ニグンさんは死の運命と戦うようです   作:国道14号線

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ようやく事態を理解したニグンさん。
いよいよ本格的に動き出します。

前回のあらすじ:
アインズ「捕まえたはいいが大人しくしない? 下っ端1人ぐらいなら見せしめにしてもいいぞ」

ニグンさん(生首)「私が隊長です」

アインズ「えーー」


ニグンさんは生き残る方法を考えるようです

 ニグンは草原に1人で座り、思案に暮れていた。考えている内容はもちろん、いかにしてこの場から脱出するかである。

 

 隊員たちには夜になれば闇視(ダーク・ヴィジョン)を使える自分たちの優位性が高まると説き伏せた。現在は村の監視と周囲の警戒をし、交代で休むよう命令している。突然笑いだしたニグンの事を不審に思っているようだが、隊員たちは素直に従った。

 

 こうして考える時間を確保したニグンは隊員たちから離れて、自分の死を振り返る。

 

 3回の死によってニグンが分かったことは主に4つである。

 

1.村を襲った兵士はアインズと名乗る魔法詠唱者(マジック・キャスター)に返り討ちにあった。

2.アインズは最高位天使を遥かに超える力を持つ。

3.村やガゼフを襲うとアインズの怒りをかう。

4.アインズの手下に既に包囲されており、逃げ出すことは出来ない。

 

 これらの情報から生き残る方法をニグンは考えている。

 

 

 突然現れて、人間の限界を遥かに越えた力を持っている存在。それは法国が信仰する六大神や、かつて世界を征服した八欲王を思わせた。アインズの実力を身に染みて感じたニグンにとっては、アインズが同様に神話の世界からこの世界にやってきたとしても納得がいく。

 

 戦ってもニグンたちでは絶対に勝てない。あの化け物たちに匹敵する存在となるとニグンには2つしか思いつかない。六大神の血を覚醒させた神人とアーグランド評議国などにいる竜王(ドラゴンロード)である。

 

 しかし彼らがアインズたちに勝てるかというと疑問である。

 

 神人は人間の血が交じっているため、六大神と同様の力を持っているとは思えない。竜王(ドラゴンロード)たちは八欲王との戦いに敗れて数を減らしている。つまり、ニグンの知る限りアインズたちに勝てる存在はいないということである。

 

 実際はスレイン法国には神人の中でも異例の存在である番外席次や、六大神が残した傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)などの秘宝があるため、まったく勝ち目がない訳ではない。とはいえニグンはそれらの存在を知らないが。

 

 戦ってもダメ、逃げてもダメ。ならば投降するしかないだろう。

 だが、隊員たちは説得できないだろう。いくら簡単に口車に乗るといっても、任務を放棄するとは思えない。

 それに、仮にアインズに投降しても、情報収集を目的にしているならば魔法で精神操作される可能性が高い。

 

 ならば―――

 

「隊長。もう十分日は暮れたように思いますが、いかがでしょうか」

 

 ニグンが顔を上げると、10人ほどの隊員が立っていた。

 辺りを見回すと、いつの間にか太陽は沈み、暗くなっていた。

 

「・・・そうだな。これだけ暗ければ、我々の優位性はかなり大きい」

 

「では隊長。そろそろガゼフ・ストロノーフの殺害に移りますか」

 

 このまま村を襲うわけにはいかない。しかし、アインズたちが既に立ち去った可能性も一応ある。分の悪い賭けではあるが、試してみてもいいかもしれない。

 

「総員に伝達せよ。各員闇視(ダーク・ヴィジョン)を使用し、村を包囲しろ。行動開始だ」

 

「そんなことをさせる訳にはいかないな」

 

 背後から声がする。

 振り返ると、魔法詠唱者(マジック・キャスター)と戦士がいた。アインズとアルベドだ。

 

「はじめまして、みなさん。私はアインズ・ウール・ゴウン。親しみをこめてアインズと呼んで頂ければ幸いです」

 

 隊員たちが突然の出現に驚いて浮足立つが、ニグンは冷静だった。

 

(なるほど。自分がいる村の周辺に、正体不明の集団がいれば探ってみようと考えるのも当然か)

 

 アインズにここに来た目的が知られた以上、生還はもう不可能だろう。しかし、ニグンは大して落ち込まなかった。むしろ、自分の仮説の正しさを確かめるいい機会だとすら考えていた。

 

「アインズ・ウール・ゴウンとは聞かぬ名だな。このあたりに来たのは最近か」

 

「ええ。ですから情報収集に努めいているのですが―――」

 

