IS武闘伝   作:Crank

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波乱の予感! 再会のチャイナ・ガールⅡ

 何はともあれ俺はピットへと戻ってきた。専用機持ちの俺とセシリアはISを待機状態にして、ISスーツを着替えれば事足りるが、箒は演習用に貸与されていた打鉄を返却しなければならない。俺は俺で練習中に開けてしまった穴を埋める作業を行ってからだったため、結局練習を中止してから三十分後にやっと制服に着替え終わって再集合したのだった。

 

「あら、遅かったのね」

 

 ピットで待ち構えていたのは先程の謎の二年生だった。何故二年生と分かるかと言うと、制服のリボンの色で判別できるようになっているからだ。尤も、カスタム自由なIS学園の制服では、リボンを着けないように改造している子も少なくないので絶対というわけではないのだが。

 

「すみません、お待たせしました」

 

 俺が謝罪の言葉を述べると、先輩は楽しそうに笑う。

 

「ううん、大丈夫。私も今来たところだから」

 

 それは嘘だろう。というか何、そのデートの待ち合わせみたいな台詞。

 

「あ、今デートみたいとか思ったでしょ? お姉さんとデートしたいのかな?」

 

 何故分かった! いや前半だけね。先輩の言ってる後半は出鱈目だから! でも綺麗な人だからちょっとドキドキ。

 

「一夏! 貴様不埒な事を!」

「そうですわ! いきなりデートに誘うなんて紳士のすることではありません!」

 

 またこの流れか! どうして箒とセシリアはこうも俺にキレることが多いんだ! 俺が何かしましたか! 先輩も笑ってないで原因なんだから止めて下さいよ!

 

「ふふふ、やっぱり三人は面白いわね」

「そ、それよりも!」

 

 俺は迫ってくる二人を何とか押しのける。箒もそうだがセシリアも体をかなり鍛えていた。代表候補生として当然なのだそうだ。

 

「レインがどこにいるか知ってるんですか?」

「勿論よ。彼女、有名人だもの」

 

 そうなのか? 確かに凄い奴だが人前で目立つようなことはしないと思うんだが。今年の新入生の話題は世界で唯一人ISを動かした男に集まってるような気がするけど。……自分で言ってちょっと気が沈む。

 

「まあ。では過去に何か記録等残していらっしゃるのでしょうか?」

『は?』

 

 俺と箒が同時にセシリアの言葉に呆れ果てる。記録とかそういう次元じゃないだろう。一種異様だから、レインは。本気は見たことないけど、それでもあの身体能力はおかしい。

 

「ほらそんな顔しないの。セシリアちゃんの言うことも尤もなんだから。彼女まだこの学園で自分の力をまともに見せたことないのよ?」

 

 ムッとしたセシリアを先輩がとりなしてくれた。そう言われてみれば確かに、俺も放課後の特訓以外でレインの凄さを見たことはなかった。やはり真の達人ともなれば、実力を普段から隠しておくものなのだろうか。

 いや、待てよ?

 

「ではどうして勧誘をされるような事態になったんですか?」

 

 そう、それだ箒! 俺も今それを不思議に思ってたんだ。

 だが先輩はそれに事も無げに答えてみせる。

 

「それは簡単。入学前に派手にやらかしたからよ」

「派手にやらかした?」

 

 レインの奴、いったいどんなことをしでかしたんだ?

 

「ISをぶっ壊したの」

 

 はぁ、ISをぶっ壊した……。先輩はそういうがどこかピンとこない。IS現行兵器を遥かに上回る性能を持っている。そのことは通称『白騎士事件』と呼ばれる出来事で世界中が認知していることだ。

 そのISをぶっ壊す。ISを使ったのだろうか?

