そう笑って出て行った兄の手は、たった数日でボロボロになっていた。
行かないで、そう泣きわめくことも出来たと思う。
でも、できなかった。涙を抑え、いってらっしゃいと言葉を返す。
心のなかで、もう会えない、そんな気がしていた。
その日、私は、ひとりぼっちになり、かってにのろいをつくった。
腰を強かに強打した。あまりの痛さに足を伸ばして痛みに耐える。こんな乱暴な召喚初めてだ!と怒鳴り散らしたい衝動を抑えて上半身を起こした。一言ぐらい文句を言ってもいいだろう。仮にもサーヴァント。英雄なのだ。自分は英雄と言っていいのかわからないが、もし自分より偉大な英雄を召喚していたらまず謝るだけじゃ許してもらえないだろう。ぐるりと当たりを見渡すと、壊れた机に椅子、ボロボロになったカーテン。全部綺麗な状態。しかもマスターらしき魔術師は見当たらない。なんだ、なんだここ。もしかして私は世界の守護者として此処に呼ばれたのだろうか。
「ちょっと!!開かないわよ!!」
どんどん、と扉が叩かれる音がした。びくんっと体を揺らし、扉を見つめる。どうやらマスターは居るらしい。私が召喚される際に建て付けが崩れたようだ。なかなか扉が開かないようで声の主(トーンからすると女性のようだ)がキレたように扉を蹴る。ばんっと勢い良く開く扉に内心驚きながらなんとなくキザったらしいポーズで構えてみた。+ドヤ顔だ。自分ながらに殴りたくなるがそこはグッと抑えよう。女性を見てウインクをしてみる。ウインク、出来たかな。
「…うそ…」
私を見て、そうつぶやき突然頭を抱えしゃがみ込む女性になんだか釈然としない。小さい声で「今日に限って一時間早かったんだ…」と言う女性にどうやらうっかり時間を間違えてしまったらしい。女性はツメが甘いらしい。
ジロリと私を見つめ「あんた、何」と言う女性に私はため息がでた。
「開口一番それか、とんでもないマスターに引き当てられたものだな」
「皮肉はいい。あなたは私のサーヴァントなの?」
「君こそ私のマスターなのか?」
「ええ、此処にあるわ」
すっと左手の甲を見せ、令呪を見せつける。どうだ、と言う顔をする女性になんだか呆れてきた。こんなに簡単に令呪を見せつけるマスターが居るなんて、危機感がないにも程がある。「…ちっさ」と呟かれた言葉は聞かなかった事にしよう。
「私が見たかったのはそう言うことではないよお嬢さん。私が君に忠誠を揮うに相応しい人物かどうかだ」
むっとする顔の女性。よく見るとまだ思春期の子供だ。年齢も、多分17ぐらいだろう。ふてくされた顔は直ぐ様不敵な顔に変わり「マスター失格かしら?」と私を挑発してくる。
「いいや、まったくもって不本意だが君をマスターとして認めよう。だが、今後一切私は君の言い分には従わない。戦闘方針は私が決める」
女性の目が大きく見開かれる。屈辱を受けた顔。
「形式上は君に従ってやる。でも戦うのは私自身だ。君はこの家の地下にでも隠れて聖杯戦争が終わるまでじっとしていればいい」
それが一番安全だ。死ぬのはサーヴァントである私だけ。戦闘ができない幼い魔術師は、安全な場所で隠れてるのが一番いいのだ。砂嵐に紛れた記憶、自分のサーヴァントに斬り殺された「彼」の姿を思い出す。ちくりと頭に痛みが走り、英霊の身を持って、本当に、久々に頭痛を感じた。ぷるぷると震える女性に「怒らせてしまったかな?」と頭痛を無視して笑ってやった。
「大丈夫だ。私の勝利は君のもの。戦いで得たものも全て君にくれてやる。」
私に望みなんてない。
「後のことは私に負けせて自身の安全を考え給え。」
そう、マスターが生き残らなければ意味が無い。
「君には何も望んでない」
望んでしまえば、マスターは死んでしまうのだから。
「あったまきた!!!!!」
突然の怒号に体が震えた。ぎゅうっと体を縮こませると怒り心頭と言わんばかりの顔が私を見る。あ、これ嫌な予感しかしない。
「そんなに言うなら使ってやろうじゃない!!『Anfang!』」
「?!まさか君、令呪を…?!」
私の言葉を最後まで聞く前に、女性は叫ぶ。
「私のサーヴァントなら私の言い分には絶対服従ってもんでしょ!!」
令呪の力が私の体を押さえつける。重たい魔力が体を付きぬけ、私はがくんと膝を付いた。息を吐き出し、深く吸う。そして彼女を睨んだ。
「馬鹿か君は!こんな事に令呪を使うなど!」
私の言葉に恥ずかしそうに頬を染める女性。
私は頭を抱えそうになった。ほんと、とんでもないマスターに引き当てられたようだ。
