ニグンさんは死の運命と戦うようです   作:国道14号線

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だいたい書籍1巻、アニメ4話と一緒です。

オリジナル要素は2話から出していきます。




ニグンさんはカルネ村で戦うようです

「隊長。ガゼフ・ストロノーフはまだ村の中にいるようです」

 

陽光聖典隊長ニグン・グリッド・ルーインのもとに偵察に行っていた隊員が報告を行う。

 

「よし。では作戦を開始しよう」

 

満足そうに報告を聞いたニグンは隊員たちに呼びかける。

 

「各員傾聴」

 

「獲物は檻に入った」

 

「汝らの信仰を神に捧げよ」

 

全員が黙祷を捧げる。人類のためのこれから行う作戦での神の加護を祈る。

 

「開始」

 

その一言で全員が一糸乱れぬ動きで村の包囲に向かっていった。

 

 

 

 

 夕刻の平原に展開する彼ら45名は陽光聖典の隊員であり、全員一流の魔法詠唱者(マジック・キャスター)である。

 陽光聖典とはスレイン法国の特殊工作部隊群「六色聖典」の1つであり、人類に仇なす亜人などの殲滅を主な任務としている。彼らは王国最強の戦士ガゼフ・ストロノーフの暗殺のためにここに来ていた。

 

「村の包囲は無事に完了したようです」

 

 ニグンの護衛と連絡のためにつき従う隊員が報告を行った。

 

「あとは出てくるのを待つだけです」

 

「どこから出てくるか分からん。見逃すなよ。もう追跡はうんざりだからな」

 

 ガゼフを殺すための作戦は単純である。

 帝国の騎士に偽装した兵士を辺境の村を襲撃させ、ガゼフの戦士団に救援の命令を下させる。そうして誘き寄せたガゼフを村ごと包囲し、殲滅するという算段である。

 

 しかし、中々うまくいなかった。

 

 ここ数日村に入ったガゼフを包囲しようとしたが、ニグンたちが村に着く前に逃げられてしまっていた。

 そもそも追跡や情報収集は風花聖典の仕事であり、殲滅を得意とする陽光聖典は苦手なことである。だが、風花聖典は裏切り者の追跡に忙しかったので、仕方なく独力で行っていた。

 

 それでもしぶとく追跡を行ったところ、村を襲った兵士が戻ってきて位置がつかめた。

 4人しか生きて戻って来なかったが、ガゼフに返り討ちにあったのだろう。口々に化け物を見たと言っていた。ガゼフの戦い方を詳しく聞きたかったが、包囲を先に行う必要があるため早々に帰らせ、急いでこの村までかけつけた。そのおかげで包囲が間に合った。

 

 ようやく訪れたチャンスなので何としてもここで殺したいものだ。

 

「しかし、人類のために殺されるとは憐れな男ですね」

 

「ふん。あんな国に仕えているから殺されることになるのだ。人類の危険を顧みず、己の欲望を満たそうと醜い争いを続けるとは、愚かとしか言いようがない国だ」

 

 ニグンの言葉に隊員は頷いた。

 

 ガゼフの仕えるリ・エスティーゼ王国は王派閥と貴族派閥の対立が深まり、お互いに足を引っ張り合っている。

 王に忠誠を誓うガゼフが死ねば、王派閥の力は弱まり、貴族派閥が勝利するだろう。しかし、ガゼフの死により王国の戦力は下がる。その隙に侵略して法国に吸収しようというわけだ。

 

 人間の国に囲まれた王国では気づかないかも知れないが、人類は常に存亡の危機にある。

 

 600年前に六大神が救いの手を差し出さなかったら。

 500年前に八欲王が優れた種族を殺してまわらなかったら。

 200年前に十三英雄が魔神を滅ぼさなかったら。

 

 人類が現在生き残っているのは多くの偶然に支えられている。

 

 ニグンたちの仕えるスレイン法国は人類が生き延びるために人知れず戦い続けているが、油断すればあっという間に絶滅してしまうだろう。

 人類はお互いに争うのではなく、一丸となって亜人種や異形種と戦わなければならない。

 そのためなら自分たちはいくらでも手を汚そう。

 彼ら陽光聖典はそう決意し日々戦っている。

 

「自分の死が人類の統一と存続に役立つのだ。感謝してほしいぐらいだ」

 

 ニグンはつぶやく。

 

