NEVER...   作:きくちょん

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あの時のショックを未だに忘れられない
しかし、あの時までに成長していた芽が踏みにじられて、折れて、枯れることはなかった
それどころか、今まで以上に大きく、強く、たくましく成長していた

そして、再び心の中の閉じたはずの蓋を突き破り芽を現していた



第2章

1

県大会から半年が経とうとしていた。長い厳しい冬が終わった。そして、魁斗たちにとって最後の総体が始まろうとしていた。

少しでも多く勝つために今日も全員が追い込みに必死だった。

しかし、万全の状態で挑むのは難しそうである。

「隼也、それ、いつ治る?」

「んー、一応医者には3週間って言われたな」

「どうするんだ、隼也。県予選まで2週間なんだぞ。団体どうするんだよ」

隼也は周りに目を向け、一周してから魁斗に戻した。

隼也は肩を壊してから殆ど練習できていない。いくら隼也といえども今の状態だと勝てる見込みはない。

「代わりに橋詰に出てもらうって事でコーチとは話がついてる。団体のダブルも俺の代わりに組むことになった」

隼也が指名したのは橋詰秋紘、次期エース候補の新2年だ。

魁斗はあまり納得がいかなかったが了承せざるを得ない。確実に予選を抜けるためにはそれしか策がなかった。

なぜ今になって隼也が肩を壊したのか魁斗は疑問に思った。隼也は肩を壊すほど負担がかかる打ち方をしていない。

しかし、今考えても仕方ないと思い割り切ることにした。

「わかった。とりあえず、予選までは橋詰と組むが、県大会までに万全な状態に治してくれ。ダブルもあることだし」

「おう。本当に迷惑をかける」

隼也はそう言って橋詰のところへ行った。

 

-練習後

今日、初めて橋詰とダブルスを組んだが思いの外感触は良かった。隼也ほどではないが技術もあるし、ミスも少ない。球の威力も大雅や拓海とあまり差がない程までこの冬に伸びた。問題は2週間でどこまで完成度を上げれるかだけである。

魁斗は片付けをしてから涼香のところへ行った。最近になって確認したいことがあったのだ。

丁度、涼香は新1年に指示を出し終えたところだった。

「涼香、この後時間ある?」

「あるけど、どうしたの?歩夏のこと?」

「いや違う」

「まぁ、いいや、時間あるし」

「ありがと。じゃあ、校門で」

「おっけ」

涼香は帰る用意をすべく、女子ロッカーの方へ行った。

 

魁斗が涼香に聞きたいこと。それは隼也に関する気になる噂の真偽である。実はそのせいで最近、あまり集中できていない。

そこでさらに、昨晩、隼也は彼女とあるアーティストのライブを見に行ったという噂が追い打ちをかけるように流れてきた。

魁斗はライブを見に行くことに関してはとやかく言うつもりはない。

魁斗にとって重要なのは彼女が誰なのかということだ。

半年前の県大会以降、歩夏と隼也に目立った変化はなく、付き合ってる可能性が低かった。しかし、現場を見た魁斗はその可能性を否定できなかった。

 

「涼香、ごめん待たせた」

魁斗は校門を出たところに立っていた涼香の元へ駆け寄った。

「いいよ、別に、時間あるし。で、どこで話そうか?」

「そうだなー、駅前のファストフードとかどう?」

「じゃあ、山岡君の奢りね」

「はいはい」

魁斗と涼香は他の生徒に混じり高校の最寄り駅まで歩いて行った。

他の部活も総体前のようで運動部の生徒が多かった。また、文化祭も近いこともあり文化部の生徒も多かった。

涼香は知り合いが多いようで、よくバイバイと声をかけられていた。

「涼香は顔が広いな」

先ほどから下の学年の生徒にも声をかけられていた。

「まぁね」

涼香は自慢げな顔で答えた。

魁斗と涼香は他愛もない話をしながら歩行ったのだった。

 

魁斗と涼香は駅前のファストフード店に入った。

塾前の腹ごしらえという学生が多く店内は混んでいた。そんな中で運良く魁斗たちは奥側の空席を見つけた。

「涼香はなにがいい?」

「何でもいいけど、先に話を終わらしましょ」

「そうだな」

魁斗は涼香に勧められ、涼香の向かい側に座った。4人席なので、2人で座ると少し寂しい。魁斗は話し出そうとしたが、涼香が携帯をいじっていたので、終わるのを待っていた。

