IS武闘伝   作:Crank

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無人機強襲! 幼馴染タッグの賭けⅡ

「〝瞬時加速《イグニッション・ブースト》〟?」

「そうだ」

 

 簡潔に答えたのは世界最強の我が姉、織斑千冬だった。

 俺と箒とセシリアの三人は、唯一の実戦経験であるセシリア戦を分析することで、鈴との試合へのステップアップを目指したのだった。突然のエネルギー切れについてはセシリアのおかげで、白式のワン・オフ・アビリティ〝零落白夜〟の影響であることは分かった。実際に雪片弐型が変形してからシールドエネルギーが消費されていることは記録が残っている。

 

 セシリアの言うことには、本来このワン・オフ・アビリティが発動するのは〝二次移行《セカンド・シフト》〟が行われたISでおまけに極稀に現れる能力らしい。世界各国が自国の技術を公開してまでIS学園に代表候補生と専用機を預けるのは、このワン・オフ・アビリティの発現を期待してのことだそうだ。それほどまでに現在の技術では再現の難しい特殊で強力な能力だとセシリアは言っていた。

 だが問題は二つあった。一つは、いくら強力な能力と言えど、その性能を俺は正確に理解できていなかったことだ。俺にとってすれば、零落白夜は厨二心をくすぐるビームサーベルに過ぎない。どう使えば良いのか想像もつかなかった。

 問題の二つ目は、俺が零落白夜を再び発動することができなかった点だ。その能力や特性を理解する為に何度発動しようとしても、雪片弐型は全くその形状を変化することなく、泰然自若としてそこにあった。これでは折角のワン・オフ・アビリティだとしても手の出しようがない。俺達三人は頭を抱えたのだ。

 そこに現れたのが、我が千冬姉だった。

 

「零落白夜の特性を考慮すれば、お前が次に習得するべき技巧だ」

「どんな特性?」

 

 俺は千冬姉に聞き思わず素で聞きかえしていた。敬語とか忘れていたことを怒られるかなと思ったが、そこは目を瞑ってくれたらしい。まあ放課後で半分プライベートだからかな。

 

「〝シールド無効化能力〟。それが零落白夜の能力だ」

「シールド無効化……?」

「零落白夜はエネルギー攻撃、エネルギー防御を無効化するんだ。レーザー、電磁バリア。そういった実体のないエネルギーをゼロにする」

 

 千冬姉の説明に俺は驚きを禁じ得ない。IS自体がブラックボックスの塊で、現在の技術力を大きく上回っている存在なのだが、そこから見ても遥かにオーバーテクノロジーな話だ。

 まあ製作者が製作者なだけにぶっ飛んでること事態はおかしくはないんだが……。

 

「それを生かすために、私がお前に教えてやる」

「………………」

 

 嬉しい。俺は素直にそう思った。俺をISから遠ざけていた千冬姉が、俺にISの技術を教えてくれるというのだ。嬉しくないわけがない。

 だが。

 

「……俺。まだ零落白夜を上手く扱えていない」

 

 千冬姉の折角の教えを無駄にしてしまいそうで、また千冬姉の顔に泥を塗ってしまうのではないかと不安になる。

 だが、千冬姉は俺の気持ちなど分かっているという風に不敵に笑った。

 

「その為にあいつを呼んでいる」

『あいつ……?』

 

 俺達三人は声を揃えて鸚鵡返し。まあ、何となく誰かは予想は付いているんだが……。

 

「織斑先生、連れてきましたよ~!」

 

 どこか間延びした声が響き、俺達の注意を集めた。そこには我らが副担任山田真耶先生の姿があり、その背後には渋々といった風の我らが級友レイン・カッシュが立っている。

 もう嫌な予感しかしない。

 

「カッシュ。これからクラス対抗戦まで織斑と組み手をしろ。遠慮は一切無用だぞ」

「…………まあ構わんが」

 

 後頭部を掻くレインはどこか憮然とした表情をしている。しかし千冬姉はそんなことには頓着せず、逆に全てを理解している風に笑いながらレインに用件を伝えた。

 

「前の特訓では一夏に伝えきれなかったものもあるだろ?」

「………………分かったよ」

 

 ため息交じりにレインが首を縦に振る。

 

「今からか?」

「アリーナはもう取れん。今日はお前がしごけ。明日からは早朝に組み手を行ってくれ」

 

 恐らくレインが放課後に整備室に入り浸って勉強していることを考慮しての予定だろう。さり気なく生徒の行動に気を配っているあたり、千冬姉は想像以上に先生に向いていたのかもしれない。

 

「では道場か?」

 

 箒の問いかけにレインは頷く。

 

「とりあえず他にはないだろう。胴着に着替えてすぐに来い」

「私もご一緒いたしますわよ」

 

 その一言でセシリアの参加が決定した。あの死と隣り合わせの組み手に臨んで参加するとは、セシリアもなかなかの武士《もののふ》だな。

 勿論俺は憂鬱な気持ちを引きずっていた。レインとの組み手は良い鍛錬になるが、あまりに厳しすぎて泣きそうになるのだ。

 俺は自分を奮い立たせ、自室で胴着に着替えると道場へと向かった。男子更衣室が一か所しかないから部屋に戻った方が早かったのだ。

 道場では既に三人が着替え終わって待っていた。いつも通り剣道着姿の似合う箒と、何故か柔道着のセシリア、そしてもっと謎なジーパンとTシャツというレインだ。箒は良い。だがセシリアは何故柔道着? どうしてそんなもの持っているの、イギリス人? それにレイン。それ買い物にでも行く格好なんですけど?