「令呪はサーヴァントを使役する三回きりの命令権。肉体の限界さえ突破させる大魔術の結晶、それが令呪だ。」
巫山戯た命令で2つに減ってしまったがね。と付け加えながらそういえば知ってるわよ!と悲鳴が上がる。知っているなら何故使ったんだ!と小一時間問い詰めたくなった。しかし、こんな令呪は本来なら無効なはず、なのに私は今、彼女に強い強制を感じていた。どうやら年齢は低いが魔術師としては立派らしい。
「…しかし君をただの子供だと侮っていたよ。前言を撤回しようマスター。」
「え?」
座っていた場所から立ち上がり彼女の前で膝を付く。騎士が王に忠誠を誓う姿勢をとり、彼女に、マスターに謝罪した
「子供と侮り戦いから遠ざけようとしたのは私の過ちだったようだ。無礼共々謝ろう。君からの魔力提供量も十分に着ている。君は、間違いなく一流のマスターだ。」
彼女、いやマスターの顔がどんどん赤くなる。「今更ほめたって遅いわよ!!」と言う彼女に顔が緩んだ。思ったより愛らしいじゃないか。
「と言うかアンタだって子供じゃない…」
ぼそっと聞こえた言葉に今度は私がむっとする。別に子供じゃない。歴とした大人だ。確かに背は低いようだが。
「所でアナタセイバー?」
マスターがそう問いかけてくる。立ち上がって両手を見つめ「残念ながら剣は持ってないな」と答えればマスターはあからさまに残念な顔をした。なんだか悔しい。なんだ、セイバー狙いだったのか君は。
「ドジッたわ…アレだけ宝石を使っておいてセイバーじゃないだなんて」
「…悪かったな、セイバーじゃなくて」
「ん?別にアンタは悪く無いわよ?ミスったのは私なんだから」
なんとでもないように言うマスターにますます悔しくなる。本人の目の前でハズレサーヴァント呼ばわりされれば誰だってそう言いたくなるだろう。なのに彼女はあっけらかんとしていてもう!もう!!
「今の暴言、絶対後悔させてやる」
私の言葉に「やっぱりアンタも子供じゃない」とマスターは笑う。
「じゃあ、絶対私を後悔させてね、アーチャー」
「…今の言葉を忘れるなよ。その時になって謝ってもきかないからな」
また彼女が笑う。私も微笑む。然程身長の変わらない私と彼女が並び、私は再び彼女に忠誠を誓った。
乱暴な召喚で記憶は混乱している。
彼女にそう答えた時、カエルでも踏み潰したような顔をした彼女の顔は傑作だったと思うし、逆に私が召喚されて壊した居間を掃除しろと言われ同じ様な顔をした私も、彼女にとったら傑作だった思う。
「地獄に落ちろマスター」
と命令を受けた際、ちりとりと箒を持ちながらそう言ってしまった私は絶対に悪く無い。悪いのはマスターだ。
居間を完璧に掃除し終え満足気に手をパンパンと叩く。時刻を見るともう朝日が昇っていて、何時間掃除に夢中になっていたんだと笑いがこみ上げてきてしまった。
ぷつん、と
何かが頭を過る。一人の男性が部屋を散らかしていて、マスターぐらいの少年がその部屋を片付けている風景だ。
『■■■もこっちに来て手伝ってくれるか?』
『■■■、こっちにおいで』
二人がそう呼ぶから、そうやって、私を呼ぶから、私は、私は―――――。
「…ちょっとはあんたを見直したわ」
突然の言葉に私は後ろを振り向く。
寝巻き姿でぽけっとしているマスターに召喚約数時間、何度目か忘れてしまったため息を吐いた。もう日は昇っているぞ?と言えばうん、としか言わず、彼女は朝に弱いことを知った。これじゃあ話になりゃしない。
「…そこに座っていたまえ。今からモーニングティーを用意しよう。ミルクはいるかね」
「…ストレートでお願い」
「了解したマスター」
綺麗に掃除された居間のソファーにちょこんとマスターは座る。再び出そうになったため息を抑え私はキッチンへと向かった。彼女が来る前に用意していたティーポット、温めておいたカップを銀の盆に乗せ、茶葉やお湯を注いでいく。急いで、でもなるべく余裕を持って居間へ向かうとまだ寝ぼけて居る彼女がどこか虚空を見つめていて怖い。
紅茶を用意して彼女の前に差し出せば、のそのそと紅茶を手に取り一口。「おいしい…」と呟くマスターに「ありがとう」と言っておいた。
「あ、そういやあアンタ、自分の事を思い出した?」
「…いや、まだだな。まだ混乱が見られる。でも大丈夫だ。君が引き当てたサーヴァント。最強でないはずがない」
ぱちんとウインクをすれば「あんたその形容でウインクって…」と呆れられた。うん?その形容?
