「じゃ頼んだよ。デュベル君」
さらっとミオが口走った『デュベル』という名に、ヨーダーとパトリシアのツェダイ師弟コンビが、目を剥いて驚いた。とりわけヨーダーの反応が顕著だ。まるで幽霊でも見ているかのように、デュベルの全身を凝視している。
糸を引くように目をすぼめた後、猜疑に震える声で、ヨーダーが言った。
「そんな。まさか」
「ご無沙汰しております」
「本当にデュベルなのか?」
答える代わりに、ツェダイ流の象徴とでも言うべき光剣の柄を、デュベルは懐から取り出した。数は二振り。年季のいった拵えは闇のような昏黒、まばらに刻まれた細かい傷が幽かに光を反射している。
「覚えていらっしゃいますか? 私の愛刀、干将と莫耶です。もちろん――」
コア・エネルギーを徹すれば、当たり前のように短く、太い刀身が姿を現す。
刀身の色は暗緑色。
暗く輝く、妖しの刃。
「これ、この通り。肉体こそ異なりますが、紛う方なき貴方の弟子だったデュベル・モルトガットです」
「何ということを。エノルミテ・モワなんぞに誑かされて、姿を消したかと思えば。愚かな」
実に愚かなと再び呟いて、がくりとヨーダーが膝を折った。ツェダイ流からの離反、アルトメリア連邦に対する背任、犯罪者への加担、そして自殺にも等しいエターナル・コア譲渡、かつての弟子の破戒がよほど堪えるのか、黙したまま動く気配すら見せない。
だからデュベルは、ヨーダーから視線を移した。表情に困惑、瞳に疑念を未だ残す妹弟子のパトリシアが、その先にいる。
「姉サン」
「精進は怠ってないようね。パティ」
「デュベル姉サン」
「体調はどう? 楼蘭の水は体に合う?」
「大丈夫ダヨ。ダカラ。ネェ」
「怪我はない? Gと戦ってばかりでしょうから、傷も絶えないわよね」
「オ願イ。姉サン。ミーノ話ヲ聞イテ」
「何かしら」
ちぐはぐな会話を突然に打ち切ってみれば、パトリシアの困惑はさらに強まったようだった。求めても返す言葉なく、口を閉ざしている。その沈黙こそが、戸惑いの良い証左だ。かつて共に切磋琢磨した姉弟子の名を、別の肉体をした者が語っているのだから、心に迷いが生じるのも当然だ。あるいは、やはりヨーダーと同じように、デュベルの犯した罪業を許容できずにいるのだろうか。
しかし、デュベルの知る妹――パトリシアとは、そんなにも弱い娘ではない。
「姉サン!」
デュベルの期待に応えるように、パトリシアが強い視線を乗せて、口火を切った。
「なぁに?」
「バルベロノ身体ダケド、デュベル姉サンダッテ、ミーハ思ウ。信ジルヨ。デモ」
衆目が固唾をのんで見守る中、デュベルは頷くことによって、パトリシアの発言の続きを促した。いたずらに口を挟んで弁を遮るなど野暮天も過ぎる。長いこと袂を別っていたとはいえ、かつては苦楽を共有した間柄、互いへの配慮など呼吸することと大差ない。
だから、何を言おうとしているのか、だいたいデュベルは分かっていた。
パトリシアとは弱い娘でもなければ、けして頭の良い娘でもない。
予想通り――
「オネエ言葉トカ、キモイヨ!」
と、声を大にして、どこか論点のずれたようなことを、大真面目にびしりと指摘した。自信満々に。元気よく。今までの話の流れやら、場の空気やらを完全に無視した展開に、ツェダイ流関係者以外が唖然となるのは当然のこと。周囲の人間を置いてけぼりに、パトリシアの言葉は続く。おそらくBGMをかけるならば、『ツァラトストゥラはかく語りき』に違いない。
「バルベロノ身体デ、オネエ言葉トカ、オカマチャンジャン! Ooops! 人類ノ、MAIDノ夜明ケネ」
「そうじゃそうじゃ。あのでっかいオッパイをどこにやった! 何じゃ、その無粋な肉体は。まったく。愚か者が! 師匠不幸者が!」
顔を伏せていたヨーダーが、突然に追随した。ミオによる呪縛もどこ吹く風といった体で、恐るべきリビドーと、それを希求するがゆえの懊悩に全身を躍動させている。
涙ながらに女体の神秘性について訴えている!
失われてしまったデュベルのかつての肉体について訴えている!
「ヤッパリ、キモイヨ」
「あのキュートで生意気だったお尻を返せぇ!」
しかし、キモイやらオッパイやら、卑俗な言葉に向けてデュベルはさらに力強く言葉をかぶせたのだった。
「だってチンコが欲しかったんだもん!」
蓬髪を手櫛でかき上げ、空いた片手を腰にあて、つまり格好つけてまで口にした言葉がチンコだった。いくらポーズをとろうとも、言った内容が変態的なのだから、いかんともし難い。さらには、デュベルははちきれんばかりの陰部を、無造作にぼろりとさらけ出した。大武芸館の天井を突き破らんばかりの大怒張である。
事ここに至り、何に対する悲鳴なのか分からぬ大声が、ツェダイ関係者を除く群集から一斉に上がった。さながら阿鼻叫喚。
「チンコ使って女の子とセックスしたかったんだもん!」
「ウヌゥ! 阿呆垂れが。小汚いモンを見せるんじゃない!」
「Oh...Blue veiner...」
ツェダイの師弟が繰り広げる馬鹿騒ぎによって、武芸館全体を包む混迷はさらに深まった。卑猥な言葉が飛び交う乱恥気ぶりである。ミオの扇動によって最大限にまで高められた恐慌やら不安やらと相俟って、何が何やら、全てがしっちゃかめっちゃかになってしまっている。
修次郎曰く――
「何だよ。この流れは」
の言葉に尽きようか。