IS武闘伝   作:Crank

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やって来た! 二人の転校生と覆面忍者Ⅴ

「一夏、これはどういうことだ?」

「は?」

 

 箒の言葉に、俺は疑問符でしか返事ができない。いったい何を聞きたいんだろう。

 一時間目の約束通り、俺は箒を昼飯を食いに来ただけだ。箒が弁当を作ったと言うから、俺は購買で焼きそばパンを買って屋上へと移動してきている。

 うん、何も問題はない。

 

「どういうことって、どういうことだ?」

「あ、あははははは…………」

 

 素直に聞き返す俺の言葉に乾いた笑いを浮かべるシャルル。その隣ではセシリアと鈴も自分の弁当を広げていた。

 

「だ、だから! 今日の昼食は、その……私と…………」

「おう。皆で食べようって話だったよな」

 

 真っ赤な顔の箒に、俺はそう答えた。やっぱり食事は仲の良い仲間と一緒が一番だ。最近の若者は一人で食べるのが恥ずかしくて、隠れて食べてる奴もいるらしいが、こうして誘って貰える俺は幸せ者だなあ。しかし、箒も一人で食事が恥ずかしいのか。女の子らしくて結構結構。

 まあ敢えて難点を上げるとすれば、だ。雨の日に屋上はちょっとミスチョイスだろ。いや、IS学園の屋上は庭園風で生徒に解放されている。そこにはきちんと屋根のあるベンチもあるから、俺達はそこに座っているのだが、それでも多少雨は気になるのだ。

 ちなみに並びは俺から時計回りに箒、セシリア、鈴、シャルルとなっている。

 

「い、一夏……謝った方が……」

「え? 何をだ?」

 

 恐る恐る小声で耳打ちするシャルルなのだが、どうも要領を得ない。いきなり謝罪と言われても、いったい何についてか分からなければ謝り様がないぞ。

 

「謝る必要なんてありませんよ、一夏さん」

「そー、そー。一夏は全く全然これっぽっちも悪くないんだから」

 

 しれっと俺達の会話を聞いていたらしいセシリアと鈴が、珍しく、本当に稀なことに、俺の援護をしてくれた。いつもなら箒に加担して俺に集中砲火をするのにな。

 そんな普段と違う状況に不思議がっていると、シャルルが溜息を吐いた。

 

「…………一夏、鈍感とか言われない?」

「何で分かるんだ!」

「それが分からないから鈍感なんだよ…………」

 

 シャルルはまた溜息を深く吐く。

 俺はそんなに鈍いんだろうか? 自覚がないところが鈍い証拠なのかも。

 悩みながら俺は一口焼きそばパンを齧る。外で食べる焼きそばパンはまた一段と違った味がした。勿論気分の問題だが。

 

「……………………食べても良いぞ」

「ん?」

 

 箒が弁当箱を突きつけてきた。蓋がされていて中身は見えないが、本人が食べる用ではないことは分かる。何故なら、箒は俺に突き付けている反対の手で、一回り小さい弁当箱を持っていたからだ。

 おお、見事な推理だ! やっぱり俺ってそこまで鈍くないんじゃないか?

 

「これ、俺にか?」

「つ、作り過ぎて余った分だ! 他意は無いぞ!」

「そうか? じゃあ、ありがたく頂くよ」

 

 蓋を取ると中身はなかなか美味そうだった。卵焼きは中に海苔が入っているやつだ。俺、これ好きなんだよな。後は鮭の切り身に金平牛蒡と全体的に和食で統一されていた。

 

「お、美味い」

 

 最初にとりあえず、一番目についた卵焼きを食べる。塩味のシンプルな卵焼きだ。砂糖を入れた甘いやつは正直苦手だからありがたい。

 

「……ほ、本当か?」

「本当だって、箒は食べないのか?」

「た、食べる! 食べるに決まっている!」

 

 慌てて自分の弁当を食べ始める箒。そんなに俺の反応を気にするなんて、自信なかったのか? そう言えば前の炒飯は味なかったしな。

 

「あれ?」

「な、何だっ! どうした!」

 

 箒が夜襲でも仕掛けられたように動揺した。

 

「いや、箒は唐揚げ無いのか?」

「え? …………あ、ああ。その、ダイエット中で」

 

 目を逸らす箒に俺は意外だと思う。あれだけ毎日レインに扱かれている箒がどうすれば太れるというのか。でも俺も体重は地味に増えてるんだよな。まあ筋肉が付いたからなんだけど。女子はそれでも嫌なんだろうか?

