IS武闘伝   作:Crank

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無人機強襲! 幼馴染タッグの賭けⅢ

 鈴を前にして、自分の意志で初めて零落白夜を発動させた日を思い出す。感想は唯一つ。

 

(辛かったなぁ……)

 

 心の中で俺は涙を流した。千冬姉の指導は情というものを感じさせないほど厳しい上に容赦のないものだった。瞬時加速を習得するまでは罵詈雑言の荒らしで一般人なら逃げ出すかMに目覚めるんじゃないだろうか。

 レインの組み手は物理的に痛すぎた。まあ、こっちは俺だけじゃなくて箒と何故かセシリアも巻き込まれていたから少し気は楽だった。もう三人で試行錯誤をしながら全部が無駄だったときのあの絶望感。本当にレインより強い師匠なんているのか? いたとしても絶対に人間じゃないぞ。きっと熊か何かだ。

 

「考え事なんて余裕じゃない」

 

 鈴の呼びかけで我に帰る。少しフラッシュバックが起こっていたらしい。声をかけてくれるあたりスポーツマンシップに溢れているな、鈴。

 だったら俺も、正々堂々出し惜しみなしで戦おう。

 ――警報。接近中のISを確認。

 

「え?」

 

 白式の警告と同時にアリーナの客席とフィールドとの間に張られた電磁シールドがバチバチと派手な音を上げ始めた。

 

「な、何?」

 

 鈴も何が起こっているのか把握しきれていないらしい。代表候補生として訓練を積んでいるはずの鈴ですら混乱するほどの事態であることだけは間違いない。

 そして、何かがバリアを突きぬけて俺と鈴の間、アリーナの中心へ墜落するように着陸した。その姿は土煙で見えず、周囲を沈黙と緊張感が支配する。

 ――警告。

 

「一夏!」

「なっ!」

 

 白式のアラートと鈴の呼び声に反応して咄嗟に飛翔すると、さっきまでいた場所に明らかに破壊力を持った光が走った。光は土煙すら薙ぎ払ったため、相手の姿がはっきりと視認できる。

 

「灰色の、IS?」

 

 そこにいたのは全身装甲《フルスキン》の機体だった。通常ISは顔などの装甲は付いていない。これは絶対防御のおかげで宇宙線を含む致命的なダメージから操縦者が守られていることと、IS搭乗者、特に国家代表やその候補生がアイドル的な人気を持っていることに関係している。つまり顔を隠すと邪魔ということだ。

 だからはっきりと言える。こいつは異常だ。

 

「何なのよこいつは!」

 

 叫ぶと同時に回避行動に鈴は移った。頭部と一体化した長い右腕が甲龍に向けられ、そこに取り付けられた砲口が光を蓄え再び光線を放つ。避けると同時に衝撃砲で反撃を行った。

 相手はそれを避けようともしない。直撃の爆音が響くが全く効果は見られず、揺らぐことすらなかった。

 

〈織斑、凰! 聞こえるか!〉

「千冬姉! こいつはいったい!」

 

 管制室からの通信が飛び込んできた。俺と鈴は一気に高度を取って謎のISと距離を置く。容赦なくビームが連射されてくるのだが、白式の簡易解析ではブルー・ティアーズのBT兵器よりも出力が上だ。下手に当たると行動不能にされかねない。

 

〈良く聞け。現状そのISについては一切情報がない。同時に何者かのハッキングによってアリーナのドアがロックされていて生徒の避難もそちらへの応援も送れない。整備科及び教職員がロックの解除を行っている。それが終了するまで何としても時間を稼げ!〉

 

 一気に捲し立てる千冬姉の言葉には兄弟だからこそ分かる緊張が含まれていた。今がどれだけヤバい状況かを示している。

 

「一夏、危ない!」

 

 鈴が俺を突き飛ばすと同時にビームが通過した。あまり気を取られている場合ではない。

 

「こんの!」

 

 衝撃砲が唸るダメージは与えられない。白式には接近戦用の武器しかないから近付けなきゃ駄目だし、あのビームの嵐を掻い潜って近接する技量は俺にはない――ん? ビーム?

 

「もしかして……」

 

 俺は零落白夜を発動させ、迫りくるビームに狙いを定めた。

 

「よく見て、よく見てぇ……今だ!」

 

 ビームを斬り裂く。さっきまで圧倒的な破壊力を持っていたビームは雪片弐型の光る刀身に触れた瞬間に霧散した。零落白夜ならビームも無効化できるんだ!

 

「これなら――」

「馬鹿一夏! 敵見なさいよ!」

「おわぁあああ!」

 

 鈴の叫びで我に帰る。咄嗟に次のビームを避けることができた。

 

「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿! 死にたいの、馬鹿!」

「そこまで言うことないだろ!」

 

 態々傍まで寄ってき鈴に浴びせられる罵声にとりあえず反論をする。どうせ倍になって返って来るんだろうなぁ。

 

「馬鹿じゃなきゃ阿呆よ! 超阿呆!」

 

 ほら。

 そう叫んで鈴は急に真面目な顔になる。

 

「あんたのその武器、ビームを完全に防いだわよね。それを広げて防御を固められない?」

「いや、零落白夜は刀身しか作れないし、そもそも長時間は使用ができない――回避だ、鈴!」

「分かってるわよ!」

 

 再び離れる俺と鈴。容赦のないビーム砲の連射が襲い来る。

 

(くそっ!)

