IS武闘伝   作:Crank

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入学! 嵐吹き荒れるIS学園Ⅱ

「箒、さっきはよくも見捨てたな」

 授業が終わり、昼休みになったので、俺はこの学園で偶然再会しクラスメイトになった篠ノ之箒を伴って昼食を取っている。小さい頃から変わらないポニーテールと鋭い目つきは懐かしさすら感じるが、全体的に体の色々な所が大人になっていてちょっとドキドキする。

 ちなみに授業内容は意味不明だった。千冬姉がいなきゃ爆睡確定だ。

「ふん! 女に囲まれて鼻の下を伸ばしていたのが悪い!」

 そう鼻を鳴らして箒はサバの味噌煮込み定職に箸を伸ばした。味噌の香りが食欲をくすぐる。堪らなくなって、俺も自分の豚の生姜焼き定食を戴くと、口一杯に広がる豚のジューシーさと生姜のさっぱり感が適度に調和して美味い。学食のクオリティーじゃないぞこれ。

「そんな訳ないだろ? 周り女子に囲まれて、一切余裕なんてなかったつうの」

「見えなかったな。デレデレして、全く軟弱な奴だ!」

 俺の反論(正論)に箒は欠片も理解を示してくれる気配はなかった。男の苦悩とは女に伝わり難いものなんだろうなぁ……。

「そういや、箒剣道大会で優勝したんだったな」

 さりげなく話題の変更を試みる。勿論、言おうと思って機会がなかったということも原因だが、本来ならもっと早く言うべきだったと反省。

「な、何で知っている!」

「いや、新聞に載ってたから」

「何故新聞何か見てるんだ!」

 この話題になった瞬間、箒は顔を真っ赤にして狼狽を始めた。言ってることも支離滅裂になっている。新聞くらい読んでも良いじゃん。

「まぁとにかくおめでとうな」

「う、うむ……」

 目一杯の賛辞を込めて笑顔を向けると、これでもかと赤面する箒は、とうとう俯いて小さい声で返事をするだけになってしまった。そこまで恥ずかしがるとは。知らない間に大和撫子の奥ゆかしさ身につけたのか。時間の流れを実感。って爺臭いな。若さを保て、織斑一夏!

「そ、その……一夏は、中学時代どうしてたのだ? 一度も大会で見かけなかったが」

 窺うようにこちらをちらちら見ながら問いかけてくる箒の姿に、俺は軽い衝撃を受けた。男子と喧嘩したり剣道にのめり込んだりと、何かと生傷の絶えない印象があったあの箒が、こんなにもじもじとした態度を取るなんて。

「いや、俺中学では剣道やってないんだ」

「は?」

 あれ? そんなに以外か?

 箒はさっきまでの初々しい態度を一変し、口を大きく開けて目を見開いている。ドライアイが心配になる。

 と、思っていると今度は急に怒りだした。

「何故だ!」

「あ~バイトとか忙しくてさ。部活してる余裕なかったんだ」

 両親が居ない姉弟二人暮らしの身としては、やはり全てを姉に頼りきりというのはあまりに心苦しくて、せめて生活費ぐらいはと思っていたんだが、千冬姉はその金は一切受け取ってくれなかった。

 だから俺は少しでも負担を減らしたくて、学費が超安く、就職にも強い藍越学園に入学しようと猛勉強もしたんだ。ちなみにこの学校は『アイエス学園』。しくじった……。

「な、な、な……」

 そんな自己嫌悪な俺に追い打ちをかけるかのように、正に絶句といった感じで言葉に詰まる箒の表情は、徐々に剣呑な物へと変わっていっている。受験校を間違えるのってそんなに悪いことなのでせうか? あれ? でも何で箒がそんなこと知ってるんだ?

「~~~~~~っ!」

 ん? 何か俺を一睨みしたら茶碗の飯をかき込み始めた。とは言っても下品と言う程ではないから別に構わないんだが。

「箒?」

「お前もさっさと食べろ!」

「お、おう……」

 怒っても良いけど理不尽だ。せめて訳を言って欲しい。説明責任を真っ当しろ! 言えるわけがなかった。

 こりゃ、黙々と食うしかないか……。食事は楽しく取りたいんだけどな……。

 そう諦めかけたとき、

「ここ、良いか?」

 そう告げて無遠慮に対面の席に座った生徒がいた。見覚えがある。印象に残っているクラスメイトだ。

 真っ赤な鉢巻をして、スカートではなく俺の制服の様にスラックスを履いていた。そして何よりその目つきが他の生徒と違っていて、切れ長で勝ち気そうに見える箒の目をさらに鋭くした、一見すると猛禽類の様にも思える双眸だ。確か名前は……。