涼香はそれに気付き、さっさと済まし携帯を机の上に置いた。

「ごめんごめん。で、話って?」

「隼也のことなんだけどさ、」

「歩夏とは付き合ってない」

「じゃあ、誰なんだ?昨日、ライブに一緒に行った彼女って?」

「川本千紘」

「えっ」

魁斗はとても驚いた。川本千紘といえばダンス部1の頭脳、スタイル、性格の良さと三拍子揃った、男子の中ではトップを争う人気を持つ子である。無論学年内で知らない者はいない。

「まぁ、加賀君たちはバレないように付き合ってたからね」

「だから今まで情報が流れてこなかったのか」

魁斗はようやく納得できた。

と同時に、半年前以降、抑えていた感情が再び芽を出し始めた。

「まぁ、そういう訳で歩夏は完全にフリー状態。だから、山岡君にもチャンスはまだあるよ」

涼香は悪戯っぽい顔をして言った。

 

6か月間、諦めることができなかった。諦めようと思っても好きが上回り諦めがつかなかった。周りからすれば単に諦めが悪いだけだが、それほど歩夏のことが好きだったのである。

 

2

県予選が2日後にまで迫ってきた。

例年ゴールデンウィークを利用して行われる。今年は運良く月火が試合の日なので土日を活用して最後の調整がぎりぎりまでできる。また、今年は総体後にあるOB戦を県予選前に行う事になっていた。

今日はその日で魁斗たちは午後からあったOB戦の結果を受け最終調整を行っていた。

一時的に橋詰と組んでいるダブルスは先週の組みたてのの時に比べ、格段に良くなり、OBのダブルスと競り勝ったのでコーチは驚いていた。

一方隼也は県大会に照準を合わせ、県予選までは感覚を維持するための軽い練習だけを行なっていたので、OB戦では後ろでコーチングをしていた。

魁斗は何かアドバイスがあればと、隼也のところへ向かった。

「隼也、何かアドバイスある?」

「そうだなー、」

隼也は魁斗がアドバイスを聞きに来ると思ってなかったようで、少しの間考えていた。

「シングルは、個々の問題だし、今日勝ってたから別にいいや」

魁斗は隼也がそう言うだろうと思っていたので特に何も思わなかった。コーチにもミスしない程度に好きにしろと言われていた。

「あと、ダブルスは仕上がってきてはいるが、やっぱり橋詰の分までフォローできてないよな」

橋詰は隼也に比べ、やはり全面的に少し劣ると言わざるを得ない。その為、隼也と組んでいる時と同じレベルにしようとすると、その分を魁斗がフォローしなくてはならない。

「予選は難なく抜けれると思うが準決勝辺りからキツくなるかもしれないな」

「やっぱり、ラリーに持ち込まれないようにしないといけないよな」

「そうだな。下がれば橋詰が追いつかなくなるしな。幸い、台上は俺と殆ど変わらない程の技術があることだし」

「わかった。他に何かある?」

「いや、それくらい」

「ありがとう」

 

遂に県予選までに練習できる日が明日のみとなった。

今年は男女ともに個人で県大会無条件出場権を獲得しているので、部活を県大会がある6月まで続けられることは決まっている。だが、できればみんなで県大会のステージに立ちたい。団体戦でも県大会に出たい。

これはチーム全体の第一の目標でもある。

 

 

練習帰り、魁斗は明日の最後の練習でどのようなことをしようかと考えていた。

今のところ調子は悪くなく、いい感じに仕上がっている。なので、今の状態を何としても維持したい。

「山岡君ー」

その為にどのような練習をしようか。

「山岡君ってば」

どんな練習を、、、

「山岡君ってば」

魁斗は背中を強く叩かれた。

誰だろうかと思い後ろを見ると、そこには涼香が立っていた。そして、その後ろには歩夏が立っていた。さらに橋詰まで居る。

何の用だろうと思った。何も思い当たる節は特にない。

「歩夏が相談したいことがあるってさ」

「どうした?」

歩夏は何かを言おうと思ったが、涼香の方を見て少し躊躇った。

涼香はそんな歩夏の様子を見て、

「歩夏、先帰っとくね」

と言って、橋詰と先に駅の方へ向かって行った。

魁斗と歩夏は話しながらゆっくり歩いて駅に向かうことにした。

「で、どうした?まぁ、歩夏が話したくなったらでいいけど」

「うん」

少しの間沈黙が続いた。2人の間には足音だけが聞こえた。

「魁斗って、隼也と喧嘩することある?」

「あんまりないな」

「そっか...」

歩夏は再び黙ってしまった。言うか言わざるべきか迷っているようだ。

いつもなら涼香や唯香、春香に相談などをしているが、どうやら今回はそれができない程の内容のようだ。

少しして、歩夏はやっと話す決意がついたようでようやく話し始めた。

「私、最近になって...大会が近くなって、なんでかわからないんだけど唯香たちが信じれなくなってきて...そのせいで、今日、唯香と喧嘩したし...もう、どうしたらいいのかわからない...」

