NEVER...   作:きくちょん

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建て替えが始まろうとしている学校の校庭に1つの人影があった。しかし、その人影は校舎に向かう訳ではなく、校庭の隅にある、とある建物に向かっていたのだった。
しかし、そこには既に先客がいた。
「久しぶりね」
「おう、久しぶり」
「遂にここもなくなるんだね」
「そうだな。いろいろあったな」



第1章

1

11月初旬。まだそこまでではないものの、若干冬の兆しが見え始めている。

ここはとある進学校。

この近辺では、圧倒的な学力を誇る。しかも部活が盛んで生徒の約9割がどこかの部活に参加している。さらには、全国大会に出た部活もある。

そんな文武両道の学校に通う生徒の1人が2年の山岡魁斗である。魁斗も例に外れず、卓球部に所属している。卓球部はかつてインハイに出た部ともあり、練習がとても厳しい分類に入る。

今は、1週間後の県大会に向け部全体にピリピリとした空気が漂っている。次の総体につながる大事な大会のため1つでも多く勝ちたいからだ。

今日も大きな声が響き渡り、ピリピリとした空気が漂っていた。

「隼也、次ダブルでいいか?」

魁斗が隼也と呼んだ相手、加賀隼也は魁斗と同じ2年で成績は学年トップ10に毎回入るほど良く、部内での実力は魁斗よりも少し上で、毎回1位を争っている。

「おっけ。次誰だっけ?」

「俺は岩城。隼也は?」

「梓川。ダブルでしてもらうか?」

「そうだな。試合するか」

岩城大雅と梓川拓海は準エースダブルスで山岡加賀組同様ダブルスでも県大会に出場している。そしてこの4人は団体戦のレギュラーでもある。

 

1時間練習したので、周りは10分間の休憩に入っていた。

「岩城ー。次、俺と隼也のダブルと試合してもらっていいか?」

「おっけ。俺らも丁度したかったし」

「それじゃ、頼むわ」

 

「今の感じだと、サーブ3球目が効いているからいいが、慣れられたら後々取りたい時に取れなくなるから、少し展開を変えよう」

魁斗はこれまでの2セットを振り返って言った。

今のセットカウントは魁斗のペアが2-0でリードしているが、さっきのセットは1セット目に比べて競ってデュースまでもつれ込んだ。

「そうだな。このままだと流れを持っていかれそうな気がする」

どうやら、隼也も同じことを考えていたようだ。

一方、岩城梓川組は、

「おそらく展開を変えてくるだろうから、サーレシ重視で2球目から攻めていこう。次は梓川が山岡のサーブと取る回りだし」

「わかった。極力攻めるわ」

 

試合は3-1で魁斗のペアが勝った。が、前回よりも全体的に競った試合だったような気がした。

「隼也、危なかったな。はらいとフリックにもう少し対応できるようにしないとな」

「そうだな。そこからの展開の練習も増やすか」

一方、岩城梓川組は。

「前に比べて、俺も梓川も良くなってるが、大きいラリーになるとミスが多いよな」

「そうだな。もう少しだけ前中陣で戦えるようにするか」

 

この学校には夜間学校が併設されているため、放課後の部活はだいたい1時間半ほどしかできない。そのため、私立高校強豪公立高校に比べるとどうしても練習時間が短くなってしまう。なので、如何に効率的に充実した練習をするか、各々がしっかりと考えている。

 

「ありがとうございいました‼︎」

いつも通りの大きな声が響き渡った。その余韻が消えぬうちにそれぞれが片付けなどを始める。

魁斗もいつも通りピン球を拾っていた。

「魁斗」

そう言って近づいてきたのは村松歩夏、女子キャプテンである。ちなみに男子キャプテンは隼也である。

「ん?どうした?」

「はい、これ」

そう言って歩夏が渡してきたのは部費の封筒である。

「あ、部費か。俺のロッカーの中に入れといてくれ」

「はーい」

そう言って、歩夏はロッカーの方へ行ったのだった。

「もうちょい、愛想良くしたら?」

そう言って、封筒を渡そうと来たのは須藤唯香、女子エースである。

魁斗は見向きもせず、ロッカーの方を指差した。

「歩夏が好きなのはわかるけどさ、好きになってもらいたいんならもっと優しくしてあげなよ」

「ああ、そうだな」

唯香は返事を聞くとロッカーの方へ行き歩夏と話していた。

 

