IS武闘伝   作:Crank

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やって来た! 二人の転校生と覆面忍者Ⅱ

「遅いぞ、さっさと整列しろ!」

『はい!』

 

 ISスーツに着替え終わった俺とシャルルは、大急ぎで第二グラウンドへとやって来た。……間に合わなかったけど。でもあれぐらいの叱責で済んでるってことは、十分許容範囲だったんだろうな。

 第二グラウンドの隅に建てられた簡易テント。その下に並んでいる皆の後ろへと続いた。

 

「後はカッシュか……」

 

 イライラしながら千冬姉が呟く。ああ……、伝えないといけないよな。

「千冬姉――」

「織斑先生だ、馬鹿者」

「あう」

 

 またやっちまった。心の中ではいつも千冬姉って呼んでるから、思わず言っちゃうんだよな。身内が先生だと、これ難しいよな。小学校の頃とか担任をお母さんって呼んじゃう子だっているんだぞ。

 

「で、何だ?」

「あの、レインは遅れるそうです」

「カッシュが? あの馬鹿」

 

 千冬姉が苛立ってる。レインは何であんな無茶をしたんだ。

 

「まあいい。今日から実際にISを動かしてもらう」

「あの織斑先生?」

 

 よし! ちゃんと呼べたぞ。

 

「何だ?」

「雨の中でやるんですか?」

「絶対防御がある。雨程度問題にならん」

 

 そう言えばそうだった。ISは宇宙空間での活動を想定されたものだ。宇宙線さえ遮るのに、雨で影響を受けてたら笑えない。

 

「あれ? でも絶対防御ってシールドエネルギーをかなり食うから、すぐに活動できなくなるんじゃなかたっけ?」

 

 白式の零落白夜が一撃必殺な理由はそれだったような……。

 

「一夏、絶対防御は常時展開されてるよ。エネルギーを大量に消費するのは操縦者に対して致命的なシールドバリアを突破するようなダメージを防ぐとき」

 

 俺の呟きにシャルルが丁寧に解説してくれた。成程、瞬間的に出力を上げる、ということか。

 

「まったく、そのことでしたら私が以前に説明してさしあげましたのに」

 

 そうだったか? セシリアの言葉から回想してみようとするがどうにも心当たりがない。もしかしたら地獄の特訓中だったか? 最近セシリアはレインに影響されたのか、特訓=シゴキと勘違いしている節がある。この間も「一夏さんはもっと射撃武器との間合いの取り方を練習しなくては」とか言いながら、ひたすらブルー・ティアーズの攻撃を掻い潜る練習をさせられた。反撃不可ってキツイ。

 

「まったく、あんたは理論的なことは昔から駄目駄目ね」

 

 背後からの声に俺は胸の内で反論する。

 鈴だってゲームの説明書読まずにやってたじゃん。いや、器用だからすぐに慣れて俺は負けたけども。

 でも、とにかく本格的にISの操縦訓練か。今月末には学年別個人トーナメントとかいうのもあるらしい。何でも全学年全員強制参加らしく一週間もかかるそうだ。長いよな。

 あれ?

 

「あの、織斑先生?」

 

 俺は挙手で発言許可を求める・

 

「……何だ、織斑?」

 

 またか、と呆れ顔で溜息を吐く千冬姉だったが、俺は構わず質問を投げかけた。分からないことを聞くなんて学生の鏡だな。

 

「あの、学年別トーナメントまで、一ヶ月切りましたよね?」

「そうだな」

「間に合うんですか?」

「無理だな」

 

 …………わぁい。

 あっさりと言い切る千冬姉の態度に生徒達がざわつく。

 

「一年は唯のお披露目だ。メインは三年、及び優秀な二年生。お前達に高度な戦闘等誰も期待してはいない。精々、参加者で使いまわす量産型のISを壊さないようにしてくれ」

 

 成程。確かにISは動かすだけなら適性があれば何とでもなるが、上手に動かそうとするとかなりの修練が必要になる。事実、専用機持ちの特権でIS貸し出しの順番待ちなしにずっと練習できているけど、それでもまだまだタイマンでセシリアや鈴とは戦えるようにはなっていないからな。

 

「さて、それではまず最初に専用機持ちの摸擬戦を見せて貰う」

 

 高らかに千冬姉が宣言した。内心俺はドキリとする。正直なところ摸擬戦には自信がない。このIS学園の専用機持ちで一番弱いことになら自信があるのだが。

 

「オルコット、凰! 前に出てISを展開しろ!」

 

 担任教師に指名された二人が同時に前に出る。あの二人が戦うのか。俺の前では初めての組み合わせじゃないか?