たしかに、今日の練習中、歩夏と唯香は言い合っていた。だが、単なる意見のすれ違いだと思って見ていたので、ここまで深刻とは魁斗は思っていなかった。

「県予選前に何やってるんだろ、私...」

歩夏は頭を抱え泣きそうになっている。

「ねぇ、魁斗。どうしたらいいの?どうしたらいいか教えてよ」

歩夏は涙目になって必死に訴えてきた。

周りを歩いていた生徒が一斉に歩夏の方を何事かと一瞬見た

魁斗は取り敢えず歩きながらこの場で話すべき内容ではないと感じた。

「歩夏、このあとまだ時間ある?」

「あるけど」

「じゃあ、ちょっと別の場所で落ち着いて話すか」

「うん」

魁斗は歩夏を連れて、魁斗自身がいつも困ったり悩んだりした時に行く場所に行くことにした。

 

3

魁斗が歩夏を連れて訪れたのは隣町に建っているとある建物だった。

1度前に1人で訪れた時にとても気に入り、魁斗は何かがある度に訪れていた。魁斗はここに来る度、帰る時には何もなかったように悩みとかが晴れ、翌日からはのびのびと過ごすことができた。

ここに来れば歩夏も少しはこの悩みが晴れるのではないかと魁斗は考え連れて来たのだった。

魁斗はいつも通り、まず屋上の展望台に向かった。その間、歩夏は「どこに行くの」と聞きたげな顔をしていた。

なので魁斗は展望台に上がるエレベーターの中で、

「ここは俺が毎回悩んだり何かにぶち当たった時に来る場所なんだ。まぁ、なんでここを気に入っているのかは展望台に行けばわかると思う」

と、理由を説明した。

 

魁斗と歩夏は展望台に着いた。丁度、夕暮れ時で夕焼けが綺麗に見えた。

魁斗はいつもの駅が見える場所に向かった。

「ずこい、こんな景色のいいところがこんな街中にあったなんて知らなかった」

「俺はここに来た時、毎回、あの駅の方を見るんだ」

魁斗はそう言って自分達が降りた駅の方を指差した。丁度、運良く、電車が到着し、多くの人が乗り降りしていた。

「あそこに居る人全員が悩んでるかもしれない。けど、そんなことに構わず時間は進み、時間通りに電車は出発する」

多くの人を乗せた電車が重そうに動き出したが、だんだん速くなっていった。そしてあっという間に遠くへ行ってしまった。

「俺たちが何を悩んでもさ、時間はいつも通りに過ぎて行く。なら、悩んでつまらない時間を過ごすより、切り替えて少なくともつまらなくない時間を過ごした方がいいって俺は思う」

歩夏は黙って駅の方をじっと見つめていた。

魁斗は歩夏が何かを言うまで黙っている事にした。

どれくらい経ったかは分からなかったが、空は暗くなり、街の光が来た時よりも明るく光っているように見えた。

「確かに、今悩んでも仕方ないね。今は明日を無駄にしたくないし。それに、私が変に追い詰められてたのかもしれないって思ってきた」

歩夏の顔は来る前に比べて明るくなっていた。話す声も明るくなり悩みが晴れたように見えた。

「少しは気が楽になったよ。ありがとう、魁斗」

「別にいいよ。俺に相談してくる時点で結構追い詰められているんだなってわかったからどうにかしてあげたかったし」

魁斗は少し恥ずかしくなりそっぽを向いた。

「ねぇ、魁斗」

「なんだ?」

「お腹すいたんだけど、どっかに晩御飯食べに行かない?」

「いいよ。行こう」

魁斗と歩夏は展望台の出口へと向かって行った。

 

取り敢えず駅に向かうために建物を降りると親子連れやカップルたちが多くいた。みんなも晩飯時で、各々の目的の店へと向かっていた。

「歩夏、どこで食べる?」

「うーん、手軽に食べれるところならどこでもいいよ」

魁斗は駅前にファミレスがあったのを思い出した。

「んじゃ、駅前のファミレスでいい?」

「うん」

2人は並んで黙ったまま歩いていた。お互い何か話さなければと思っていたが、話のネタがなく...というよりも、明後日に迫ってきた県予選で頭がいっぱいでそこまで思考が追いつかなかった。

