「……うぅぅ……」
ほんの少しばかり、ルフェイは落ち込みながら口を動かす。結局あのままルフェイも一誠も寝てしまい、朝食が昼食になってしまったのだ。
ちなみに余談ではあるが、起きたルフェイが一誠に抱きしめられていてパニックになっていたり、朝食がすっかり冷めてしまい、それを落ち込みながら魔法で温めるルフェイの姿があったりする。
「美味いな、これ」
一誠はスプーンを動かしながらそう言う。ルフェイが作ったものはシンプルだ。野菜と肉の煮込み料理。カレーやシチューよりもポトフの方がイメージとしては近いかもしれない。それにパン。朝食なので、さっぱりしたものを作ったのだ。さらに、これにプラス素揚げされたジャガイモ。これが、一誠達の朝食兼昼食だ。
「そうですか?」
嬉しそうに、そう訊くルフェイ。
「ああ」
一誠の肯定の言葉を聞いて、さらに嬉しくなるルフェイ。
それから、数分間食事が続く。
「それじゃ、飯も食い終わったし、往くか」
一誠がそう言い、立ち上がる。そのまま片手に魔法陣を展開すると、流し台に積まれていた洗い物が綺麗になる。
「あの、何処に行くんですか?」
ルフェイが綺麗になった食器を食器棚に戻しながら訊く。
「ルフェイの日用品の買い物だ」
「ええ、その、悪いですし、いいですよ」
ルフェイはそう言うが、一誠は聞く耳を持たない。
「つっても変えの服とかねぇだろ?」
「あの、隠れ家の方に何着かは……」
ルフェイがそう言うと、一誠は眉を寄せる。
「『禍の団』のか?」
「はい」
「なら却下だ。オーフィスの野郎が出てきそうだしな」
そう言って、一誠はルフェイの手を引っ張る。
「行くぞ」
「……はい」
ルフェイは諦めたのか、苦笑しながらそう答える。
あれから十数分後、一誠達は巨大なショッピングモールに来ていた。リアスとソーナのレーティングゲームの舞台ともなった駒王学園近くのデパートだ。
「大きいですね」
ルフェイは唖然としながらそう言う。それもそうだろう、ここは日本でも有数の規模を誇るのだから。
「確か洋服店はこっちの方だ。それとも、日用雑貨の方を先に見るか?」
一誠がそう訊くと、ルフェイは遠慮がちに言う。
「それじゃ、近い方からお願いします」
「おう」
一誠はルフェイの手を引っ張りながら歩き始める。それはまるで、子供が母親を急かしている様だった。
「結構疲れますね」
本当に疲れたといった感じのルフェイが苦笑しながらそう言う。疲れたと言っても体力的にではなく、精神的にだ。
「ちょっと待ってろ。飲み物買ってくるから」
そう言って、一誠はルフェイの傍を離れる。
「……ふぅ」
ルフェイは近くのベンチに腰を降ろし、一息つく。
(なんか、なし崩し的に一誠さまのお家にお世話になっちゃてるけど、いいのかな?)
お世話になっていると言っても、一誠がルフェイを拉致に近い形で家に招き、食事を作らせているのだが。
そんな事をぼんやりと考えているルフェイに近づく人影がある。
「ねーねー、キミ、今ヒマ?」
数人のガラの悪い男性がルフェイを取り取り囲むように並ぶ。ナンパである。
「……あの、どちらさまですか?」
ルフェイは困惑しながらそう言う。ここで、冷たい反応をしないのはルフェイの優しさ故だろ。
「あーっと、驚かせちゃった? キミ、外国の人だよね? 日本語上手いねー。どう? 町を案内してあげるからさ、これから一緒に遊ばない?」
顔を気持ち悪くにたつせながら、男性はルフェイにそう言う。
「すみません、人を待っているんです」
「なに、彼氏? それとも女の子の友達?」
「一誠さまは男性です!」
そう言うと、男性は少しばかりルフェイを見下しながら哂う。
「さま? なに、キミの彼氏、キミにさま付けする様に言ってんの? マジかよ」
そう言って、周りの男性たちも笑い始める。
「っま、そんな男の事なんてどーでもいいからさ、一緒に行こうよ」
そう言って、男性はルフェイへと手を伸ばす。当のルフェイは仕方がないから眠ってもらおうと、魔法を発動させようとした時だった―――。
ガシッ!