 

魁斗が好きな人。

それは、、、

そう、歩夏である。

入部した時から、歩夏のことは気になっていた。おそらく、一目惚れだったのだろう。

1回は告白した。1年の7月に。

しかし、まだ、互いの事をあまり知れてなかったのもあり、すれ違いを避けるために付き合わなかった。

それ以降は付かず離れず友達以上彼氏彼女未満という関係が続いていた。

だが、最近になって、歩夏の様子が以前と変わり、魁斗よりも隼也といることが若干多くなっていた。

なので、魁斗は若干物足りない気持ちでいたのだった。

 

2

-県大会前日の木曜日

魁斗達は南部の試合会場に列車で向かっていた。魁斗が通う高校は北部にあり、前日に現地入りしなければならない。

目的の駅まではまだあと2時間程ある。

魁斗は何をしようか、先程から悩んでいた。

読書するために持ってきた本、学校の課題等やろうと思えばいくらでもある。

しかし、それらをやろうとしても全く集中出来ず、既に選択肢から外れている。いつもならいくらでも集中できるのだが。

 

「ねぇ、隼也」

「なんだ?村松」

 

そう。原因は後ろの席に座ってる隼也と歩夏にある。

「あーっ、もーっ、なんも集中出来ねぇー」

魁斗は頭を掻いた。

試合前日だからこんな事を考えている場合ではないことは重々理解している。

しかし、歩夏絡みとなれば、魁斗にとっては例外である。

前方の席から唯香がやって来た。

魁斗は唯香が素通りして歩夏に何か話しに行くものだと思っていたので、魁斗のところで止まった時は驚いた。

「どうしたの?驚いて」

「いや、てっきり須藤は歩夏のところまで行くと思ってたからさ」

「あー。私はヤキモチ妬いてる山岡君を見に来ただけ」

魁斗はそれを聞き多少イラっとした。

「まぁ、予想通りいい感じに妬いてるね」

「用がないのなら戻ってくれないか?」

「はいはーい」

そう言うと唯香は大雅の隣の席に戻って行った。本当にからかいに来ただけのようだ。

「なんだよ、本当に。リア充はいいよな」

魁斗は気付かずそんな言葉を漏らしていた。

無論、唯香のことである。

唯香は大雅と今年の1月から付き合っている、らしい。

そんなことをしている間も、後ろでは話はどんどん盛り上がっていっている。と、同時に魁斗のイライラは増していっている。

あと、2時間。どう耐えるか。魁斗は考えていた。

しかし、有効的な解決策は見つからず、音楽を聴きながら、後ろの話に聞き耳をたてるという、とても中途半端な状況で残りの時間を過ごしたのだった。

 

-2時間後

目的の駅に着いた。

駅からホテルまでは距離がある。また、ホテルから練習会場や試合会場までも距離がある。なので小型のマイクロバスをチャーターしている。

駅を出ると、駅前のロータリーにチャーターしたバスが止まっていた。

各自思い思いの席に座った。

魁斗は試合に向け集中したいのもあり、敢えて、みんなが座らないであろう前方の席に座った。無論、歩夏から離れている。一方の歩夏は隼也の隣に座りずっと喋っている。

魁斗はその話し声を意識しないようにイヤホンをつけ、外の様子を見ていた。

「横、いい?」

そう言って隣に来たのは山本涼香である。

「いいが」

「が、なに?」

「いや、なんでもない」

「どうせ、春香と一緒じゃないのって言いたいんでしょ」

涼香は春香と双子であり、いつも一緒にいる。かつ、この2人は団体メンバーであり、村松須藤組のダブルとエースダブルスの座を争っている。

「そう」

「あんまり、試合前には春香と一緒に居たくないの」

魁斗はそれが嘘だとすぐに見抜いた。というのも、さっきの電車内では仲良く話していたし、前の試合の時もそうだった。

「といいつつも?」

「歩夏を取られた今の気持ちを聞きに来た」

涼香は悪戯っぽく笑った。

魁斗は、

「あっそう」

とだけ言って、外の流れゆく街並みに目を移した。

涼香は追求するのを止め、反対側に座る春香と話し始めた。

 