気が付けば駅まで戻って来ていた。

相変わらず人の行き来は多く、駅前はごった返していた。はぐれないようにと魁斗と歩夏は自然と近づいていた。

先程から歩夏が魁斗の腕を遠慮がちに掴んでいる。魁斗は気づいていないふりをしながら歩いていた。

「ねぇ、魁斗」

「どうした?」

「また、みんなで県大会に出たいね」

「そうだな。みんなで泊まりして騒ぎたいな」

「うん」

会話が途切れた時に丁度、目的のファミレスに着いた。

少し混んではいたが10分程で席に案内された。

魁斗と歩夏は机を挟み向かい合って座った。

その時、ふと気になる光景が魁斗の目の前に現れた。

「なぁ、歩夏」

「なに?」

「あれって、涼香と橋詰だよな?」

魁斗がそう言って視線を向けた先に涼香と橋詰と似ているカップルがいた。

「どう見ても涼香と橋詰君だけど...あの2人って付き合ってたっけ?」

「だよな。人違いかな」

魁斗がそう自己解決しようとした時だった。

涼香と思われる人物がこちらを向き笑顔で小さく手を振ったのだった。

「え」

「どうしたの?魁斗」

「あれ、多分涼香だ」

そして、涼香たちがこちらの席までやってきた。

「涼香、もしかして後付けてたのか?」

「まさか、山岡君たちがここまで来ると思わなかったけどね」

と涼香。

「先輩、めっちゃくちゃいい場所知ってたんですね」

と橋詰。

「...。」

魁斗はなんて返そうか思い付かず黙ってしまった。

「まぁ、山岡君に歩夏を任せて正解だったよ。歩夏、少しは楽になった?」

「うん。今のところはすっきりしてる」

「そう。よかった。魁斗に相談させてよかったような気がする」

「涼香、ありがとう」

涼香は話が終わると、自分たちの席に戻っていった。

「あ、」

「どうしたの?魁斗」

「上手いこと巻かれた」

どう見ても、涼香と橋詰は付き合っているようにしか見えない。しかも、そうでなければ橋詰がここに居る理由がわからない。少なくとも涼香は関係がない人を巻き込んで尾行とかをする人ではない。ましてや男子の後輩は。

魁斗の中では殆ど確信に変わっていた。

魁斗と歩夏はその後、ゆっくり食べながら話し、帰って行ったのだった

 

4

−県予選当日

遂に、魁斗達にとって最後の県予選の日を迎えた。

魁斗は緊張しつつも、心のどこかではわくわくしていた。自分が今までやってきた事に自信があり、どこまで通用するか楽しみだったからかもしれない。

一方、歩夏はというと、昨日の息抜きのおかげかのびのびとしていた。魁斗が見た感じでは、昨日までよりも涼香達との関係が格段に良くなっていた。唯香とのダブルスも息が合っていて今まで以上にコンディションがよかった。

今は、開会式の途中である。

いつも通りの挨拶、ルール説明があり、棄権選手の連絡をしている。

魁斗や隼也、歩夏や唯香は二次トーナメントから出場なので関係がなかった。

「先輩!」

魁斗のところに橋詰がやってきた。橋詰は前の試合でいい結果を残していたので、トーナメントは比較的いい場所に入っている。

「なんだ?」

魁斗が見た感じでは、橋詰は今朝に比べて気分が楽になっているようだった。

「1回戦の相手が棄権だったんですよ」

橋詰はニコニコしながらそう言った。

「たかが、1回戦だろ」

「そうなんですけど」

「けど、なんだ?」

「とても分が悪い相手だったんですよ」

魁斗は橋詰の機嫌がよくなっていた理由を理解した。

「そうか。なら二次トーナメントまでちゃんと上がってこいよ」

「はい!」

橋詰はそう言ってアップに向かって行った。

 

最初は団体戦の一次トーナメントである。

魁斗のチームは前の県予選で二次トーナメントベスト4の成績を残していたので、一次トーナメントで1回勝てば県大会に出場できる。

魁斗達にとっては余程の事がない限り普通に勝てる相手である。

しかし、魁斗は少し心配になっていた。

新入生でとても強い選手が入っているからである。しかも、さっきの試合ではトップで出ていて苦戦することもなく、余裕で勝っていた。

さらに他の選手も新人戦に比べ強くなっていた。

「正規オーダーを外した方がいいかもな」

 

