IS武闘伝   作:Crank

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レインvsラウラ! 起動する専用機Ⅲ

 先に仕掛けたのはレインだ。手に持っていた刀を正眼に構えて斬りかかる。

 

「直線的な機動だな」

 

 だがラウラは両肩のワイヤーブレードで応戦する。

 蛇のように二本のワイヤーがレインに襲いかかった。

 レインが手にした刀を振るうと、ワイヤーの軌道が僅かに歪み空間ができる。

 その隙間を一直線にレインは駆け抜けた。

 接近戦。

 斬りかかるレインにプラズマ手刀でラウラは対応しきる。

 

「……刀の扱いも胴に入ったものだ」

 

 その攻防を見て箒が呟いた。俺も同じ刀を使う身として感心せざるを得ない。

 

「そうなの?」

 

 シャルは刀の扱い方を知らないから、その疑問は尤もだ。俺や箒が感心しているのは、いつも徒手空拳で戦うレインが刀でも格上だと肌で感じるからだ。

 

「サーベルなんかは叩き斬ることができるけど、日本刀は強度的に難しいんだ。圧力だけじゃなく押すか引くかしないといけない。レインはそれが一太刀一太刀にきちんとできてる。それに体重も乗っていて手打ちになってない。俺じゃあ、まだあそこまでできないよ」

 

 もしかしたら、箒でさえ実戦で日本刀の能力を最大限に生かすことができるかどうか。

 シャルは俺の説明で納得したらしく、再び観戦に集中する。

 観客席の最前列に座って完全に見学者だな、俺達。

 左のプラズマ手刀をレインが避ける。同時に、横からワイヤーブレードが迫った。

 しかしレインは予定調和のようにバックステップをして距離をとる。

 

「……ラウラ、貴様、何故AICを使わない?」

「ふん。たかが二世代型の量産機に本気を出すまでもないだけのことだ」

 

 相変わらずの上から目線の言葉に、レインが完全に沈黙をした。あの顔は完全に怒っているときの顔だ。昨日鈴をボコボコにしたときと同じ表情をしている。

 おそらく、レインの怒りをラウラも感じているのだろう。嗜虐的な笑みを浮かべ返している。その怒りごと叩き潰すつもりじゃないだろうか。

 確かにレインはIS素人で機体性能も大きく溝を開けている。

 しかし、どんなに不利であっても――――。

 

「………………」

 

 無言のまま再びレインが仕掛けた。最初と同じ一直線に。

 ラウラはそれを見てにやりと笑う。完全に見下した顔だ。

 今度は六本のワイヤーブレードが迎撃に向かう。ISが通る隙間は正面から消え去った。それで十分対応できるとラウラは読んだのだ。

 しかしレインの速度は緩まない。唯一直線にラウラに向かう。

 

「無茶だよ!」

 

 思わずシャルが叫んだ。

 本当なんだろう………………普通なら。

 だがレインは先程と同様に刀を振るって空間を作った。違うのは腕の振りが圧倒的に加速したことだ。

 そして接近、袈裟斬りがラウラに迫る。ラウラが左手のプラズマ手刀で捌く――捌こうとした。

 

「なっ……!」

 

 箒が絶句する。いや、箒だけじゃない。この場の誰もが息を呑んだ。それは当人のラウラもだろう。

 ラウラの腹部にレインの左拳がめり込んでいた。刀が防がれると同時に手を離して正拳に切り替えていたらしい。

 その威力を知っている俺は血の気が引いた。おそらくISのパワーアシストで威力も上昇している。シールドバリアを貫通するのは容易だろう。

 俺の推測を証明するかのように、ラウラが思わず後退する。腹部を押さえていることからダメージはおそらく有る。

 

「ISで直接殴るなんて……」

「そうか? レインが一番得意なのは徒手空拳なのだから、当然の選択だと思うが…………?」

 

 絶句するシャルに箒が問いかけた。俺も箒に同感だ。レインは確かに刀の扱いも一流だったが、手数も減っていて明らかに素手をメインにしているように思う。

 

「生身ならね。でもISの手は作業用マニュピレーターだもの。精密作業もできるように長く細くなってるから強度だって」

 