 予想通りの答えにニグンはほくそ笑む。やはり、アインズたちはつい最近ここに来たばかりのようだ。今まで存在が知られていなかったのも納得だ。

 アインズは怒気をはらんだ声で言葉を続ける。

 

「お前たちはこの私がわざわざ救ってやった村人を殺すといったな。これほど不快なことはない」

 

(そういう貴様は、神がわざわざ救ってくださった私を殺そうとしているではないか)

 

 ニグンは心の中で悪態をついた。

 

「死よりも恐ろしい苦痛を味わい、知っていることを全て吐いてもらうぞ」

 

 アインズが一歩だけ足を進めた。たったそれだけで、隊員たちは死の恐怖を感じて後ずさりをした。

 だが、ニグンはもう恐怖を感じなかった。なぜなら自分には神がついているのだから。目の前の死の王よりも遥かに偉大な神が。

 

「ふん。お前如きでは、私に何もできん」

 

 決して虚勢ではない。ニグンの心には確信があった。

 

「神の御業の前に、己の無力さを知るがいい」

 

 ニグンは後ろで組んでいた手をほどき、ゆっくりとアインズの方に手を向ける。アインズが少し警戒するようなそぶりを見せる。

 しかし、ニグンはアインズには魔法をうたず、掌を自分の頭に向けて唱えた。

 

「<衝撃波(ショック・ウェーブ)>」

 

 ニグンの頭に衝撃が走り、脳が掻き混ぜられる感触がした。

 驚くアインズを尻目に倒れていくニグン。

 

 視界が暗転していき、意識が遠くなる。

 

 そうして、声が聞こえた。

 

 

 

―――4回目

 

 

 

 

 

 ニグンはもはや見慣れた草原に戻っていた。

 今までの場合と同様に復活できたことを確認し、安堵した。

 

(・・・・よし、無事に死ねたな)

 

 神の力で復活することを信じているニグンだが、恐れていることが1つあった。

 

 それは、アインズに捕えられて、死ぬことができなくなることである。

 

 精神操作の魔法を受けても、3度の質問に答えれば、ニグンたちは法国の魔法により死ぬことができる。しかし、アインズが先に他の者に質問してこのことが知れば、死なないように何か対策するだろう。そうして生かされ続け、時を戻れなくなることが唯一の不安要素だった。

 そのため、ニグンは自殺したのだ。

 

 アインズとの会話から、ニグンの考えは裏付けられた。

 やはり、目的が知られると敵対は不可避のようだ。また、アインズたちはこのあたりに来たばかりで、情報収集のために村を救ったようだ。

 

 日没までに何か行動を起こさないといけない。

 ニグンができる行動は2種類ある。自ら動くことと隊員たちを動かすことである。

 

 ニグンとしては生き残るためには何でもする覚悟はできている。自分のプライドよりも神の期待に応えるほうが重要だと考えているからだ。

 任務を逸脱するようなことでなければ、隊員たちを言いくるめることは簡単である。極秘にこんな任務もあったと伝えれば、大抵のことは信じるだろう。普段からニグンにのみ伝えられている情報は多く、任務終了後に隠された目的を明らかにしたこともある。

 

 アインズは情報を求めている。

 ニグンは精神操作魔法を受けてはいけない。

 アインズは村人とガゼフたちに友好的である。

 隊員たちは割と自由に動かせる。

 

 これらの情報からニグンがこの場から生き延びるためには―――

 

(ひとまずこの方法でいくか)

 

 ニグンは考えをまとめ、隊員たちの方を向き、命令を下した。

 

 

 

 

 

 

 

 ガゼフは村長の家を借りて、村を救ったアインズと話をしていた。

 

 他の村と同じように、この村でも無抵抗の村人を殺戮していたところにアインズがたまたま遭遇し、交戦したということだ。村を襲った兵士の装備から、下手人は帝国の手の者だと考えられた。平民出身のガゼフとしては、残忍な帝国の兵士たちへの怒りが湧き、それ以上に村人を救ってくれたアインズに感謝の念を抱いた。

 

 アインズの召喚した死の騎士(デス・ナイト)はかなりの力を感じた。現在の自分の装備では勝てないかもしれないと感じられるほどに。魔法に詳しくないガゼフからみてもアインズの装備も見事なもので、本人の実力も相当なものだと思えた。それにも拘わらず、アインズは謙虚で驕っている様子はない。

 そんなアインズの姿勢にガゼフは好感をもった。

 

 話も一段落つき、そろそろ外に戻って復興の手伝いでもしようかと考えていると、1人の部下がやってきた。

 

