この中ではイルマ=うちは居間(男性)となってます。順当に生きたじい様となっております。
あったかもしれないお話
四代目火影・波風ミナトとその妻であるうずまきクシナの死を聞いて、老人は立ち上がった。その遺児は生まれながらにして九尾を宿され、周りから忌避されているのだという。それを許せる程、彼は世を儚んでいなかった。
火影の一室を蹴破るが如く開き、彼に似合わぬ乱暴な足取りで部屋に入っていくのは怒りのせいか。弟の同輩たちを睨めつける瞳は紅に染まっていた。
「貴方方は何をしているのですか!」
「居間さん、どうか落ち着いて下され」
火影の言葉に居間は、うちは居間は拳を握り締める。こちらを心配そうに見つめる目に少し冷静さを取り戻せたのだ。しかし、それで怒りが消え失せた訳ではない。
「……ええ。ですが、説明をしてもらっても良いでしょうか?四代目の、生まれて間もない遺児を人柱力にし己と奥方の命を賭してまでも守った里の人間がその遺児を疎む理由を。そして、それを許す里の上部の感情を」
「これもナルトを守る為。ナルトが四代目の遺児である事は隠されておりまして」
「ほう。しかしながら、少し察しの良い者ならすぐに分かる事でしょう?今の私のようにね」
そもそも、四代目の奥方が四代目と共に死んでおり、彼女が「うずまき」で妊娠していた事を踏まえれば金髪の赤子が誰の子供か位すぐ分かる。しかも、うずまきナルトと名乗らせるらしい。隠匿する気があるのかないのか分からぬ話だ。
「次に、何故、信頼の置けぬ人間に赤子の世話を任せるか?聞けば嫌々やっている輩に手荒く扱われているようですが知ってますか?ナルトの柔らかな肌が汗疹で爛れてしまいます」
「恐らく、九尾に肉親を殺されたからでしょうな」
九尾の狐が恐ろしいのは、分からなくない。
現に里でひと暴れしたのも尾獣からすれば戯れか、気まぐれに近いかもしれない。アレは自然そのものであり、歩く天災なのだ。それを巨大なチャクラで操ろうとする事が間違いだとも居間は思っていた。
「九尾に肉親を殺されたから?だから赤子を虐めても良いと?」
だが、その狐を腹に宿した人間を、人柱力を狐であると見なす風潮はどうしても許せぬのだ。
「人柱力を愚弄する事は初代様の奥方様を愚弄するも同じ。他里の人間ならともかく、木ノ葉の忍が四代目の遺児にーーナルトに危害を加える気ならば私が相手になります」
「何をおっしゃる!それではまるで」
花の様な模様が瞳に咲く。万華鏡写輪眼が持ち主の感情に呼応した結果である。
うちは居間が里内でも指折りの実力者である事はこの場の誰にも否定できないだろう。それは初代・二代目火影にも匹敵すると言われる技の多彩さや、器用なチャクラコントロールからもうかがえる。けれども、そう多くの人に知られていないのは、かつて、うちはマダラの側近であったからだ。そして、居間はそれを隠そうともしない。
それでも、うちはマダラと連座して処されぬのは居間の特殊性にあった。千手の血を引き、千手の娘と結ばれたある種の異端であり、うちは一族には珍しい博愛主義にも似た感性の持ち主なのだ。捨て置くには惜しい能力を持っていた。
火遁以外の属性全てを用い、影から影へと駆け、そして相手を確実に仕留める。うちは居間は、歴史の表舞台から隠れて木ノ葉の闇から闇を生き抜いた老獪であった。
「だから?何も知らぬ赤子を贄にして、安寧を保とうとする里ならば滅びてしまうがいい」
普段好々爺然とした老人が
*
「ナルトや、こっちですよ」
「じいじ!」
うちは居間が千手の屋敷でナルトを育てて早、二年。其処には、すっかり孫バカならぬナルトバカになった居間の姿があった。居間にも血を分けた孫はいるが、他家に嫁いだ者や他所に新居を構えた者の子供の面倒を四六時中見る事は叶わなかった。
つまり、久しぶりに思う存分育児に専念出来たのだ。むしろ、戦だ!暗殺だ!と駆り出されていた頃よりも余裕がある分、子どもにさせてやりたかった事も出来た。そして、何よりナルトが可愛いのだ。
「じいじ、大好き!」
「私もですよ」
抱き上げて、頬を寄せる。それだけでもケラケラと楽しそうなナルトが可愛い。可愛いしか言ってないが、心の底からの言葉でありそれ以上の表現がしようもないのだから仕方あるまい。一言で言えば、尊いのだ。
居間は縁側に腰を下ろすと、ナルトのキラキラした青い瞳を覗き込んだ。紅の瞳と青い瞳が交わる時、世界は大きく変わる。其処は、ナルトの精神世界だった。薄暗い廊下を進んで格子の前、相手の攻撃が当たらない場所に立つ。
「こんたろう君、元気ですか?」
「やかましい!」
ガシャガシャと檻の向こうから爪が伸びるも、居間はそれを鼻で笑った。ナルトの封印がしっかりしている事も、咄嗟の時には写輪眼で操れる事も知っているからの余裕である。
「挨拶は基本ですし、九尾と呼ぶのも味気ないので呼んでみたまでなんですけど……このやりとり何回目でしたっけ?」
「ふん!テメェなんざと挨拶する義理もネェよ」
腹立たしげに唸る九尾に居間は笑いかける。剛胆というよりも其処にある現象をただ観察しているようだった。そんな居間が九尾は気に入らない。第一、居間は勝手に奇妙な名前で呼んでみたり、気軽にナルトの成長や里の愚痴をこぼしてみたりと自由過ぎる。
九尾には見える。微笑みを絶やさぬ居間の腹の底にある感情の色も、冷たい程の怒りも全て分かっている。
「……テメェ、うちはマダラと同じかそれより酷ェ。何を恨んでる?」
「全てを」
乾燥した言葉だった。
「いや、愚痴れば長くなるんですけどね。うちは一族の母と千手一族の父、しかも互いに本家本元直系筋が駆け落ちしようとして出来なくて。色々あって私がいるのですが、本当色々嫌な目にもあってきているわけですよ。んで、ちょっと歴史でも変えてやろうかと目論んだんですけど流石に始祖まで遡れそうになくて」
「おい!ちょっと待て」
そして、溜まっていた。しかも、ツッコミどころを多く残した言葉が幾つか混じっていた。歴史修正の為に始祖まで遡るとは聞き捨てならない。さしもの九尾も慌て始めた。
「おや、知らないのですか?うちは一族と千手一族の始祖は六道仙人の息子でインドラとアシュラと言う兄弟なんですよ。折角
のんびりとした口調でトゲも隠さず話す。居間は積年の鬱憤を晴らすが如く語る。
「伝説では遠い昔、化け物を退治した六道仙人がそのチャクラを分けて尾獣を作ったといいます。つまり、尾獣は六道仙人の子も同じーー兄らが親の言い付けも守らずに争う様を見せ付けられたとしたならば人間に呆れと嫌悪を表すのも仕方ない話でしょう」
「お、おう」
九尾の狐、人間の怨念に圧倒される。というより、居間の呟きに微笑みでもって答えられる存在などこの世の何処にもいやしないのだから当然であった。唯一、六道仙人ならば答えられたかもしれないが、その場にいないなら壁に話しかける方がマシだった。
「しかし、不思議なのですがコミュ障で孤高()な我が祖先インドラ様はどうやってお子を成したんでしょうね?犯罪か押し切られる様しか思い浮かびませんが」
ーーあの