ルフェイへと伸びていた手を横から、掴まれたのだ。
「……あ?」
男性が不機嫌そうに手を掴んだ存在を確認しようとした瞬間、その男性は地へと叩きつけられていた。そして、そのまま仰向けに倒れている男性の顔面が踏まれる。
「がぁぁぁぁっぁあ!?」
顔をおもいっきり靴底で踏まれたのだ。男性は痛みのあまりに、もがきそうになるが、男性の顔面を踏んでいる存在の所為で、動くことができない
男性の顔面を踏みつぶしていた存在、一誠は男性を見下しながら言う。
「おい、汚ねぇ手でルフェイに触れようとしてんじゃねぇ」
「てめえ!!」
男性の仲間の一人が一誠へと殴りかかるが、その男性は首根っこを掴まれ、持ちあげられる。
「てめぇ等のような虫けらが俺の視界に入るんじゃねぇよ」
「ガ……ごぁ……」
一誠に首を絞められ、男性は白目をむき始めている。男性が意識を失いかけた瞬間、首に込められた力が消え、男性は地面に落とされる。
「がふ……ごほっ……」
男性は首を抑えながら咽、その口からは汚く涎が垂れている。そんな男性の状態を気にもかけず、一誠は男性を見下す。
「おいカス、今すぐ失せろ。次に俺達の視界に入ってみろ、呼吸をしてみろ、喋ってその汚い声を聞かせてみろ。……殺すぞ」
一誠がそう言った瞬間、男性達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「大丈夫か? ルフェイ」
「はい、大丈夫です」
ルフェイがそう言うと、ほっとした表情をする一誠。
「そうか」
一誠は手に持っていたペットボトルの一本をルフェイへと渡す。
「適当に炭酸系を買ってきたが、大丈夫か? 一応柑橘類もあるが」
「大丈夫です」
ルフェイは渡されたペットボトルのキャップを開け、中身を飲み始める。
「結構いい時間だな。何処かで飯でも食ってくか?」
「ええと。……お任せします」
ルフェイは少しばかり考えたあと、そう言う。
「よっし、食いに行くか。何かアレルギーだったり、嫌いな食べ物はあるか?」
「いいえ、アレルギーは無いです。食べ物も虫とかのゲテモノでもない限りは平気です」
「そんじゃ、寿司や天麩羅でも食いに行くか。……それともすき焼きのとかの方がいいか?」
一誠がそう訊くと、ルフェイは少しばかり悩む。日本の食に関する文化は世界でもトップクラスであり、ルフェイだって刺身や天麩羅に興味がある。
「あの……、一誠さまの御勧めで」
「わかった」
一誠はルフェイに手を差し出す。ルフェイは差し出された手をおずおずと掴む。
「んじゃ、行こうか」
一誠はルフェイの手を強く握りしめると、そう言う。
「はい」
ルフェイはまるで花が咲いたような笑みを浮かべ、一誠に応える。
「やっぱり、日本食は美味しいですね!」
ルフェイは上機嫌でそう言う。結局一誠達が行ったのは料亭だ。寿司も刺身も天麩羅もすき焼きも食べられる所に行ったのだ。……ちなみに、値段は目玉が飛び出るかと思うほど高い。
「美味かったか。なら、よかった」
一誠はそう微笑みながら言う。これだけ喜んでくれている。誘った方も嬉しくなるというものだ。
「一誠さまは、やっぱり日本食が好きなんですか?」
ルフェイが一誠にそう訊く。少なくとも、今日から一誠の食事の支度をするのはルフェイなのだ。ルフェイ自身も一誠に喜んでもらいたいので、これを機に好きなものを聞こうとする。
「そうだなぁ。基本的に飯は適当だけど、中華や和食の方が洋食よりかは好きだ。ってか、パンやパスタより、米やラーメンの方が好きだな」
そう言う一誠だが、実際にはそこまで食には拘らない。……さすがにウナギのゼリー寄せやバロットみたいなのは無理だが……。
「そうなんですか、判りました」
