IS武闘伝   作:Crank

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見た! 貴公子の秘密Ⅱ

「私と勝負をしろ、織斑一夏」

 

 指こそ突きつけてこないが、時代が時代なら手袋の一つでも投げつけてきそうな雰囲気でラウラが挑んでくる。

 朝も似たようなこと言ってきていたな。レインの介入で有耶無耶になったが。

 しかし俺がそれを受ける云われはない。

 

「嫌だ」

 

 なのではっきりと返答をした。男らしい回答だと自画自賛。

 だがラウラはそれで納得はできないようだ。男らしくない。勿論男じゃないけど。

 

「貴様に拒否権などあるものか」

 

 ラウラの目付きが一層鋭さを増す。本人の戦闘準備は完全らしい。

 けれど俺の方にはそもそも戦う理由がない。摸擬戦や試合なら受けるが、ラウラのは確実にそれを逸脱している。それ程の敵意を感じるのだ。

 おそらく……千冬姉のことで。

 だからこそ俺はその勝負を受けるつもりはない。相手を叩き潰す力なんてのは、千冬姉の教えに真っ向から反対する在り方だ。

 

「何と言われようと、答えはNOだ」

 

 それ以外の選択肢は存在しない。

 

「ならば――」

「問答無用って? ドイツ人は導火線短いんだね」

 

 六一口径アサルトカノン〝ガルム〟をラウラに向けて、シャルルが割って入った。いや、シャルルだけじゃない。

 

「爆発する前に、解体して送り返して欲しいのかしらね」

「まあ、数を数えられるようになってから出直すことをお勧め致しますわ」

 

 〝双天我月〟握った鈴、〝スターライトmkⅢ〟を構えたセシリアが不敵な笑みを浮かべていた。あの笑顔には間違いなく、威嚇の意味が込められている。

 つまりこう言っているのだ。下手なことすれば袋にする、と。

 だがラウラはそんなことで一切怯みはしなかった。むしろ嗜虐的に表情を歪めて三人を睨みつけ、強く拳を握って見せつける。

 

「ふん。全員纏めて相手をしてやろう」

 

 その一言にセシリアと鈴はカチンと来たらしい。

 

「あ~ら、本当に数を数えられない方でしたのね」

「朝レインに煮え湯を飲まされた分際で、偉そうよね」

 

 鈴よ、それはお前もだ。…………俺もだけどな!

 だがラウラも冷静なのか疑問になる。いくらなんでも専用機持ち三人を相手にするのは不利過ぎだ。そこまでの実力があるなら、候補生ではなく代表になっていて然るべし。幾分か挑発乗ってしまっているのではないだろうか。

 とは言え、ここで戦うことになられても困る。俺にその気はないのに、そのせいで他の皆が戦うなんて間違っているから。

 戦うべきは俺とラウラのはずだ。

 だがそんな思いとは裏腹に、場の緊張感は刻一刻と高まっていく。開戦直前の緊張感のせいで誰も動けない。下手に動くとそれを切っ掛けに開戦しそうな雰囲気だ。

 

「またもめているのか、お前達は」

 

 そんな場に響く呑気な空気を読んでいない声。いや、寧ろ逆に空気を読んでいる気もするが。

 

「き、教官……」

「織斑先生だ、ヴォーデヴィッヒ」

 

 焦るラウラにも千冬姉は冷静に訂正する。さっきまでの緊張感はどこへやら。この場は完全に千冬姉によって制圧されていた。それも武力を一切用いずに。…………年の功か。

 

「織斑、今失礼なこと考えたな?」

「な、何故…………!」

「顔を見れば分かる、馬鹿者」

 

 流石は実の姉。

 姉弟の絆を再確認したところで千冬姉は溜息をついた。

 

「まったく、お前達は。摸擬戦をするなとは言わんが、怪我をして学年別トーナメントを棄権なんてことにはなるなよ」

『はい…………』

 

 直前までの勢いはどこへやら。ラウラや鈴ですら借りてきた猫のように殊勝に頷いて返事をする。本能的に勝てないと感じさせるところがあるんだよな、千冬姉には。

 

「織斑、デュノア」

『は、はい!』

 

 皆が大人しくなったのを確認すると、千冬姉が突然名前を呼んだので、反射的に気をつけをしてしまった。

 こうしてちょっとずつ、誰もが千冬姉の傘下に入っていくんだろうな。

 

「お前達、昼休みに無許可でISを起動したな?」

 