 

「何で、私が……。こんな見世物みたいなのは好きじゃありませんわ……」

 

 不満げなセシリアを千冬姉が諭す。

 

「文句を言うな。デュノアやボーデヴィッヒは初日だ。周りも肩書以上のことは知らないから、あまり参考にならん。一夏は戦術と機体特性が特殊過ぎて基礎から学ぶ人間には寧ろ毒だ」

 

 あれ? 何か俺ディスられてますが……。

 

「嫌なら辞めれば~? 私に負けるのが怖いんですって素直に認めなさいよ~」

 

 鈴がセシリアに挑発を仕掛けた。セシリアは気取ってはいるが沸点はかなり低いんだから、そういうのは止めて欲しい。後で八つ当たりされるの、俺だし。

 想像通り、セシリアは顔を真っ赤にしながら、それでも平静を保とうと髪をかきあげた。

 

「ま、ま~、誰が負けるのでしょうか? 実力差、というものが分からないとは悲劇ですわね~」

「何寝言言ってんの? 事実は結果が示してくれるわよ」

「望むところですわ!」

 

 あ~あ、もうこりゃ駄目だ。昼休みは覚悟しよう。そして祈ろう、俺の無事を。

 

「いがみ合っていていいのか? お前達はタッグだぞ?」

『は?』

 

 千冬姉の一言に、それまで牙を向きあっていたセシリアと鈴が同時に呆気に取られた顔を見せた。

 そのとき、キーンと飛行音が空から響く。

 

「ほら来たぞ。お前達の対戦相手だ」

 

 雨を斬り裂きやってくるその姿が視認できる距離まで近づいてきた。

 

「……山田先生?」

 

 それは量産型IS〝ラファール〟を操る副担任の山田真耶先生だ。

 

「山田先生は元代表候補生だ。今のお前達では二人掛かりでも――」

 

 にやりと千冬姉は笑う。

 

「――すぐに負ける」

『む!』

 

 二人が同時に不満気な顔になった。仲良いな、おい。

 でも気持ちは分かるんだ。量産機一機と専用機二機、乗用車とF1カーみたいな差がある。それをひっくり返されると断言されて呑気に構えてられるなんて、プライドの高い二人には我慢ならないのだろう。

 パッとセシリアと鈴の周りが輝くと、一瞬で〝ブルー・ティアーズ〟と〝甲龍〟が展開され装備される。準備は十全、気合は万全だ。

 そのまま二人は簡易テントを吹き飛ばさないように避けて上空に上ると待っていた山田先生と対峙する。

 三機のISが並び立つ姿は、まるで三国志か何かの英傑達を彷彿とさせる堂々たるものだった。………………しかし凄いな、胸。

 あ! いや変な意味じゃなく! ISを操縦する際に着るISスーツは肌表面の微弱な電位差を読み取ることでISの反応速度を上げてるらしい。あと、小口径の銃弾なら完全受け止める防弾使用だとか。試したことないけどな。

 だからこの特殊なウェットスーツをIS操縦時は皆これを着用しているのだが、この服、それはもう露出が酷い。肩から先や股関節から下は完全にむき出しだ。もっとダイバースーツみたいな形状じゃダメだったのか? さっきの理屈だと腕や足の反応速度は落ちるってことになるだろう。あと、体にフィットし過ぎて起伏が強調されてる。

 分かってる。あれは女子達がISなんてごついものを使いつつ、それでも少しはお洒落をしたいという気持ちの表れなんだろう。女子高生がミニスカを履くような。

 でも、男には目の毒だって。

 

「さて、それでは始まるぞ」

 

 千冬姉の言葉で俺は我を取り戻した。

 セシリアが兵装の方の〝ブルー・ティアーズ〟を展開すると同時に、鈴が〝双天我月〟の柄の部分を連結して双剣に。山田先生が如何に量産機とはいえ、元代表候補生を相手にすることを考え、手加減はしないつもりのようだ。

 

「始めっ!」

 

 試合の開始を告げる千冬姉の声に弾かれるように、山田先生が動いた。

 その山田先生に、鈴は正面から接近戦を仕掛ける。俺がいつもやっているように。

 おまけにその背後から、鈴を守るように〝ブルー・ティアーズ〟のレーザーの援護射撃。

 ロールで回避する山田先生は、牽制の為に手にした五十一口径アサルトライフル〝レッドバレット〟を三発発射した。

 鈴は回避する為速度を落とし、上下左右の二次元的な機動で弾丸をかわした。

 とても俺にはできない技術の応酬だ。俺だったら――、

  ①全力で山田先生に真直ぐ突っ込む。

  ②山田先生の攻撃を必死で避ける。

  ③一か八か零落白夜を当てる。

の選択肢しかないな。う~ん、もっと練習しないとなぁ。

 

「よし。ではデュノア。山田先生の機体について解説てみろ」

「はい。山田先生の機体はデュノア社製第二世代型IS〝ラファール・リヴァイブ〟。第二世代型では最後発機で、その性能は第三世代型に劣るもではありません」

 

 千冬姉の指名でシャルルの説明が始まった。俺はこんなにすらすらと立て板に水で喋ることはできないので、素直に感心する。

 そう言えば、シャルルの苗字ってデュノアだったよな。山田先生の機体を開発したデュノア社と関係あるんだろうか? それとも、フランスでは良くある苗字なのか、佐藤みだいな?