「むやみやたらに短パンの少年、しかも太ももにベルトを巻いたヘタしたらこっちが変態扱いされそうな子が、ウインクばっかしてたら将来ろくな大人にならないわよ」
はあ、とため息を吐くマスターに一瞬だが唖然としてしまった。ああ、彼女も誤解してる。私は確かにこの見た目、一見少年にしか見えないが、れっきとした女なのだ。しかも実際は彼女より年齢は高い、筈だ。うん。まあ、男と間違われるのはよくあることだからもう訂正はしないでおこう。
「分かった、善処しよう」
出した言葉にマスターは納得したように笑った。
「アーチャー、これを飲んだら出かけるわよ。この街、冬木のことを知ってもらわなきゃならなし」
「ああ、それは良いがマスター、私達は契約において最も重要な交換をしていないぞ」
「え?」
「私に真名を聞いておいて、己の名は名乗らないのか君は」
「あ・・・」
はっと気付いたように口を抑えるマスターに私はポットを置いて漸く気付いたかと呟く。マスターは頬を赤く染めて私を睨むが無視をした。
「それで、これからはなんと呼べばいいかな」
「・・・遠坂凛よ。好きに呼んでいいわ」
遠坂凛、とうさか、りん。
まるで嵐が来たかのように脳内にフラッシュバックする記憶。上手く呼吸が出来ず、声も出せない。
手が振るえ、今すぐここから逃げ出したくなった。
何もかも、英霊になってから消耗してなくなっていた記憶。少ない確率にかけていた。
「・・・---アーチャー?」
マスターが私に声をかけてくる。
思い出した。断片的だった記憶も、全部。目の前に居る、彼女のことも。私を助けてくれた、彼女を。
「りん、それでは、凛と。この響きは、実に君に似合ってる」
あの頃は呼べなかった名前。噛みしめるように彼女の名を繰り返す。
マスター、凛はごほっと噎せていた。
『ごめんなさい』
目の前で頭を下げる、あこがれの人に私はふるふると首を降る。何があったのか、それを問いただす理由も意味もない。だって、こんなにぼろぼろなのだもの。何があったか、幼い私でも大体検討はついた。
彼女とともに出かけた兄は、帰ってこない。せいはいせんそう、という戦いに巻き込まれた、というのは聞いていたし、生きて帰れるかわからないとも言っていたのは聞いていた。正確には、盗み聞いていた。
『まったく、アナタにこんな顔をさせるなんて、女性の扱いがなっていない人だな』
精一杯、見栄を張った。泣き出して、わめきたくなるのを抑えて、笑みを浮かべた。
『■■■』
『遠坂さん、ありがとう』
わたしは、大丈夫だから。見栄で涙を流せない私の代わりに、ボロボロと涙を流す彼女の背中を撫でる。
『まったく、しかたがない、なあ』
二人が言っていた、正義の味方に、私がなるしかないじゃないか。
そう思い込まなければ、私は、今にでもいなくなってしまいそうだったから。
勝手に、勝手にそんな呪いを作って。
---弱いわたしは、そうやって人から逃げたんだ。
「ここは見通しが良いでしょ?」
散々冬木を歩き回ったあと、凛が連れてきたのは新都のセンタービルの上だった。初めからここにこればよかったじゃないかと愚痴れば「それじゃあ意味ないのよ」とすねた声がする。自分の居た世界と並行世界の遠坂凛。でも根本は何も変わらない。感情が豊かで、だれにでも優しい、がたまにうっかりを発動してしまう、私にとって愛おしい人。
「実際にその場に行かなきゃ街の全景はわからないでしょう?」