 王国はもはやまともな方法では争いをやめないだろう。

 ガゼフは死なねばならない。

 その死を犠牲に人類は生き延びるのだ。

 

 そう考えながら召喚した監視の権天使(プリンシバリティ・オブザペイション)で包囲の状態を確認していると、隊員からの声が聞こえた。

 

「西よりガゼフが出てきました!! 騎馬により包囲網の突破を狙うようです!!」

 

 立てこもって長期戦になると厄介であったため、この動きはニグンたちにとってありがたかった。思わず笑みがこぼれる。

 

「馬鹿め。村人の犠牲を恐れたな」

 

 声を張り上げ、命令を出す。

 

「これより戦闘に入る!! 訓練通り行えば我々の勝ちは揺るがない!!」

 

 

 

 

 

 

 戦闘は当然のことながら順調に進んだ。

 ガゼフは貴族派閥の横槍により王国に伝わる五宝物を1つも装備していない。それでも何体もの天使を1人で倒すのはさすがである。しかし、その程度では何の役にも立たない。包囲している45人の魔法詠唱者(マジック・キャスター)が次々に召喚するスピードには到底追い付かない。ガゼフの部下は天使1体に2人で何とか戦えるというありさまであり、たやすく討ち取れる。

 

 ガゼフのことを徹底的に調べ上げ、貴族派閥に工作をしかけ、不十分な装備で村に誘き寄せる。事前に入念な準備を行ってきたニグンたち陽光聖典の勝ちは戦いの前に決まっていた。

 

 部下は次々に倒れていき、ついに立っている者はガゼフのみになった。

 そのガゼフも天使たちの攻撃を受けついに倒れた。

 

「止めだ。ただし一体でやらせるな。数体で確実に殺せ」

 

 ガゼフに天使たちが殺到する。

 

「なめるなああああああああッ!!」

 

 叫びながらガゼフが立ち上がる。

 その迫力に天使たちが止まった。

 

「俺は王国戦士長! この国を愛し、守護する者! この国を汚す貴様らに負けるわけにいくかあああ!!」

 

 その姿にニグンは憐みすら覚える。

 

「本当に国を愛するならば、こんな村は見捨てればよかったのだ。お前さえ生き延びれば、将来的にはここの村人の何倍もの国民を助けられただろう」

 

 ニグンがガゼフの立場ならば当然そうしただろう。小を切り捨て、大を生かす。それが出来るから陽光聖典は人類のために人を殺すのだ。

 ガゼフにはそれができない。しかし、ガゼフがここまで強くなれたのは、全ての民を守るという夢があるからでもある。

 

 両者は相容れない存在であった。

 

「そんな夢物語を語るからお前はここで死に、守ろうとした村人も殺されるのだ」

 

 ガゼフに最後通牒をつきつける。

 

「無駄な足掻きを止め、そこで大人しく横になれ。せめてもの情けに苦痛なく殺してやる」

 

 予定通り我々の勝ちは揺るがず任務は達成できそうだ。

 ニグンの思惑と逆にガゼフは微かな笑い声を漏らす。

 

「・・・何がおかしい」

 

「くくっ、俺を殺すのは容易だろう。しかし、あの村には・・・俺よりはるかに強い人がいるぞ。そんな人が守っている村人を殺すなどお前たちには不可能だ」

 

「下らんはったりだ」

 

 ガゼフより強い者など王国にはいない。チームとしてはガゼフ以上の脅威になるアダマンタイト級冒険者の「蒼の薔薇」と「朱の雫」は王都にいることは確認済みだ。

 ゆえにガゼフの発言は嘘に決まっている。そんな者はいるはずがない。

 

「・・・天使たちよ、ガゼフ・ストロノーフを殺せ」

 

 命令に従い天使たちがガゼフに向かっていく。ガゼフも最後の力をふりしぼって一歩を踏み出した。

 

 

 

 次の瞬間、ニグンたちは目を疑った。

 

 今までガゼフがいた場所に、奇妙な仮面をした魔法詠唱者(マジック・キャスター)と漆黒の全身鎧(フルプレート)を身に包んだ戦士が立っていた。

 周りに倒れていたガゼフの部下もいなくなっていた。

 転位魔法によるものだと考えられるが、そんな魔法に心当たりはない。

 

 警戒のため全ての天使を下がらせて壁を作り、出方を窺っていると、前方にいた魔法詠唱者(マジック・キャスター)が声を掛けてきた。

 

