ニグンさんは死の運命と戦うようです   作:国道14号線

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ニグンさん「あんな化け物、いるわけない」

アインズ「やあ」

ニグンさん「」ドゲザー




ニグンさんは現実を受け入れるようです

「またか・・・・。」

 

 ニグンは周囲を見渡しながら呟いた。

 この現象は先程体験したものだ。予知夢かと思ったが、予知夢の中でまた予知夢をみるとは思えない。

 

「時が戻っている・・・?」

 

 突拍子もない考えだが、この状況を一番的確に表しているように思える。

 

 2回の死の経緯を思い返す。

 最高位天使の攻撃すら通じない骸骨のアンデッド。ニグンの常識を遥かに越え、現実だとは受け入れたくない存在である。

 

 しかし、一度は悪夢と切り捨て信じなかったが、二度目となるとさすがに信じざるを得ない。

 現実を受け入れたニグンの決断は早かった。

 

(逃げるか)

 

 あんな化け物と戦っても勝てるわけがない。話もまるで通じないし、相手にしないのが一番だ。アインズは村人を殺すことに怒っていた。この村に危害を加えなければ、襲われることはないだろう。

 

 そう判断し、隊員たちに宣言する。

 

「この村での任務達成は困難とみなし、討ち取られた兵士に変わって村の破壊工作に移る」

 

 隊員たちにざわめきが起きる。何人かの隊員たちは明らかに納得できないようでニグンに尋ねる。

 

「な、何故でしょうか。ようやく包囲に成功したというのに、諦める理由が分かりません」

 

「そうですよ隊長!今こそ奴を殺す最大のチャンスです」

 

 口々に反対の声をあげる隊員たち。ニグンはその様子に冷ややかな視線を送り、全員に呼びかける。

 

「理由が分からない者は手を挙げよ」

 

 半数ほどが手を挙げる。

 それを見て高圧的に言い放つ。

 

「・・・・こんなにいるのか。フン、呆れたものだな」

 

 その態度に手を挙げた隊員たちは居心地悪そうに眼をそらす。ニグンは手をおろさせ、偵察をしてきた隊員の方を向いて話しかける。

 

「では、お前に聞こう」

 

「はっ」

 

 この隊員は手を挙げなかった。

 

「村の建物はどの程度残存していた?」

 

「壊れた家が数軒ありましたが、ほぼ無事でした」

 

 整列した隊員たちの方を向きながら、ニグンは当然のように言った。

 

「・・・さすがにこれで分からない愚か者はいないと思うが、復習も兼ねて聞こうか。おい、帝国の騎士に扮した兵士たちへの命令はなんだ?」

 

 指を指された隊員が答える。

 

「王国の辺境の村々を襲い、数人を残して皆殺しにして村の建物を焼きはらえ、というものです」

 

「数人残すのはなぜだ?」

 

「生き残りをエ・ランテルへ送らせることで人数を減らすためです」

 

「建物を焼き払うのはなぜだ?」

 

「籠城されることを防ぐためです」

 

「その通り」

 

 よどみない返答にニグンは頷き、説明する。

 

「建物が無事ならば籠城される恐れがある。焼き払うには近づかなければならず、接近戦に持ち込まれやすい。もちろん、村に立て籠もられても暗殺成功の確率の方が高い。しかし、万が一ここで取り逃がしたら、ストロノーフが五宝物を身に着けずにこんなところに来ることはもうないだろう。いくら貴族派閥が妨害しようと王派閥、何より国王ランポッサⅢ世が許さない」

 

 命を狙われているガゼフを無防備に出動させるほど、王は無能ではない。逃げられたら暗殺の難易度が上がるのは間違いない。

 ニグンは力強く断言する。

 

「ゆえに、確実に成功させねばならない。少しの不安要素でも排除する必要がある」

 

 その様子に隊員たちは納得したように頷いた。

 

「気づかれぬ内にここから離れ、野営の準備と次に襲う村の選定を行う。夜明けとともに襲撃を行うことを目標とする」

 

 反対する者はいない。

 

「では行動を開始する。ひとまず南の森を目指すぞ」

 

 あの化け物たちの本拠地はここから北にあった。移動するならば南が一番安全だろう。

 

 そう判断し、ニグンは先頭にたって歩き始める。

 数人の隊員が左右に散開し、周囲の警戒を行う。残りの隊員はニグンに続く。その動きに一切の無駄はなく、集団というよりは1つの生命体のようである。

 

 

 

 

 

 歩きながらニグンは考える。

 

(本当に呆れたものだ。こんな口車に乗せられるとは)

 

 2回の死の経験からではなく、事前の調査で分かっていることがある。

 

 ガゼフは民を犠牲にするようなことは絶対にしない。

 平民出身で苦労した経験があり、民を助けるために戦士となった。だから奴は見捨てられない。明らかな罠だと分かっていても、誘き寄せられている。

 村を包囲して、村ごと殲滅する素振りをみせれば必ず村から出てくる。ガゼフ・ストロノーフはそういう男なのだ。

 