魁斗はコーチに正規オーダーで行かないほうがいいのではないかと聞いてみた。すると、コーチも同じ事を考えていたようで、どう組もうか悩んでいた。

「トップを橋詰にするか梓川にするか...」

岩城はいつもラストを務めていて、チームに勢いを与えるというよりもしっかりと落ち着いて締めるというプレーの為、元々候補には上がっていない。

また、魁斗自身は戦略上フォース以外に選択肢はない。

「俺は橋詰をトップにした方がいいと思います」

「勢いを与えるという観点で、ということか」

「はい」

梓川はどちらかと言えば堅実に勝つタイプであり、魁斗や隼也ほど応援が盛り上がる訳ではない。一方、橋詰は魁斗や隼也にプレースタイルが似ているため、応援がとても盛り上がり、チームに勢いがつく。

「それでいくか」

 

 

魁斗はさっきの団体戦を振り返りながらチームメイトの試合を見て回っていた。

魁斗自身はシングルダブル共に2次トーナメントからなので、今日はもう試合はなかった。

丁度、今は拓海の試合を見ている。

昨秋に比べ、思った以上にチーム全体が大いに成長し、さっきの団体戦でも安定感があり、魁斗の予想に反して呆気なく勝った。

シングルスでもブロック準決勝だと言うのに団体メンバーは誰1人として負けていない。それどころか、1セットも取られていない。

魁斗は拓海が負ける気配がないと感じたので、隣でやっている試合も見ていた。

噂のスーパー1年生同士の試合である。片方はさっきの団体戦で魁斗と当たり、魁斗が3対1で競り勝った相手である。

取っては取られの展開がずっと続いていて、どっちが勝ってもおかしくない試合だった。

「この2人のどちらかが上がってきたら面倒くさいな、確実に」

そう思って見ていると、気がつけば、拓海は隣で呆気なく勝っていた。

魁斗は次はどの試合を見ようか会場内を見回した。

「男子の方はどんな感じ?」

誰が隣にそう言って座った。

魁斗は顔を向けなくても声で歩夏だとわかった。

「目を疑いたくなるほど出来すぎてる結果、って感じかな」

「へー、そうなんだ。まぁ、あれだけ詰めて追い込んで練習してたしね」

「そうだな。けど、怖すぎるくらいの結果だよ」

「魁斗も負けてらんないね」

歩夏は少し笑っている。

「そういえば、女子はどうだったんだ?」

「春香は苦戦してたけど、みんな勝ち上がってる。ブロック決勝はこっちでするみたい」

「そうか。結構、個人でも県に出れそうだな」

「うん」

昨秋の新人戦で県大会に個人で出たのは魁斗と隼也、歩夏、唯香、涼香だけだった。

しかし、今回はブロック決勝に残っているのが団体メンバー全員である。

もし、全員が抜ければ男女で計9人となる。

そうなれば、ここ最近では最高の結果である。

「そういえば、さっき、橋詰君が魁斗を捜してたよ」

「多分、アドバイスだろうな。最後の方に、見てるのに気が付いてるみたいだったし」

「なら、行ってあげないと。ブロック決勝もうすぐでしょ」

「だな。行ってくるな」

魁斗はそう言って立ち上がり、男子のベンチ裏へ向かおうとした。

「あ、先輩!」

その時、丁度、向かいから橋詰がやってきた。

しかし、歩夏が後ろに居るのを見ると、

「もしかして、お邪魔でしたか?」

と聞いてきた。

「試合会場を何だど思ってるんだ?橋詰は」

「すみません。てっきり...」

「橋詰だって、涼香と居ることあるだろ?」

「え、」

魁斗の言葉に対し、橋詰は返答に詰まった。

「魁斗、試合会場は後輩をいじめたり、いじったりするところじゃないよ」

歩夏はこのままだと、橋詰が可哀想なことになりそうな気がしたので早めに助け船を出した。

「そうだな」

「うん。で、橋詰君は魁斗にアドバイスを貰いに来たんでしょ」

「あ、はい。そうです」

橋詰は歩夏から魁斗に向き直した。

「んーと、まず、下げられた時だな。下がるのは仕方ないとして、そのコースだな」

「コースですか?」

前に比べてラリー力は圧倒的に上がっているもののコースが単調すぎてよく待たれていた。

「コースが単調過ぎてるから取っても全部返ってきて、結局攻め切られる展開が多かったな」

「あぁー、確かにそうでした」

「もう少し、広く使って緩急をつけた方がいいかな」

「わかりました」

「あと、バックが入ってるからいいが、もう少し回り込んでフォアでかけた方がいいと思うな」

「そうですか?」

「うん。回転量がわずかに違う分、混ぜられると面を合わしづらい」

橋詰が回り込みとバックをよく混ぜてくる時、魁斗は面を合わせるとこに毎回注意を注いでいる。しかし、それは毎日練習しているからこそ分かることであり、初見ではとても難しい。