「戦士長! スレイン法国の魔法詠唱者(マジック・キャスター)だという者がやってきましたが、どうしましょうか」

 

「スレイン法国の者だと? 1人でか?」

 

 ガゼフは驚いた。法国は王国と敵対しているわけではないが、友好的でもなく、交流の薄い国だ。ガゼフも法国に特に知り合いはいない。こんな辺境の村まで1人で自分を探しに来る者に心当たりがない。

 

「ええ。なんでも戦士長に話したいことがあるとか。マジックアイテムを多数装備していましたが、戦闘の意志はないようでいくつかこちらに渡してきたほどです。現在は村のはずれで待機させています」

 

「分かった。すぐそちらに行こう」

 

 マジックアイテムを複数所有しているということは、アインズと同じくかなりの腕前の魔法詠唱者(マジック・キャスター)で間違いないだろう。こちらに預けるということは村の襲撃の関係者ではなさそうだ。だがやはり、怪しいことは否定できない。

 ガゼフは立ち上がって扉の前まで行った所で、思い直してアインズの方を振り返った。

 

「ゴウン殿。よろしければ一緒に来て頂けないか。交戦の可能性は低そうだが、もしかしたらよからぬことを企むものかもしれない。私は魔法は詳しくないので、そういった兆候に気づいたら教えてはくれないか」

 

 アインズは少し黙ってから答えた。

 

「・・・戦闘になった時に加勢の約束はできません。怪しい動きを伝えるだけというならば構いませんが」

 

「かたじけない。それだけでも大変助かる」

 

 ガゼフはアインズに頭を下げて感謝した。

 

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)がこちらにもいるというだけで、相手への牽制になるだろう。

 

 何も起こらないことを願いながらガゼフはアインズとともに家をでた。

 

 

 

 

 

 

 ガゼフが村のはずれに行くとガゼフの部下に囲まれた1人の男がいた。立ち姿から相当の訓練を受けているように思えた。

 

「あなたが王国戦士長ガゼフ・ストロノーフか」

 

 男はガゼフの事に気づき声をかけてきた。

 

「そうだ。こんなところまで来るあなたは何者だ? 私の記憶の限り、これが初対面だと思うが」

 

「私はスレイン法国の陽光聖典の隊長を務めているニグンという者だ」

 

 陽光聖典。

 その言葉はガゼフにも聞き覚えがあった。スレイン法国に存在するといわれる特殊工作部隊群”六色聖典”の1つのはずだ。だが、それ以上の情報はガゼフも知らないし、そんな者がここまでくる理由も分からない。

 

 警戒するガゼフの前でニグンは頭を下げて謝罪した。

 

「誠に申し訳ない。この近辺の村々を襲撃していたのは全て我々法国によるものだ」

 

「・・・? どういうことだ?」

 

 不思議に思うガゼフに対し、ニグンが説明する。

 

 

 王国の権力闘争を止めるためにガゼフの暗殺が法国で決まったこと。

 辺境の村を襲ってガゼフを誘き寄せる手はずになったこと。

 貴族派閥に工作することで五宝物を装備させないようにしたこと。

 誘き寄せられたガゼフを殺すように命じられたこと。

 

 

「つまり帝国の手の者と見せかけて、私を誘き寄せるためだったわけか」

 

 帝国にはフールーダを筆頭として、魔法詠唱者(マジック・キャスター)が多数所属している。しかし、戦争にはあまり出てこず、もっぱら研究と後方支援に勤しんでいると聞く。

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)がいないならば、五宝物を装備しなくてもよいのではと貴族派閥に圧力をかけられて、ガゼフは貧相な装備でここに来た。

 

 腹立たしいことに全ては法国の手の上で踊らされていたわけだ。

 

「その通りだ。人類のために必要な犠牲だと自分に言い聞かせていた。今まではモンスターや亜人が相手だっため納得できた。しかし、返り討ちにあって帰還した兵士を見て我慢できなくなった」

 

 ニグンは頭を振り、辛そうに言った。

 

「兵士たちは死に怯えていて見るに堪えない有様だった。今から自分も人間に同じことをするのか? 私は人類のために罪のない人を殺したと神に胸を張っていえるか? ・・・・そう考えるととてもじゃないが実行できなかった。だが、部下たちは納得してくれなかった」

 

「ということは再び村が襲われる可能性があると?」

 

 一気にガゼフの気が引き締まる。法国を誤魔化して見逃すことにしたのではと考えていたが、事態はまだ続いているようだ。

 