ホテルに着くまでの時間を利用し、コーチを交えて、ミーティングが行われた。

空気が浮いてるのが明らかだった。

「男女揃っての泊まりは初だが、ここに何をしに来たか考えなさい」

その一言で空気は一気に引き締まった。

各自ホテルまでの道のりを一言も喋らずに明日の試合に向け集中力を高めていくのだった。

 

3

-翌日

早朝から男女別にウォームアップをしホテル前に集合した。

隼也は欠伸を噛み殺しながら男子が揃っているのを確認した。歩夏も同じく女子が揃っているかを確認していたが、こちらも欠伸を噛み殺していた。

「隼也、女子は揃ったよ」

「おう、ありがと」

隼也は運転手に全員が揃ったことを告げバスを出してもらった。

明らかに隼也と歩夏の顔が試合前なのに既に疲れきっている。誰もが気づいているはずだが、それぞれ試合に向けイメトレなどをしているため、誰も言わない。

練習会場まで、そんな感じで時間が流れた。

 

「隼也、2人してどうした?」

練習中、隼也と歩夏は集中力を欠き、いつもではあり得ない様なミスを連発していた。魁斗や唯香はいつも通りかそれ以上によく、ダブルはそれぞれフォロー出来たが、シングルはどうしようもなかった。

「ごめん」

「歩夏と何をしてたのか知らないが団体とダブルには持ち込まないでくれないか?」

「わかった。気をつける」

今日は団体の8決定までなのでインハイを目指す魁斗たちにとってはとても重要な日である。だから、魁斗や唯香はとてもきつくパートナーに当たっていた。

8決定戦までは油断できる相手はいない。さらに、8決定戦は苦戦が予想される相手である。だからこそ、確実に県を抜けたい魁斗や唯香はリスクを背負ってでもパートナーに当たった。

隼也と歩夏はそれに気づいたようで、気持ちを切り替えたようだった。

 

試合会場に入ると団体に出るメンバー以外も緊張してきたようで、みんなの口数が減り張り詰めた空気が周囲に漂っていた。

開会式で男女共に試合がすぐ入ることが分かった。

魁斗は緊張して落ち着かなくなった。しかし、隣にいる隼也を見るとホッとした。隼也も緊張していて、魁斗よりも緊張しているように見えた。

開会式が終わり試合が始まった。緊張していたように見えた隼也は1番手で出て、難なく3セット連取し、最終セットは色々なことを試すほど余裕があった。

2番手の拓海はフルセットまでもつれ込んだものの最後は落ち着いていつものペースを取り戻し、ラブゲームと相手を圧倒した。

次のダブルスは1回戦ともあり岩城梓川組を出すとコーチに言われていた。

魁斗は少し不満だったが、今朝の隼也のこともあったから仕方ないと割り切った。

岩城梓川組も県大会に出ているのもあり、危なげなく3セットとってきた。

結局、魁斗は出ずに1回戦突破となった。

 

一方女子は唯香が珍しくフルセットで負けたものの2番手の涼香、ダブル、フォースの春香がいずれもストレートで勝ち、突破を決めたようだった。

 

県大会には男女それぞれ団体は64校、個人は64人、ダブルも64ペアが出ている。

そして、次の大会にでられるのはどれも上位8位までである。

今日は8決定まで。要するに出場権決定までである。

 

-2回戦

1回戦とは変わり、1・2番と4・5番を入れ替えダブルは山岡加賀組を出すオーダーで挑むことになった。全員が1試合は経験した上で8決定に挑みたいという考えの基である。

魁斗はトップで出ることになった。

「そんな緊張するなよ」

隼也はそう言って、背中を軽く押し魁斗を送り出した。

どうやら、周りから魁斗は緊張してるように見えているようだ。

確かにさっきから心臓がバクバク鳴っていて、隼也たちに聞こえるのではと思う程である。

「願いします」

遂に試合が始まった。

 