「わかりました」

「まぁ、とりあえずそんな感じだろう」

「ありがとうございました」

橋詰は次の試合が近いため待機場所に向かっていった。

 

5

男子はシングルの県決定戦が徐々に終わっていき、空いた台からダブルスが始まっていた。魁斗は丁度、3台連続で入っていた大雅と拓海、そして橋詰の試合を見ていた。

大雅と拓海は取って取られての展開で今はやや劣勢である。一方、橋詰は難なく2セットを先取し、3セット目に入っていた。

「大雅と拓海が少し危ないな」

隣に来た隼也はそう言った。

「そうだな。2人とも、もう少し打点を変えれたらリズムを崩せると思うんだけどな」

「特に大雅は今のリズムだと相手の方が有利だしな」

「ああ」

大雅は打って攻めてはいるものの、相手のリズムが大雅にしっかり合ってるため、相手は攻められてる感がなく悠々とブロックし、たまにカウンターを仕掛け形勢を逆転させ点を積み重ねていた。

「どんまい、どんまい」

「ここ1本!」

「オール!」

セットカウント、ラブ・ワン。ポイントはナイン・テン。サーブ権は大雅にある。

大雅は少し間を置いてから構えた。

「さっ」

大雅はバックにロングのナックルサーブを出した。

相手はフォアストレートにレシーブした。

大雅は練習してきた展開だったので、フォア待ちしていた。なのでフォアクロスにドライブした。

しかし、相手はクロスで待っていたので、そのまま、ストレートにカウンターした。

「大雅、また打たされたな」

大雅は下がらずを得ず一方的な展開になっていった。

大雅は負けじと色々変化を付けて返すが、相手の方が上手で段々と苦しくなり遂にはフォアサイドを切ったスマッシュを打たれ、それを返すもバック前に落とされて追いつかず取られてしまった。

セットカウント、ラブ・ツー。

大雅は様々なところに振られているせいで既にくたくたになっていた。

一方の拓海はセットカウント、ワン・オールにしたもののいつもの余裕はなくどうにかもぎ取ったという感じだった。

「予想通りの展開だな」

隼也は大雅の方を見ながら言った。

「ああ、そうだな。大雅のやつ、焦って周りが一切見えてなくて自分の世界に入ってる」

「下行って、ベンチコーチしたい」

隼也の声はいつもの冗談を言うときのトーンだったが、魁斗が隼也の顔を見ると、真剣な顔をしていた。

「そうだな。1人でも多く県大会に行きたい」

魁斗は心からそう思った。

1人でも多く県大会の舞台に立っている姿を見たいと思った。

 

 

橋詰は思いの外、そこまで接戦になることなく窮地という窮地はなかった。

実力は少し拮抗していたものの、上からの応援で最初から相手が気圧されている感じがあった。

「早く、上に行かないと」

橋詰は隣でやっていた拓海と大雅の試合を応援するべく急いだ。

橋詰の試合が終わった時、丁度どちらもセットカウント、ワン・ツーで追い込まれていた。

橋詰は階段を上り上に行こうとした時、後ろから声をかけられた。

「あ、あきくんだ」

絶対に聞き間違えることがない、涼香の声だ。

橋詰が後ろを振り向くと涼香はすぐ近くまで来ていた。

「ブロック決勝、どうだったの?」

「3-0で勝った」

「良かったね」

「涼香は?」

「全部、3-0」

涼香は笑顔で言った。

「流石、涼香。前、県大会出ただけあるね」

「まぁね」

「あ、梓川先輩と岩城先輩がワン・ツーで負けかけてるから応援行かないと」

「え、そうなの⁈女子は全員終わったから、応援行くように言ってくる」

「ありがと。先に行っとくな」

「うん」

涼香はそう言って下の体育室へ走って行った。

 

橋詰が上に上がると試合は既に始まっていて大雅はシックス・オール、拓海はナイン・セブンまで進んでいた。

「橋詰、おめでと」

橋詰は魁斗の隣に行った。

「ありがとうございます。今、どんな感じですか?」

「さっきのセットよりは流れがいい」

拓海はセットポイントを握った。一方の大雅も2点リードしていた。

魁斗はこのままの勢いでセットオールに持ち込み5セット目も取って欲しいと思った。

–このままいってくれ

 