 

「入試でISを動かして摸擬戦はしたわよね?」

 

 先輩は扇子を畳み、掌を叩きながら言った。

 三人とも無言で頷く。セシリアは確かそのとき、教官を倒したとか自慢していたと思う。俺もそれでISが動いちゃったからこの学園に入学したんだしな。忙しそうにしていた試験官(山田先生)のことはぼんやりと覚えている。

 

「で、レインちゃんも同様に摸擬戦を行ったんだけど、使用していた打鉄が壊れちゃったと……」

「整備不良か何かですの?」

 

 セシリアの上げた可能性が一番高いように思う。それでも、入試なんて大事なときにそんなミスが起きるのかという気もするのだが。

 

「打鉄じゃぁ、レインちゃんの動きに追従できなかったの」

 

 おいおい、マジか? 先輩はあっさり言ってるが、とてもじゃないけど信じられない言葉だ。如何にレインが人間離れしていても、ISの反応を越えられるとは思えない。

 事実、レインと直接手合わせをした箒も、ISについては詳しい代表候補のセシリアも疑いの眼差しを向けていた。

 

「まあ信じるか信じないかはあなた次第です!」

 

 

 ビシッと手にした扇子を突きつけてくる先輩。あなたはどこぞの芸人ですか?

 

「この件は生徒には伏せられているの」

 

 当然だろうな。唯でさえ『唯一の男性IS操縦者』なんて目立つ奴がいるのに、態々余計な騒ぎの種をばらまく必要はない。

 

「でも人の口には戸は立てられぬ。教師間では結構噂になっててね」

 

 なるほど。ようやく理解できた。つまり先輩の説明を纏めると、ISの反応を越えた超人的な生徒がいるから、その能力を部活で活かしてもらえればってことだ。レインの身体能力なら運動部は大体余裕でこなせるだろうし。でも生徒には理由が言えないから直接顧問が行動して、レインは逃げ出したということか。

 

「でも、先輩はどうして知ってるんです?」

「そりゃあ彼女目立つもん。あの真っ赤な鉢巻とか、独特の後ろ髪の跳ね方とか」

 

 そういうことを聞いたいるんじゃないんだが。明らかに態ととぼけている。

 とは言え、確かに一から探すよりは効率が良いのは確かだ。俺は先輩にレインの居所を聞くことにした。

 

「で、レインは何処にいるんですか?」

「それはねぇ……」

 

 勿体ぶって会話に間ができた。先輩は口でドラムロールなんてしている。巻きでお願いします。

 

「第二整備室、です!」

 

 整備室?

 

「箒――」

「まったくお前は……」

 

 箒が呆れ顔になった。うぅ、まだ何も言ってないんだが。そりゃ箒の想像通り知らないよ。何ですか、整備室って?

 

「IS学園は二年から一クラスが整備科に変わるのだ。整備室は、そういった人が作業を行えるように各アリーナに併設されている施設だ。ここにもある」

 

 事実だけを教えて貰える箒の説明は分かりやすいな。これが感覚的なものになった瞬間にあれだもの。ぎゅーんだもの。向き不向きってあるんだなぁ。

 

「理解したかしら? じゃぁ、早く行った方がいいわよ?」

 

 先輩は楽しそうに俺達のやり取りを眺めていたが、華麗な仕草でくるりと身を翻すと優雅にその場を離れて行った。

 

「あ、あの! 貴方はいったい?」

 

 俺は去っていく先輩に声をかける。その声に反応して先輩はこちらに振り返ると、悪戯っぽい笑顔を浮かべて人差し指を口元に当てた。どうやら秘密らしい。

 

「どこかで見たことある顔でしたわね」

「私もだ」

 

 セシリアと箒はどこか思い当たる節があるらしい。俺には全くないのだが……。

 

「ま、とにかく言われた通り第二整備室に行ってみようぜ」

 

 考えても仕方がないことは考えないことにして、俺は二人に呼びかけて第三アリーナを出る。二人は未だにあーだこーだと唸っているが、別にあの先輩が何者か分からなくても困ることはないのだし、とりあえず用事を先に済ませるべきだろう。

