…………………。
俺の神器、『
長く続いた暗い場所を抜けていくと、そこには白い空間が出現する。
広い空間の一角にはテーブル席が置かれ、そこには歴代の所有者ーーー俺からすれば先輩にあたる人たちが座り、うつろな表情でうなだれている。
赤龍帝の籠手の現所有者である俺ーーー兵藤一誠は、この先輩たちと話すことで”覇龍”とは違う進化の可能性を見出すんだ。
一先ず俺は、いつも通り明るく話しかけてみる。
『こんにちはー。兵藤一誠です。また来ましたー』
『……………』
…先輩たちの反応は無い。まあ、これはいつも通りだ。
この後だいたいガタイのいい男性や、女性の先輩に声をかけるけど……今日は俺と同じくらいの歳の先輩に声をかけてみる。
『どーも。俺です。わかりますか
ー?』
『……………』
…これも反応無し。
やっぱりどの先輩に話しかけても、まともな反応は期待できなそうだ。
『無理もないさ。ここにいる誰もが覇龍によって命を落としたものばかりだ。覇龍発動時以外は感情……主に負の感情だが、それらが表に出ることはないはずだ』
ドライグの声が上から聞こえてくる。……覇龍によって、か。
俺も一回、その強大な覇の力に感情を委ね、暴走させたことがある。
あの時のことはよく覚えてないけど、暴走した時の覇龍の力は凄まじかったと聞く。
アザゼル先生によれば、次に使えば確実に命を落とすようだ。……もちろん使うつもりはない。
『なあ、ドライグ。ここにいる先輩たちは皆、覇龍の力に溺れてたのか?』
『ああ。経過は違えど、皆最後は力によって滅んだ。「覇」の力はその者を一時的に覇王にするが、いつの時代も覇王は長く続かない。力に溺れた者の末路なんて、そんなものさ』
『……でもさ、ヴァーリの奴は覇龍の力を制御できていたよな?』
ーーーヴァーリ。現白龍皇であり、俺のライバル……いつか必ず越えたい存在だ。
旧魔王の血筋でありながら、人間とのハーフが故に、バニシング・ドラゴンを宿した奴だ。出生も才能も、俺とは段違いに違う。
『あれはイレギュラーだ。出生が出生だしな。短時間とはいえあそこまで覇龍を使えるのも歴代の白龍皇の中ではあいつだけだろう』
『……なんか改めて考えると、とんでもないのがライバルなんだな。俺』
『現白龍皇が覇龍を持続させられていられるのも、自身の膨大な魔力を消費しているからだ。相棒のように魔力に富んでいなければ命の代わりに削るものがない。……そもそも俺やアルビオンだって、互いの所有者が”悪魔”、”悪魔になる”なんてケースは今までになかった事だからな』
…なるほど。神器を宿すのは基本”人間”だもんな。
ヴァーリみたいな人間と悪魔のハーフ。俺のような人間から悪魔への転生なんていうこと自体が珍しいのか。
……ん?ちょっと待てよ。
『歴代の白龍皇の中で”は”…?って事は、赤龍帝には覇龍を制御できていた先輩がいたのか?』
『………それは…』
『居たのよ実は。歴代の赤龍帝の中でも一人だけね』
ーーーっ!第三者の声⁉︎
言い辛そうにしているドライグの声を遮る声。俺はそちらへ視線を向ける。
そこにいたのは若い女性。ウェーブのかかった長い金髪にスレンダーな体、スリットの入ったドレスを着た美人のお姉さんだった。
突然声をかけられたことにも驚いたけど、俺はそれ以上に目の前のお姉さんに対して驚くことがあった。
『笑って……え?表情があるのか…?』
そう。ここで座っている先輩たちと違って、この人には表情があった。
『…エルシャか。久しいな』
『はーい、ドライグ。久しぶりね』
随分軽い口調だな……一体誰なんだ?
『相棒、彼女の名はエルシャ。歴代のなかでも一、二を争うほど強かった赤龍帝だ。女帝最強の名はまさしく彼女が相応しいだろうな』
『女帝最強⁉︎そんな人がいたのか!全然気付かなかったぞ⁉︎』
『ふふ、私は例外だもの。いつもは神器のなかでも奥に引っ込んでいるから、私からここに来ない限り会うことはなかったでしょうね』
『……ベルザードと共にもう二度と出てこないと思っていたのだが』
『私も彼もそのつもりだったけどね。なにやらベルザードが今の赤龍帝くんに興味を持ったらしくて』
……?話にまったくついていけない!
