IS武闘伝   作:Crank

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レイン敗北!? 決めろ必殺の一撃Ⅳ

 IS学園の敷地は広い。複数の校舎に様々なアリーナ、部活棟や

グラウンドに寮など設備も充実している。税金を潤沢に使っているからだろうな。

 そんなIS学園内には自然も多く存在している。池の淵は晴れた日に弁当を食べる絶好のスポットだ。問題は校舎から遠い点だな。俺は男子トイレに行く為によく傍を通るんだけど。

 他にもちょっとした林がある。面積的には広くはないが、木の間を歩くとそれだけでリラックスした気分になるのだ。

 たぶん、ISなんて最先端の科学技術に囲まれるから、自然に触れることを忘れないようにという配慮だな、たぶん。

 俺達はそんな心配りでできた(予想)林に併設された道を歩いている。昼休みとはいえ態々ここまで来る生徒はいないようで、俺達以外の姿は見えない。

 

「……別について来なくても」

 

 レインが不満気な顔をする。

 俺と箒とシャルルは、急に提出した打鉄の使用許可申請の状況を確認しに行くレインに同行していた。特段深い理由があった訳ではないが、専用機を使い続けている俺は興味を引かれていたのだ。箒とシャルルは俺について来ただけで、セシリアと鈴は本国の人に呼び出されたらしい。

 

「まあまあ、別に邪魔しようって訳じゃないんだから」

「お前らがいると走れない」

 

 笑って誤魔化そうとしたが、バッサリと切って捨てられた。

 

「レインは普段あんまりIS乗らないの?」

 

 そこで話題を変えてくれたのは貴公子シャルルだ。この卒のなさは正直かなり羨ましい。このスキルを身に付けることさえできれば、箒や鈴から殴られる回数も減るのではないだろうか。

 

「そうだな。ISは優先順位が低い」

 

 流石武闘家。拳で語るって感じなんだろうな、レインの場合は。

 でもそれで良いんだろう。一つの道を極めるって、たぶんそういうことなんだ。寝ても覚めてもそればっかり考えて、そのことが思考と生活の中心になって。

 ちょっと、憧れるな。

 

「ふふふふふふふふ」

 

 そのとき、くぐもった笑い声が聞こえた。

 

「ん? 箒、今笑ったか?」

「あんな笑い方するわけがないだろう!」

「じゃあ……シャルル?」

「ち、違うよ!」

「それじゃあ…………」

 

 力強く否定する二人を除外すると、残るはレイン唯一人。それとも、もしかしたら俺が自分でも気付かないうちに、あんな変な笑い声を上げていたのか? いや、そんなことはないだろう。

 消去法でレインの様子を窺って見ると、そこには今まで見たことのない表情のレインがいた。

 

「レイン……?」

 

 思わず名前を呟いてしまう。いつもの無愛想な顔や、ちょっとイラッとした顔、自責の顔も見てきたが、これはそのどれとも違う。

 敢えて言うなら戦士の顔。緊張感と強気の同居した顔だ。

 

「どこだ! 姿を見せろ!」

 

 レインが周囲を見回しながら叫び声を上げた。釣られて俺達も周りを見渡すが、どこにも人の気配はない。隠れるとすると林の中だが、林とは言え全く見えなくなるようなものではなく、木の影くらいしか場所はないはずだが、どんなに意識を集中しても見つからなかった。

 それはレインも同じだったらしいが、林の中に誰か居ることは確信したのか、急に駆けだして林に突入した。

 

「レ、レイン……!」

「来るな!」

 

 慌てて駆け寄ろうとした俺達を、レインは怒声で制止する。そのあまりの迫力に、俺達は金縛りにでもあったように動けなくなる。まるで大気すら震えたような気がした。

 

「どこだ! 出て来い!」

「ふふふふふふふ。ふははははははははは! 私はここだ!」

 

 笑い声も高らかに、レインから五メートルほど前方の木の皮が捲れた。………………捲れた?

 

「何ぃいいいいいいい!」

 

 俺は驚きのあまりそんな間抜けな叫び声を上げてしまっていた。木の皮かと思った物は、木の表面が描かれた一枚の布だった。

 忍法・木遁の術だ。漫画でしか見たことないけど、完璧な偽装だった。これがジャパニーズ・ニンポーか!

 

「シュバルツ・ブルーダー」

「レインよ! 昨日の約定通り、貴様の未熟さを分からせに来たぞ。ここなら施設を壊す心配もない」

 

 覆面をしたコートの忍者はそう言った。レインの言葉からすれば、シュバルツ・ブルーダーという名前なのだろう。

 …………て。

 

「何故、IS学園内に男がいる?」

 

 箒はシュバルツに問いかけた。当然だ。ここは女子だけ(一人例外)のIS学園。そこにこんな黒・赤・黄色の三色縦縞で変なV字のアンテナまで付いている覆面の男が入ってこれる訳がない。

 

「そんなことはどうでもいい。こいつ程の実力者なら侵入ぐらいどうとでもなる」

「その通りだ。今問題なのは、貴様の未熟さよ」

 

 問答無用で俺達の疑問は無視された。この二人にとっては本当に問題にならないんだな、IS学園のセキュリティ。世界最先端の技術が終結してる場所なのに。

 それにしても、レインが未熟? 俺からしたら人間の枠からはみ出してるように思うんだが。

 

「確かに私はまだ修行中の身。しかし、貴様に未熟扱いされるいわれはない!」

「ならばファイトでもって貴様の未熟さを身に染みて貰おう!」

 

 え? ここで始めるの?