 ば、ばれてた……。何故だ? あの場に千冬姉は居なかったはずなのに。

 

「専用機持ちの状態はある程度モニターされている。許可の無い起動は国際条約違反だからな。学園側も放置することなどできるわけがないだろう」

 

 …………至極御尤も。

 だが、あのレインの勝負に白式を使ったことに後悔はない。多少のペナルティを負ってでも見る価値のある一戦だった。実際に箒は専用機がなくて悔しがっていたからな。

 

「おまけに林を破壊したら、いくらなんでも見過ごすわけにはいかん」

「いや、あれは俺じゃ――」

「あん?」

 

 睨まれた。言い訳(真実)は通じないようだ。そりゃ生身で樹をへし折ったなんて信じて貰える訳はないんだけど、理不尽だ。

 俺とシャルルは顔を見合わせて溜息を吐く。濡れ衣ではあるが、事実が荒唐無稽過ぎる為正しい判断が下されることはないだろうと諦める。

 悲しいかな、現実は非情だ。

 

「ISを使用して構わんから、お前達二人は今から片づけに行って来い」

『はい』

 

 千冬姉にそう返事をするしかなかった。それに千冬姉は満足したのかそのまま出口へと歩いていく。千冬姉の姿がアリーナから消えるのを確認した後、ラウラが無言でその場を後にした。流石に注意された直後は自重するらしい。

 

「今日はこれで解散だな」

 

 ラウラが去った後、箒はそう言って俺達を見回した。

 それしかないと俺も思う。片づけにどれ程時間を取られるか分からない以上仕方がない。実際に銃を撃てただけで本日の収穫としては十分だ。

 

「じゃあ行くか、シャルル」

「そうだね。早く終わらせようね」

 

 そう軽く言ってISを待機形態に移行し俺達は移動をする。他の三人も思い思いに片づけに入ったようだ。

 

「きゃー! 織斑君とシャルル君よ!」

「絵になるわねぇ」

 

 アリーナを出てシャルルと二人並んで歩いていると女子の黄色い悲鳴が飛んでくる。入学当初はずっとこんな感じで、最近は収まっていたんだが、新しい男子生徒の登場でその熱が再燃したらしい。やっと気が抜けてきたと思ったのに。

 とりあえず早足で好奇心の塊の女子を振り切ろう。

 

「…………あれ?」

 

 横にいたシャルルの姿が消えた。振り返ってみると、少し駆け足でシャルルが追ってきていた。どうも速度を上げ過ぎたらしい。

 とは言え、のんびりしてはいられない。変に女子に囲まれたらと思うとぞっとしない。

 

「シャルル、急ぐぞ」

「へ? い、一夏?」

 

 俺はシャルルの手を取った。別に走りだしたりはしないが、これで少しは移動速度が上がるだろう。

 ……シャルルが顔を真っ赤にしている。そんな顔をされると俺も恥ずかしくなるだろうが。

 男同士で手を繋いでるわ、なんて声を振り切って、俺達は林へと辿り着いた。そこはレインと覆面忍者が戦った傷痕がそのまま放置されている。特にレインが気でへし折った樹と、忍者がぶった斬った樹が異常に目立った。

 

「とりあえず、この樹をどっかに動かさないと駄目か」

「………………え? あ、ああ! ごめん何だっけ?」

 

 まだ赤い顔のままのシャルルが慌てて顔の前で手を振って恥ずかしがっている。どうやら聞こえてなかったようだ。

 

「いや、レイン達が折った樹を最初に動かさないかって」

「あ……ああ、そうだね……。じゃあ、ISを起動して」

 

 慌ててラファールを呼び出すシャルル。俺も白式を呼び出した。生身では成人男性数人は必要な大木も、ISがあれば一人で十分持ち運ぶことができる。

 

「どこに捨てれば良いか分かる、一夏?」

「……分からん。こんな大きな物捨てたことはないから」

 

 一手目で早くも手詰まりだった。

 

「とりあえず、林の外に道を避けて置いておくか」

「それしかないかな」

 

 俺の提案が通ったので、とりあえず樹を移動させる。他の樹に当たらないようにゆっくりと浮遊して上空を移動した。

 最近は飛行にも慣れてきたな。でも一応兵器であるISでこんな土木作業みたいなことする奴って少ないんじゃないだろうか。ま、これも練習と思えば。

 

「株はどうする?」

「そうだね、再生するかもしれないからそのままにしておこう」

「了解」

「あ、でもレインが折った方は断面が歪で危ないから、白式の剣で斬っておいてよ」

「分かった」

 

