鳴門短編集   作:蒼彗

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うちは女と千手男

類似語:「京女と東男」
→淑やかな娘と、粋な男。つまり、似合いのお二人さん

連載中の「根の女」の過去話です。



うちは女と千手男

鬱蒼と繁る森奥深くを抜けて、少女は頼りない月明かりだけをよすがに進む。

 

少女は、一人だった。

誰にも止められる事もなく歩み、川辺まで辿り着く。先程まであった月も黒い雲に隠されて、僅かな星ばかりが照らしている。そんな夜だ。

 

その少女は水面に映る己の顔を覗き込む。

白い頬、闇に溶け込む髪に異質な紅の瞳。年は5、6才頃か。あどけない表情を浮かべるべき年齢なのに、絶望の色が濃かった。

 

「もう、いや…」

 

誰にもこぼせず、誰にも受け止められない言葉が雫となって地面に落ちていく。泣き声は川のせせらぎに掻き消されて、濡れた土も石も乾けば少女の痕跡は跡形もなくなる。

 

少女は一人だった。

血の繋がりはある。情けをくれる人もいないではない。それでも、本当に少女を必要としてくれる人などいない事を知っていたのだ。それはどうしようもない飢えのように胸を焼く。

 

涙は尽きる事なく落ちていった。

 

「おい、お前こんな真夜中に何をしているんだ?」

 

誰かの声に身体を縮め、恐る恐る顔を上げた少女が見たのは銀色の光だった。

 

 

 

 

見渡すばかりの荒野に、佇む。

うちはの人間として、誇りをかけて戦った。それに悔いはない。そうでもしなければ折れてしまうし、とっくに折れていた。

 

これから歩む道のりがどれほど長くても、この煉獄に比べればなんて事もないだろう。

 

「マダラ…」

 

倒れ伏すマダラは、何やら千手の当主と話し合っている。これで首でも吹っ飛ばされたら泣くに泣けない。視線はマダラへ向けたまま、後ろに立つ人に話し掛ける。

 

「ねぇ、桃華。暇してんならそのまま刀を引いて下さいよ。私動かないですし」

 

首に当てがわれた太刀は研ぎ澄まされて、肉を引き裂くのに力はいらない。敵を攻撃するには千載一遇の機会だと言うのに、桃華は溜息をつく。

 

「そんな無駄な事をしてどうする?そのご自慢の瞳を大きく見開いてよく見てみろ」

 

「別に私は自分の目を誇りに思った事ないんですけど……うん?」

 

マダラと千手の当主様が腕を取り合い、それを千手扉間が煩わしそうに眺めている。これを以って、うちはが千手の軍門に下ったという事になる。問題は、千手の当主が鎧を脱いでいるという事だ。マダラが何かをやらかしたに違いない。後で殴っておこう。

 

「……そう。でも、負けた事を不服と感じた私が千手の当主兄弟に一太刀でも浴びせようとするかもしれませんよ。それでも良いのですか?」

 

「無駄の嫌いなお前がそんな事をする筈ないだろう。大体なんだ、さっきから殺してくれと言わんばかりに」

 

桃華は不満げに刀を下げた。代わりにクナイを握っているから疲れただけか。一言断ってから、私は身体に出来た傷を癒していく。

 

「考えてみて下さいよ。私はうちはマダラの血縁で、女で、最後までマダラの側で戦った人間ですよ。死にたくもなりますよ」

 

戦力の分断、千手とうちはとの和平の証、大切な血筋の流出等々、様々な条件から差し出されるには私以上に相応しい存在はない。桃華は私の言いたい事がなんとなく分かったのか、言葉を選んでいる。

 

自分を治すついでに桃華の傷も治す。その傷をつけたのも私だから元の木阿弥という感じでもある。

 

「……まぁ、お前なら千手でも上手くやるだろう。医療忍術を使える人間は何処でも重宝されるしな」

 

「出来れば、うちはにも優しくて理解ある黒髪の人がいい……銀髪の人にはあまり良い思い出がないですから」

 

桃華は困った表情を浮かべている。うちはに理解ある黒髪など千手では一人しかいないし、うちはに優しくない銀髪も一人しかいないだろうから。その二人が兄弟で千手を盛り立てているのだ。私としては妾でいいから、理解ある黒髪に娶られたいと思う。

 

「私か桃華が男ならば良かったのに。そしたら、何もいうことはないでしょう?」

 

「そうだな。敵ながら付き合いは長いし、気心も知れてるし好みも悪くない。お互い残念だったな」

 




ラブコメちっくで時々どシリアス。
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