6

総体2日目。

昨日は気が付けばブロック決勝まで進んでいた。

結果はここ最近の中では最高だった。

県大会に出場するのは男女団体は両方とも。そして、個人ではシングルは魁斗、隼也、橋詰、拓海、大雅、歩夏、唯香、涼香、春香の計9人。ダブルスは魁斗隼也ペア、拓海大雅ペア、歩香唯香ペア、涼香春香ペアの4組である。

「魁斗の望みが実現して良かったね」

昨日、試合が終わって帰る時に歩夏がそう言った。

「ああ。けど、明日が本当の勝負なんだよな」

その通り、今日が本当の勝負である。

県大会でどの位置に入れるか。やはりその位置によって次の地区予選に出れるかどうかが半分以上決まる。

今日も昨日同様団体戦から始まる。そしてその後はダブルス、シングルと続く。

魁斗達は今日の初戦に向けてミーティングをしていた。

「えーっと、オーダーは俺、岩城、ダブルスは俺と橋詰、んで橋詰、梓川でいく。隼也から何かある?」

「とりあえず、1試合目は県大会1回戦と同じぐらいだと思う。ここで負けると県大会は正直きつい。気を引き締めて確実に勝ちに行こう」

「はい!」

チーム全員の声が揃い、フロア一帯に響いた。

1回戦の相手は県大会に抜けた選手は1人も居ないものの、チームの団結力が強く、予選でも応援で押し切ったセットがいくつもあった。

だが、個々人がやることをしっかりとやれば難なく勝てる相手である。だからこそ、魁斗は自信を更につけるためにしっかりと勝ちたかった。

 

団体決勝トーナメント1回戦が始まった。

相手のオーダーは予選と変わりなく、魁斗は相手のエースと当たることになった。セカンドの大雅は相手の3番手の選手が相手だったが、大雅が少し苦手としている右利きの後陣でプレーするドライブマンだった。

「お願いします!」

それぞれ乱打が終わり試合が始まった。

「先いっぽーん」

魁斗は出だしは必ず短めの展開からと決めてるので、いつも通りフォア前に下を出した。

相手はストップで返したが頂点が少し高くなってしまった。魁斗はそれを見逃さずフォアでバック深くにはらった。無論、相手は詰まり、返した球はとても甘かった。魁斗はそれを台に叩きつけた。相手の返球は虚しくもオーバーした。

「よーっ、よーっ」

幸先のいい滑り出しだった。

 

一方、歩夏達は試合に入るのが一番最後なのでそれまでアップをしていた。

毎回、アップはベンチ裏のスペースで行っている。

「男子の試合が始まったみたいだね」

歩夏の隣でアップしてた涼香がそう言った。

「魁斗達なら1回戦ぐらい勝てるでしょ」

「そうだね。歩夏の彼氏、強いしね」

「魁斗はそんなんじゃない」

歩夏は誤解されるたくないのですぐに否定した。

「とか言って、試合前2人でどこか行ってたよね?」

涼香は追及をやめるつもりはないようだ。

「えっ、そうなの?」

話に乗ってきたのは春香である。

「怪しいと思ってはいたんだけど、、、」

更に唯香まで乗ってきた。

「もーっ、この話終わりっ。みんなしっかりアップして」

歩夏はこの話を終わらせる気満々のようだ。

「私的には付き合っててもおかしくない状態だと思うんだけど」

涼香は歩夏の言葉を敢えて無視して続けた。

「あ、私も」

唯香は笑いながらそう言った。

「まだ、付き合ってない」

歩夏はきっぱりそう言った。しかし収まるような空気にはならなかった。

「まだ?」

「え。まだ?」

唯香と春香がそう反応した。

「ということは、付き合う予定あるの?」

涼香は笑顔でそう聞いてきた。

歩夏は口を滑らせてしまったと思ったが既に後の祭りだった。

「どうなの?」

涼香は更に詰め寄ってきた。

春香や唯香は何も言ってこないものの興味の眼差しを歩夏に向けている。

歩夏は何も言いたくなかったが今となってはどちらにせよ変わらないような気がしたので割り切って諦めることにした。

「総体が一区切りついたら言おうかなと」

歩夏がそう言った途端3人はニヤッと笑った。

 

丁度、その時、魁斗はというと、いつも以上に調子が良く、流れるように試合が進み、既に2セット先取し3セット目も終盤に差しかかっていた。一方の大雅は競っていてまだ2セット目である。