 

「さっそく始めるぞ、構えろ」

 

 そう言ってレインは道場の中心に仁王立ちする。

 威風堂々。ただ立っているだけで気圧される迫力があった。

 箒とセシリアが道場の壁際に正座する。尤もセシリアは箒の見様見真似みたいだが。後で足が痺れて悶絶するんじゃないか?

 

「お願いします」

 

 一礼して手にした木刀を構えた。この木刀はクラス代表決定戦の特訓のときに箒から借り受けたものだ。一度は返したのだがこうして再度拝借した。……三度目はないと思いたい。

 

「はぁあああああああああ!」

 

 正面から上段の面打ち。

 だが半身になってあっさりかわされる。

 読み通り。俺はそこから横薙ぎ、突きへの連続攻撃で切り返した。

 

「かはっ――」

 

 ドンッと鈍い音が響いて目の前が暗くなる。暗い視界の中に伸びた脚が見えた。俺の突きをかわすと同時にカウンターで蹴りを入れられたらしい。

 思わず木刀を取り落としそうになるが、手に力を入れる。

 

「まだ……!」

 

 片手で木刀を振りかぶる。狙いは胴。側刀蹴りの体勢からは避けられないはずだ。

 しかしレインは俺の予測の上を行く。

 俺が木刀を振り下ろすより〝速く〟脚を引いて姿勢を戻し、俺の手首を掴んで投げ飛ばした。

 背中を床に打ちつける。肺から空気が強制的に排出され、一瞬全身が硬直。

 

「一夏……!」

 

 箒の声が聞こえた。それを切っ掛けに全身に力が戻る。

 俺は木刀を杖代わりに立ち上がった。

 どんなに無様でもまだ意識がある。まだ木刀を握っていられるなら、俺は戦わなきゃならないんだ。

 

「まだまだ……!」

 

 そうは言ってもたった二撃でこちらはぼろぼろ、まして相手は格上だ。

 

「相変わらず良い気迫だ。だが!」

 

 その瞬間、俺の腹にレインの拳がめり込んだ。体捌きすら目に映らない。殴られた後でようやくその事実を知覚した。

 

「くそ……」

 

 情けない。こんな俺が千冬姉と同じ武器で同じ戦い方ができるわけがない。

 レインがゆっくりと拳を引くと俺の体はぐらりと傾く。どうやら自分を殴った手に支えられていたらしい。気力で踏ん張り、体重を木刀に預けて漸く踏み止まった。

 構える力は残ってないが、それでも視線だけは外さない。

 だから、しっかりと見ることができた。レインがまだ戦闘態勢を崩していないことが。

 

「……構えろ」

「お待ちなさい! いくらなんでも無茶ですわ!」

 

 叫んで立ち上がるセシリアが、一瞬顔をしかめた。慣れない正座で足が痺れたんだろう。だがそれ以上にその顔には怒気が浮かんでいる。そう言えばセシリアはレインとの特訓は初めて見たのか。

 

「実力差は歴然ではありませんか! それ以上やっても無駄に一夏さんが傷付くだけですわ!」

 

 最初は猿扱いしていた俺の為にセシリアが本気で怒っている。感動的だなぁ。

 でも、俺はその言葉に甘える訳にはいかない。俺は千冬姉の武器と戦い方を貰うんだ。無様な姿を晒すことなんかできないし、そんな人間に千冬姉と同じ戦いをする資格はないから。

 

「セ、セシリア……大丈夫だから……」

 

 俺は必死に笑いかける。引き攣っていたかもしれないが、それが今の俺の精一杯だ。痩せ我慢でも何でも、できるうちはやり続けなきゃならない。

 

「一夏さん……」

「もう、一度だ……!」

 

 心配そうなセシリアから視線を外し、再びレインを見据える。視界の端に袴を握りしめる箒の姿が映った。セシリアと同じように止めたいのに耐えてくれているんだろう。流石武人だ。

 まだ手は動く。活を入れて脚に力を込め木刀を水平に構えた。ダメージは胸、背中、腹。致命的なダメージには至っていないが痛みが残っている。回復は時間がかかるだろうし、その時間を与えてくれるとは思えない。

 一か八かのカウンター狙い。

 まともに動かない体ではそれしかない。全神経を集中させて〝見〟に徹して、僅かな前兆でもそこに全身全霊の一撃を打ち込む。それが最後の手だ。

 

「………………」

 

 意識がレインに集中していく。極限まで高まった集中力が対象以外の情報を遮断して、まるで世界に俺とレインの二人だけの様な感覚に陥る。

 剣道を止めて久しく感じてなかった感覚だ。今なら、一太刀くらい……。

 

「!」

 

 動いた! 右拳が軽く握りしめられた! ここしかない!