 

『レディイイイイイ・ゴォオオオオオオオ!』

 

 その掛け声で二人が同時に前進。五メートルは離れていたのが一足飛びって……。

 

「はぁああああああっ!」

 

 レインのパンチが嵐のように繰り出される。

 

「………………腕が増えてるぞ」

「…………ざ、残像か?」

 

 あまりの速さに、レインの腕が十本ぐらい見える。あまりの光景に箒も呆然としている。

 

「に、肉眼で捉えきれるパンチじゃないよ!」

 

 驚愕するシャルルはISを展開することでハイパーセンサーを使用していた。俺もそれに習って白式のを展開する。白式の各種センサーがレインとシュバルツの戦いを捉えた。

 

「げっ! パンチに紛れて蹴りも入れてるぞ!」

 

 俺は口に出して実況をする。専用機を持たない箒には何が起きているのか正確に把握しきれないと思ったからだ。

 少しでも視認しようと箒も目を凝らすが、肉眼の限界を超える攻防だ。

 

「これが、レインの本気か……」

 

 思わず呟く。

 そのとき、シュバルツがバック転で距離を取った。

 追撃をかけるレイン。

 しかしシュバルツは空中に飛び上がると、懐から手裏剣を取り出した。

 

「そらそらそらそらそらそらそらそら!」

 

 垂直に飛び上がった十メートル程の高さから、雨のように手裏剣が降り注ぐ。

 

「クソッ!」

 

 咄嗟にバックステップしたレインの足元に数枚の手裏剣が突き刺さる。

 もしかわしていなかったら、脳天に突き刺さっていたかもしれない……。

 

「とぁああああああああ!」

 

 着地したシュバルツは一直線にレインに跳びかかった。

 

「破!」

 

 弾丸のようなシュバルツの特攻に反応したレインの掌底が繰り出される。

 

「甘い!」

「がっ……!」

 

 しかしシュバルツは、華麗に身をかわしてレインの腹部に膝を蹴り入れた。

 

「あのレインが……カウンターを……?」

 

 箒の声が震える。俺も恐怖に近い驚愕に体が硬直してしまった。

 俺達の誰もが攻撃をかすらせることもできないレインが、完璧にカウンターを貰うなんて……。

 だがレインは、苦痛に顔を歪めながらも反撃をする。

 

「そんな苦し紛れの攻撃が当たるものか!」

 

 それでもシュバルツには通じない。

 アッパー気味のパンチをかわして左右の手刀を連打で繰り出す。

 

「はぁああああああああ!」

 

 その手刀にパンチで応じるレイン。ISのハイパーセンサーでなければ捉えきれない猛攻を迎撃している。

 とは言えさっきの膝蹴りが聞いているのか、技のキレでシュバルツが僅かに上回っていた。迎撃しきれなかった手刀が、肩や脇に炸裂する。

 

「ふははははは、どうしたどうした!」

 

 高笑いするシュバルツ。表情を歪めながらもレインは未だ防御を続けている。防ぎきれていないとはいえ、急所への一撃は確実に迎撃しているようだ。

 

「未熟未熟未熟未熟! 何処を取っても未熟の塊よ!」

「不味いよ! いくら急所を外してるって言っても、ああ受け続けたら……」

 

 心配するシャルルの意見には俺も同感だ。肩や肋骨が折れたら、急所でなくても深刻なダメージになる。

 

「くそ! レイン!」

 

 これが喧嘩ならもう跳び出している。だがこれは組み手、試合なのだ。野試合とはいえレインが受けた戦いに、俺は割って入るタイミングを失っていた。

 

「頑張れ、レイン!」

 

 こうやって声を張って応援するのが精一杯だ。

 

「レイン! 集中だ!」

 

 箒も精一杯応援する。その様子にシャルルも覚悟を決めたのか喉が枯れそうに叫ぶ。

 

「さあ! このまま止めを刺してくれる!」

「舐めるなぁああああああ!」

 

 覚悟を決めたのか、レインは一瞬防御を解いた。

 肩に決まる強烈な手刀。表情が激しく歪む。

 しかし、合い打ち狙いで耐えて見せた。

 

「流派東方不敗・奥義――」

 

 レインの右拳が強く握りこまれた。

 

「超級覇王日輪弾!」

 

 放たれる掌打。そして――。

 

「何か掌から出たぞ!」

 

 よく分からない光の塊が出る。

 気か! 気なのか!

