命生きてる。
パパ、ママ、どんな事があっても負けたりなんかしないから……見守っててください」
アリサの声が少し震えている、よく見ると身体も少し震えていた。
泣いているのだろうか、そう思ったカズキはアリサから少し離れ彼女の顔を見ないようにする。
(……アリサは僕が守ります。どんな事があっても守って幸せにしてみせます、僕の命を懸けて……)
アリサの両親にそっと誓いを建てるカズキ、また1つ彼の中に決して破れない誓いが生まれた。
そして暫くして、『お待たせしました』とアリサがカズキに声を掛ける。
「次は……オレーシャです」
「うん……」
移動をする2人、オレーシャの墓も同じ共同墓地に存在しており――けれど、先客が居た。
「あ……」
「……あら、アリサにカズキ君」
「リディア姉さん……」
先客の正体はリディア、オレーシャの墓参りに来たのだろう。
彼女の視線がアリサが持つ花束に向けられ、『ありがとう』と優しい笑みを浮かべお礼の言葉を口にする。
「オレーシャもアリサに会いたかったと思うわ、前よりももっと素敵になった貴女を見たいと思ってると思う」
「…………そう、でしょうか?」
「きっとそうよ。……オレーシャ、アリサが来てくれたわよ。私達の家族であるアリサが」
「…………」
緊張した面持ちになるアリサ、そんな彼女をカズキとリディアは優しく支えてあげた。
大丈夫、視線でそう言われアリサは改めてオレーシャの墓へと視線を向ける。
「……久しぶり、ですね。今まで来れなくてごめんなさい」
「…………」
「――ねえカズキ君、ちょっといいかしら?」
肩に手を置かれ、カズキはここから離れようとするリディアを追う。
墓地の入口付近まで移動してから、リディアは彼に視線を向けて口を開いた。
「オレーシャの事、どこまで知ってるの?」
「……彼女の事は、全てアリサから聞いています」
「そう……」
「…………」
「……君のような子が極東に居てくれてよかった」
「えっ?」
「君が居たから、今のアリサがある。改めて御礼を言わせてほしかったの」
「いえ、僕は別に……」
「ふふっ、それにしてもアリサが結婚……まさかあの子に先を越されるとは思わなかったわ」
「ははは……」
「あの子は今きっと幸せだろうけど、今よりももっと幸せにしてあげてね?」
それは、リディアが願う大切な願い。
家族であり妹である彼女を頼むと、口には出さないが託してくれている。
「――もちろんです。絶対に……あの子を悲しませたりしません」
だからカズキも全力でそれに応える、姉でありこのロシアでアリサを支えてくれた彼女の願いを叶えるために。
「あっ、こんな所に居たんですか」
「アリサ……」
「それじゃあ私は行くわね」
「えっ、せっかくですから一緒に行きませんか?」
「これから仕事なのよ。それに夫婦のデートを邪魔するほど落ちぶれていませんから」
冗談めかしたように言って、今度こそリディアは2人の前から去っていった。
アリサに視線を向けるカズキ、すると彼女の顔が赤く染まっている事に気がつく。
「……アリサは可愛いなぁ」
「はいぃっ!? ちょ、いきなり何を言っているんですか!!!」
「だって本当に可愛いと思ったから」
「か、可愛いって言うの禁止です!!」
「どうして?」
「ど、どうしてもです!!」
「――可愛いね、アリサは」
「~~~~~~っ、カズキーーーーッ!!」
「あ、いけね」
ちょっとからかいすぎたか、そう思ったカズキは一目散に駆け出す。
それを真っ赤な顔で追いかけるアリサ、2人の鬼ごっこは暫く続いたそうな……。
■
それから、数日後。
カズキとアリサの任務があと10日で終わるという時に――それは起こった。
「――アラガミの群れ?」
「はい、強力なアラガミの群れが現れて……数人の神機使いが犠牲になったそうです」
To.Be.continued...
さて、このロシア編も後半です。
この辺から第三部……GE2へと続く伏線でも入れていくか。