 そう考えて第三アリーナの隣にある第二アリーナの方へ向かっていると、今度は謎の先輩ではなく、見知った年上が歩いていた。

 

「あれ、千冬姉」

 

 目の前で火花が散った。

 

「織斑先生、だ。馬鹿者」

「あの、私もいますよ……?」

 

 後ろからだったから脅かさないようにそっと声をかけたのだが、千冬姉は振り返りざま自然に俺の頭を叩いていた。いつもなら出席簿だが今は持ち合わせていなかったらしく、手に持っていた分厚い書類の束が代替物となっている。硬さは減ったが重さが増して、衝撃はアップしていた。地味に脳が痛い……。おずおずと自己主張をする山田先生に返事をする余裕がなかった。

 

「お前達は放課後の自主練ではなかったのか?」

「それが……」

 

 千冬姉の問いにセシリアが今までの状況を掻い摘んで説明した。俺はまだ頭痛が引かずに蹲っている。

 

「――ということでして」

「榊原先生も大変ですね」

 

 山田先生が同情的な声を出した。何故俺にも同情してくれないんだ。この頭痛は完全に人災なのに。

 

「でもカッシュさんが整備室にいるのは意外ですね。やっぱり血筋なんでしょうか?」

『え?』

 

 俺と箒の声がかぶった。山田先生の言葉にあまりにレインとかけ離れた印象の部分があったからだ。

 

「血筋、ですか?」

 

 俺は思わず問い返していた。あの格闘家、少なくとも俺が出会った中では最強に近い女の家系だから、てっきり箒のように家が道場とか勝手に思っていたのだ。

 

「日本人が自国の有名人を知らないのは問題だと思いますわよ?」

「そんなに有名なのか?」

「ええ。レインさんのお父様、ライゾウ・カッシュ博士と言えば日本でもトップクラスのIS研究者ですわ」

 

 聞き返すと、セシリアがそう誇らしげに話してくれた。知らない俺の勉強不足だが、ちょっと悔しい。

 

「元々IS開発以前からロボット工学において世界的な権威であったが、発明後は研究開発に尽力されたのだ。我が校でも使用している打鉄を開発されたのもカッシュ博士だ。私もモンド・グロッソのときはお世話になった」

 

 マジか……。

 俺は正直驚きを隠せない。超インテリの父親を持っていたんだな。しかも千冬姉の言葉通りなら、あの『暮桜』の開発にも携わっていたことになる。ちなみに『暮桜』は千冬姉がモンド・グロッソ出場時の愛機の名前だ。

 

「しかも息子さん、レインさんのお兄さんも優秀な科学者で、ISの開発を精力的に行っているんですよ。しかも美形」

 

 山田先生がちょっとミーハーな補足をした。千冬姉が呆れているが、俺には関係ないな。

 しかし、父と兄が有名な研究者で娘が武闘家とは。なんか嫌なことでもあったのか?

 不思議に思うが今のレインを知っている俺からすればどこかピンとこない話だった。インテリなレインなんて地面を走る飛行機並みに、それでいいのか感がある。それぐらい戦う姿の似合うレインだった。

 

「カッシュもこの間のお前とオルコットの摸擬戦で思うところがあったんだろう」

 

 千冬姉の言葉に俺は成程と納得する。確かにレインは、どこか敗北を自分のせいと思っている節があった。勿論、敗北は完全に俺の責任なんだが、たぶんそうとは割り切れない性格なんだろう。結構豪放そうに見えて、責任感の強い繊細さを持っているらしい。

 でも確かに、俺ももう少しあの試合については考えないといけないことも事実だ。あれから箒とも検討を重ねているが、どうしても『何故』セシリアに負けたのか分からないままなのだ。セシリアを追い込んだ瞬間に急にシールドエネルギーがゼロになった理由、それが分からなければ白式を俺が使いこなすことはできそうにない。