 その気(?)の塊はシュバルツに当たるとそのまま背後の直径が五十センチはあるかと思われる木をなぎ倒した。

 ベキベキと巨大な音を立てる自然破壊を目の当たりにする。

 …………シュバルツ、死んでないだろうな。

 その疑問に答えたのは、肉眼で見ていた箒だった。

 

「……一夏! 見てみろ!」

「え? コートだけ? ……空蝉の術か!」

 

 宙を舞うのは中身の無いシュバルツのコートだけだった。ISのハイパーセンサーでも、いったい何時抜け出たのか認識しきれなかった。

 

「……………………」

 

 黙ってレインが辺りの様子を伺い始めると、周囲は完全な沈黙に包まれた。

 俺達三人も固唾を飲んで見守る。

 もう間違いない。俺は遂に確信する。

 シュバルツ・ブルーダーは超絶怪しいが、超絶強い忍者なのだと。

 誰も声一つ身動き一つしない。僅かな気配を見逃せば、それが致命傷になると肌で感じるからだ。

 ゆっくりと慎重にレインは移動した。木を背にして後ろを後方をカバーしようというのだろう。

 静かに時間が過ぎていく。気持ち的には、もう一時間経過したような気がするが、白式は正確に時間を伝えてきて、まだ三十秒しか経過していない。

 木の根元で立ち止まったレインの右手親指、人差し指、中指が金色に輝くのを俺は見た。

 黄金の三本指。

 神々しささえ感じさせるその指をレインは体で隠すように構えた。

 次の瞬間――。

 

「……! そこか!」

 

 僅かな気配を察知したのかレインが向きを変え、同時に右方からもの凄い勢いで影が飛んできた。

 

「必殺! シャァアアアアイニング――!」

 

 その影に向かってレインは黄金の指を繰り出そうとして――。

 

「何!」

 

 それがシュバルツでないことに気付いた。

 飛来物は池の畔にあった人間の頭サイズの石だ。それが弾丸のような速度で飛んでくる。

 攻撃態勢に入ったレインはもう避けられない。

 

「くっ! シャイニング・フィンガァアアアアアアアア!」

 

 黄金の指が石に当たる。

 石は豆腐のように砕け散った。

 

「貰ったぁあああああああ!」

 

 石は囮か!

 後方から飛び出すシュバルツに、レインの反応は間に合わない。

 背負っていた日本刀をシュバルツは抜刀し、レインは思わず首を守って目を閉じてしまった。

 

「とぉあああああああああああああああああ!」

 

 風斬り音がして、シュバルツがレインを通り過ぎる。

 恐る恐る目を開けたレインは、自分の体のどこも切られていないことを確認した。どうやらシュバルツは態と太刀筋を逸らしたらしい。

 だが、その一刀は確かに斬っていた。

 

「なっ!」

 

 レインの隣の大木を。

 直径五十センチ程の大木の幹が両断されていた。切断面は刀で切ったとは思えない程真っ平らになっている。

 再び木が倒れる音が響いた。

 驚きのあまりレインが呆然としてる。しかしそれは俺やシャルル、そして箒も同じだ。特に箒は、自分の得意な剣について見せつけられたこともあって、衝撃は一入のようだ。

 

「レイン」

 

 鞘を背中から抜いて納刀しレインに投げて寄越した。受け取ったレインは意図が分からず持て余している。

 

「斬ってみろ」

 

 シュバルツの言葉に従って、ゆっくりと立ち上がり柄を手に取った。シュバルツの方が強者であることを認めたのだろう。

 レインは刀を抜こうとしたが、何故か顔をしかめた。どうしたのだろうと思っていると、力を込めて一気に引き抜く。

 

「嘘、だろ?」

 

 俺は今日、これが一番の驚きだった。

 大木を切ったシュバルツの刀は、見るも無残に錆びついた鈍刀だったのだ。

 上段に構えたレインは、一気に刀を気に向かって振り下ろす。当然木を両断することなんてできず、ガシッという鈍い音を立てて幹に食い込んだだけで終わった。

 

「クッ!」

 

 悔しがるレインだが、俺はどうしてもそんなことができるとは思えなかった。実際に目の前で行われたことでもとても信じられない。夢だったのではないかと思ってしまう。

 錆びた刀で大木を切るなんて非常識過ぎた。

 だが素手で大木をへし折っているレインには可能なのかもしれないとも思う。俺にはあまりに現実離れし過ぎていて受け入れられないが……。

 それでもレインは何度も木に斬りかかっていた。

 

「いいか、レイン。お前は人より僅かばかり抜きんでいた腕に奢っていたに過ぎん。その刀を使いこなせたとき、お前は初めて一人前の武闘家になれるだろう」

 

 シュバルツの声だけが周囲に響く。いつの間にかその姿は霞のように消えていた。

 錆びた刀をレインは見つめる。

 そして柄を強く握り締めた。

 

「シュバルツ・ブルーダー……」

 

 その呟きに籠ったものが何なのか、それが分からない俺は、声をかけることができなかった。

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