 

「でもこれ美味いぞ。一個食べろよ」

「い、いや……私は……」

「一個くらいなら大丈夫だって」

 

 俺は自分の弁当箱の中身の唐揚げを一個箸で摘まみ上げ、箒の顔の前に突き付ける。

 それにセシリアと鈴が、『あ!』と声を上げた。そんな吃驚するほど唐揚げが食べたかったんだろうか? だったら残りは皆で分けるか。

 

「箒?」

「い、いち――一、夏…………」

「ほら」

 

 顔を真っ赤にして狼狽する箒。そんなにカロリーが気になるのかな。気にしすぎだろ。

 

「箒」

「う、うむ! では! …………あーん」

 

 パクリと俺の箸から唐揚げを食べた。ゆっくりと租借をしているので、呑み込むタイミングを見計らって俺は声をかける。

 

「……どうだ?」

 

 俺は美味いと思うんだがな。

 

「そ、その、これは…………良い物だな」

「だろ? 本当に美味いんだって」

「………………何やってるんだ?」

「ひやぁああああああああっ!」

 

 箒が聞いたこともないような高音域の悲鳴を上げた。

 

「…………恥ずかしくないのか?」

 

 声の主はレイン。その手には購買のカレーパンが握られている。だがそれよりも気になるのは、レインの顔が真っ赤になっていることだ。正直ポーカーフェイスなレインの表情に驚くだけだ。

 

「何が?」

「何がって、人前で〝あーん〟なんてやって恥ずかしくないのかと聞いているんだが…………」

 

 え? 今のって恥ずかしいことだったか? 〝あーん〟? そんな恋人がするようなことしたか、俺?

 

「いや、〝あーん〟は違うだろ?」

「違わないと思うが」

「今のは俺が箒に唐揚げを食べさせただけだぞ?」

「……じゃあ、お前の中の〝あーん〟と何が違うんだ?」

 

 …………そう言われると、困る。言葉にはできないけど俺の中で何かが違うんだ。こう、恋人とのキスと彼女とのキス、みたいな。行動は似てるけど、過程とか気持ちとかハードルが全く違う行為なんだよ。

 助け船を望んで箒に視線を送ると、箒は顔を赤に染めて目を逸らした。レインの指摘通り恥ずかしかったんだろうか。う~もしかして俺、恥ずかしいことを強要しちゃったのか?

 

「もういいでしょ? 何しに来たの?」

 

 鈴が膠着した会話の中に割って入って来てくれた。レインもそれでこの話を切ることにしたのか俺から視線を外す。

 

「少し話があってな」

「あ、じゃあここに座りなよ」

 

 シャルルが少し横にずれてスペースができたので、レインはそこに座りカレーパンの包を開けた。

 

「それで? お話って何なんですの?」

「うん……」

 

 カレーパンに齧り付きながらセシリアの質問に頷くレインに全員の視線が注目する。レインも噛みながら言葉を考えているようだ。

 

「……セシリア、鈴。明日からお前達も朝の組み手に参加しないか?」

『は?』

 

 全員が口を開けて呆気にとられる。ああ、シャルルだけは今日転校してきたから意味が分かってないな。

 

「実は毎朝、レインと組み手をしてるんだ」

「へぇ、レインって強いんだね」

 

 俺の補足説明にシャルルが感心している。ええ、レインは強いんです。寧ろ人外、みたいな?

 

「しかし、いきなりどうしたんだ?」

 

 そう尋ねる箒の疑問も尤もだ。セシリアと鈴は参加を拒否していたし、レインもそれを無理に参加させることはなかった。それが急にこんなことを言い始めたのだ。どういう心境の変化だろうか。

 

「……私は武闘家だ」

 

 知ってる。

 俺の中のイメージはレイン=武闘家、箒=侍、セシリア=お嬢様、鈴=猫、シャルル=貴公子だ。

 

「元々ISに関わるつもりはなかった」

 

 師匠の指示とか言っていたな。

 

「だから何処か無関係に思っていたんだ」

 

 なるほど。住む世界が違うから傍観者然としていられたと。

 