 シャルは捲し立てるように答える。確かに白式の手だって先端は尖ってるから頑丈だとは言い難い。それをレインのパワーで振るえばどうなるかは想像できる。

 

「だから、最初は近接ブレードを使ってたのか」

 

 俺の言葉にシャルが頷き肯定した。レインにしては珍しいと思った選択が、ISでの戦いなら寧ろ王道だったということか。

 

「でも、じゃあ急にセオリーを無視し始めたのはどうしてだ?」

「………………わかんない」

 

 首を傾げる俺だったが、デュノア先生でも分からないなしい。しかしその問いには箒が答えてくれた。

 

「勝利を優先したんだ」

「…………ああ」

 

 納得だ。確かにレインの対場なら、俺だってそうするだろう。セシリアや鈴のこともあるが、これはあくまで摸擬戦。邪道ではなく王道で戦おうと思っていたんだろう。打鉄は借物ということもあるし。

 だが、ラウラは戦いそのものに手を抜くという暴挙に出た。レインにはそれが許せなかったんだろう。打鉄の返却とか摸擬戦のデータとかを完全に脳から排除して、勝利するのに最も効率の良い普段の戦い方に切り替えた。箒はそう言っているのだ。

 さっきと対場が逆になった形だ。退いたラウラと退けたレイン。この構図がラウラのプライドに触ったらしく、凄い表情で睨みつけている。

 レインは挑発をするでもなく、無言でラウラの視線を受けた。

 そしてまたレインから攻め込んだ。いつもの特訓みたいに待ちに徹するつもりはないらしい。

 牽制のつもりかレールカノンを発射するが、レインは左右にずれて避けきる。

 しかし迫る六本のワイヤーブレード。もう刀は手放してない。

 だがレインは逆に一本を左腕部アームに絡ませることで空間を作って接近する。

 装甲に定評のある打鉄ならしばらくはもつ。

 

「破っ!」

 

 接近しつつ右の正拳をレインが打ち、ラウラはプラズマ手刀で迎撃する。

 結果、今度は胸部にレインの拳が決まった。近接格闘戦ではISでもレインに一日の長があるらしい。

 再び後退するラウラを、今回は即座に追撃する。腕に絡めたワイヤーが高速度での離脱を妨げていた。

 ダメージを抜きつつラウラは迎え撃たなければならない。ワイヤーで今回は進路を塞いだりせず、レインの背後からワイヤーブレードを仕掛けることを選択したようだ。

 

「あのワイヤー、慣性とか無視してないか?」

「あのワイヤーの動きは完全に機械制御からね。第三世代兵器じゃないからイメージ・インターフェイス制御じゃないけど、かなり自由に動かせるはずだよ」

 

 シャルの解説は的確で分かり易いな。

 自由自在のワイヤーか。厄介だな。

 だがラウラはワイヤーとプラズマ手刀ではレインを止められないと判断して、一撃貰うことを覚悟してワイヤーブレードで確実に抑え込むつもりだろう。

 

『甘い……』

 

 俺と箒は同時にそう呟いていた。

 右ストレートがラウラの顔を襲うのでそれをガードする。当然隙にの生じた腹部にレインの猛攻が始まった。

 

「ぐっ!」

 

 来ると分かっていてラウラが耐える。そう、一発目は我慢できるだろう。その間にワイヤーがレインを締めあげるなり貫いたりすればラウラの勝ちだ。

 ワイヤー到達まで一秒強といったところか。

 

「覇ぁああああああああああああ!」

 

 しかし俺と箒は知っている。それだけの時間があれば、レインは片手でも十数発は叩きこめるのだ。

 ラッシュ。

 二発目以降は予想していなかったラウラにこれは応えるはずだ。

 そして体勢を崩してしまったレインは相手の体を蹴り飛ばした。

 ラウラが吹っ飛ぶと肩と腰に繋がるワイヤーの軌道が崩れる。それではレインを捕えられない。

 あっさりとワイヤーブレードを回避してレインが更に追撃をしかけた。

 

「く、舐めるな!」

 

