IS武闘伝   作:Crank

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さて、皆さん。
クラス対抗戦は謎の無人IS乱入という結果に終わってしまった一夏達ですが、次のイベントは目前に迫っています。
学年別トーナメント。各学年の希望者が己の力を見せつけ合う、正に武の饗宴とも言うべきイベントがあるのです。
その直前にやって来た外国からの転校生。彼女達の目的は? そして、もう一人の男の影がレインに迫ります。
それでは、IS武闘伝、Ready~Go!


IS激突編
やって来た! 二人の転校生と覆面忍者Ⅰ


 六月、梅雨真っただ中のうざったい雨が今日も降っている。ちなみにこういう雨を五月雨というらしい。箒がこの間得意顔で教えてくれた。俺ももう少し勉強しよう。

 場所は道場。俺は箒、セシリア、鈴、レインと恒例になりつつある朝の組み手をしていた。いや、そう言うと少し語弊があるな。

 

「……参りました」

 

 組み手というより、レインにボコボコにされる会が正しい気がする。今は箒が完敗していた。

 

「ふぅ~」

「お疲れ」

 

 溜息を吐く箒に労いの声をかけると、箒は自嘲気味に笑うだけだ。無理もない。一方的な敗北が続いているのだ。心の一つや二つポッキリと折れてしまう。

 

「箒さんは相変わらずですわね」

「勝ち目ないのにね~。ありゃマゾだわ」

 

 セシリアと鈴は高見の見物で好き勝手言っている。あの二人は朝練にこそ参加はしているが、常に見学組だ。前に参加を提案したら、

 

「私、射撃型ですので格闘戦は遠慮しておきますわ」

「ISを殴り飛ばす奴と生身で戦うとか正気の沙汰じゃないわよ」

 

 だそうだ。俺も理解はできるんだ。相手がレインじゃなきゃ俺だってお断りだ。だって怖いもん。しかし、レインならきちんと加減をしてくれると信じられる。

 その証拠に、箒は俺の目から見ても著しくその剣の腕を上げていた。本人にはあまり実感は湧かないのかもしれないが、踏み込みの速さ、間合いの取り方、フェイントの掛け方、あらゆる要素がレベルアップしている。

 これなら、高校生で敵無しも近いかもしれない。

 

「次は一夏!」

「よしっ!」

 

 俺は木刀を手にして前に出る。箒が強くなっているのなら、俺も強くなっているはず。だからもっと強くなるのだ、レインとの約束を守るためにも!

 ――――――――そして。

 

「完敗だったわね、また」

「ぐはっ!」

 

 痛い! 鈴、その言葉胸に痛いよ!

 

「……いや、俺だって頑張ってるんだからな」

「そうだ、レインに負けても人として恥ではない」

 

 助け船を出してくれたのは箒だった、寧ろ相哀れむに近い感情かも知れないが。

 俺達はこうやって組み手の後はホームルームまで教室で駄弁っている。鈴も隣のクラスだがよくこうやって話すことが多い。おかげで最近は早起きの習慣がついて健康的な生活を送っている。

 

「まぁ生身で――」

「オルコット」

 

 セシリアの言葉を止めたのは我らが最強の担任だった。

 

「ち、千冬さん……」

「織斑先生と呼べ。それからさっさと自分のクラスに戻れ」

「はい!」

 

 毎朝のことだが、どうしても鈴は千冬姉の名前を呼んでしまうようだ。俺も何度も注意されるから人のことは言えないけど。

 

「オルコット」

「は、はい!」

「発言には、注意しろよ?」

 

 そう言って教壇へと千冬姉は歩いていった。

 面倒なことだが、この間のIS襲撃事件については緘口令が敷かれ喋ることができないのだ。特にレインのことについては厳命されている。IS学園の存在そのものを揺るがしかねないから、レインの為にもそれが良いと俺も思う。あのあっちこっちから実験観察の対象として見られる視線は、かなり精神を摩耗させるからな。

 

「お前達、今日は転校生を紹介する」

 

 …………転校生? この時期に? そもそもIS学園みたいな特殊な施設に転校ってあるのか?