「でも、それは私の傲慢があったかもしれないと思ってな」

「それで歩み寄りの第一歩として、セシリアや鈴とも組み手をしようと」

「ああ」

 

 レインは至って真面目な顔なのだが、俺は違和感を覚えずにいられなかった。

 

「なら、レインがISに乗れば良いだろ?」

 

 思わずそう言っていた。

 今セシリアや鈴を組み手に参加させても、それは二人がレインに引き摺られただけで、レインが歩み寄ったことにならないからだ。

 

「………………それは」

「ほら放課後のIS訓練にレインも参加すればいいじゃないか」

「…………そうか」

 

 言葉を濁すレインの様子に、俺だけでなく箒やセシリアも驚いている。いつも道場での威風堂々とした姿を見ていたら当然だ。

 だが、俺はどこか初めてじゃないような気がしていた。

 

「あ、じゃあ僕が参加しても良いかな?」

 

 挙手をしたのはシャルルだった。

 

「実は接近戦って苦手なんだよね。だから鍛えて貰いたいなって」

「…………知らないって、幸せなことよね」

 

 重々しく呟く鈴の一言は、その場にいた人間の共通認識だと思う。正直な話、苦手な人間が参加すれば、接近戦に絶望したりトラウマになっても不思議ではないのだ。目の前に乗り越える気を根こそぎ奪う壁が立ち塞がるわけだから。

 

「じゃあ、シャルルは朝稽古に明日から参加で、レインは放課後にISの練習な」

「…………IS、か」

「嫌なのか?」

 

 俺の提案に言い淀むレインは、箒の質問への答えも歯切れが悪い。

 

「う……む。嫌ではないんだが」

 

 そもそもレインは四組の代表候補生の専用機開発に協力しているはずだ。ISが嫌いなら、そもそもそんな手伝いはしなくていい。三年間、黙って暮らしてもいいはずだ。――て、そうか。

 

「そうか。放課後はISの開発の手伝いをしてるんだよな。それで忙しいのか」

「…………いや、それは大丈夫だ。学年別トーナメントに向けて整備室もフル稼働だから、個人的な作業はしばらく休み――というより、私では手伝いようのない内容になっているからな」

 

 割とあっさり俺の考えは否定された。

 

「なら学年別トーナメントに向けて練習をされては? それともレインさんは出場されませんの?」

「それは……考えてないな」

 

 セシリアの疑問も割とあっさり否定された。仲間仲間。

 確かに学年別トーナメントは強制ではないから、出場しないという選択肢は当然ある。でもレインは素手でISを殴り飛ばすし、動体視力なんかの基本的スペックも高いから、打鉄やラファール・リヴァイブでもそれなりに強いとは思うんだけどな。……それでIS壊したとか聞いたけど。

 

「何でよ?」

「違和感がな。ISで闘うことに何処かずれを感じるというか」

 

 頭を掻くレインだったが、聞いた鈴はその返答に呆れ顔になる。あまりに漠然としていて要領を得ない内容だから、それも仕方がない。

 

「でも、それなら出た方が良いと思うぞ。違和感も、ISに乗り慣れれば無くなるかもしれないし」

 

 レインの持つ違和感の正体はよく分からないが、そもそもまだ六月、本格的なISの訓練もほとんど行っていない現状で判断するのは早計だろう。食わず嫌いと大差ない。

 

「む……分かった。では明日から参加する。今日は少しやりたいことがあるんでな」

「分かった」

 

 何処か渋々ではあるが、漸くレインが参加を表明した。セシリアや鈴が得意気に無笑みを浮かべているので、どうやらレインを扱くことを考えてるようだ。まあ生身じゃ勝ち目ないからなぁ。……でも二人は国家代表の候補生としてそれで良いのか?

 何はともあれ、これで少なくとも学年別トーナメントまでは朝夕の特訓が確定した。

 さて、どうなることやら…………だ。




皆さんお待ちかねぇ!
学年別トーナメントに向けて特訓を重なる一夏達。
そのとき、レインの前に再び謎のゲルマン忍者シュバルツが現れファイトを挑むのです。
この強敵に、レインはどのように立ち向かうのか。流派東方不敗の必殺技が炸裂する。
次回IS武闘伝「レイン敗北!? 決めろ必殺の一撃」にReady~Go!
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