「レイン・カッシュ、だっけ?」

「ああ」

「何の用だ?」

 投げやりに返事をして、持って来たトレイのラーメンをすすり始めたレインへと、箒は無遠慮に問いかけた。おいおい、そんなに睨まなくても良いだろ。友達できなくなるぞ。

 だがレインは、箒のそんな視線を意にも解さない。なんというスルースキル。

「ここ以外が一杯だっただけだ」

 そう言われて周りを見てみると、周囲の生徒と目があった。箒と話していて気付かなかったが、俺達を取り囲むように人の輪ができとこっちを見ていたらしい。

「……なんで?」

「唯一の男子生徒の動向は気になるが、話しかける切っ掛けもないし、周りから抜け駆け扱いされるのも嫌だからお互いに牽制し合ってた、か、観察していたかだろ」

 納得。そう言われれば確かにレインの言う通りの気がしてきた。

「じゃぁ、お前は良いのか?」

 今の説明だとレインは他の生徒から結構睨まれることになると思うんだが。

「興味ないからな」

 レインはあっさりとそう言った。しかし醤油ラーメンなんて代物がIS学園に在るとは。美味そうだな。

「興味がない……とは?」

 お、箒も何か思うところがあるようだ。窺うようにレインに問いかけて返事を待っている。

「こいつにも、この学園の生徒にも、ISにも、だ」

 孤高の女って感じの答えが返ってきた。学園に入学が決定してからこっち、ずっと珍獣か何かの様な扱いを受け、好奇の目に晒されてきた身としては、こういう反応はありがたい。

 でも、何でISに興味ないのにこの学園に入ったんだ? 俺は世界で唯一ISが扱える男ってことだから仕方なくだし、箒も実の姉がISを発明し、かつ必須パーツのISコアを作成できる唯一の存在『篠ノ之束』博士だから解らなくもないが、結構競争倍率の高い学園のはず。何となくで入れるはずはないんだが。

「師匠の御命令でなければ、こんなとこに……」

「師匠?」

「武術の師匠だ。私は武闘家だからな」

 すげぇ。幼馴染の剣道少女と再会した後は武闘家少女との会合だ。漫画みたいな話だな。

 あれ? 箒が何か胸を撫で下ろしてる。六年前と比べると大きくなったなぁ、当り前か。……オヤジ臭かったな、今のは。

「どうかしたのか、箒?」

「え! いや、何でもない!」

 何でもなくはないと思うが……。よく分からん。

「でも武術って何をやってるんだ? 空手か? 合気道?」

 特にがっしりとした身体つきでもないから柔道とかちょっと予想しにくいけど、柔よく剛を制すって感じでそれもありかもしれない。

「流派・東方不敗だ」

『は?』

 思わず箒とハモっていた。いきなり流派を言われても困る。それが例えば空手の有名な流派とかだったらまだ分かるけど、東方不敗なんてもう想像もつかない。

 だがレインはそれをどうも馬鹿にされたと思ったらしい。残ったラーメンを一気に食べる。それはもう驚異的と言っても過言ではないスピードだった。そして、こちらを一瞥して席を立とうとする。

「ちょっと待ってくれよ!」

 慌てて呼び止めると、軽く睨みを利かせながらも席に戻ってくれた。俺は内心安堵する。折角まともに付き合えそうなクラスメイトが居たんだ。ここで逃がしたら俺はずっと珍獣扱いになってしまう。

「なんだ?」

「その、流派・東方不敗ってどんな格闘技なんだ?」

「……流派・東方不敗は釈尊を守護する古代インドの武術を源流とした拳法だ。だから中国拳法に似た部分はあるが流派・東方不敗以外に言い表せはできない」

 最初からそっちで説明してくれれば分かり易かったのに。あんまり人に分かりやすくとか得意じゃないんだろうか? そんするんだよなそういうタイプは。

 しかし中国か……。鈴の奴は元気かな? ファースト幼馴染と再会した直後だけにセカンド幼馴染のことも少し気になる。

 ちょっと知人を思い返していると、今度は箒が口を開いた。

「で、その師匠からこの学園に入学するように言われたのか?」

「ああ」

「何故だ?」

「私が聞きたいくらいだ」

 レインの返答はシンプルな物で会話をこれ以上広げる要素がない。とにかく分かったことは、こいつの聞いたこともない流派の師匠は、この学園にレインを来させる意図があったことと、理由も分からなくても師匠の指示に従うという信頼関係があることだけだ。

「じゃあ俺と同じで急に入ることが決まったのか?」

「私はそもそもまだ師匠の下で修業を見ていただきたかったからな」

 なんだろう。箒以上にストイックな臭いがしてきたぞ。現代女性の発言じゃない気が……。

「なら授業も大変だろ?」

 この学園の授業ははっきり言って滅茶苦茶難しい。IS運用協定、通称『アラスカ条約』とか入学前に暗記が義務付けられていた。そんなのエキスパートでもなきゃ無理だって。いや、そのエキスパートを要請する学校がここなんだけどさ……。テキストを古い電話帳と間違えて捨てた俺も悪いんだけどさ……。

「いや、あの程度ではそこまで苦労は感じないが?」

 な・ん・で・す・と?

 こいつは嫌々入学したのにあの訳のわからん授業を理解できるというのか? 天才か?

「予習をしていない自業自得だ」

 ええ、その通りですよ箒さん……。凹む……。

「よく分からんがそろそろ行くぞ。午後の授業も始まる」

 げ!

 腕時計を見ると確かに昼休みの終了まで十分を切っていた。隣に視線をやると、さりげなく食べ終わっている箒の姿。裏切ってやがった!

 大慌てで飯をかき込む俺を後目に、レインと箒は席を立つ。何て薄情な奴らだ、とは思うが伝える余裕はない。一人で食べ終わると、飛ぶが如く教室に帰る。遅刻なんかしたらまた千冬姉に脳細胞の虐殺パーティーを始められてしまう。

「それは勘弁!」

 

 

 結果として授業にはちゃんと間にあったが、廊下を走っているところを見つかって結局出席簿を頭に喰らった。それが原因か、午後の授業も意味不明、理解不能…………。

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