「はじめまして、スレイン法国のみなさん。私はアインズ・ウール・ゴウン。親しみをこめてアインズと呼んで頂ければ幸いです。こちらは私の部下のアルベドです」

 

 年は分からないが、丁寧な男の声だった。

 

「・・・ガゼフ・ストロノーフはどこへやった」

 

「あの村に転位させました」

 

「命乞いにでも来たか」

 

 鼻で笑いながら問いかける。この男もまた目の前の命にこだわる愚か者のようだ。ガゼフを切り捨てれば村人とともに逃げられただろうに。

 

「まさか」

 

「え?」

 

 予想外の答えについ声が漏れる。

 わずかに怒気をはらんだ声でアインズは続ける。

 

「戦士長との会話を聞いていたが、お前たちはこの私がわざわざ救ってやった村人を殺すと公言していたな。これほど不快なことはない。」

 

 人類のために戦うスレイン法国の六色聖典の1つ陽光聖典の活動になんという言い草であるか。

 ニグンはアインズの無知な言葉に怒りが込み上げた。

 

「不快とは大きく出たな。で? だからどうした?」

 

「抵抗することなくその命を差し出せ、そうすれば痛みはない。断ればその無礼の代償に絶望と苦痛を与えてやろう」

 

 アインズが一歩だけ足を進めた。

 たったそれだけで、首元に刃を突き付けられたような強烈な恐怖を感じ、ニグンは反射的に命令を下す。

 

「天使たちを突撃させよ!」

 

 突進する2体の天使に反応することもできず、アインズはあっさりと攻撃を食らった。どうやら先ほどの強さはみせかけのようだ。

 ニグンは安堵の息を吐き出し、嘲笑った。

 

「無様なものだ。つまらんはったりでなんとかしようと――」

 

 疑問を感じて言葉を止める。

 なぜ奴は倒れない。なぜ天使たちが苦しそうにもがいている。

 

 2体の天使が左右に動く。

 そこには信じられない光景が広がっていた。

 

 アインズは剣を体に突き刺されながら、天使たちを左右の手で持ち上げていたのだ。

 

「嘘だろ・・・」「馬鹿な・・・」

 

 隊員たちが呻き声を上げる。

 

 体を貫かれて平然と立っているなど信じられないが、まったくありえない訳ではない。

 もしかしたら刺さりどころがよかったのかもしれない。もしかしたら痛みを軽減するマジックアイテムでやせ我慢しているだけかもしれない。

 しかし、魔法詠唱者(マジック・キャスター)が第三位階の天使である炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)を持ち上げることはありえない。成人男性ほどの重さを片手で持ち上げられるのは一流の戦士だけである。

 

 驚愕するニグンたちをよそに、アインズは無造作に天使たちを地面に叩きつける。地震と間違えるほどの衝撃を受けて天使は光の光の粒となり消えていく。

 

「ふむ。見た目だけではなく、強さもユグドラシルと同じか。異世界なのに同じ魔法とは興味深いな。調べる必要がありそうだ」

 

 アインズが何か呟くがニグンの耳には入らない。聞こえてはいるが目の前の事態に理解が進まない。

 

「いくぞ? 鏖殺だ」

 

 アインズの言葉に我に返ったニグンは、慌てて命令を下す。

 

「全天使で攻撃を仕掛けろ!」

 

 その言葉に応じて40体以上の炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)が一斉に襲い掛かる。ニグンの知る限り最強の存在である漆黒聖典であってもこの数には苦労するだろう。しかし――

 

 <負の爆裂(ネガティブ・バースト)

 

 アインズから放たれた黒い波動が触れるや否や天使たちは次々に消えていく。ただの一撃で全ての天使が掃討された。

 信じられない光景に隊員たちは恐慌状態に陥りかけるが、ニグンは奥の手を使うことを決意し落ち着きを取り戻した。

 

「最高位天使を召喚する! 時間を稼げ!」

 

 その声に隊員たちは奮い立たされアインズに次々に魔法を仕掛ける。さらにニグンの監視の権天使(プリンシバリティ・オブザペイション)も攻撃に参加し時間を稼ぐ。

 さすがのアインズも最高位天使の存在は怖いのか、動きが止まる。

 

 その隙にニグンはクリスタルを取り出して発動させる。

 ちょうど監視の権天使(プリンシバリティ・オブザペイション)が破壊されたときにそれは召喚された。

 