 湧き立つ教室の中で俺は疑問を感じていたが、その思考も扉が開くことで中断される。山田先生の後に続いて見慣れない二人の外国人が入って来たからだ。

 先に入って来たのが金髪を首の後ろで括っている上品な出で立ちの外国人。中性的な顔立ちでとにかく整った容姿をしている。

 もう一人は小柄な子で、銀髪を長く伸ばしていた。こちらも容姿端麗なのだが一番印象に残るのはその目だ。赤い右目と眼帯をした左目。軍隊の様なきちっとした気をつけをする転校生は無表情で、どこか一般人と異なる空気を纏っていた。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

 金髪の転校生がそう自己紹介をした。しかしこの転校生違和感がある、それはもう明確に。

 

「……男?」

 

 教室の誰かがそう呟いた。そう、確かにそうなのだ。何とも言い難いが〝男〟に見えるのだ。

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて、本国から転入を――」

 

 本当か! すっげぇ嬉しい!

 今まで男は一人で肩身狭かったんだ。愚痴を零そうにも男ならではの口は女子には無理だし、かと言って別の学校に行った奴はうらやましいとかで終わるしで、仲間ができたことに俺は感激した。

 この立ち居振る舞いの優雅な〝貴公子〟転校生と必ず友達になろう! 俺はそう心に決めたのだった。

 シャルルの衝撃的な告白で、教室が一気に騒がしくなる。当然だ、世界で二人目の男性IS操縦者が目の前にいるんだから。

 

「いい加減に静かにしろ」

 

 千冬姉の声。

 瞬間教室が一瞬で静寂に包まれた。教育されすぎじゃないか、俺達?

 

「………………」

 

 そして、口を開くべき人間も沈黙をしたままだった。もう一人の転校生はシャルルの挨拶が終わったにも関わらず、微動だにしないで口を紡いだままだ。自己紹介をする気配はない。

 

「……ボーデヴィッヒ、挨拶をしろ」

「はい、教官」

 

 千冬姉の一言に見事な敬礼を返して一歩前に出た。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

『……………………』

 

 再び沈黙。ラウラの次の言葉を待っているのだが、本人は一歩下がって最初の位置で気をつけをしている。

 沈黙に耐えかねた山田先生がラウラに話しかけた。

 

「あの……それだけですか?」

「それだけだ」

 

 簡潔な返答に山田先生も次の言葉が出てこないらしい。最初の挨拶は大事だと思うんだけどな。

 だが、俺は他の人間より多少ラウラの経歴を察することができた。教官、千冬姉、軍人。それが繋がる国は世界中でもあの国だけ。

 ドイツだ。

 千冬姉は第二回モンド・グロッソ出場後、一年ほどドイツで軍隊教官をしていたことがある。恐らくラウラはそのときの教え子なのだろう。

 そんなことを考えながらラウラを見ていると、不意に目が合ってしまった。突如ラウラの無表情が一変して俺を睨んでくる。

 何だろう?

 不思議に思っていると、ラウラが俺の前まで歩いてくる。はっきりと俺を睨みつけたままで。

 

「…………な、何?」

 

 目の前で立ち止まるラウラに、俺は動揺するしかなかった。

 

「……貴様のせいで」

 

 直後、ラウラの手が振り切られた。躊躇の無い完成形のビンタ。始動も殆ど見えず、確実に相手を捉える磨かれた腕。格闘技を習っていると推測できる。

 ――――――――それを避けた。

 

「あれ?」

 

 俺は手の甲が当たる瞬間に首を捻り、威力を受け流しつつ頭を後方に下げることでビンタを回避していた。咄嗟によく動けたものだ。

 

「あ!」

 

 そこで俺は思い至った。考えてみればどんなに鍛えていても、レインを越えている訳じゃない……と、信じたい。あんな化物量産されてたらドイツは第三帝国になっている。

 

「貴様――!」

 

 避けられたことでラウラの怒りに油を注いだらしい。大人しく喰らっておいた方が良かったのか? いや、理由もなく殴られるのは釈然としないからやっぱりこれで良かったんだ。

 

「そこまでにしておけ」

 

 千冬姉が制止すると、ラウラは舌打ちをして翳した手を震わせながらも降ろした。

 

「……私はお前を認めない」

 

 一言小さく告げると、背を向けて教壇へと戻っていった。

 しかしラウラが俺に対して悪感情を抱くのも分かるのだ。千冬姉へのあの態度を見ていると、如何にラウラが千冬姉を尊敬しているのかが伝わってくる。そんな彼女は、俺のせいで千冬姉が最強の座から降りてしまったと思っているのだろう。

 第二回IS世界大会モンド・グロッソ決勝大会の日、俺は何者かに拉致された。犯人も目的も未だ不明なのだが、唯一つだけ俺の記憶に残っていることがある。それは、俺を救出してくれたのが千冬姉のだったってことだ。千冬姉は決勝戦を棄権して俺を助けてくれた。その際に、俺の捜索でドイツ政府に借りを作った為に、教官職に着いたと聞いている。

 だから俺がいなければ、千冬姉はモンド・グロッソで優勝していたと考えるのも分からないでもないのだ。

 しかし、俺の推測が正しいのであればラウラ・ボーデヴィッヒは軍人のはずだ。それがどうして今更高校何かに通う必要があったんだろう?

