IS武闘伝   作:Crank

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さて皆さん。
ISという物を御存知でしょうか?
正式名称『インフィニット・ストラトス』。
既存のあらゆる兵器を超越したこの超兵器は、ある欠点を抱えていました。
それは女性しか使えないという事。
そんなISを動かした男が現れます。
物語は彼がIS関係者を養成する施設IS学園に入学したところから。
そこで彼は、衝撃の出会いを果たすのです。
それでは、IS武闘伝Ready~、Go!!


入学! 嵐吹き荒れるIS学園Ⅰ

 さて。幸せって何だろう? 何でも願いが叶うとして人間はどんな願いを叶えて貰うだろうか?

 金、富、名声? 良く分かる、俺も欲しい。親のいない生活で姉に負担をかけたくないと思っていたから、金の大事さは一般的な感覚で理解しているつもりだ。名声も――まぁ、昔は欲しかった。有名すぎる姉に恥じない程度はあればいいなとは思っていた。今はそうでもないが……。

 男ならこれに並んであるものが良く上がる。それは何か?

 そう、女だ。

 だがこれには今の俺は同意できない。いや、別に彼女欲しくないとかいう訳じゃなく、知らない女子に囲まれ注目される状況を幸福と表現できるのだろうか? 人によってはハーレムとか言うのだろうが、てか言うだろう、俺の中学の同級生は言う、そして俺を羨み詰る。

 しかしそれでも同意できない。

 俺も男だ。だったら現状は幸福のはずだ。それなのに俺の心には欠片の余裕もなく、こうやって意味のない思考が脳内を駆け巡っている。これを幸せと呼ぶのなら、国語辞典に改訂が必要になること間違いなしだ。

「――斑くん! 織斑一夏くん!」

「あ、はい!」

 名前を呼ばれて咄嗟に立ち上がっていた。周囲の視線が集まっているのを感じる。あまりの居心地の悪さに体から変な汗が出そうだ。余計目立ってどうするよ、俺。

「あの、次織斑くんの番だから自己紹介して欲しいなって! そのしてもらえると先生嬉しいな、というか困るというか……。とにかく次は織斑くんの順番だからその――!」

「落ち着いて下さい! 自己紹介しますから!」

 教壇では背伸びした子供が無理やり大人の格好をした様な女性が慌てふためいていた。服もだぼっとしていて幼さをアピールしている。黒縁メガネはなんかこれでもかというほど背伸び感満載だった。これでも先生だというのだから驚きだ。

「ほ、本当ですか?」

「本当です」

 我らが副担任、山田真耶先生は少し泣きそうな顔をしながら俺の様子を伺っている。小動物に近い仕草だ。

「良かった……。無視されてるのかと思っちゃいました」

「いえ、そんなことしませんよ……」

 安堵する山田先生に俺は内心溜息をついた。いやだってまた注目集めちゃってるもん。これ以上そういうの必要ないっていうか勘弁して下さい本気で。

 周囲から、あの子が~とか本当に居たんだ~とかの内緒話が聞こえてくる。本人に聞こえる内緒話は意外とダメージになるんだな、うん、勉強になった。

 俺はあまりの居辛さに、咄嗟に視線を窓際の席に向けた。そこには無愛想なポニーテールの少女が一人――あ、目ぇ逸らした。

 ああ、もう。どうしてこんな気苦労することになったんだ?

 今日は爽やかな高校入学の日。心地良い春の日差しの中、桜に見守られながら、新しい学校に胸をときめかせ、そこでの新しい生活に心躍らせ、共に過ごす新しい同級生達との出会い。それが入学式ではないのか?

 いやま、確かに現状のこの認識は間違ってはいない。天気が良くて日差しは心地良いし、桜も来る途中で見たが綺麗だった。五分咲きだったが。

 しかし、世の中難しい物でたった一つ歯車が狂っただけで、ときめきも心の踊りも霧散してしまっていた。こうも容易く人間の気持ちというのは変わってしまうのだと実感した瞬間だ。最近の俺、いらない事勉強し過ぎ。

 つまり何が言いたいのかというと――。

 クラス全員女子って辛ぇ。

「さっさとしないか」

「痛っ!」

 後頭部に結構な衝撃を受け、思わず頭を押さえて振り返る。そこには出席簿を手にした見知った女性の姿があった。さっきのは出席簿で叩かれた痛みらしい。

 俺は思わずその女性の名前を呼んでいた。

「千冬姉!」

「織斑先生だ、馬鹿者!」

 バンッともう一度叩かれた。脳細胞死滅しまくりだ。実の姉は俺をそんなに馬鹿にしたいのだろうか。ふむ、見下すという意味での『馬鹿にする』はありえるな。

 そんな俺の思考を無視して千冬姉は教壇へと向かって行く。山田先生はそのまま場所を譲って横で立っている。

 ……あれ? 山田先生って副担任だよな? ってことは。

「私が担任の織斑千冬だ。私の仕事は無能な貴様ら十五歳を多少はマシな十六歳にすることだ」

 一瞬シンッとする教室。当り前だ、こんな乱暴な言い草じゃ、慣れている俺でもちょっと引く、というか恐怖を感じる。つーか本能的に体が震えていた。これがトラウマというものか。