「見よ! 最高位天使の尊き姿を! 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)

 

 見る者すべてが聖なる力を感じる光り輝く至高の天使。これこそが特別に携帯を許されたニグンの奥の手。200年前に魔神すら滅ぼした最高位の天使の召喚である。

 

「こ、これが最高位の天使だと?」

 

 アインズの驚きの声にニグンは優越感を覚える。

 形勢逆転だ。

 

「そうだ! これこそが最高位の天使だ! 驚くのは無理もない。私ですら見たことはないのだからな」

 

 アインズは明らかに動揺しているようであった。人間の力を遥かに凌駕する天使を召喚されるとは夢にも思ってなかったのだろう。

 

「お前ほどの魔法詠唱者(マジック・キャスター)を殺さねばならないのは残念だが、私に奥の手を切らせたことは誇り思うがいい。」

 

「下らん」

 

「・・・何?」

 

 あまりにも冷たい言葉に耳を疑う。

 

「こんな幼稚なお遊びに警戒していたとは・・・・。自分が恥ずかしくなってきた」

 

「いえ、アインズ様。未知の敵に警戒を払うのは当然の事です。このムシケラたちが弱すぎるせいであってアインズ様の行動に間違いはございません」

 

「・・・まあそれも一理あるか。それにしてもこの程度とはな」

 

 最高位天使の前だというのに、まるで緊張感のない話をする2人に向かってニグンは叫ぶ。

 

「まさかお前たちは最高位天使を超える存在であるというのか! ありえん! そんな人間は存在しない! はったりもいい加減にしろ!  <善なる極掌(ホーリー・スマイト)>を放て!」

 

 第七位階魔法である<善なる極掌(ホーリー・スマイト)>は人間には扱えない領域の魔法である。当然、人間が食らえばひとたまりもない。それでもアインズは悠然と待っている。

 

「早くうってこい。気が済むまで相手をしてやろう」

 

 すさまじい音とともに空から光の柱が降り注ぎ、アインズを飲み込む。すべての存在を消すかのような光の奔流を前にニグンは祈った。

 

――頼む、死んでくれ。これで終わってくれ。

 

 しかし、ニグンの祈りもむなしくアインズはそこに立っていた。

 

「今度はこちらの番だな。絶望を知れ。<暗黒孔(ブラックホール)>」

 

  威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)の前に小さな黒い点が現れたかと思うと大きな穴に広がり、一瞬で全てを飲み込んでしまった。光り輝く天使は失せ、いつの間にか日が暮れた草原に夜の帳が落ちる。

 

 突然、空の一部が割れてヒビが走る。しかし一瞬で元に戻った。

 混乱するニグンにアインズが声をかける。

 

「どうやら誰かが情報系の魔法でお前の様子を窺おうとしたようだな。・・・まあ私の魔法壁が作動したおかげでたいしてのぞかれなかったが」

 

 その言葉にニグンはさらに混乱する。自分を監視するような者は本国しか思い浮かばない。神官長たちは自分を信頼して最高位天使のクリスタルを授けたはずなのに、なぜ監視されていたのか。もしやこのアインズの存在を感じとり、自分を捨て駒にして情報を集めようとしていたのだろうか。

 

「さて、遊びは終わりだな」

 

「ま、待て!ちょっと待って欲しい!アインズ・ウール・ゴウン殿…いや様!」

 

 アインズの言葉にニグンは恐怖し、慌てて静止する。本国の思惑はさておき、今は生き延びなければならない。

 

「私たち・・・いや、私だけでも命を助けていただければ望む物はなんでも差し上げましょう! 金でも!物でも! 私は本国では高い地位にいるため、私が申し上げれば国にもかなりの要求が可能です! 命ばかりはお助けください! 何でもしますから!」

 

 隊員たちから切り捨てられたことに恨みの声が上がるが無視してニグンは言い切った。なんとしても隊員たち()を切り捨て、自分()を生かさなければならない。

 

「駄目だ」

 

 必死のお願いも簡単に拒否される。

 アインズは仮面をとり、骨だけの素顔をあらわして言った。

 

「無駄な足掻きを止め、そこで大人しく横になれ。せめてもの情けに苦痛なく殺してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 それから先は地獄が待っていた。