 

「何をボーっとしている」

「わっ!」

 

 考えていると後ろから突然声をかけられた。振り返るとそこに立っていたのは遅刻した同級生のレインの姿が。しかし……、

 

「……あ」

 

 ISスーツ姿のレインは初めて見た。特訓は何時も制服のままだからな。IS乗ったところも見たことないし。しかし、意外や意外、スポーティという言うより体育会系な言動に対して、かなりスタイルが良い。少なくとも鈴が嫉妬するだろうってくらい。

 て、俺は何を考えているんだ!

 

「えっと、吃驚させるなよ」

「知るか」

 

 俺の弱い抗議なんてどこ吹く風で、レインは戦う山田先生達を指差した。

 

「お前は今、あれを見ているべきだ」

 

 山田先生がセシリア達を徐々に追い詰めて言っているように見える。何故なら最初より山田先生の攻撃の命中頻度が上がっているのだ。

 

「どうして差が付くと思う?」

 

 そのレインの問いに、俺は少し唸るが必死で答えを探す。

 機体性能ではセシリア達が圧倒的に上。操縦者の技量は、山田先生は分からないがセシリア達はかなり高いはず。何せ国家代表候補生だ。

 

「………………山田先生が、超、強い?」

 

 恐る恐る回答した。だって他に思いつかない。

 

「まあ、それも一因ではあるが……」

 

 レインはそこで一度言葉を区切った。

 

「見た目ほどの差はない」

 

 そうなのか……。俺では分からない高次元での差があるのか思ってたんだが。

 

「じゃあ――」

「あれは、〝読み〟と〝正確性〟の差だ」

 

 俺の言葉を遮って、レインは正解を提示する。

 

「山田先生の射撃を見てみろ。セミオートでの射撃は、必ず四発目では当てている」

 

 その言葉に従って、俺は空中での戦いに目を凝らす。ISならではの高速機動で見切るのは酷く難しいが、遠目であることと山田先生の射撃だけに集中することで何とか認識できた。

 

「……………………本当だ」

 

 山田先生の射撃は〝必ず〟一発目は外れている。それは一発だろうが複数だろうが、射撃回数に限らずの現象。しかし、的確に二人の回避先にその次を打ちこんでいく。

 

「詰め将棋のようなものだ。相手の数手先を〝読み〟、戦術を組み立てる。そして、その戦術を百パーセント実行する〝正確な〟技量が山田先生にはあるのさ」

 

 つまりセシリア達は山田先生《釈迦》の掌の上、という訳だ。すごいな、山田先生。それとそれを見抜くレインの眼力。

 

「で、お前ならどうする?」

「……どうするとは?」

「お前なら、山田先生にどうやって勝つ?」

 

 …………いやいや、有り得ないだろう。勝つ? 今の俺が山田先生に勝てる要素なんてあるのか? 技量で圧倒的に俺に勝るセシリアや鈴が追い込まれてるのに。

 だが、無理とは言いたくなかった。可能性だけでも探さないと。

 山田先生の強みは〝読み〟と〝正確性〟。

 

「読み勝つ?」

「お前がそんなに利口な人間か」

 

 ぐさっ!

 

「意外性?」

「突っ込むしか能がないのにか」

 

 ぐさぐさっ!

 

「え~と、正面突破?」

「蜂の巣にされて終わりだな」

 

 ぐさぐさぐさっ!

 分かってるよ、そんなこと! 何でそんなに心を抉る言い方するんだ!

 

「今のお前が勝つ方法は唯一つ、先手必勝の奇襲攻撃だ」

 

 つまり、始まったら即行で瞬時加速《イグニッション・ブースト》を使った突っ込め、てことだな。確かに細かい戦術じゃ俺に勝ち目はない。セシリアや鈴との試合も、攻撃をかわし続けてできた隙をついた面が強い。山田先生相手じゃ、そもそも避け続けられないだろう。

 

「お前に必要なものは〝見切り〟と〝回避機動〟だ」

 

 レインはそう告げる。

 

「零落白夜は一撃必殺だ。ならそれを生かす戦い方を考えるべきだろう。お前は相手の攻撃をかわし、隙を見て接近する術をまず身につけろ」

 

 その言葉に俺は頷く。

 

「見切りは私が修行をつけてやれるが、回避機動はそうはいかない。その辺りはセシリア達から学べ」

 

 言外に、だから目の前の試合に集中しろ、と感じ取って俺は無言のまま摸擬戦に意識を集中する。

 守りたい、その為には強くならなきゃいけない。でないとまた無茶をすることになる。そんな行為を、レインは絶対に許さないだろう。

 何故かあのときのレインは、普段見るレインとは別人に見えた。だから印象に残っているし、本気だと伝わった。なら俺は強くならないと。約束は守らないといけないんだ。

 

「終わるな」

 

 シャルルの解説を遮って、千冬姉がそう言った。その言葉通り戦闘は最終段階で、山田先生の射撃を回避したセシリアが鈴と激突、動きが止まった瞬間をグレネードが襲いかかった。

 爆発の轟音が響き、煙の中から落下してくる二つの影。

 予定調和的に山田先生が勝利したのだった。

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