4

気が付けば昼をとうに過ぎ、時計はもう少しで午後5時を指そうとしていた。男子の8決定戦が始まって1時間半が経とうとしている。

勝ったか負けたかわからないが、歩夏たちが先程から上で応援している。

1番の隼也とダブルは取れたものの、2番の大雅と4番の拓海はフルセットの末取られていた。

そして、5番の魁斗。

取って取られての展開でフルセットのテン・オールまでもつれ込んでいる。

今、サーブ権は魁斗にある。

正直、精神的にとても弱っていた。

先にマッチポイントを握ったものの5連取でまくらた。何をやっても返ってきて撃ち抜かれる。手が尽きた状態である。

「切り替えていくで」

隼也の声だ。

「自信持って攻めるよ」

歩夏の声が上から聞こえた。

「さっ」

魁斗は声を出し、一呼吸おいた。

フォア前にサーブを出す。

相手はフォア側に流し、有利なフォア対フォアに持ち込もうとした。

しかし、魁斗はこの展開を待っていた。

「んっ」

魁斗は鋭くストレートに振り抜いた。

魁斗が打った球は強烈なサイドスピンがかかりながら、相手のバック側に台にバウンドした。途端にフォア側に急カーブして飛んでいった。

相手は今まで通りフォア側に来るものだと思いフォアで構えていた。しかし、バックに来たので、バック側に大きく姿勢を崩した。だが、台にバウンドすると同時に急カーブしたため、バックでブロックしようとしていた相手は空振りした。

「よーっ、よーっ!」

一帯に魁斗とベンチ、ギャラリーの声が響いた。

イレブン・テン。

魁斗は再びマッチポイントを握った。

デュースなので、相手にサーブ権が移る。

相手は確実に点を取りに来るだろうから、相手が1番得意としている短い展開で攻めるのではと魁斗は考えた。

しかし、フォアにロングサーブが来た。戸惑いを隠せなかった。姿勢を崩され、当てるのが精一杯だった。当てた球はフォア側にふわっと返っていった。相手はバックに打ち抜いた。魁斗は体勢を立て直し、戻って取ろうとした。辛うじて当たったもののラケットの角に当たった。球は高々と上がった。そして、僅かに台から外れて落ちた。

相手も負けんばかりに声を上げる。

イレブン・オール。

再び魁斗にサーブ権が移る。

先ほどの展開はもう使えないだろうと、魁斗は考え一転してロングサーブからの展開にすることにした。

「さっ」

魁斗が出したサーブは手前にワンバウンド相手のバック深くまで飛んだ。狙い通りのコースに出せた。あとは、ミスらないようにかけ続けるだけと、少し後ろに下がって距離をとった。

その時だった。

相手はレシーブをバックに返そうとした。しかし、思う程、魁斗のサーブはかかっておらずあまり飛ばなかった。そのレシーブした球はネットまで到達したものの、丁度ネットの白帯にかかった。そのまま、ネットに沿うように魁斗のコートに落ちた。

魁斗は取ろうと突っ込んだが少し間に合わず球はツーバウンドした。

テン・イレブン。

相手のマッチポイントだ。

魁斗は冷静でいようとしたが無理だった。

「気にするなー」

「切り替えてー」

後ろから上から励ます応援が聞こえる。

「さっ」

相手はフォア前に下回転サーブを出した。

魁斗は少し甘かったのを見逃さずバックにはらった。

しかし、相手はそれを回りこみ、バックにドライブを振り抜いた。

魁斗は急いで戻りブロックした。

たが、相手の回転が強かった。

抑えれるだけ抑えた。が、球は台をオーバーしていった。

同時に魁斗の頭の中は真っ白になったのだった。

 