そう答えるルフェイだが、実はかなり悩んでいる。基本的にルフェイが作れる料理の主食は、パンかプティング。またはパリッジか、たまにパスタだ。
日本食を勉強しなきゃ! と、内心燃えるルフェイ。
「帰って、とっとと寝るかぁ」
そう言う一誠だが、ルフェイも一誠も昼過ぎまで寝ていたので全然眠気は無い。
「あの、私一誠さまと魔法についてお話したいのですが……」
ルフェイが遠慮がちにそう言う。それにはさすがの一誠も困惑する。
「俺はマグレガ―の野郎みたく、魔法に詳しいわけじゃねぇぞ? 使えないわけじゃねぇけど、それでもルフェイほど使えるとも思えねぇしな」
そう、一誠が使用するのは基本的には魔力と魔力を運用した魔法だ。それも、文字通り異世界のだ。
確かに、この世界の魔法も使用できるが、それはよくて二流程度だ。この世界でも、人間でありながら魔力を使用する者がいる。だが、それは何世代も昔の先祖が悪魔とまぐわったためだ。そういった存在は人間でありながら、魔力を使用する事が出来る。しかし、それは一誠の力とは根本的に違う。……ちなみに魔力の生み出し方が違うだけで、悪魔が使う術式を一誠も使用することができる。それこそ、電力の発電と似ている。水力や風力でも電気を生み出すことはできるし、火力や太陽光でもそれは可能だ。ただ、方法が違うだけ。
「術式とか、そういったことを聞きたいんです。一誠さまは魔力と魔法の両方が使える方ですし」
実際に魔力と魔法の両方が使える者は少ない。魔力はイメージ、魔法は計算だからだ。国語や理数をその道のプロレベルまで理解している者は稀有だろう。そう言った意味では、悪魔であり、魔力を自在に操りながらも計算を得意とするアジュカ。魔力に魔法に仙術に妖術の何でもござれの黒歌。本を読んだだけで北欧式の術式を覚えるヴァーリや人の身でありながら仙術を扱える一誠は異常の類、化け物と言っても過言ではない。
「まぁ、いいけどな」
一誠は苦笑しながら、そう答える。この世界で一誠だけが扱える魔法があるが、それは所詮異世界の魔法。さらに一誠はその魔法を一度も使ったことがない。使うほどの相手が存在しないというのが、最大の理由なのだが。……ちなみにそれだけ、規格外な魔法であるがオーフィスやグレーレッドには効かない。まぁ、使用する魔法の相性の有無を考えれば、魔王クラスなら一命を取り留められるかもしれない。
「ありがとうございます!」
こんだけ嬉しそうにしているのだ、そのくらい良いかと思う一誠。しかし……、
「その前に、風呂に入ってからだな。昨日はなんだかんだで入っていなかったからな。気持ち悪くて仕方がない」
一誠がそう言うと、ルフェイも苦笑しながらハイと答える。
「んじゃ、とっとと帰るか」
そう言ってルフェイと一誠は歩みを速める。一誠は、チラリとある個所に視線を向け目を細める。しかし、興味を失ったようで、そのまま歩く。
「―――カぁッ! ……ハアハア」
「あれが現赤龍帝か。とんでもない化け物だな……」
「まったくね。『
「ああ。半信半疑だったが、納得だ。あんなのが同じ人間だとは思いたくないね」
「そうね。彼がこちらに気づき目を細めた瞬間、心臓が鷲掴みされたかと思ったわ」
「それはこちらも同じだ。…………。―――いま、曹操から連絡が入った。ほう、これは……」
「どうかした? もしかして―――」
「ああ、
何故かの二日連ちゃんです。……誰得だよ。
しかし、ようやく原作9巻、修学旅行編まで来ました。正直、作者は最初のころ、ここら辺が書きたくて仕方がなかった。長かったじぇ……。
次回の投稿日時は不明です。明日かもしれないし、一ヶ月後かもしれない。……たぶん、失踪はないと思う。
ともかく、このような駄文ですが、楽しんでいただけたら幸いです。