 この作戦の立てられた経緯を理解していれば、ここは断固として反対しなければならないのだ。

 

 後ろに続く隊員たちを見ると、不満を抱いているような者はなく、全員命令通り従順に動いている。

 その様子にニグンは嘆く。

 

(今回は無能さに助けられたが、こんな有様では私が指揮できない状況になったら使い物にならんな)

 

 ニグンは気づいていないが、これには仕方ない面もある。

 陽光聖典の訓練は、ニグンの命令通りに統率のとれた動きで殲滅をするという点を重視している。それは個人の思考を奪い、戦略や戦術はニグン1人に頼り切りになっていた。

 

 

 やがて隊は村から離れた森にたどり着いた。

 周りに生物の気配はなく、静まり返っている。

 

 そろそろ隊を止めるべきかとニグンが考え始めたところ、カサリと、小さな音がすぐ前から聞こえた。

 アインズの手下かと思い、慌てて目を向けると、2人の子供が立っていた。

 

 その姿を見てニグンは呟く。

 

闇妖精(ダークエルフ)か・・・」

 

 アインズの部下にいた記憶はない。ならばこのあたりにただ住んでいるだけなのだろうか。

 

「どうしますか、隊長。殲滅しますか」

 

 後ろにいた隊員がささやいた。

 

 今の任務はガゼフの暗殺であるが、陽光聖典の主な任務は亜人の殲滅である。いかに表面上は人類に友好的であろうと、彼らは潜在的に人類の敵である。そうした不安要素を消すために陽光聖典は存在する。殲滅しようという隊員の考えはもっともである。

 

 ニグンは考える。

 

 闇妖精(ダークエルフ)森妖精(エルフ)と違い、はるか南方の地で人と関わらずに生きている。人の目の前に現れることはまずない。それどころかこんなところに生息しているとは聞いたことがない。

 アインズの手の者である可能性は十分にある。

 

 だが、こちらから手を出さなければ大丈夫なはずだ。

 

「本来なら殲滅するところだが、今は目立つ行動は避けるべきだ。襲ってこない限り無視するぞ」

 

 隊員たちは残念そうに従い、避けるように進路を変える。

 通り過ぎようとすると、闇妖精(ダークエルフ)たちの話し声が聞こえた。

 

「お、お姉ちゃん・・・。あ、怪しい集団って、この人たちでいいのかなあ・・・」

 

「うん。マーレ、やっちゃって」

 

 その言葉に応えてマーレと呼ばれた闇妖精(ダークエルフ)が持っていたスタッフを振るう。

 すると、地面から大量の植物が生えてきてニグンたちを拘束する。そのスピードは並ではなく、抵抗する暇もなく全員が捕まった。

 

「な、何が起こった!?」「植物がひとりでに?!」

 

 うろたえる隊員たちをニグンは叱責する。

 

「落ち着け、こんなものすぐに脱出できる!」

 

 しかし、植物たちは異常な強度を誇り、ニグンがどれほど力をこめようと魔法を使おうとビクともしない。隊員たちも同じようで、誰1人脱出できない。隊員たちは精一杯の虚勢で吼える。

 

「亜人ごときが何をする!」「殺されたいのか!」

 

 そんな様子も意にも介さず、姉の方がマーレに言った。

 

「よーし。あとはモモンガ様が到着するまで待つよ」

 

 その言葉にニグンは希望を抱く。

 

「モ、モモンガ様だと・・・?」

 

 聞いたことがない名前だが、アインズではない。ならば助かるのではないか。

 闇妖精(ダークエルフ)たちに問いかける。

 

「その・・・、モモンガ・・・様、というのはお前たちの主人なのか?」

 

「そう、偉大なる至高の御方々のまとめ役にして絶対の支配者。それがモモンガ様」

 

 姉の方が自慢げに答える。その様子にニグンは少し安堵した。

 少なくともアインズの手下の化け物たちよりは話が通じそうだ。ここは慎重に情報を集めるべきだろう。

 

 ニグンは言葉を選びながら質問を続ける。

 

「あなたたちを従えるほどの偉大なモモンガ様が、私たち――いや、私たちごときにいったい何の用だというのですか?」

 

「さあ?モモンガ様の深遠なお考えはあたしには分からないからねー。情報収集とかじゃない?」

 

 そのあっけらかんとした態度にニグンは口に出かかった言葉を飲み込む。

 

(情報収集のためにこんな手荒なことをする奴がいてたまるか)

 

 どうやらこの闇妖精(ダークエルフ)もモモンガという者もまともな感性を持っていないようだ。

 人間の感性を持ち合わせていないという点でニグンに疑念が湧く。

 