しかし、どちらも負ける気配は今の所ない。

ベンチの隼也達も安心して見ていた。

ナイン・ファイブ。

サーブ権は丁度相手に移ったところだ。

魁斗は相手のサーブがそれほど分かりにくいサーブではなかったのでレシーブからの展開でも2連取出来るだろうと考えていた。

「さっ」

相手はフォア前に強めの下回転サーブを出した。魁斗は無理に攻めようとはせず、フォア前に短くストップで返した。相手はサイドスピンをかけ外側へ流した。しかし、魁斗は相手のその返し方からの展開も練習していたので、難なくかけて返し、なおかつ相手のバック前のサイドを切るように返した。相手は拾うことしか出来ず、魁斗はその球をフォアに叩きつけ、抜いた。

「よーっ、よーっ」

テン・ファイブ。魁斗のマッチポイント。

「ラストー」

「いっぽーん」

魁斗は一旦落ち着き、どのコースに来るか考えた。

–バックロングに純横上かな

回り込めるように魁斗は少し台から距離を取った。

ふと隣の大雅の試合を見ると引き合いになっていた。

「さっ」

相手は魁斗の予想通りバックロングに純横上のサーブを出してきた。

魁斗は待っていたとばかりに回り込んだ。

が、しかし思った以上に外側に逃げ、魁斗は体勢を崩しながら返した。体重が後ろに乗ってしまい、元の姿勢に戻そうとした時だった。

ベンチの「あ」という声が聞こえた。

同時に後頭部にガツンと衝撃がはしり、目の前が真っ暗になった。

 

 

裏でアップしていた歩夏達はフロアの異変に気付きつつあった。

「なんか、急に騒がしくなってない?」

と春香。

「そうだよね。なんかいつもと違う。男子の声が聞こえないし」

と唯香。

「ちょっと見てくる」

と涼香。

歩夏は少し嫌な予感がした。

–さっきから全く魁斗の声が聞こえない

ちょっとしてから、涼香が走って戻ってきた。とても深刻な顔をしていた。

歩夏がどうしたの?と聞こうとした瞬間、

「山岡君が相手と接触して倒れた」

と涼香が歩夏に言ったのだった。

歩夏の頭の中は一瞬で真っ白になった。

 

7

魁斗は脳震盪を起こし倒れたため、競技場内の保健室に運ばれ寝かされていた。

1度起きた時に保健医が診断したところ一応大丈夫そうだということだったので、そのまま保健室で寝かせることになった。

「んっ」

「あ、やっと起きたか」

魁斗は近くに隼也がいることを確認したがどこに寝かされているかわからなかった。

「隼也。ここどこだ?」

「保健室」

「今、どこまで総体進んだ?」

「ダブルスが終わってシングルの決勝ってとこかな」

「団体はどうなった?」

「準決勝で負けた」

「そうか」

魁斗は体を起こした。若干、頭に痛みが残っている。おそらくたんこぶが出来て腫れているのだろう。

「あ、今から魁斗の彼女がこっちに来るってさ」

隼也はスマホを見て、そう言った。

「それ、誰のことだ?」

「村松に決まってるだろ。しかも、もう付き合ってるんだろ」

「歩夏とは付き合ってない」

「なら、なんでずっとくっついているんだ?」

「、、、」

魁斗はなんて返せばいいか困ってしまった。

丁度その時、入り口の扉が開いた。

「魁斗!」

歩夏である。

歩夏はとても心配そうな顔をしていて、今にも飛びついてきてもおかしくない状態だった。

「村松には俺が見えてないっと」

「みたいだな」

魁斗は笑ってそう返した。

「まぁ、お2人で仲良くどうぞ」

隼也はそう言って保健室から歩夏と入れ違いで出て行った。

「歩夏、どうした」

魁斗は笑いながらそう言った。

「本当に心配したんだから」

「そうか」

「うん」

「ごめんな」

魁斗はゆっくりとベットから立ち上がり、歩夏のもとに行き、歩夏の頭の上に手を置いた。

 

魁斗はその後、何も異常がないことを再度確認してもらい、歩夏や隼也、涼香達チームメイトに合流して帰った。

結局、魁斗自身は団体戦の後にあったシングル、ダブルスは共に棄権。チームの最高成績はシングルでは隼也のベスト8、ダブルスは大雅拓海ペアのベスト8だった。

この時、県大会はあと2週間になっていた。

 




※少し雑くなってるので修正するつもりでいます
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