5

ホテルのロビーで試合後のミーティングをやっていた。

しかし、魁斗は試合終了後以降何があったか、何を言われたかなど一切覚えていなかった。ずっと放心状態である。

「ねぇーっ、山岡君ってば」

「涼香、なに?」

「もう、切り替えようよ」

「無理だよ」

涼香はそんな、魁斗を見て呆れ返ってる。

「涼香、そんな簡単にきりかえられることじゃないんだよ」

魁斗のフォローをしたのは歩夏である。実は女子の団体戦も8決定戦で敗れた。しかも、男子と同じようにラストの歩夏までもつれ込んだ。

「自分が勝っていれば出場権を得れたのに負けた時のダメージは計り知れないんだよ」

涼香はもう1人の当事者である歩夏の言葉を聞いて黙ってしまった。

歩夏は黙った涼香を見てから魁斗の方を向いて言った。

「私だって切り替えきれてないよ。けど、明日まだ個人戦が残ってるんだからいい加減切り替えないと」

「そうだけどさ」

「明日、8決定でリベンジできるかもしれないんでしょ」

そう。魁斗は明日の8決定で今日の団体で惜しくも負けた相手と当たる。

「だから、しっかり切り替えて挑まないと」

「それもそうだな。いつまでも引きずっても仕方ないよな」

「うん、そうだよ」

「ありがとう。歩夏」

魁斗はさっきに比べ気持ちが少しばかり軽くなっていた。

「もう終わった?」

涼香が迷惑そうな顔をして聞いてきた。

周りを見ると涼香以外居ないことに魁斗と歩夏は気がついた。

「涼香、みんなは?」

歩夏は当然の疑問を涼香に聞いた。

「歩夏が山岡君に話し出した時ぐらいから邪魔しないでおこうってなって、部屋に戻って行ったわよ」

「それなら、俺たちも戻るか」

 

魁斗は部屋に戻り、今日の試合を見直していた。特に最後の試合を見ていた。なぜ競り負けたのか。4連続ポイントを許してしまったのか。

焦るあまりいつもよりワンテンポ早く動いてしまっていたのか、狙いがあからさま過ぎたのか、サーブが緩すぎたのか。

見れば見るほど甘さがだんだん出てきた。そして、悔しさがどんどん込み上げてきた。

「あーっ、もーっ、俺はバカそのものかよっ」

「どこが?」

「どう考えても、あの場面で...って、おい、なんで涼香が居る?」

「鍵が開いてたから入った」

涼香は笑いながらそう言った。

魁斗は目が点になった。

「そうだっけ?」

「うん。開いてた」

「で、何の用?」

魁斗は涼香が自分から来るときは、大体何かしらの情報を持っている時か弄りに来る時だ。

今回は真面目な顔で居るのでおそらく情報を持って来たのだろう。しかも、良くない情報だろう。

「歩夏に関する、魁斗にとっては良くない情報だけど聞く」

魁斗は予想通りだったので特に驚きもしなかった。

「どうせ、歩夏の好きな人が特定できたとか、好きな人に告白するっていう情報だろ」

涼香は反応しない。しかし、表情が肯定する時の表情だった。

魁斗は更に続ける。

「まぁ、恐らく相手は隼也だろうなぁー」

「ご名答」

魁斗はハズレであって欲しかったが、どうやら魁斗が推察した通りだったようだ。

一方の涼香はここまで当てられるとは思っていなかったようだ。

魁斗はこれ以上この話を続けたくなかった。歩夏本人の口からではないものの、正確な情報を持って来る涼香本人からでは与えられるダメージは同じである。

「とりあえず、まだ明日も試合残ってるし、寝よう」

「うん。おやすみ」

涼香はそう言って何もなかったように魁斗の部屋から出て行った。

6

-翌日

魁斗は昨日と同じ状態に陥っていた。

個人戦の8決定戦。昨日と同じ相手だった。

1、2セット目はサーブが効き、自分の展開に持っていけ、リードを保ちセットを取ることができた。しかし、3セット目でデュースまで競り、流れが段々悪くなってきた。更に、その後の自分のサーブミスで3セット目を取られ、流れが完全に相手のものとなった。そして、4セット目はあっけなく取られ5セット目に入った。今はテン・エイトで相手にサーブ権がある。