「ああ。私の裏切りによって任務を諦めて国に帰ってくれればよいが、いまだここを狙っている可能性は十分にある。私の部下は総勢44人で、全員が第三位階までの魔法が使用できる魔法詠唱者(マジック・キャスター)だ」

 

「第三位階を使える者が44人だと?」

 

 ガゼフは驚愕した。第三位階とは魔法詠唱者(マジック・キャスター)として大成した証である。それ以上の位階は天賦の才がある者しか到達できず、一般の魔法詠唱者(マジック・キャスター)では第三位階に到達することを目標としている。

 そんな領域に達する者が44人もいるのでは、とても現在の装備では太刀打ちできない。

 

「当然、私は彼らの戦い方をよく知っている。ストロノーフ殿と協力して戦えば、打ち破ることは出来なくとも包囲の突破ぐらいできる可能性は十分ある。とはいえすぐにここから脱出することを勧める」

 

「しかし、それでは村人を見捨てることにならないか。私を逃した腹いせと再び誘き寄せるために、ここを襲撃する恐れはないだろうか」

 

 それこそがガゼフが最も恐れる事態である。自分のせいで村人に犠牲が出ることは絶対に避けたい。

 ガゼフの問いにニグンは歯切れが悪そうに答える。

 

「それは・・・そうだが」

 

「ならば私が囮になり、部下たちに村人をエ・ランテルまで送らせるべきだ」

 

「戦士長、それは危険すぎます! そもそもこの者の発言が真実であるとは限りません。」

 

 ガゼフのあまりに自分を顧みない提案に、部下が反対の声をあげる。

 

「まずはエ・ランテルに帰還し、兵を連れてくるべきです。村人が心配だというならば我々が残ります」

 

 村には馬はいない。そのため村人を連れて移動すると速度は落ち、格好の的になるだろう。そのため、村人は連れて行くわけにはいかない。エ・ランテルから増援を呼ばなければ移動させられない。

 

「だが、その場合でも村が襲われた時に、一番生存率が高くなるのは私がいる場合だ。そもそも私が誘き寄せられていれば村人は狙われないだろう」

 

 一番多数の命が助かる選択はガゼフを囮にすることである。そうすれば他の者は安全に帰還できる。それは部下たちも分かっていた。だが彼らは納得できない。

 

「・・・しかし」

 

「私が囮になるべきだ」

 

 ガゼフはきっぱりと断言する。部下たちは必死に何か言おうとするが、言葉が出てこない。

 その時後ろから力強い声が聞こえた。

 

「その必要はありません」

 

 振り返るとアインズが立っていた。手から魔法を使用したであろう光が発せられていた。

 

「魔法で探ってみたところ、40人程の集団がこの村から離れて南に向かっています。戦士長殿を殺すのは諦めて、国に帰るようですね」

 

「・・・・あなたは? ストロノーフ殿の部下に魔法詠唱者(マジック・キャスター)はいなかったはずだが」

 

 ニグンの問いにアインズが答える。

 

「申し遅れました。わたしはアインズ・ウール・ゴウン。この村が騎士に襲われていたところを通りかかったので、助けた者です」

 

「ならば兵士たちが言っていた化け物というのはあなたのことか?」

 

「・・・いえ、それはおそらく私が召喚したシモベのことでしょう」

 

 アインズは後ろに控えていた死の騎士(デス・ナイト)を指さす。それをみたニグンは納得したように頷いた。

 

「法国の暴走を止めて頂き感謝する。それで南に向かったということに間違いはないか?」

 

「ええ。かなり離れているので、もう戻ってこないでしょう」

 

 その言葉にニグンは安心したようだった。

 

「それは良かった。今回の顛末を報告して、五宝物を常に所持する許可を取れば、もうここも襲われる心配はないだろう。また命が狙われるかもしれないが、それは今回とは異なる方法のはずだ」

 

 しかし、ガゼフの部下はまだ不安なようである。

 

「戦士長。いまだここは危険です。夜道になってしまうでしょうが早急にエ・ランテルに帰還すべきかと」

 

 ガゼフはしばらく考え、決断した。

 

「・・・そうだな。今のうちに帰還するとしよう。エ・ランテルに着いたらここを含めた辺境の村に、しばらく兵が常駐するように手配しよう。さすがに今回のことを報告すれば、貴族たちも邪魔できないだろう」

 

 戦争中の帝国ならばともかく、法国がこのような手段をとるとは誰も考えていなかっただろう。すぐに王国の警備全体を見直す必要がある。

 ガゼフは総員に帰還の準備をするよう命じ、ニグンに向かって言った。

 