 やはりこいつらはアインズの関係者なのではないのか。

 

「そのお方は・・・、モモンガ様は・・・森妖精(エルフ)なのか・・・?」

 

  森妖精(エルフ)ならまだなんとかなる。法国では奴隷として迫害されているが、森妖精(エルフ)の中には集落を作って人間と取引を行う者もいる。ニグンたちは身元を示す物を一切持っていない。法国の者ではないと信じ込ませれば、取引次第で解放してくれる可能性は十分にある。

 

「ちがうよ」

 

 しかし、あっさり否定される。

 最悪の事態を想定して、ニグンはおそるおそる問いかける。

 

「で、では何者だ? ま、まさかアンデッドの魔法詠唱者(マジック・キャスター)ではないよな?」

 

 アウラは不思議そうな顔でこちらを見ながら言った。

 

「確かにモモンガ様はアンデッドの魔法詠唱者(マジック・キャスター)だけど。なんでお前が知ってるの?」

 

 その言葉にニグンはうなだれる。

 

 あいつだ。アインズと名乗っていたあの化け物だ。

 

 考えてみればわざわざ敵に本名を名乗る意味などないだろう。本名はモモンガというようだ。

 希望を打ち砕かれたニグンは思わず悪態をつく。

 

「あの糞骸骨め、紛らわしいことしやがって」

 

 

 

――その瞬間、いままでのんきだった闇妖精(ダークエルフ)たちの雰囲気が変わった。

 

 

「お前今なんていった」

 

 その言葉には明確な怒りが込められていた。

 

「モモンガ様を罵ったな? 人間ごときが至高の御方を侮辱するだと? 許せない!!」

 

 姉の闇妖精(ダークエルフ)が拘束されたニグンに無造作に近づき、そのままニグンの右の親指をむしる。

 

「ぎゃあああああああああ!!!」

 

 あまりの痛みに悲鳴がでる。

 そのまま2本、3本とむしられてゆく。

 

「や、や、やめてくれええええええ!!」

 

 悶絶するニグンの姿に隊員たちは震え上がり、罵声が止まる。

 

 右手の指をすべてむしったところで手が止まった。

 

「生け捕りにしろってご命令だから殺すわけにはいかないし。人間って腕ぐらいなくても大丈夫だったけ? 」

 

 思案して、今度は左の指をむしろうとするとする。

 

「お、お姉ちゃん・・・」

 

 今まで後ろでなにかしていたマーレが声をかけた。

 

「何さマーレ。あんたまさか止めるつもり?」

 

 姉は苛立った様子でマーレをにらむ。

 その様子を見てニグンは考える。

 

 マーレはずっとおどおどしていて、暴力が苦手のように見える。きっと姉を止めてくれるに違いない。

 

「モ、モモンガ様に、伝言(メッセージ)でお願いしたら・・・み、見せしめに1人ぐらいなら、殺してもいいって・・・。し、死んでも、アンデッド化の実験に使うって」

 

「よくやった、マーレ! これで死ぬ心配なく痛めつけれるよ」

 

 だめだ。こいつも狂っている。

 

 

 そこから先は以前みた地獄と同じであった。

 ニグンの体は末端から次々にちぎられていく。

 

 もはや痛みでまともに思考することもできない。

 ついに出血で意識が遠くなり、死が感じられ、ニグンは神に祈った。

 

(神よ。2度の救いがあなたの御力ならば、どうか再び私をお救いください)

 

 

 

 またしても声が聞こえた。

 

 

―――3回目

 

 

 

 

 

 

 ニグンはあの草原に戻っていた。

 先程までの体の痛みはなくっており、記憶通りに隊員たちは整列している。そして記憶通りに隊員が報告する。

 

「隊長。ガゼフ・ストロノーフはまだ――」

 

「フフフフフ」

 

 報告の途中でニグンは笑いだす。

 

「隊長?」

 

 不審に思った隊員が問いかけた。

 

「フフフハハハハ、フハハハハハハハハハハハハ―――ッ!!」

 

 驚く隊員たちを無視してニグンは歓喜の声をあげる。

 

「私は生きているぞ! あんな化け物たちでも私を殺すことは出来ていない!」

 

 あの化け物たちが殺そうとしたにも関わらず、こうして無事である。それどころか、取り逃がしたことにすら気づいていない。

 

 常識を遥かに超えた力がはたらいていることは明らかであった。あの化け物たち以上の力を持った存在などニグンには1つしか思いつかない。

 

 神だ。

 

 これは神が救いの手をのばしてくれているに違いない。

 私が信仰する生の神が化け物に殺される私を憐み、救おうとしてくださるのだ。

 他の誰でもなく、この私を選んでくれたのだ。

 私は神に認められたのだ。

 

(神よ、ご加護に感謝します)

 

 生き残ってみせる。例えどんな手を使おうとも。

 

 

 




ニグンさんは前向きです。


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