IS武闘伝   作:Crank

17 / 47
さて、皆さん。
とうとうこのときがやってきました。
一夏と鈴の対戦がクラス対抗戦で行われるのです。
素人の織斑一夏と代表候補正の凰鈴音、この戦い圧倒的な不利を巻き返して勝利を一夏は掴めるのでしょうか?
それでは、IS武闘伝、Ready~Go!


無人機強襲! 幼馴染タッグの賭けⅠ

 クラス対抗戦一回戦。アリーナは満員の生徒に埋め尽くされて、この試合の注目度を物語っている。

 俺の目の前には巨大な双剣を構えたツインテールの少女が仁王立ちをしていた。ISを纏うその姿はまさに威風堂々と言った様子だ。

 

「まさか一回戦からあんたが相手とはね」

 

 対戦相手、凰鈴音はそう不敵に笑う。

 神様の悪戯に俺はため息を隠せなかった。

 

「あ~、やっぱりまだ怒ってるのか?」

「当たり前でしょ!」

 

 一刀両断だ。取り付く島もない。

 昔の約束の一件で揉めて以来、鈴はずっとこんな風に俺に敵意を向けてきている。何度か謝ったり放課後の特訓にも誘ったのだが、けんもほろろで相手にされなかった。

 だから、正直俺が何を間違ったのか未だに分かっていない。

 

「何? まぁ、あんたが土下座するって言うなら、考えてあげなくもないわよ?」

「ふざけるな」

 

 鼻を鳴らす鈴に俺ははっきりと男らしく拒否の意を示した。理由もなく頭を下げるほど俺のプライドは安くはない。……別に高騰はしていないけど。

 

「せめて理由くらい分からなけりゃ謝りようもないじゃないか」

「理、理由…………? それ、は……あの…………察しろ、馬鹿!」

 

 真っ赤になって鈴が怒鳴ってくる。昔の俺はそんな恥ずかしい約束でもしたのだろうか? 少し怖くなってきたぞ。

 

「もういいわ! あんたをコテンパンにのして、無理やりその頭を地面に叩き付けてやるんだから! ついでにギャフンと言いなさいよ!」

 

 ギャフンって何だよ? どうすればそんな言葉が出てくるんだよ。でも鈴の場合は本気でやりかねない。後頭部を踏みつけるぐらいはしてきそうだ。

 恐ろしいことに、俺は流れだけでプライド身の安全を守るために、是が非でも鈴に勝利しなければならなくなっていた。俺の人生は最近疫病神にでもとり憑かれてでもいるんだろうか?

 鈴が手の中の双剣を構えた。白式の提示する情報によれば、『双天牙月』というらしいその刃は、鈴と同程度のサイズを誇っていてあまりの威圧感で俺の弱気を呼び覚まそうとする。

 手の中の『雪片弐型』を強く握りしめる。俺の白式において唯一無二の装備であり、俺の命運を預ける一刀。そして、千冬姉から貰った最強の姉の武器と技が、俺の背中を強く推してくれた。

 大丈夫だ。

 俺は心の中でそう呟く。無根拠な驕りでなく、純粋な確信としての思いを心と体に刻み付ける。経験は俺を裏切らない。

 ――瞬間、試合開始のブザーが鳴り響いた。

 

「はぁあああああああああああ!」

 

 先に仕掛けてきたのは鈴。性格通り、受けより攻めを選んだらしい。双天牙月を振りかぶり、一直線に俺に襲い掛かってきた。

 双天牙月と比べると遥かに細身の雪片弐型で受けるが、当然質量も慣性エネルギーもずっとこちらを上回る斬撃を受け止めきれるはずがない。俺は後退して勢いを吸収しながら、鈴の攻撃を受け流した。

 ISの速度で直線的な軌道を行えば、即座にアリーナの壁に激突してしまう。俺はISならではの三次元的な軌跡を描いて、上空へと後退した。

 しかし鈴もさすがは代表候補生で、距離を離すことなく俺の後退についてきて、そのまま双天牙月のラッシュを叩き込んだ。袈裟切りから突き、突きから切り上げ、切り上げから返す刀で唐竹と、前後に刃の付いた双剣ならではな、槍術に通じる間断のない攻め手で俺に襲い掛かってくる。

 双剣の特徴は攻めの動作が次の攻撃への予備動作になることだ。両手で巧みに操ることさえできれば、例えば切り上げの動作の後、反対の刃は既に袈裟切りのために振りかぶられた態勢になっている。

 そこから繰り出される連携は隙なく、更に変化に富んでいる。先読みが非常に難しい。

 

「くぅっ!」

 

 冷や汗をかきながら、俺はそんな鈴の怒涛のラッシュを捌き続ける。双天牙月の巨大さが、威力の代償に速度と小回りを犠牲にしていることが幸いだ。取り回しだけなら雪片弐型は双天牙月を遥かに上回っている。打ち合う、受け止めるをしなければまだ戦えた。

 

「甘い!」

 

 白式からの警告が、鈴の声より僅かに早く届く。咄嗟に後退からサイドステップへと移行を行うと、空気を震わせる振動が伝わってきて、俺が直前までいた場所を何かが通り過ぎたことを伝えた。

 

「衝撃砲か!」

 

 事前に見ていた鈴のIS〝甲龍《シェンロン》〟を第三世代機足らしめる特殊兵装の名を叫ぶと、鈴は満足そうにこちらに笑いかけてきた。度肝を抜かせて満足らしい。

 カタログスペックによれば、甲龍の衝撃砲は空気に圧力を加えて、その際に生じる余剰エネルギーを攻撃に転じる兵装らしい。白式は空気の不自然な流動を感知して警告を発したに過ぎない。砲撃は一切視認できなかった。

 