 そう叫んでラウラが手をかざすと、さっきまでの猛攻が嘘のようにレインが静止した。

 

「AIC!」

「何だ、それ?」

 

 驚愕するシャルに聞くと、シャルは視線をこちらに向けずに捲し立てる。

 

「慣性制御結界だよ。簡単に言えば相手の動きを止める兵器」

 

 相手の動きを止める? そう言えばさっきのセシリア達との摸擬戦でも不自然にビットが止まっていた。

 

「不味いよ……。データは見てたけど、レインとは相性が悪すぎる……」

 

 シャルの言う通りだ。あそこにいるのが俺なら、AICがある限り近付くことさえままならないだろう。

 でも――。

 

「大丈夫だ、シャル」

 

 俺はそう宥める。

 どんなに不利であっても――――レインは。

 

「遂に使ったな」

 

 レインがラウラに話しかけた。その声には得意気な色と皮肉の色が混ざったいるように感じる。当然だ。余裕を見せて使わなかったAICを使わされたのだ。昨日の朝のことといい、レインはラウラのプライドを傷付けるな。

 だからラウラはレインを睨みつけているのだろう。

 

「……貴様、調子に乗るな」

 

 左目の眼帯を外すと下から金色の瞳が姿を現した。

 

「あれは?」

「越界の瞳《ヴォーダン・オージェ》だよ。脳への資格情報への伝達と動体視力の工場の為にナノマシン処理を施してあるんだ」

 

 つまりレインを確実に捕えようとラウラが本気になったということか。しかしシャルは本当にいろんなこと知ってるな。シャルぺディア、みたいな?

 完全に勝負を仕切り直すために、握られたワイヤーブレードでを切り離す。攻撃は一手なくなるが、間合いの自由こそ重要だと判断したようだ。

 

「なら、私ももう少し本気を出させてもらおう」

「もはやチェックメイトだ。越界の瞳《ヴォーダン・オージェ》を使用した今、万が一もありえない。このまま嬲殺しだ」

 

 大口径リボルバーカノンの銃口が動けないレインに向けられる。だがレインに全く焦りは見られない。

 

「あぁああああああああああああああああっ!」

 

 裂帛の気合を込めてレインが雄叫びを上げる。

 

「な、何を……」

 

 その気迫に相対しているラウラが一瞬呑まれた。

 そして――。

 

「破ぁ!」

 

 弾かれるようにレインが前進する。

 

「AICを……力尽くで破った……?」

 

 シャルも呆気に取られていた。

 

「くっ!」

 

 咄嗟に発射準備に入っていたリボルバーカノンを放つが、レインは余裕で回避し、ラウラに殴りかかった。

 右拳が炸裂。

 

「馬鹿が!」

 

 だがラウラは即座に左手をかざしAICを発動する。破られたとはいえ、一度捉えてしまえば簡単には動けなくなることが分かっているのだ。

 しかしレインはそんなラウラの、この場の全員の予想を裏切って見せた。

 

「かわした!」

 

 箒が叫ぶ。俺は声も出なかった。

 レインが突如回り込むように軌道変更と加速を行ったのだ。するとラウラのAICは働かず、完全に背後を取られる形になった。

 

「貴様!」

「たらぁ!」

 

 回し蹴りをラウラはガードするが受け止めきれずに飛んでいく。

 そのラウラが体勢を立て直すより先にレインは襲いかかっていた。

 

「ふっ!」

 

 右手をかざしてAICを発動するが、その瞬間にはレインはまた回り込んでいる。

 

「何故だ! 貴様の動きは見切れているのに!」

 

 殴り飛ばされたラウラが叫び、ワイヤーを射出して応戦しようとするが、既に肉薄されている。

 

「…………あんなの、越界の瞳《ヴォーダン・オージェ》でも止められない」

「どういうことだ?」

 

 呟いたシャルに俺は問い返した。今のシャルは驚きを越えて恐怖すら感じているらしい。僅かに手が震えていた。

 

「…………あれほどの高速戦闘下では自分と相手、双方の行動予測が不可欠なんだ。人間の反応速度の限界を超えた機動だからね」

 