 切り株を見てみると、確かにシャルルの言葉通り歪で、部分的尖っているところもある。周囲には木片が飛び散っていて、これも片づけないといけないだろう。

 少しイメージすると右手に雪片弐型スムーズに現れる。これも練習の成果だ。

 

「ふぅ~~~~~~」

 

 ゆっくりと息を吐きながら構えを取る。レインが生身でへし折った樹だ。ISを使った以上、一刀両断ぐらいできないとな。

 じっくりと切り株を視界に収め太刀筋を想像する。下段に構えた雪片弐型を水平に振い生まれる剣閃のイメージが空中に浮かんで光の軌跡を描いた。

 瞬間――。

 

「…………はぁああああああああああ!」

 

 裂帛の気合を込めて踏み込んだ。

 低い位置を斬るために踏み込みは広く、姿勢は低く。

 居合切りの要領で片手だけで剣を振るった。

 

「……お見事」

 

 後ろから拍手が聞こえてくる。振り返ると腕部の装甲を解除してシャルルが手を叩いてくれていた。軽く手を上げて謝意を伝えるて零落白夜をしまう。

 

「ジャパニーズ・サムライだね」

「俺なんて、まだまだだよ」

 

 手放しで誉めてくれるシャルルには悪いが、侍を名乗るなら箒ぐらい剣にストイックにならないといけないだろう。

 しかし自画自賛になるかもしれないが、イメージに近い太刀筋だったことは誇らしく感じる。日々の修行が着実に俺の中で結実しているということだ。

 

「……あの忍者、何者なんだ?」

「忍者って……シュバルツ・ブルーダー?」

 

 そんな名前だったな。シュバルツェア・レーゲンと似ている。

 

「あの錆びた刀で、ISで振るった雪片弐型以上の斬れ味なんて理解の範疇を越えてるぞ」

 

 俺の言葉を聞いてシャルルも唸る。あのときは興奮していたが、こうやって冷静になって激戦の痕を見せられると、まるで怪獣でも暴れたのかとさえ思ってしまう。

 まあ、それを今考えたって分からないから仕方ないんだが。

 

「やっぱりラウラと関係があるのかもしれない」

「え……何で?」

「〝シュバルツ〟はドイツ語で〝黒〟だし、〝ブルーダー〟もドイツ語だからね。ラウラのISも〝シュバルツェア〟で共通してる」

「〝シュバルツ〟と〝シュバルツェア〟って同じなのか?」

「どっちも〝黒〟だよ。文法の関係で変化してるだけ」

 

 勉強になるなぁ。

 シャルルってドイツ語にも詳しいんだな。俺なんて英語と日本語だけで手一杯なのに。

 

「ま、考えたってしかたがない。さっさと片付けて帰ろうぜ」

 

 今度は地面に散らばった木片を集める。手先を細かく使う作業なので、ISだと逆に効率が下がるがなかなか訓練になる。横を見てみるとシャルルが同じように拾っていた。態々腕部装甲を再展開しているのは俺に見せる為だろう。正直参考になる。

 他には手裏剣で空いた穴を埋めた。手裏剣は回収されていたが、刺さっていた穴は開きっぱなしだったのだ。

 作業自体は思ったより時間はかからず、三十分も程度で終わってしまった。これなら今からアリーナに行くこともできるが……。

 

「一夏、これからどうするの?」

「今日はレインも休んだし、俺達も休もうぜ」

「じゃあ、先に戻っていて貰える?」

 

 変な事を言うな、シャルルは。

 

「一緒に行けば良いじゃないか」

「ぼ、僕はもう少し片付けていくから」

「なら最後まで手伝うぞ」

「え、えっと……」

 

 視線を泳がせ焦りを隠すこともできないシャルルの様子を訝しむが、きっと何か理由があるんだろう。まだ会って二日だが、シャルルの根が悪い奴じゃないことぐらい分かる。

 だからと言って、後はお願いと丸投げするのは嫌だ。

 

「じゃあシャルルが先に上がれよ」

「え、でも――」

「でもはなし! ほら、後はやっておくから」

「…………ありがとう、一夏」

 

 頭を下げると、シャルルは俺の言葉通りにその場を後にする。少し小走りのようだ。トイレでも我慢していたんだろうな。男通しだから遠慮なく堂々と言えば良いのに。

 

「さて、さっさと終わらせるか」

 

 だいたいはシャルルと協力して終わらせている。後は細かい所だけだ。頑張るぞ!

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