 正眼の構えから最短の突き。俺の最速だ。

 

「甘い!」

 

 俺の耳にレインの声が届いた後に、木刀に手応えがあった。俺の木刀は確かにレインに当たったのだ。

 …………掌に。

 俺の全力の突きを掌で受け止めるなんて。

 

「クソッ……」

 

 襲い来る虚脱感に、俺は膝をついてしまう。相対的に俺の頭がレインより下に来て見下ろされる形になる。

 だが誰も助け起こしたりはしない。レインの特訓は自力以外の一切を認めないものだ。続けるも止めるも俺次第だった。

 

「一夏、一度休憩だ」

 

 だからレインの言葉に俺は驚愕するしかない。そんな気持ちが顔に出ていたのか、レインは溜息を吐いた。

 

「今のままでは、何回戦っても同じだ」

「え?」

「織斑教諭から聞いたが、あの零落白夜とやらを未だ発動できていないらしいな」

 

 突如話が変わったように思うが、レインの生真面目さは分かっている。無関係な話ではきっとない。

 

「ISの操作にはイメージが重要だと聞いた」

「確かにISは起動から挙動まで操縦者のイメージを基にする要素が多いのは事実ですわ」

 

 セシリアが促されて補足を入れた。レインはそれに満足げに頷くと言葉を続ける。

 

「一夏、〝お前の戦い〟には〝お前〟がない」

「え……それってどういう」

「借物の剣、借物の太刀筋で私を斬れると思っていたのか?」

 

 箒のじゃなく自分の木刀を買え、という意味ではないだろう。

 

「……俺は」

 

 レインの言葉通りだ。確かに俺の戦いは戦略から太刀筋に至るまで、千冬姉の劣化複製品に過ぎない。それを見抜かれたんだろう。偉大な姉の影を追う弟、そう言われても仕方がないのかもしれない。

 

「…………でも、それでも」

 

 俺は弱々しく反論をしようとしていた。例え俺より実力が上の者の意見でも、それは捨てられない矜持の為、憧れた千冬姉の戦い方を捨てることはできない。その結果、試合で負けたとしても。

 

「あ~誤解してるみたいだが――」

「え?」

「目指すのが悪いとは言っていないぞ」

 

 意表を突かれた。俺はてっきりオリジナリティの無い物は無価値ぐらいの意図かと思ったのだ。だがレインはそれを完全に否定してのけた。

 

「私だって師匠に憧れを持っているし、その背中を追いかけている」

 

 どんだけ怪物だよ、レインの師匠って。ぶっちゃけレインで十分超一流だよ?

 

「だか目標の真似をすることは構わん。問題はそのやり方だ」

「やり方? 物真似に方法の違いがあるのか?」

「というより、心構えの問題だ。お前、織斑教諭がどう動くかしか考えていないだろう?」

 

 しか、の意味が良く分からないが確かにその言葉通りだ。俺はずっと千冬姉ならこうすると考えていた。そうやって少しでも自分の中に取り込んでいこうとして。

 

「拳とは己の心を映す鏡。私は師匠にそう教わった。お前は、お前の剣に、お前の思いを込めているのか?」

「!」

 

 ……そうだ。知っていることだった。心が歪めば太刀筋は歪み、心が澄めば剣もまた。それは剣に携わる者なら必然的に経験から学ぶことだ。

 でも、俺の太刀筋は俺の心を映していないらしい。ならその理由は簡単なものだ。

 

「俺の、剣じゃない……?」

 

 そうだ。俺は千冬姉の剣に囚われ過ぎていた。いや、千冬姉の剣の形にこだわり過ぎていたんだ。知らなきゃいけないのは要諦、身に着けるべきなのはその本質だった。あまりに久しぶりに剣を握るから、俺は大切なことを忘れていたと思い知らされる。

 

「俺の剣……」

 

 思い出す。箒と一緒に道場で振るった剣を、己の剣を振るっていた自分を。イメージの中の俺が徐々に成長していく。中学時代の俺が竹刀を振るっている。そんなはずはなかったのに、現実と同じ重さを持ったイメージが俺の脳内には確かに存在する。

 そしてその姿は今の俺に、IS学園一年一組織斑一夏に。

 

「一夏、白式を右腕部のみ部分展開して雪片二型を出してみろ。今のお前なら、零落白夜を発動できる」

 

 小さく頷いて俺は目を閉じた。さらに強くイメージする為に。想像するのは右手だけ装甲に包まれ、その手に雪片二型を握る自分だ。

 装甲の感触が生まれた。部分展開に成功したのだろう。こんなにスムーズな展開は初めてだ。

 だが今の俺はそんなことに頓着はしない。事実だけを感じ取りながらも想像をぶれさせることはせずに零落白夜を発動した自分をイメージする。

 強く、逞しく、まるで千冬姉のような凛々しい俺を――。

 

「………………できた」

 

 俺の手には輝く光の剣が、零落白夜を発動した雪片二型が握られていた。

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