魁斗はタオルタイムを取り気持ちを落ち着けていた。

あともう1本取られれば、また8決定で敗退である。

周囲をぐるりと見回すとチーム全員が必死に応援している。ベンチに目を向けるとコーチで入ってくれている隼也が自信持って攻めろとジェスチャーで伝えてきた。

魁斗は吹っ切れていくしかないと決意した。

タオルを掛け、ゆっくりといつもの定位置についた。

「さっ」

いつもより自然と声が大きくなった。

相手は下回転が強くかかったサーブをバック前に出した。しかし、バウンドが高くなった。

魁斗はそれを見逃さなかった。

フリックで素早く仕掛け、相手のバック深くに返した。

無論、相手は詰まり、体勢を崩し返すだけで精一杯だった。

魁斗は帰ってきた球を速い打点でフォアに角度打ちで返した。

相手はその球に飛びつかざるを得ずフォアに大きく振られた。

魁斗はしっかりとバックにスマッシュを決めた。

「よーっ、よーっ、よっ」

テン・ナイン。

まだ、相手にサーブ権がある。

「さっ」

魁斗はさっきよりも大きくなった。相手も大きくなっていた。

相手は速いロングサーブをフォア側に出した。

しかし、弾道が低くネットに引っかかった。

球の勢いは失速しコースが台の外に少し外れた。

そして、台のサイドを擦り落ちていったのだった。

「よーっ、よーっ、ラッキーッ」

テン・オール。

サーブ権が魁斗に移った。

魁斗は迷わず1番自信のある展開で攻めることにした。

「さっ」

魁斗はフォア前に下回転気味のナックルを出した。今まで強めの下回転を多く出していたので1番効くと考えた。

しかし、相手はしっかりと面を合わしてフォア側に短めに返してきた。魁斗は早めの打点でバックにはらった。相手はそれを読んだようで少し下がってバックを構えていた。そして、バックに振り抜いた。魁斗は中途半端な姿勢でブロックしてしまったため、コースが定まらず球は台のサイドに当たって落ちた。

テン・イレブン。

魁斗は再び窮地に陥った。しかも、サーブ権は相手にある。

「切り替えろ!1本取って流れ変えるぞ!」

隼也が向かい側で立ち上がりそう叫んだ。

魁斗は目を閉じて2度頷き、目を開き、

「さっ」

と、今日1番の声を出した。

相手は手堅くバック前に下回転を出した。

魁斗はそれを低くストップした。

相手は早い打点でバック深くにつっついた。

魁斗は待ってたと言わんばかりにしっかり回り込みループをバック深くに返した。

相手はブロックをフォアに送った。

そこから引き合いが始まった。

「んっ」

「んーっ」

 

魁斗は試合で最後にどのようにミスをし負けたかはっきり思い出せなかった。

ただ、清々しい負け方をしたことだけははっきりと思い出せた。

しかし、そうは言いつつも、時間が経つにつれて徐々に悔しくなってきた。

「魁斗、ダブル呼ばれたぞ」

隼也が呼びに来た。

さっきまで、魁斗を気遣って何も言わず1人でアップしていたのだ。

「おう、いくわ」

隼也は何も言わずに待っていた。

魁斗は素早く着替え、荷物をまとめて隼也の元へ走って行った。

すると、丁度そこに歩夏と唯香が降りてきた。

「2人とも頑張ってね」

と、歩夏。

「切り替えて、落ち着いて」

と、唯香。

「ありがとう」

「ありがとう」

2人はそれぞれ返事し入り口に向かって行った。

 

「ねぇ、歩夏、隼也にもっと何か言いたかったんじゃないの?」

「いや、ないよ」

「そう?まぁ、いいけど」

唯香はそう言ってアップスペースに行った。

 

7

-その日の夜

結局、シングルダブルともに次の大会の出場権を獲得した者は誰もいなかった。しかし、みんな得た物が多く、悔しさが多少あったものの清々しく感じてる者が多かった。

今、魁斗たちは試合会場近くのファミレスで晩御飯を食べている。すでに大体の人は食べ終わり、雑談を始めている。

目の前に歩夏、右隣には涼香、右斜め前には隼也が座っている。もう1つの机には大雅と唯香、拓海、春香で座り、1年は1年8人全員で離れた席にまとまって座っていた。

隣の席ではすでに恋話が始まり、大雅と唯香を弄り始めている。

そして、魁斗の席でも恋話が始まろうとしていた。

「そういえばさ、加賀君って好きな人いるの?」

「山本、急になんなんだ?」

「なんとなく気になって。ねぇ、山岡君」

涼香は魁斗を急に巻き込もうとしている。

取り残された歩夏は黙っているものの、耳は聞くことに集中している。

「急に俺を巻き込むな」

「だって、気になるでしょ」

「まぁ、そうだけど」

「もー、魁斗までなんなんだよ」

さっきに比べ、隼也の顔は少し赤くなってきている。

涼香はそれを見逃さなかった。

「あーっ、赤くなってる」

涼香が笑いながら指摘した。

「うるさいっ!」

隼也の声を聞いて、隣にいた唯香達も話を聞き出した。

そして、2年が騒ぎ出したのを見て1年も何事かと寄ってきた。

「加賀先輩がどうしたんですかー?」

「もー、お前らまで寄ってくるな」

「えー、いいじゃないですか。面白そうなんですし」

「はい、この話一旦終わりっ!ホテル戻るぞ」

隼也はいきなり話を切り、席を立ちレジへ向かった。

無論、残りのメンバーからブーイングが起きた。しかし、隼也は無視したままだった。

「ねぇ、山岡君」

「ん、なに?」

「この後、山岡君の部屋でこの話の続きしようか」

「そうだな。あ、2人を呼ぶのはやってな」

「わかった」

 

