これは何所かの国のお話です。
「兵士長、質問があるのですが」
「なんだ」
「兵隊規律のところの最後ですが、『仕事を溜め込まない』と書いてありますが。これは普通規律に書くほどのことですか? 言っては何ですが当たり前のことではないでしょうか」
「そうか、君は他の国から来たばかりだから知らなかったな、これはこの国の昔、確か魔王が復活し勇者が冒険した時の話だ──」
──謁見の間──
「おお勇者よ! よくぞ参った、魔王が復活した今勇者の力が必要なのだ」
「わかりました、では行ってきます」
「おっと気が早いのう、旅立つ前に渡しておかなくてはならない物があるのだ。ほれ」
王様は手帳を手渡した。
「これは何です? 」
「もしモンスターを倒したりしてゴールドが手に入った時にそれに書いとくのだ。モンスターから得た場合も税がかかるからな」
「なんですと」
「街で買い物した武器や防具も申告すれば、経費で落とすことができるからしっかりと書いておくのだぞ」
勇者の旅は始まりました。
「えーと、スライム2匹に巨大蝙蝠1匹で10ゴールド……とっ」
時には闘いの記録を書き留め、
「鋼の剣と傷薬五個で。それと領収書を下さい、宛名は王様でお願いします」
時には買い物の記録を書き留めた。
そして旅は続き、魔王にたどり着いたのだった。
「とうとう此処までたどり着いたか……時に勇者よ、お前は幾頭の魔物を葬ってきたか覚えているか? 」
「ええっと、153冊位? 」
「はっ? 」
勇者は激闘の末とうとう魔王を打ち取った。
「おお勇者よ、とうとう魔王を倒したのだな」
「これにて勇者の任は完了しました」
「これまでご苦労だった、退職金のほかに日々休まず魔物を倒し、人々のために尽くしてきた。後のことは任せて後日また連絡する」
勇者は城を後にした、側近の話では退職金はこれまでの帳簿を整理してからだとか。
しかし1日、3日、一週間が過ぎても連絡が来なかったのでしびれを切らした勇者はお城に行くことにしました。
「たしかこの部屋で事務処理している筈だ……失礼します」
勇者が部屋に入りまず目に飛び込んだのが
大量に書類に囲まれた多くの事務員たちの姿だった。
結局事務処理が終わったのはそれからもう一週間後で、その後その国では仕事を溜め込まない方がいいという教訓話として語り継がれるようになりました。めでたしめでたし。
「──と言うことがあってな。その事実から一時期国の法律まで変わりかけたほどだった」
「そんなことがあったんですか、だから城の壁画に書類に囲まれる人の絵があったんですね」
「ああ、だから貴様も仕事は早く片づけておけよ」
兵士長はそういうと足早に歩いて行った、しかし魔王を差し置いて記録に残るとはさぞ恐ろしい仕事量だったのだなと兵士は一人思った。