鳴門短編集   作:蒼彗

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子供生まれたくらい


ナイショ話

縁側で、隠居老人よろしくお茶を飲んでいるのはうちは居間である。三徹明けの扉間の視界には妙に煌めいて見えるのは間違いではないだろう。

「そんな場所で何をしている?」

先日、子供が生まれたばかりの筈だ。扉間の脳裏には泣き過ぎて目を腫らした居間の顔があった。恐妻家で愛妻家、外柔内剛に子煩悩の称号を得た居間が一人でいるなど珍しい話だ。居間は苦笑いを浮かべながら、手元の糸を切った。

 

「嬉しさのあまり、あの子の服を買い込み過ぎまして。罰として桃華さんに2日程会えない事になりました」

 

手持ち無沙汰になったのか、木綿でくまやうさぎのぬいぐるみを作っている。その隣には色粉で染めた布で作った髪飾りがあり、どれもが売り物の様に美しい。立派な内職として成立するような細工が居間の器用さを物語っている。その器用さを他の事に発揮させればと、扉間は常々思っていた。

 

「まぁ、不要ならば千手の誰かに回せば良いし、あまり気にするな。それより、お前は何時まで里の要職を務めようとしないのだ?」

 

「私では向かないでしょう。それに、コウモリを要職に就けると後が大変ですよ」

 

居間は淡い微笑みを浮かべた。青みがかった黒髪といい紅潮した頬といい、深窓の令嬢然とした儚い表情のクセにその実強情である。一度決めたら、どんな手を使っても実行しようとする。その実態を知ってるからこそ、扉間は引けなかった。

 

「俺が嫌いでも構わぬ。ただ、里の為に働いて欲しいのだ」

 

「私は貴方の事を嫌ってなどいません。むしろ、好ましく思う程です」

 

散々避けてきた話題に切り込めば、居間は小首を傾げながら呟いた。そして、扉間の動揺など御構い無しに続ける。

 

「私が何故、写輪眼を開眼したかご存知で?」

 

写輪眼の開眼は感情の昂りによって得られるもの。喪失感が強ければ強い程大きな力を手に出来るが、その分感情が揺らぐ。その喪失感を愛と呼ぶか、執着と呼ぶかは人それぞれだが少なくとも居間も大切な何かをなくしたのだろう。扉間の視線に頷いて、居間は遠くを見つめた。

 

「昔、幼い私を救ってくれた少年がいました。彼は泣いている私を慰め、自分の一族に来るように誘ってくれたのです。次の新月に会おう、と。でも、彼は来なかった」

 

居間は泣いた。どんなにうちは一族が死のうとも凍り付いていた両目から止めどなく涙が流れた。捨てられた気がしたのだ。

 

「その時、私の世界は壊れました。そして、この目は初めて孤独を見たのです」

 

今思えば、戦場で散ったのかもしれないし、居間と会おうとして殺されたのかもしれない。ただ、その時の感情は確かに今もある。置いて行かれた哀しみと寂しさ、誰にも認められぬのだと思い知らされた子供は居間の中で確かに息をしているのだ。

 

「ーー彼が成長したらきっと貴方の様な男になっていた。だから、感傷が過ぎるのでしょう」

 

居間は知らない。

扉間には、うりふたつの弟がいたことを。

 

 

「私がどんなに頑張ってもうちはの血を引いている事は変わらない。それもマダラの側近であるのも。なにせ、私は桃華さんに捕まってなければ、マダラの元にすぐに飛んでいきそうな凧ですから」

 

「もし、過去が変えられるとしたならばどうする?」

 

「私が出来ることなどたかが知れてますが……何処ぞの迷惑な兄弟を殴りにいきますね」

 

「六道仙人の息子である、インドラとアシュラ。六道仙人が跡継ぎと目したのがどちらであれ、表面上相手を立て支えればよかったのです。長生きした上で子孫同士で結婚させて実権を」

 

「聞いた俺が悪かった!」

 

どろっどろである。

若い娘が好むような愛憎交じった恋愛話より濃厚な話だ。そのドロドロ具合は戦に血肉を分けた家族や親戚を失った男でも戦慄を覚えざるを得なかった。というより、居間がかなり真剣に犯罪計画を立てていた事が主な要因でもある。

 

 

 

 

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