「・・・そうでもないぞ凛。弓兵は目が良くなければ務まらない。そうだな・・橋、あの橋のタイルの数くらいは数えれる」
なんでもないようにそういえば、凛は驚いた顔をして私を見つめた。
その顔は尊敬や驚き、いろんな感情が入り乱れていて、なんだか滑稽だ。
「アーチャーって、本当にアーチャーなんだ・・・」
目を凝らして私と同じように橋のタイルを数えようとする彼女に笑みが溢れる。何枚あるの?と声がして私は焦った。モノの例えだ!とすっとんきょんな声で言えば「じょーだんよ」と今度は彼女が愉悦に浸った笑みを浮かべた。その顔が、やっぱりアンタ子供じゃないと言っているようで悔しい。
「ああ、アーチャー。私ね、聖杯に願いなんてないから」
世間話でもするように、彼女はそう告げた。
「願いがない?」
「ええ、私が聖杯に参加する理由は、そこに戦いがあるから。願いなんていらないわ。ただ勝つためだけに戦うの」
突き刺すような視線。そこに迷いは一切ない。
「・・・やはり、君は私のマスターに相応しい。使える相手としてはこれ以上ないよ」
りん、あなたに、しょうりを。それが、わたしのねがい
凛の満足そうな顔に私も満足気に笑う。
私の願いは聖杯を手に入れることではない。
この世界にいる、■■■■■■を正義の味方にしないこと、そして、彼に守られるだけしか出来ない己を殺すこと。己の運命を変えようとは思わない。ただ、彼の、あの人の運命だけは、変えたかった。それだけだ。ただそれだけのために、運命の歯車を、壊してやろう。
そんな私の思いをあざ笑うかのように、運命は、狂った歯車を動かし始めたのだった。
アーチャー♀の設定
アーチャー(♀)
真名エミヤマシロ
Fate/staynightの平行世界の衛宮士郎の妹であり、第五次聖杯戦争にて聖杯を破壊し死亡した兄に変わり、衛宮切嗣の呪い「正義の味方」を受け継いで生前にアラヤと契約する。数多くの人を救ったが、最後は人々に殺され生涯を閉じる。
聖杯に望む願いはない。もし兄に会えるなら「正義の味方」になるとこを全力で阻止しようと思っている。そして、己が居るなら、真っ先に殺し、己の消失を目論んでいる。
アーチャー(♂)と殆ど何も変わらないが違う所を上げるとすれば「衛宮士郎を殺そうとしない」ということだけ。士郎は己の兄であり唯一の肉親。その為殺すという選択肢はない。がアラヤとの契約で世界の守護者となってしまったことにより精神は消耗。よって無意識に「全力で阻止しようとする=殺してしまっても構わない」となっている。
ステータスも変わりはない。
メイン武器は夫婦剣だが、事と次第によっては弓、又はライフル銃を使って戦う。
【見た目】
赤い外套に、ズボンはショートパンツで浅黒い肌をした少女。少年にしか見えないため殆どのマスターに少年扱いされるが何とも思ってはいない。ついでに胸もない。見た目は12~15程。髪は白髪ボーイッシュ。身長は160(厚底ブーツ含む)イメージは少し幼い衛宮士郎にアーチャー(♂)の肌と髪を合わせた感じ。
---こっからあとがき
プロローグ、どうでしたでしょうか。
一様、赤弓主従の出会いをオマージュ?して作ってみました。
この話は少し前から書いてみたいと思っていた小説だったのでゆっくりですが連載頑張っていこうと思います。グロなどの表現はなるべく控えたいかな?とも思っています。
拙い小説ですがここまでお読みいただきありがとうございました。
見づらい、わかりづらい、やり直せ、消せなどありましたらコメントなどにいてよろしくお願いします。