 それは理解できる。生身の戦闘でも例えば相手の太刀筋を完全に見切るなんて不可能だ。経験則で次の行動を予測して可能性のある行動以外は除去している。だからこそ予測できない手は効果的だ。

 

「……でもレインは、ほんの一瞬だけ、ラウラの思考からAIC発動の一瞬に瞬間的な方向転換と加速をしているんだよ」

「つまりラウラは、ずっと不意をつかれているってことか?」

「違う……そんな次元じゃないよ……」

 

 シャルは俺の考えを否定した。

 

「あの速さの中じゃ、ラウラからしたら当てた攻撃を避けられて、いた場所から消えているように映っているはずだよ」

 

 …………いつものことじゃん。

 でも、そうか。そんな経験普通ないもんな。

 俺の思っていたことが確信に変わった。

 どんなに不利であっても――――レインは。

 負けない。

 

「一夏、決着がつくぞ」

 

 箒に呼ばれて意識を再びレインとラウラに戻す。そこには性能差や装備の差を完全に覆して、レインがラウラを殴り飛ばす姿があった。

 

「これで終わりだ!」

「くっ!」

 

 AICを発動しようとするラウラだったが、レインの接近が早い。既に懐に潜り込まれ、レインの右手が強く握りしめられていた。

 

「超級覇王……」

 

 レインが力強く踏み込みアッパーの構えをとる。

 

「雷撃弾!」

 

 ボディへ迫るアッパーは今までのどの一撃よりも威力を秘めているようだった。それこそ、シュバルツに使った超級覇王日輪弾並の。

 

「くそっ!」

 

 咄嗟にラウラが両手でガードをする。だが間に合わない。レインの拳はガードの隙間を抜けて腹部に突き刺さった。

 

「…………………………」

「……………………………………」

「……………………………………………………嘘、だろ」

 

 誰もが驚愕して空気が固まる。こんなことISが開発されてから十年の間にこんなことあっただろうか。

 

「打鉄の右手が……砕けた」

 

 そう言うのが精一杯だった。いったい何がどうなればこんなことが起こるのか。

 

「…………打鉄では、レインの攻撃力に機体強度がついていけないのか」

 

 箒の呟きが頭の中に染み込んでいく。ISって現行兵器で最強、だよな? でも確か、入学試験でも打鉄を壊したって聞いたな。こういうことだったのか。

 だが今の問題は摸擬戦だ。必殺の一撃の後だけにレインは隙だらけ、加えて右腕が砕けた影響でダメージは半減。ラウラの反撃が来る。

 

「………………」

 

 しかしラウラは距離をとった。空中へと飛び、レインを見下ろす形で停止する。

 

「どうして攻め込まないんだ? チャンスだったはずだ」

 

 俺の疑問に答えたのはラウラだった。こちらの声が聞こえていた訳ではないだろうが。

 

「その、足。限界が近いな」

 

 ラウラの指摘にレインが初めて苦しげな顔をした。

 打鉄の脚部に注意すると、関節部が歪な振動をしている。

 

「蹴りで壊れたのか?」

 

 その箒の推測は俺も考えた。だがレインが蹴りを放ったのは二回程。いくらなんでもそれだけで支障が出るとは考えにくい。

 

「お前の急加速、急転回の要はその足だ。ならば空中戦では使えんだろう?」

 

 全てを見透かしたと言わんばかりのラウラの解説は、十分すぎるほどの説得力を持っていた。その証拠に、さっきまでは即座に追撃を行っていたレインが動かないでいるのだ。

 右手はもう使えない。いくらレインとはいえパワーアシストなしでISを殴っても決定打は与えられないだろう。そして、ラウラの推測が正しかった場合、さっきまでのレインの優位性は泡沫となって消えたことになる。

 

「来ないのか? ならば狙い打ちだ」

 

 大口径リボルバーカノンを構えてラウラが連射した。

 当然レインはそれをかわしていくが、攻撃に転じない。

 このままではじり貧だ。

 そう思ったとき、レインが空に飛び上がった。

 

「そんな! 空中戦は無茶だよ!」

「いや……それしかない」

 

 シャルと箒もお互いの意見をぶつけている。俺は箒に賛成だ。ラウラは絶対に地上に降りてこないだろう。機を伺う意味はない。

 一直線に向かうレインにラウラは手を翳した。

 避けるか。

 止まるか。

 勝敗の決まる一瞬だ。

 避けてくれ!