「さあ! どんどん行くわよ!」

 

 再び攻勢に出る鈴。さっきまでの双天牙月の連撃に加え、要所要所で牽制の衝撃砲を発射してくる。とは言え、衝撃砲単体の威力も馬鹿に出来るものではなかった。

 白式のセンサーと視覚情報を総動員して漸く攻撃の初動が察知できる程度の攻めの中で神経が削られていく。

 

「やるじゃない! 見えない〝龍砲〟をここまで避けるなんてね!」

 

 鈴の言葉通り、衝撃砲はその砲弾どころか砲身すら目視することができない。発車直前僅かに不自然な空気の流れで発射のタイミングを読むことが精一杯だ。それもどこまでもつか分からない。

 雪片弐型を握りこんで息を吸い込む。額には冷たい汗が伝って落ちた。

 鈴が双天牙月で斬りかかってくるのを、俺は〝踏み込んで〟避ける。

 双剣を振るう中心となっている肩の部分は、一瞬だが完全に無防備だった。圧倒している現状からの油断だろう。俺は、一か八か、そのデッドスペースに体を投げ入れたのだ。

 

「くっ!」

 

 咄嗟に鈴は後ずさった。

 懐に飛び込まれた人間としては当然の反応、反射である。だからこそ、俺はそれを読んでいた。

 

「白式!」

 

 鈴の後退以上の速度で白式を加速させる。鈴を追い抜いて、俺はその背後へと回りこむことができた。

 すれ違いざまの鈴の表情は、明らかに『しまった』と書いていた。それだけで留飲が下がる。散々責められたんだ、思い切り一発どついてやる!

 手の中の雪片弐型が変形して、輝く光の刀身が形成される。そう、俺が懐に飛び込んだ瞬間に鈴を攻撃せず、後ろに回り込んだ理由はこれだ。〝零落白夜〟を発動させていない雪片弐型では攻撃力が足りなさすぎた。今回の戦いは『一撃必殺』しか勝機がない。

 だが、その選択は功を奏したらしい。俺が追撃より加速を選んぶことを鈴は想像していなかったようだ。完全に追い越して未だにこちらを振り返ってはいない。

 後方の視野をハイパーセンサーで感知しながら、俺はその場で反転をする。この場所からなら、如何に鈴がこちらの意図を理解していても、体の反応の方が追いつかない。

 反転横薙ぎで、俺は雪片弐型を振るった――。

 ――警告。

 

「っ!」

 

 白式からの報告に、俺は反射で下方に体を飛ばした。急降下する俺の前髪を、何かが弾き飛ばしていった。全く視認できなかったが、だからこそその原因は推察できる。

 衝撃砲だ。

 鈴は真後ろに向けて衝撃砲を発射したらしい。見えないことに意識を向けすぎていた。百八十度の射角を持つなんて……。

 ――警告。

 再びアラートが鳴る。

 鈴と目が合った。

 まずい!

 垂直軌道から水平軌道に一瞬で移行すると、さっきまで俺が向かっていた地面が吹き飛ぶ。前後だけでなく上下も広く撃てるらしい衝撃砲の一撃だった。

 見えない砲撃。おまけに射角は自由自在とくれば、それは圧倒的なアドバンテージだろう。ここまで何とか戦いの形になっているのは偏に特訓の成果としか言いようがない。知覚できない攻撃に反応できるようにこんな短時間でしてくれたレインには感謝だ。

 

「……あんた本当に素人? 実は中学の頃からこっそり練習してたんじゃないの?」

 

 鈴が唐突にそんなことを聞いてきた。かなり疑いの眼差しを向けてきているが俺には全く心当たりがない。というかそんな前から乗ってたら特訓なんかしてないっての。

 

「あのなぁ、こんなに必死になってる人間にそれはないんじゃねぇか? 努力の成果だよ」

 

 だから俺も少し憮然として返事をする。あの生死を賭けた特訓を努力の一言で終わらせるなんて、俺は何て謙虚なんだろう。

 

「あんたねぇ、努力なら私だってしてるわよ、年単位で! それに追随するなんて信じられないって言ってんのよ!」

 

 何故か鈴は少し怒っていた。そりゃ付け焼刃の俺が互角ならその怒りも納得できるけど、こっちには一切の余裕がない状態で言われたって困るだけだ。

 そう、俺が今戦えているのは、零落白夜が一撃必殺であるからという一点に尽きる。当たれば勝ちという状況の中でその一点にのみ意識を集中できているからこその戦今日だ。そうでなければ、俺はとっくに鈴に向かって無謀な特攻をかけている。

 

「鈴こそ。別れたときはISなんか乗ったこともなかったじゃないか。大体代表候補生が素人に手加減もしないとか大人げないぞ」

「何? じゃあ一夏は手加減して欲しかったて言うの?」

 

 得意気な顔で鈴は俺に問いかけてきた。お前の答えは分かっているんだぞと言わんばかりの顔で、にやにやとこっちを見つめている。

 当然俺の答えは決まっていた。

 

「馬鹿言うな。全力で来い」

 

 手加減をされたりなんかしたら、例え勝っても自慢にならない。負けたら惨めじゃないか。俺はどんなときだって、戦うなら全力だ。

 

「一夏ならそう言うと思ったわよ! だから、ここから先も手加減は一切ないからね!」

「上等!」

 

 俺は剣を構える。シールドエネルギーが削られていくために零落白夜の発動を中止する。雪片弐型は再び実体剣へと変形をした。

 これはつまりこちらから攻めないという現れ。カウンター狙いの形。鈴もそう思ったはずだ。

 だから俺は虎視眈々とチャンスを伺う。千冬姉から学んだ〝瞬時加速《イグニッション・ブースト》〟を使う機会を……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。