魁斗はホテルに戻ってから昨日と同じように今日の試合を見返していた。やはり、どう見ても敗因は3セット目のサーブミスである。

「当分、サーブ練を集中的にすることになりそうだな。あとは、」

-コンコン

誰が来たようだ。

「はーい」

魁斗はドアを開いた。

「お邪魔しまーす」

そこにいたのは歩夏だった。しかし、涼香の姿はない。

「山本は?」

「涼香なら、隼也を迎えに行くから先行っておいてって言ってたよ」

「そうか。まぁ、入って」

歩夏は部屋の中に入りソファに座った。魁斗は向かい側にある椅子に座り、お茶を入れた。

「歩夏もお茶飲む?」

「うん」

魁斗はコップをもう1つ取り出し、お茶を入れ、歩夏に渡した。

「どうぞ」

「ありがと」

歩夏はお茶を一口飲んだ。

「山岡君は涼香から何か聞いてる?」

「いや、何も。まぁ、こう話せる機会が少ないからじゃないか?」

「そう。まぁ、いいや」

「にしても、隼也たち来るの遅いな」

既に歩夏が来てからだいぶ時間がかたっている。魁斗は少し怪しいと感じた。隼也の部屋からここまでそう離れていない。かつ、涼香の部屋もである。

「そうだね。見てこようか⁇」

「んー、そうだな。ちょっと頼む」

歩夏はソファから立ち上がり、ドアの方へ向かって行った。

「あ、待って。今、山本から連絡きた」

歩夏はドアの取っ手に手をかけた状態で振り向いた。

「何って言ってる?」

「隼也が俺の部屋に行くのを拒否してて、説得するのに時間かかるからもうちょっと待って。あと、、、これはいいや」

「わかった。けど、」

「けど、なに?」

「言いかけた内容も言ってよ」

「嫌だ」

魁斗は明らかに言いにくい内容だったので言いたくなかった。これを魁斗自身が言うと確実に歩夏に引かれる。

一方、そんな内容とは知るはずもない歩夏は少し拗ねたような顔をしている。

魁斗は歩夏が拗ねても一切怖くない。むしろ、かわいいくらいである。しかし、かわいいからと言って見せるわけでもない。なにもなければ見せるのだが。

魁斗がそんなことを考えていると右後ろから手がスッと伸びてきて、ひょいとスマホを取られた。画面は涼香とのやり取りが映されたままである。

「ゲットっ」

歩夏は悪戯な笑みを浮かべて魁斗のスマホを持っている。

「お、おい!歩夏、返せ」

魁斗はとても焦った。

歩夏はそんな魁斗の様子を楽しみながらメッセージを読むために魁斗に背を向けた。

魁斗は歩夏の警戒が少し緩くなる隙を狙った。だが、一瞬、相手が歩夏であることを忘れていた。その結果、魁斗はスマホを取り返すことができたものの歩夏をソファの上に押し倒してしまった。

「きゃっ」

魁斗はその声で押し倒した相手が歩夏であることに気づいた。

-コンコン

「お邪魔しまーすっ」

タイミング悪く涼香と隼也が来たようだ。

「えっ?」

魁斗と歩夏は思考が停止した。

そして魁斗が歩夏の上から退き歩夏が起き上がる前に、涼香に今の状況を見られてしまった。

「おー、山岡君、大胆だねー」

「魁斗、押し倒すのは早くないか?」

2人とも今の状況をとても楽しんでいる。

魁斗は歩夏の上から退き、歩夏の手を引き歩夏を起こした。

「歩夏、ごめん」

「いいよ。山岡君が起こした事故ってことで」

「うっ、確かにそうだが、根本的な原因は歩夏だからな」

歩夏は黙った。

「魁斗、人のせいにするのは良くないぞ」

隼也はまだにやにやしている。

「そうよ、山岡君。あったこと全部話しなさい」

涼香もにやにやしている。

そして、当の歩夏は涼香の後ろに行った。

「山岡君が襲って来たの」

と、言い放った。

「お、おい、歩夏、ちょっと待った」

魁斗に向かって歩夏から巨大な爆弾を投じられたに等しい言葉だった。魁斗はすぐに誤解を解くべく弁明しようとした。

だが、

「魁斗、罰は何がいい?」

と、隼也はすでに手をポキポキと鳴らし始めていたのだった。

 

