レインがシュバルツに敗れてしまいました。
そう、それは一夏達に衝撃を与えます。世界の広さを見せつけられたのですから。
そんな中、事態はさらに混迷を極めます。
シャルル・デュノア。彼の大きな秘密が、とうとう明かされるのです。
それでは、IS武闘伝、Ready~Go!
放課後の第三アリーナ。俺は当初の予定通りISの特訓を行う為にここに集まったのだ。メンバーは俺、箒、セシリア、鈴、シャルルだった。
「あら、レインさんはどうされたのですか?」
「様子がおかしかったけど、具合でも悪いの?」
そう言えば、セシリアと鈴にはまだ説明してなかったな。
俺はシュバルツとの一件を二人に話す。最初こそ侵入者がとか警備がとか言っていたが、レインとシュバルツの一戦を事細かに説明するうちに、二人の興味はその内容の方へと移っていった。
「…………一夏、そのギャグは笑えないわよ」
呆れ顔をする鈴の気持ちも分かる。正直この目で直接見てなければ、俺も信じられなかっただろう。それぐらい非常識な話なのだ。
ISを使わないと見えない攻防、素手で大木をへし折り、錆びた刀で大木を両断する。そんな怪しい忍者と格闘少女の決闘なんて漫画か何かだ。
「いや、本当なんだって! なあ、箒、シャルル?」
「確かに事実だ。私も見た」
「僕も。信じられないのは……無理ないけどね」
俺の言葉に同意してくれる二人の様子を見て、鈴もセシリアも何とか信じる……もとい、半信半疑ぐらいにはなったらしい。荒唐無稽過ぎて騙すつもりなんて逆に感じられないレベルだからな。
「そこまで人間を辞めていらっしゃるなんて……」
セシリア、それは酷過ぎると思うぞ。レインは別に改造人間でも宇宙人でもないんだから。超能力者? 新人類? ぐらいだろ。それなら人間の範疇だ。
「だが世界には、あのレインを越える強者がいるということも証明された」
瞳の中に炎を宿し、箒が拳を握る。あまりの男前っぷりに女だったら惚れる所だ。勿論、口に出したりはしないが。
「とりあえず、レインのことは置いておいてISの操縦訓練をしよう? 時間は限られてるんだし」
シャルルの提案は実に建設的で素晴らしいものだ。レインについては一日待つと言った以上、今日はどうしようもないからな。
俺は頷いて白式を呼びだした。一ヶ月前は「来い、白式」とポーズを決めながら考えていたが、今はそのまま呼び出せる。何だかんだで訓練の成果は出ているぞ。
他の面々も自身のISを呼び出す。セシリアの〝ブルー・ティアーズ〟、鈴の〝甲龍〟、シャルルの――――――。
「――――シャルルのISの名前、何だっけ?」
その問いにシャルルは苦笑いをした。
「あはは……。ラファール。〝ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ〟だよ」
そう、それだ。フランスの〝ラファール・リヴァイウ〟を専用にカスタムした物と言っていた。昨日、部屋で駄弁っているときに、シャルルが白式のことを聞きたがったんだよな。それで情報交換みたいな形で、俺も〝ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ〟略してラファールについていくらか聞いていた。
「たしか……基本装備《プリセット》をいくつか外して拡張領域《パススロット》を増やしてるんだっけ?」
「うん。だいたい、倍くらいかな」
羨ましい話だ。俺の白式は拡張領域《パススロット》の大部分を零落白夜に割いているらしく現状雪片弐型のみ装備されている。まあ、仮に余っていても白式自体が他の装備を嫌がるんだけど。
それにしても、〝ラファール・リヴァイヴ〟は山田先生が使っていたが、シャルルのはかなり手が加えられているな。まず色が違う。ネイビーカラーだったラファール・リヴァイヴに対して明るいオレンジだ。更に四枚の多方向加速推進翼《マルチ・スラスター》を中央から分離する形で一対の翼へとしてある。多方向性より機動性と加速度を重視した結果だろう。肩の物理シールドは取り外して左手にシールドと一体化した腕部装甲を持っている。全体的にシャープな印象だ。だが、マルチウェポンラックを兼ねるリアスカートは肥大化させていた。シャルルの戦法を考慮してだろう。
ISの装備は基本的に量子化して格納されているので、コールすれば即座に呼び出せる物なのだが、それにはある程度の集中を必要とする。最初これが上手くできなくて千冬姉に怒られたものだ。だから、反射的な挙動では事前の装備が有効なときもある……らしい。雪片弐型しかないから基本出しっぱなしなんだよな、俺の場合。
「それで、今日は何をするんだ?」
その場にいる人間に俺は聞いた。この中ではやはり格段に知識・経験共に劣る俺は、代表候補生の意見を仰ぐことにしているのだ。勿論、俺なりの意見は見せるが。
「俺としては、そろそろ実戦対策も始めたいと思ってるんだが」
「学年別トーナメントも近いからね。あんた今のままじゃ学年最下位確定なんじゃない?」
「ぐ……」
鈴の一言は俺の胸を抉った。そりゃ俺だって自覚はあるさ。零落白夜の効果に頼ったイチバチ戦法しかないんだから。
だからこそ、戦略を広げたいと思ってるんだよ。