 

「それではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS摸擬戦を行う」

 

 千冬姉はそう言って手を叩いた。それを合図に教室の全員が一斉に行動を開始した。俺もぼやぼやしてはいられない。

 

「こんにちは。織斑君だよね? 初めまして、僕は――」

「ああ、悪い挨拶は後でな。とりあえず移動しよう」

「え、ええ?」

 

 声を掛けてきたシャルルを遮って、手を引いて教室を飛び出す。この時間は確か第二アリーナの更衣室が空いているはず。悲しいかな学園でたった一人の男子は着替えも使われてない更衣室まで移動しないといけないのだ。肩身が狭いなぁ……。

 いや、でもそれも今日までだ。何と言っても今日からは男子が二人になったのが。パーセントで言えば二百パーセントにアップだ。一人で無理でも二人ならできるさ!

 

「あ、あの、織斑君!」

「え? ああ、一夏でいいぜ。二人だけの男子なんだ。仲良くしようぜ」

「あ……そ、そうだね。じゃあ僕もシャルルでいいよ」

「OK、シャルルな。よろしく」

 

 俺は手を引いたままシャルルに挨拶をした。顔が赤いから男同士で手を繋ぐのが恥ずかしいのだろうか。まぁ俺も弾と手を繋げと言われれば違和感を感じる。しかしこの転校生は、別にそんな感じはない。これがイケメン補正か?

 とは言えこの切羽詰まった状態で手を離すとスピードが落ちてしまう。シャルルはまだ学園の構造を把握しきれていないだろうしな。遅れると怖いんだ、千冬姉。

 

「あれ?」

「どうしたの、織――一夏?」

 

 俺の呟きにシャルルが反応した。思わず織斑君と言いかけて慌てて直すあたりが健気だ。

 

「いや、あそこにクラスメイトがいるんだ。おーい、レイン!」

 

 手を振ると前を歩いていたレインが立ち止まった。女子は更衣室の利用も自由だが、教室で着替えることも許されている。だから慌てて教室を飛び出したのに、何でここにいるんだ?

 

「……一夏、か」

 

 振り返ったレインはどこか険しい表情をしていた。

 

「えっと……?」

「ああ、シャルル。こいつはレイン・カッシュ。俺達と同じ一年一組だ」

「あ、そうなんだ。シャルル・デュノアです、よろしく」

 

 俺の紹介で、シャルルはレインに握手を求める。完璧な貴公子スマイルがそこには浮かんでいた。

 

「……ああ」

 

 対してレインは無愛想。一応握手には対応したのでこれで良しとする。相変わらず初対面の相手には冷たいな。

 だが、それでもシャルルは爽やかな笑顔で話を続ける。

 

「カッシュってもしかしてライゾウ・カッシュ博士の?」

「……娘だ」

 

 そう言えばレインの父親は有名な博士、ISの開発者だった。本人があまりに身体能力高すぎるから忘れがちだな。しかし、お父さんはライゾウって名前なのか……。

 て、それよりも!

 

「ヤバい! 急ぐぞ、シャルル! レインも遅れたら大変だぞ!」

「…………ああ、少し遅れるって織斑先生に伝えてくれ」

「ええ!」

 

 いや、俺に死ねと? というか、レインは自殺志願者か?

 

「用事がある」

 

 レインはそう言って廊下から窓越しに外を見ると再び歩き出した。止める暇なんかありはしない。

 

「面白い人だね」

「あ……そう、だな」

 

 シャルルの言葉も分かるんだが、今のは特に変だった、別ベクトルで。

 あれでレインは真面目で成績優秀なのだ。ええ、五月末の中間試験ではお世話になりました。おかげで赤点を免れたことに感謝をしている。てか学年一桁順位って反則だろ。文武両道にも程がある。

 そのレインが授業に遅刻するなんて変だ。とても気になる……が、個人のプライベートを探るのも嫌だし、遅刻して千冬姉の説教も勘弁だ。

 

「行くか、シャルル」

「うん」

 

 俺とシャルルは更衣室に駆けだした。

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