 

 考えろ! 打開策を!

 現状こちらの手札は二体のIS、俺の白式と鈴の甲龍だ。白式は接近戦特化で相性最悪。甲龍は中近共にこなすが衝撃砲の威力じゃあのISを止められない。機体の能力じゃ圧倒的に不利だ。

 なら技術だ。あのビームの雨を掻い潜って接近することができれば……。いや、それができるなら鈴がとっくにやっているだろう。中国の代表候補生にできないことが俺に出来るとは考えにくい。

 畜生! 何か手はないのか? 最近の特訓はずっと不利な相手との戦いだけだったはずだ。そこに何かヒントが転がっていないか?

 千冬姉のとレインの特訓で身につけたことは二つ。零落白夜と瞬時加速。攻撃特化のこの二つをどうにか――零落白夜?

 

(もしかして、いけるか?)

 

 いや、待てよ。確かに零落白夜の攻撃は限りなく一撃必殺に近い威力を持っている。相手を行動不能にするにはこれしかないだろう。でもそもそもどうやって接近する。瞬時加速は空気抵抗なんかの関係で直線機動しかできないのだ。ビームと正面からぶつかり合うか?

 くそ! 敵は両手に二門ずつビーム砲を装備してる。同時に二つの物体を狙え、ここには二人しかいないんじゃ隙の作り様がない。

 

(一か八か、零落白夜を楯に突っ込むか?)

 

 瞬時加速と併用すれば、致命傷のビームだけを無効化しながら接近できるかもしれない。

 それしかない!

 

「――て、あれ?」

 

 砲撃が止んだ? 敵の注意が別の所に向いている?

 

「ちょって一夏、あれ!」

「あれ?」

 

 鈴が驚愕の表情で指差したのは俺が入ってきたピッチの入り口だった。ハイパーセンサーで拡大する。他には誰もいないはずのアリーナ内。そう、誰もいないはずだった。

 

「箒? 何で箒が!」

「知らないわよ!」

 

 そこにはIS学園の白い制服に身を包んだ幼馴染篠ノ之箒が仁王立ちで天を、俺を真直ぐ睨みつけていた。

 

「一夏!」

 

 響く声。世界を一瞬静止させてしまうかのような澄んだ声が響き渡り俺の鼓膜を振動させた。

 

「男なら! この程度の敵に勝てずして何とする!」

 

 ……ははは、軽く言ってくれるぜ。さっきまでどうすればいいのか必死に考えてた俺が馬鹿みたいじゃないか。

 そうだよな。やるしかないんだよな。本当、千冬姉といいレインといい、俺の周りの女は強い奴ばっかりだよ!

 

「――! 箒、危ない!」

 

 箒に左腕が向けられた。間違いなくビームの発射態勢だ!

 

「箒!」

 

 零落白夜発動! 瞬時加速準備! 間に合え――。

 

「――って、えぇええええええええ!」

 

 内側から破壊されたピッチの出入り口から人影が飛び出した。人影は箒を飛び越え、信じられない速さで真直ぐに敵ISに向かっていく。

 俺はその人物の名前を叫んでいた。

 

「レイン!」

 

 敵ISはターゲットを静止している箒から接近してくるレインに移したらしい。掲げられた右腕が僅かに動き射線が修正される。

 

「ちょっと! 自殺する気!」

 

 鈴の驚愕は理解できる。俺だってそう思う。理性では自殺行為と納得できる。しかし感情はどこか違った。

 あんなIS程度にレインがやられるとは思えないのだ。

 エネルギーがチャージされる砲身を前に、レインはさらに加速した、真直ぐに砲口を見つめて。そして――。

 

「蹴り上げたぁああああああああ!」

 

 そう叫んだのは俺か鈴か。

 レインは発射される直前の腕を蹴り上げて砲口を上空に向けたのだ。空に向かって一直線に伸びるビーム。そしてレインは即座に次の行動に移った。

 

「はぁああああああああああああああああああっ!」

 

 予想外の方向へビームを発射させられたISは一瞬反動で体制を崩す。レインはそこに右ストレートをぶち込んだ。その威力にISが吹っ飛ぶ。

 

「ば、化物……?」

 

 声の震える鈴。

 だが俺は、そんな鈴を無視して加速していた。

 箒を助ける為に準備していた瞬時加速を発動する。

 一瞬で流れる景色と同時にアップになる敵ISの姿に、俺は零落白夜を発動した。

 加速の勢いのまま突きを繰り出す。雪片弐型の光る刀身はシールドバリアを消失させ、絶対防御を発動させる。

 

「うおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 俺とISは瞬時加速の勢いに従って壁まで一直線。電磁バリアに接触し強制的に停止する。

 相手のエネルギーは減っているのだろうが、それ以上に俺の方のエネルギーが見る見るうちに減少していく。瞬時加速も終了して純粋な白式の攻撃力だけが頼りだ。

 

「一夏、どきなさいよ!」

 

 俺が密着しているせいで鈴は援護ができない。だが、離れたら終わりだ。

 敵ISの腕が動く。俺の顔面にその砲口を向けようとしてる。

 

「くっ…………!」

 

 歯噛みをする。これを撃たれたら唯でさえ間違いなく絶対防御が発動して、俺のシールドエネルギーはゼロになる。そうなったら白式は動かない。

 

「まだか……!」

「一夏!」

 

 そう俺を呼ぶレインの声が届いた。そう、叫ぶのではない、確かな呼び声だ。

 

「そいつは無人だ! 全力を出せ!」

 

 ……無人? 有り得るのか? ISは有人でなければ起動しないはずだ。

 だが、それでも――。

 

「信じるぞ、レイン……!」

 

 俺は零落白夜を握る手に力を込める。

 

「鈴! 衝撃砲を撃て!」

「はぁ? 馬鹿! だったらどきなさいよ!」

「良いから!」

 

 問答している暇はない。俺はレインの言葉と俺の直感を信じる!

 

「……くっ! 上手く避けなさいよ!」

 

 放たれる衝撃砲の音が後方から響く。俺はそれを確認すると、再度瞬時加速の体勢に入った。

 

「ちょ! 何してんのよ!」

「一夏、避けろ!」

 

 鈴、箒。これで良いんだ。後は任せろ。

 

「グゥウウウウ!」

 

 背中への衝撃で全身が軋む。生命への影響はないと白式が判断して絶対防御を発動しないでくれたらしい。

 

「ありがとな、白式」

 

 もう少し頑張ってくれ。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 咆哮と共に瞬時加速を再びかける。

 急激な加速で電磁シールドを背にしている敵ISは強烈な衝撃で砲口の向きが変わった。

 ガチンッという音がして装甲が欠けた。雪片弐型が深々と突き刺さっている。

 しかも瞬時加速の力で徐々に奥へと刃は進む。

 その光景にぞっとする。白式はIS搭乗者を殺してしまえる兵器なんだと理解した。

 

「でも……」

 

 それでも、止めることはできない。俺は――。

 

「俺は、守る!」

 

 もうシールドエネルギーの残量は殆どない。それまでに、何とか決着を!

 ガチンッという音がもう一度なった。

 

「え?」

 

 瞬間、俺の体は支えを失くしたかのように瞬時加速の勢いのまま真直ぐに吹っ飛んでいた。

 

「クソッ!」

 

 アリーナの客席は人は避難していないが、その真下の階がどうなっているか分からない。

 このままアリーナから客席を飛び越えるしかない!

 そう判断した俺は、瞬時加速を無理やり止める。背部スラスターが悲鳴を上げた。

 瞬時加速終了と同時に再びスラスターを全開にして方向転換を図る。軌道は放物線状だ。

 客席を何とか回避して、地面に敵ISを叩きつける。そのタイミングで白式のシールドエネルギーが無くなり、白式は待機形態のガントレットに戻った。

 

「ふぅ……危なかった」

 

 もう少しで空中で放り出されるところだった。普通ならPIC等のISの機能がゆっくりと停止して、軟着陸後に解除されるものなのだが、無茶なブーストと零落白夜の使用でそうはならなかったらしい。

 停止した敵ISを見てみると、どうやら雪片弐型は機体内部を貫通したらしい。そのせいで零落白夜の刀身が電磁シールドに触れて、電磁シールドが解除されたのだろう。

 ISから血のようなものは流れ出ていない。本当に無人機だったようだ。

 胸を撫で下ろした。だが、それも一瞬で凍りつく。

 

「――! まだ動くのか!」

 

 ゆっくりと、弱々しく、それでも敵ISは動いた。動いたのだ。

 どうする? 白式は動かない。逃げることも難しい。生身で戦えるほど人間は辞めていない。

 俺は真直ぐに敵ISを睨めつけた。

 自分から負けを認めることはできない。どうしようもなくても絶対に目だけは逸らしたくはなかった。

 エネルギーがチャージされていく様を、俺は正面から見据える。

 これまでか………………?

 

「…………………………?」

 

 発車音が響いた。敵ISのビーム発車前に。

 いったい――いや。

 

「うちのクラスメイトは頼りになる奴ばっかりだ」

 

 敵ISに降り注ぐ五条のレーザー。ブルー・ティアーズの一斉射撃だ。敵を倒すには威力は足りない。しかし――。

 最後のエネルギーを削るには十分すぎた。

 チャージしたエネルギーが霧散して完全に静止する。

 

「さすが……」

 

 当然ですわ、と聞こえたのはきっと気のせいではなかっただろう。

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