「では摸擬戦でもするか?」
箒の提案は、寧ろ俺からしようと思っていたことなので渡りに船だ。ほら、俺って実戦の中で磨かれるタイプだし。
「とは言っても、一夏さんにはまだ実戦は早いと思いますわよ」
そう制止したセシリアは腕を組んで考え込んでいる。そしてそれにシャルルも同意をしたのだ。
「そうだね。昨日見せて貰った感じだと、一夏はもっと射撃戦について知っておくべきだと思うよ」
昨日の放課後練習にシャルルも一応参加していたのだ。転校初日で忙しく最後の方だけの見学参加だったが、俺の摸擬戦の様子もバッチリ見られていた。
「射撃戦のセオリー、射撃武器の特性、そう言った諸々を理解しておかないと対策が立てられないよ?」
「敵を知り、己を知らば、百戦危うからず……ということか」
確かにシャルルの言う通りだ。接近戦しかできない白式だからとあまり興味がなかったが、それでは限界があるのも事実。俺から見ても鈴がセシリアと戦うときの機動は、俺のそれと大きく違っていた。
「とりあえず、一度使ってみようか」
シャルルは呼びだした五五口径アサルトライフル〝ヴェント〟を俺に渡す。剣とはどこか違う無機質な重さを感じた。ISのパワーアシストがあるから精神的なものだろうが。
「他人の武器は使えないんじゃなかったっけ?」
「持ち主の許可があれば使うだけなら大丈夫」
というシャルルの返事に納得して、俺は慎重に銃を構える。抱え込むように持ち水平の高さへと持ち上げた。
「もっと脇をしめて……こう」
後ろからシャルルが覆いかぶさるようにして構えを修正してくれる。銃床の冷たさが肩から全身に伝わっていくようだ。
俺の腕に触るシャルルの腕に導かれて、俺は誰もいない方向に銃口を向え、ゆっくりと引き金に指を掛ける。このまま撃っても誰にも当たることはないと理解しているが、人差し指に芯が入ったようだ。
「……撃って」
「――!」
その言葉を合図に反射的に引き金を引いていた。
反動が肩にかかる。その重みが銃の威力を如実に物語っている。
「………………」
「どう? 初めて銃を撃った感想は?」
「……速いな」
とりあえず浮かんだ感想をそのまま口にしていた。
「そう、速いんだよ。速度が同じでも体積が小さい分、体感速度は上がっているからね」
シャルルの説明を受けながらも、俺はもう既に別の感想を抱いていた。
「……どうしたの?」
それに気付いた鈴が声を掛けてくる。流石は幼馴染だと少し感心した。
「いや……なんて言えばいいのか」
「何よ、はっきり言いなさいよ」
じれる鈴には悪いが、俺は腕を組んで頭を悩ませる。何と言っても感覚的なもの過ぎて上手く表現する自信がない。
「何だろう。……見えないんだけど、怖くないと言うか」
必死に言葉を繋いでいくが、どこか俺の伝えたいニュアンスと異なっているような気がする。
「狙われているならともかく、唯撃つだけで恐怖を感じるのですか?」
ああ、やっぱり伝わってない。セシリアの台詞は、言っちゃ悪いが見当外れなんだけど、場の雰囲気は彼女に同調気味だ。
「いや、一夏の言いたいことはそういうことではないだろう」
お?
セシリアの言葉を否定したのは箒だった。
「……じゃあ、どんな意味かな?」
そう問うシャルルに、箒は少し考え込んで答える。
「……脅威、だろう」
「脅威?」
思わず繰り返す鈴。
「確かに速さも威力も十分だと思う。しかし、致命的とはとても思えないのだ」
箒の説明は的を射ていた。おそらく同じように箒も感じていたのだろう。
そう。銃弾は速く、一発が致命傷になる。それなのに、俺はその銃弾に命への脅威、命を奪われる根源的な恐怖を感じなかったのだ。
それは武器、いや凶器の本質を俺が理解しきれていないのか、それとも…………。
小さい頃、千冬姉に教えられた言葉が蘇る。俺が闘うに当たって、その心構えの基盤となったその教えは今も俺の胸に確かにあった。
『……………………?』
俺と箒以外の三人は首を捻っている。まあ、この辺は兵器を使用する人間と武器を振るう武人の差だろう。同じようで大きく違うからな。
俺も武人寄りの人間だったのか……。
「まあ、結局は心理的なものだからな。気にしないでくれよ」
そう言ってその場を流すのが、今の俺の精一杯だった。これが千冬姉やレインみたいな一流だったら、もっと上手に伝えられたかもしれないが、未熟な現状では望むべくもなかった。
それにしても初めて銃を撃った経験とは、俺にとってかなり貴重なものだろう。一度使ってみたことで相手の思考や挙動をイメージし易くなる。
後はこのイメージを込めながら摸擬戦を行うことだな。相手としてはセシリアが適任だろうか? しかしセシリアのスターライトmkⅢとは銃が違いすぎるし、ここは持ち主のシャルルが良いのか?
悩む俺に、突然声がかけられた。
「ふん。代表候補が雁首を揃えて、低レベルな話をしているな」
声の下に視線をやると、そこには黒いISを身に纏った同級生。ラウラ・ヴォーデヴィッヒの姿があった。
即座に白式から情報が知らされる。ドイツの第三世代型IS〝シュバルツェア・レーゲン〟だ。
…………シュバルツェア? 最近どこかで聞いたような?
「織斑一夏。私と勝負しろ」
ラウラは俺に指を突き付けて宣言した。