そのベル…なんたらさんが俺に興味を持っている?ってのは理解できたけど……そもそも、その人も彼女のような”例外”ってやつなのか?
俺の考えてることがわかったのか、その疑問に関してはドライグが答えてくれた。
『相棒、ベルザードとは男の方の歴代最強の赤龍帝だ。女帝最強のエルシャと戦えるのもおそらくベルザードだけだろう。それほど強い男だった』
『そうよ。そして彼もまた、私と同じで所有者の残留思念のなかでも例外なの。……もっとも、もう意識を失いつつあるけどね』
お姉さんはそう口にすると、少しだけ悲しげな表情を浮かべていた。
『……えーと、てことはそのベルザードさんが覇龍を制御できた一人なんですか?それともエルシャさんが…?』
『違うわ。私も彼も、覇龍を制御することはできなかったわ。……力に飲まれて死んじゃったもの』
『……エルシャ。”あいつ”は別に制御できていたわけじゃない。結局はその「覇」の力で死んだのだからな』
『でも、覇龍の力に溺れはしなかったわ。彼は歴代のなかでも唯一、覇龍を使って人々を救ったのよ?』
⁉︎覇龍で……救った⁉︎
一体、どういうことなんだろう?
『あの……その人は残留思念としてここにはいないんですか?』
『……一応いるわ。でも彼の場合、私たちとはまた違った例外だからここにはいないの。ーーーなんなら会いに行く?』
『え⁉︎…大丈夫なんですか?』
『構わないわよ。誰がいつ行こうが、彼は怒りはしないから。……こっちよ』
こうして俺はエルシャさん先導のもと、神器の奥深くへと入り込むこととなった。
***
あれから暫くして、俺とエルシャさんは白いドーム状の空間に足を踏み入れていた。
ドーム状という点を除けばさっきいた場所と変わらない白い空間。
そんな空間の真ん中には少し大きめの白いベッドが置かれていた。
『…エルシャさん。あれは?』
『…?ベッドよ?』
『いや、それは見ればわかりますけど……』
ただの白いベッド。それはわかる。わかるんだけど……。
その大きめのベッドには誰かが眠っていた。
見た感じ俺と同じくらいの歳の男…だな。何処と無く顔立ちが木場に似ている気がする。
『えっと…彼が?』
『そうよ。……彼の名はイオリ。年齢的にはあなたと同じくらいかしら?』
『ああ、そうだな。それにお前ほどではないが、俺とよく対話する所有者の一人でもあった』
『………強かったのか?』
『エルシャたちよりは劣るが、強かったさ。なにより素質が極めて高かった。……あのまま成長していれば、ベルザードやエルシャよりも強くなっていただろう』
っ!…てことは素質に関して言えば、歴代最高の所有者だったってことか!
『……なんでこの人はここで寝てるんだ?他の先輩となんか違うのか?』
『こいつは他の所有者と違って、負の感情を持ち合わせてないからな。覇龍発動時もこいつだけはずっとこのままだ』
『単に赤龍帝としての強い念が残っているからここにいるようなものだしね。彼自身、覇龍に対して歴代の所有者たちのような感情は持ち合わせてないの』
そう口にしたエルシャさんはベッドに腰をかけ、寝ているイオリさんの頭を撫でた。
……エルシャさんも、イオリさんに対してなんかあるのかな?
俺と同じくらいの年齢。そして、覇龍を暴走させずに使った先輩。
一体どんな生き方をしたんだろう……。俺の新たな可能性を模索していく中で、この人の生き様が参考になるのかな?
『……知りたい?彼のこと』
『え⁉︎あ、いや、その……』
『話してあげればいいじゃない、ドライグ。覇龍攻略のためには必要な事になるかもしれないわよ?』
『………別に構わないが』
?なんかドライグの奴、乗り気じゃねぇな。どうしたんだ?
俺はいつも通りじゃない相棒に心配するも、そんなことは御構い無しにドライグはベッドで寝ている男について語り出した。
『……さて、まずはどこから話そうかーーー』
何事もなければ、次回からアカメが斬る!原作スタートです。