 

8

魁斗はクタクタになっていた。というのも、さっきの事故について隼也や涼香に執拗に追求され、その弁明に既に1時間ちょっとを費やしていたからである。

「ふーん。まぁ、歩夏がそう言ってることだし、結局は事故なのかな」

涼香はこの話題に飽きたようで、勝手に納得して話を次に移そうとしている。

「だから、最初からそう言ってるじゃないか」

魁斗は早くこの話を終わらせたいので、この機を逃さまいとしている。

「そう言えばさ、」

涼香は話題を変えるようだ。

「加賀君って好きな人いるの?」

「は、えっ?」

急に話を振られた隼也は腑抜けた返事をしてしまった。

一方、魁斗は話の対象が自分ではなくなったので一安心した。

「だーかーら、加賀君って好きな人いるの?」

「居ると言えば居るし、居ないと言えば居ない」

隼也は笑ってそう言った。明らか、真面目に答えてない。

「隼也、それどっちなんだよ」

「魁斗には絶対言わない」

「おい、それ、どういうことだ⁇」

隼也は返事せず、にっこりと笑って流した。

そして、時計を見て、立ち上がった。

「もう0時まわってるし、俺、部屋に戻るわ」

「あ、なら、私も」

そう言って歩夏も立ち上がって、隼也とドアに向かって行った。

「涼香はどうするの⁇」

歩夏は帰る気配がない涼香に聞いた。

「んー、もう少し居ようかな」

「おっけ。気をつけてね」

そう言って、歩夏は隼也と話しながら出て行った。

部屋には魁斗と涼香が残った。

涼香はテレビの電源をつけ、ソファに座った。どうやら、まだ居座るようだ。魁斗は何故か長くなりそうな気がした

「売店でなんか買ってくるけど、何か要るか?」

「なんでもいいよー」

「はいはい。じゃあ、行ってくるわ」

 

「ふぁ〜。眠い」

魁斗たち2年全員は5階のフロアに泊まっている。ちなみに魁斗は1番奥の部屋だ。なのでエレベーターまでは1番遠い。

魁斗は1階にある売店に行くためにエレベーターホールまで行き来るのを待っていた。

その徳、聞き覚えのある声が聞こえてきた。ホールの隣にある自販機コーナーからだ。魁斗は気になり、見に行くことにした。

するとそこには歩夏と隼也がいた。

歩夏の顔は妙に真剣だ。

 

「村松、どうした?」

「あのね、、、」

 

歩夏の顔がだんだん薄い朱に染まっていく。

俯いていてもわかる程度だった。隼也は歩夏が何を言うか大体予想がついているようで、さっきより真面目な顔になっていた。

 

 

「好きです。付き合ってくださいっ」

 

魁斗はこれ以上見ている気になれずちょうど来たエレベーターに急いで乗り込んだのだった。

魁斗の思考は停止したままだった。さっきの光景がエンドレスで脳内に流れている。今は、体が勝手に動いて部屋まで戻ろうとしている状態である。

-チーン

エレベーターが5階に着いた。隣の自販機コーナーにはもう既に人影はない。

魁斗は一瞬、夢だったのかと思った。しかし、現実である。

「はぁー」

深いため息を吐くしかなかった。事前に知っていたものの現場を見てしまうと予想以上にダメージが大きい。

 

結局、魁斗はその後大いに荒れた。そんなに荒れなくてもという程荒れた。何をしたか、何を言ったか全く覚えていない。唯一、涼香が最後まで聞いてくれたことは覚えている

 

-翌朝

魁斗は一切、歩夏と言葉を交わさなかった。それどころか、一切見ることができなかった。おそらく、歩夏には異変を察知されていたのかもしれない。

 

帰りの電車に乗ろうとした時、ホームに冷たい風がビューっと吹いた。もう、冬がそこまで迫っていたのだった。

 

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