「法国の決定で起きた今回の事件の罪を、命令を受けた君1人に負わせるのは間違っていると私は考える。直接危害を加えたわけではないし、直前に思い直してくれたのだからなおさらだ」

 

 ガゼフの言葉に嘘はない。自分も王の命令ならば、非情な作戦を行わなければならない可能性もある。だからといって、命令に背けば裏切り者の烙印が押されるだろう。そんな状況になったときに自分の考えを貫けるだろうか。ガゼフには断言できなかった。

 自分の思いに従ったニグンの行動は称賛されるべきであり、非難する気にはならない。

 

「だが、だからといってここで解放するわけにはいかない。証言をしてもらわなければならないし、王国の法に基づいて罰を受けてもらうかもしれない」

 

「構わんよ。全て覚悟の上だ。村人の虐殺の片棒を担いだのだから、殺されても文句はない」

 

 その堂々たる返事に、ガゼフはできるだけ軽い罪になるよう便宜を図ろうと決心した。

 

 ガゼフはニグンの装備していたマジックアイテムを全て没収し、身柄を拘束した。アインズたちはもう村を離れるようであったので、感謝の意と王都に来た際には必ず礼をすると伝えた。村人には必ず増援を送ることを約束した。本当は復興の手伝いをしたいところだが、法国の危険性をいち早く伝えなければならない。

 

 やがて準備を整えたガゼフたち一行は、エ・ランテルに向けて夕方の道を疾走した。

 

 

 

 

 

 護送されながらニグンは考える。

 

(我ながら名演技だったな)

 

 今まで4度も死んだとは思えないほどうまくいった。

 

 アインズに投降しても、精神操作魔法をかけられて死んでしまう。ならば、ガゼフに投降すればどうだろう。ガゼフは誠実な人柄であり、いかに許せないことをした者であっても、反省して降伏しているならば暴力的な行動はとらないのではないか。アインズといえど、表面上は友好的に接しているガゼフの意に反することはあまりしないのではないか。

 

 これはもちろんただの推論である。何か理由をたてたり、ガゼフの隙をついたりして、魔法をかけてくるかもしれない。

 

 そこでニグンは、隊員たちに極秘にガゼフについて探る任務があると伝え、北で待機させた。訝しむ者もいたが、そのために威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)のクリスタルを預かったと伝えて納得させた。ニグンが戻ってから、村を襲う手はずになった。

 

 すでに陽光聖典を包囲していたアインズは当然北に向かったことに気づくだろう。しかし、アインズは()に向かったと言った。すなわち村とガゼフたちを危険にさらすならば、先に捕まえておくべきと判断し、部下に襲わせたわけだ。

 

 これこそがニグンの狙いであった。村を包囲したときは包囲にガゼフが気づいた上、陽光聖典の正体も戦力も不明なので、後手に回ったのだろう。そこで投降の際に正体と人数、実力を伝えて先手を打たせたのだ。そうすることで捕まえた隊員たちに尋問すれば十分と考え、ニグンへの興味が薄れることを期待したのだ。つまり隊員たちは囮であり、撒き餌であった。

 

 その結果、全てはニグンの予想通りにいった。

 

 隊員たちを見捨てる形になったが、ニグンに後悔や罪悪感はない。元々アインズに捕まるはずだったので仕方ないことと割り切っている。それに人類のために人を犠牲にすることには慣れている。

 ガゼフには人殺しの命令は初めてだったと伝えたが、もちろん嘘である。そんな甘い考えでは人類はとっくの昔に滅んでいただろう。それは最前線で戦ってきたニグンが一番よくわかっている。

 

 

 やがて、エ・ランテルの城壁が見えてきた。もう夜は更けて辺りは真っ暗だが、城壁上のたいまつで気づいた。

 化け物の領域から人間の領域に戻ってこれた。もう死ぬこともないだろう。

 

 これからアインズたちへの対策を考えなければならないと思うと、頭が痛くなる。六大神のような穏健な者ならよいが、おそらく八欲王のようなこの世界を混乱させる者だろう。ニグンにどうこうできる存在ではない。

 

 しかし、ニグンはもう1人ではないのだ。いずれ法国の者が自分に接触してくるだろう。そうしたら、なんとしてもアインズの危険性を伝えて人類全体で協力をしなければならない。ガゼフの暗殺などという些事に拘っている場合ではない。

 

 勝てる未来は思い浮かばないが、今回のように神の加護があればなんとかなるかもしれない。

 

(神よ。どうか我ら人類をお守りください)

 

 こうしてニグンは無事にエ・ランテルに辿り着いた。

 

 








※次回もニグンさんは死にます



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