 しかし学校の先生をしてたとは。まぁ千冬姉の実力から考えれば当然かもしれない。世界でも最高峰のIS操縦者『ブリュンヒルデ』の称号持ちなんだから。

 そうやって内心感心していると、教室の空気が激変した。

「きゃぁああああっ! 千冬お姉さまよ!」

「こんなに近くで見られるなんて!」

「ああっ、もっと罵倒されたい! もっと罵って下さい、千冬様!」

 喧騒……というか半分暴走気味のクラスメイト達。流石は『ブリュンヒルデ』、人気っぷりもだてじゃない。

 しかし、弟として聞きたくはない言葉が混ざってたぞ。千冬姉がそっちに目覚めたらどうするんだ。被害は間違いなく俺に直接的に襲いかかって来るってのに。

「ふぅ……毎年毎年私の所には馬鹿しか送らない事になってるのか?」

「織斑先生が人気者なだけですよ」

 あれは本気で面倒臭がっているときの溜息だ。真夏の炎天下の日にクーラーの効いたリビングで寛いでいるのを邪魔するようにやって来た宅配便に対応するときと一緒の反応。隣で宥めている山田先生も分かっているのか苦笑いを浮かべている。ちょっと俺と束さん以外で千冬姉の表情を読み取れる人がいることに嫉妬しないでもないが、まぁ元々感情を隠すタイプじゃないから仕様がない。

「あれ……もしかして織斑君って織斑先生の……?」

「そう言えば、苗字が一緒……」

「さっき千冬姉って……」

 喧騒がざわめきに変わっていた。少し落ち着いたのだろうか、と思わないではなかったが、俺の本能はアラートを明滅させ続けている。驚くほどに真っ赤に。だが如何せん、どうやら俺の危機感というのは対処には間に合うかもしれないが回避は不可能という絶妙なタイミングで反応してくれるらしい。

「凄ぉおおおおおおおい!」

「素敵過ぎる!」

「是非代わってぇえええええええええっ!」

 耳をふさぐ暇もなく教室が歓声に満たされたんだから。

 俺の鼓膜へのダイレクトアタック! 三七〇〇のダメージ!

「喧しいっ!」

 千冬姉の一喝。

 教室が一瞬でシンッと静まり返った。さすが、我が姉ながらその攻撃力は神の一撃に匹敵するな。つーか五体揃ったら即勝利確定の方かも。

「さっさと自己紹介を済ませろ」

「すいませんでした!」

 いつの間にか接近してきての一撃が再び頭頂部に襲いかかる。容赦のない出席簿スマッシュの衝撃が脳細胞を駆逐する。まぁそう言ったら「死ぬほどあるのか?」とか言われそうだから黙ってるけどね!

「え~~~~…………」

 しかし参った。周囲からの期待の眼差しをひしひしと――いや、露骨に感じるのだが、そんな面白いこと言えないよ? このハードルの上げ方は何言ってもスベる流れだ。

 とは言え、皆が注目するのは理解できる。女性しか動かせない最強の近代兵器〈インフィニット・ストラトス〉通称〈IS〉を世界で初めて、現状唯一起動させた男性操縦者なんだから。俺も俺以外がなってたら絶対に気になってた。てか尊敬する。だから誰か代わって欲しい。……無理なんだけどさ。

「あ~……」

 周囲の目が痛い。輝き過ぎだから! 少女マンガ並のハイライト入ってるよ!

「…………織斑一夏です。何故かここに入学することになりました。一人だけ男子なので仲良くしてくれると嬉しいです」

 俺は無難な挨拶に終始した。ヘタレだなぁ。だがここは冒険すべきではない、『命を大事に』だ。

 だがその考えは甘かった。

「えぇーー! 他にはないのなんか?」

「ほ、他?」

「例えばぁ、恋人いるの?」

 やばい! 周囲のクラスメイト(女子オンリー)がサラに目を輝かせ始めた。向こうの指示は『ガンガン行こうぜ』だったらしい。誰だ、最近草食男子が云々言った奴! 明らかに女性の肉食化が先立ってるだろう!

 あれ? さっきまで目を逸らしていた幼馴染がこっちをじっと見てる。何だろう? 今度こそ助け船を出してくれ――あぁまたそっぽ向いちゃった。こんなに困ってんだから助けてくれよ、幼馴染がいがない奴だ。何だよ、幼馴染がいって? 俺も知らん。

「こ、恋人は……その、いないっていうか、いたことない……」

 あれ? 思わず苦し紛れに答えを捻り出したけど、余計なことまで言っちゃったか? 俺の過去の恋愛歴とか暴露する必要なくね?

「え~~、もったいない!」

「じゃぁ、私が最初の彼女に立候補するのも!」

「いける! 上手くやれば堂々と織斑先生をお姉さまと呼べる!」

 またも騒がしくなる教室。もったいないとか言われてもな。立候補はされても、お互いよく知ってからで。千冬姉目当ての彼女はいりません。

 そんな風に内心で一々反論しちゃう俺。口に出してたら大変なことになる、とか思っていると、密かに手をぐっと力強く握りしめる幼馴染が目に入った。そんなに俺に彼女いなかったのが嬉しいのだろうか? もしかして、箒も彼氏いたことないのかな? 変な対抗意識持ってんだなあいつ。

「喧しい!」

 千冬姉の一喝プラス教卓を叩く音が響き、教室は一瞬で沈黙に包まれた。あまりの迫力に全員が石になっている。メデューサは実在しました、ここにいます。

「織斑、今失礼なことを考えたな?」

「サー・ノー・サー!」

 バレた! さすが我が姉と言いたいところだが冷や汗が止まりません。誰か助けて下さい比較的マジな話。

「はぁ、座れ」

「サー・イエス・サー!」

 溜息をついて指示を出す千冬姉に、俺は全力の敬礼を行って着席する。ドイツ軍で教官をしていたこともある千冬姉は、こういう軍隊式を大目に見てくれるのだ。いや、ドイツ軍がこんなかは知らないけど。

 だが、千冬姉のおかげで俺の自己紹介も強制終了した。後はまぁ女子同士の自己紹介だからそこまで変わることもないだろう。俺は胸を撫で下ろして後の人達がする自己紹介に意識を向けた。

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