 どこまで耐えられるか試すように魔法を撃ち込まれて倒れていく者。いともたやすく四肢を切り飛ばされる者。いつの間にか現れた異形の者に捕まり、悲鳴を上げながら体を食われる者。

 誰もがぎりぎり生きてはいるが死んだ方がましな目にあっていた。

 

 やがて遊ぶのに飽きたのか、全員の傷は治され、異形の者たちに連行されていった。体は拘束されていないが、自分の意志で動くことができない。異形の者たちはだれもが恐ろしい存在感を放っており、おもちゃを手に入れたかのように面白そうにこちらを眺めている。

 

 そうして辿り着いた先もまた、ニグンたちの度肝を抜いた。

 スレイン法国の神殿がガラクタに見えるほどの豪華絢爛な大墳墓。これが見学に来ているのであれば大いに沸き立ち、興味を惹かれただろう。しかし、先ほどのことを考えると気が重い。

 

 アインズは全ての情報吐かせろと異形の者たちに指示していた。よってすぐに殺されることはないだろう。だが、ニグンたち陽光聖典の隊員たちには「特定の状況下で質問に3回答えたら死ぬ」という魔法がかけられていて、情報の流出を防いでいる。そのため、質問に答えれば死ぬのだ。かといって答えなければ、こちらの命をなんとも思っていない化け物たちに想像を絶する苦痛を受けるだろう。法国による救出も、こんな化け物の巣窟では期待できそうにない。

 

 すなわち、ニグンにはもう死の運命から逃れることはできないのだ。

 

 隊員たちとは別にニグンだけは別の部屋に連れてこられた。そこにはタコのようなおぞましい化け物がいた。

 

「あら、いらっしゃいん」

 

 化け物は男とも女とも判断しがたい濁声で歓迎する。

 

「おねえさんはナザリック地下大墳墓特別情報収集官、ニューロニストよ。まあ拷問官とも呼ばれているわん」

 

 自分は拷問されるのか。異形の者がいう拷問が人間のそれより温いものとは思えない。

 震え上がるニグンにニューロニストは優しく声をかける。

 

「あらん。おねえさんに会えて嬉しくて震えているのねん? 可愛いわん」

 

 ニューロニストは嬉しそうに触手でニグンの胸をなでてくるが、心臓が抉られそうで生きた心地がしなかった。

 

「残念だけど本格的に話し合うのは明日からでね、今日はカルテの製作のための簡単な質問だけなのよねん」

 

 ニューロニストは残念そうに告げるが、ニグンは絶望した。助けを待つまでもなく、もう死んでしまうのか。

 

「じゃあまずお名前はなんていうかしらん」

 

「ニグン・グリッド・ルーイン」

 

 ニグンの意志に反して口から言葉が出てくる。どうやら精神支配の魔法を受けているようだ。

 

「うふふふ。ニグンちゃんね。じゃあお仕事はなにをしてるのん」

 

 どこで人生を間違えたのだろうか。

 

「陽光聖典の隊長をしています」

 

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)になって人類のために戦おうと決意したのが間違いだったのだろうか。

 

「おうちはどこなのん」

 

 生まれる国を間違えたのだろうか。

 

「スレイン法国の首都に住んでいます」

 

 答えた瞬間、心臓が張り裂けるような痛みを感じ、体が前に倒れていく。

 

 倒れるまでの刹那、今までの自分の人生を思い返す。

 順調な人生であった。魔法詠唱者(マジック・キャスター)の才能に溢れ、若くして六色聖典の隊員に選ばれた。その後も順調に腕を上げ、陽光聖典の隊長になった。ときには失敗もあったが、順調に任務をこなしていた。そう、すべては順調であったのだ。カルネ村での戦いまでは。

 

 ニグンは死の直前、叶わぬ願いを想う。

 

 

 

 もう一度、あのときからやり直せれば。

 

 

 

 

 そのとき、ニグンの頭に無機質な声が響いた

 

 

―――まずは1回

 

 

 

 

 

 気が付くとニグンは草原に立っていた。

 

 目の前には一緒に捕まったはずの隊員たちが整列していた。

 

「これは・・・・いったい・・・・・・」

 

 困惑したニグンのもとに1人の隊員が近づき、言った。

 

「隊長。ガゼフ・ストロノーフはまだ村の中にいるようです」

 

 

 




ニグンさんは原作で一番不運だと思います。

ここでは幸運を掴むべく頑張ります。

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