 

「あの試合、なんでエネルギーがなくなったんだろう?」

 

 俺は思い切って千冬姉に聞いてみた。

 自分で考えろ、と頭を叩かれると思ったが千冬姉は少し思案顔を浮かべてちらりとセシリアに目をやる。けれどそれも一瞬のことで、すぐに俺に向き合うと腕を組んで俺を見下ろした。

 

「白式の性能だ。『単一仕様能力《ワンオフ・アビリティ》・零落白夜』。それを使いこなせなかったことがお前の直接的な敗因だ」

 

 単一仕様能力《ワンオフ・アビリティ》とは、個々のISが持つ特殊能力のことだ。これはISコアが経験を積み重ね成長することで発動するもので、IS学園の存在意義の一つなのだ。つまり、各国での施設とは異なるカリキュラム下での経験を積ませることで、単一仕様能力《ワンオフ・アビリティ》が発動する切っ掛けを探す、ということ。

 だが、この単一仕様能力《ワンオフ・アビリティ》は本来であれば白式にはまだ発動しないはずなのだ。

 

「ちょっとお待ちください! 単一仕様能力《ワンオフ・アビリティ》は基本的に二次移行《セカンドシフト》の際に発現するものではないのですか?」

 

 セシリアの言う通りだ。少なくとも俺は山田先生からそうなっている。電話帳みたいな教本にも載っていた。

 二次移行《セカンドシフト》はISコアが経験を積むことで進化すること……らしい。何でもIS学園の存在理由もそこにあるということだ。要はISに国外で経験を積ませれば、もしかしたら二次移行《セカンドシフト》すんじゃね? ついでに単一仕様能力《ワンオフ・アビリティ》が発動すれば儲けもん、というお気楽な思考らしい。いや本当はもっとあるのかもしれんけどね。

 

「え、えっと……そのはずなんですけど……」

 

 山田先生がチラチラと千冬姉の様子を伺っている。千冬姉は溜息をついて頭をかいた。

 

「オルコット、お前の言い分は正しい。白式は例外だ」

「例外って……」

「原因は調査中だ。それ以上知りたいなら自分で調べることだ」

 

 あまりにもあっさりとした口ぶりに、セシリアは絶句してしまっている。これは聞いても答えてくれなさそうだ。束さんにでも尋ねないと分からないのかもしれない。

 ああ、束さんってのはISの発明者、篠ノ之束さん。箒の実のお姉さんのことだ。今は行方をくらましてしまっているのだが。

 

「そもそもお前達に余計なことに気を使っている暇はないはずだが。ひよっこはISをまともに使えるようになることを優先しろ」

 

 その通りなので、三人揃って黙り込む。つーか元世界一を前にすれば誰だって半人前だっつーの。無理に反論すればきっと怒濤の如く専門用語並べられて説教を喰らうんだろうな。

 

「ほら、さっさと用事を済ませて自主練に戻れ」

『……はい』

 

 これ以上精神的に追い込まれる前に、俺達三人は撤退することにした。俺達地味にコンビネーションが良くなってないか?

 

「ああ、織斑」

 

 と、思ったら千冬姉に呼び止められる。

 

「後でクラス対抗戦《リーグ・マッチ》に向けて少し補習をしてやる」

「補習?」

 

 まさかまた電話帳並の分厚さの教本が追加されるんだろうか? 是非ともそれは勘弁してもらいたいのだが。

 

「零落白夜の性能を生かすための技を教える」

「それって……必殺技?」

「そんなところだ」

 

 俺と千冬姉の会話を聞いてセシリアが睨んできている。いや、俺に訴えられても困るんだけど。やっぱ世界一の人間から指導を受けるのは理想なんだろうな。

 千冬姉はそれだけ告げると去っていた。山田先生が慌ててそれを追いかけて行く。

 必殺技か……楽しみだな。

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