焼け払われた大地。その真ん中でロキは立っていた。
「(また、これかいな…)」
あの時から幾度となく見てきた夢。
あいつと対峙した時の夢。
ロキは、いつも通り焼け払われた大地の上をまっすぐに歩く。
この夢を見だした最初の頃は、あいつから逃げるために色々なことをしたが、結局は無駄だった。
「(おった)」
歩き始めて10分。いつも通りあいつはいた。
3つの龍の顔を持つ絶対悪アジ=ダカーハが。
効かないとわかっている神の力を右手に集め、絶対悪に向けて放つ。
それを見つけたあいつは
鬱陶しい小蝿を払うようにかき消した。
そんなことができる理由。
「本来ならば自分の手札を教えるなど愚の骨頂なのだが、我は絶対悪。屈強な闘士を力でねじ伏せ、小賢しい策をより悪辣な知謀で陥れる。自分の手札を知られたぐらいでは打倒されるわけにはいかん。我が力のうちの一部『アヴェスター』。これはてきが神だった場合、その神の力を我が力とするものだ」
スキル『アヴェスター』。
正確には絶対悪とて神なのでスキルではないのだろうが、そんなのはどうでもいい。
これがあいつの力である限り、神はこいつとの戦いでは必然的に不利を強いられる。
だが、本当に恐ろしいのはそこではない。
「まぁ、こんなものを使わんでも貴様などそこらにいる虫と変わらん」
こいつの地力。
自分自身の力だけでどんな神でも圧倒することが出来る。星を砕く力。神の目をもってしても捉えることのできないスピード。どんな策をもってしてもそれを上回る頭脳。
誰が勝てるというのだろうか。
うちは、目の前の悪に殺されて神界へ強制送還されたところで目を覚ました。
× × ×
バッ!
布団をはねのけて、飛び上がるように起き上がる。
「はぁ…はぁ…」
あれからもう何百年も経っているというのにあいつからは解放されていない。
自分だけではなく、この世界も。
ダンジョン都市『オラリオ』。
あいつが封印される間際に残した大きなクレーターとあいつの血から生まれたモンスターを倒すために作られた都市。
今では大半なモンスターはクレーターに押し込めて上から建物で蓋をしている状態だ。
こうして作られのが、ダンジョンであり、オラリオ。
「朝から嫌な夢見たわ…」
絶対悪アジ=ダカーハ。
人類で知らぬものはいない名前。
一度あのアジ=ダカーハが出てくる『悪の龍』を読んだが、あんなものではなかった。
地面は全て絶対悪によって焼き払われ、人類は地下に住まざるをえなかった。
しかし、地下でさえもあいつの炎によってサウナのような暑さになっており、ギリギリ住むことができるといったものだった。
他にも食糧問題などで人間同士の殺し合いが起きた。
そんな状態を表すことができるのは『混沌』の二文字。
あとうちが現れたシーンで、人間を助けるために現れたみたいな風に書いてあったが大きな間違い。
ただ面白そうだったから降りてきただけなのだ。
まぁ、それがこんな風にトラウマ背負うようになってしもうたんやから因果応報かもしれない。
「英雄…か」
英雄。あのアジ=ダカーハを封印することに成功した英雄。
神でさえ手も足も出なかったアジ=ダカーハを封印した英雄。
その英雄は、単純に考えて神を超えている。
考えてもみて欲しい。
あいつに傷をつければモンスターが生まれるのだ。
それを捌きながらもあいつと戦うなど不可能。
それでも、その英雄は持ち前の勇気で諦めなかった。
その結果は死という最悪なものだったが、得られたものは大きい。
それが封印。
神もその時は総出で手伝って封印したらしい。うちはまだ倒れて寝ていたけど。
今考えてみるとなぜアジ=ダカーハは倒されたことに怒るのではなく、封印されたことに怒ったんや?
分からない。頭の中ではてながぐるぐる回っている。
考えていても仕方がないと思い、思考を切り替える。
「さて、今日も子供達のために頑張ろ!」
× × ×
ダンジョンのどこか。
絶対悪は、上へ上へと向かっていた。
「人類共は平和に過ごしたいるのだろうか」
怒りをにじませ
「我を封印したことで乗り越えたとでも思っているのだろうな」
呆れを感じ
「そんなことを放っておくのだろうか。本物は」
本物を見据え
「否。そんなことがあるわけがない」
上に向かい吠える。
試練を再開するために。
悪は平和へと近づいている。
アヴェスターについて多くの指摘をいただいたので少し説明を
人類の思想を持つもの要は生まれた時に人類であればアジ=ダカーハのアヴェスターを潜り抜けることができます。
しかしそのままそれを適用してしまうと、エルフや狼人などがアジ=ダカーハに対抗できなくなるため弱体化で生まれた時に神でなければアヴェスターを潜り抜ける事ができるということにしています。