 

「くっ!」

 

 悔しげな声が漏れ、しっかりとステージに届けられる。その声の主は――――レインだった。

 

「まだだ、振り切れば!」

「無理だよ箒。空中じゃISの出力しか力が働かない。打鉄じゃ……」

 

 冷たい現実を突き付けるシャル。その知識量や考察力を考えればそれは限りなく真実に近いだろう。

 それでも俺は、レインは負けないと思いたい。

 だがそんな俺の願いを無情に打つ砕くラウラの言葉が響いた。

 

「残念だったな、素人」

 

 動けないレインの腹部に大口径リボルバーカノンの砲口が押しつけられた。動けない以上避けることも防ぐこともできない。

 

「さよなら、だ」

 

 一発。

 光る砲口が眩しかった。

 二発。

 レインの表情が歪んでいた。

 三発。

 AICが解除され、衝撃をもろに受けたレインが飛んできた。

 観客席下の壁に激突する音が響く。

 

「レイン!」

 

 俺は思わず駆けだしていた。

 あのレインが負ける? こんな所で?

 

「レイン!」

 

 他の観客は目に入らない。前を横切って走った。

 

「レイン!」

「ぐっ…………!」

 

 直情まで来ると見えなくなるので、少し離れた場所で止まると僅かに動いている。絶対防御はちゃんと働いたらしい。だがダメージは確実にあった。

 

「レイン!」

 

 バリア越しではこちら側の声が届かないのは分かっていたが、俺は喉を嗄らして叫ばずにはいられなかった。まだレインは負けてないのだから。

 

「次はお前か? 織斑一夏」

 

 もうレインから中止を逸らしたラウラが俺を挑発する。

 そう、挑発なのだ。

 今までの何よりも俺の怒りの琴線に触れた、最悪の挑発だった。

 

「てめぇ!」

 

 一瞬周囲が白く光って白式が展開される。それを見てラウラは満足そうな笑みを浮かべていた。その笑顔をかき消してやる!

 俺はラウラへの道を邪魔するこのバリアを消滅させるために、零落白夜を全開で起動した。

 

「ラウラ!」

「一夏!」

 

 名前を呼ばれて俺の手は動きを止めた。

 

「…………レイン?」

 

 声の主は、レイン・カッシュだった。レインは顔を上げ真直ぐ俺を見ている。視線が絡み、俺は目を逸らすことができなくなった。

 

「白式をしまえ」

 

 レインははっきりとそう告げた。

 

「このファイトは、私の物だぞ」

 

 ゆっくりと立ち上がる。顔には笑顔が浮かんでいるが、ダメージがないわけがないのだ。事実、ラウラは勝利を確信していた。

 それでも、レインは立ったのだ。

 

「ちっ! しぶとい奴だな!」

 

 ラウラの舌打ちが響くが、レインはラウラを見ていない。真直ぐに俺を見据えて言葉を紡いだ。

 

「一夏、私は強いか?」

 

 その問いの意味は俺には分からない。どうして聞いたのか、どういう意味があるのか、どう答えて欲しいのか。唯一つ確かなのは、俺の答えは決まっていたことだ。

 

「ああ、最強だろ?」

 

 聞こえていないはずだった。だがレインはフッと笑う。

 

「やっぱり負けられないな。全力を出すまでは」

「全力だと? 手を抜いていたとでも言うつもりか?」

 

 ラウラがいぶかしむ。信じられないところを見せられ続けたんだ。これ以上があるとは信じ難いんだろう。

 だが、そんな思考はナンセンスだ。

 

「つまらない矜持をやっと捨てられる」

 

 ブシュッという音がして打鉄の拘束が解かれ、レインはISから降りた。ISスーツを纏ったレインが威風堂々とラウラと相対する。

 そして、手を空へと掲げた。

 

「出ろぉおおおおおおおお!」

 

 指を鳴らすとレインが光に包まれる。レインの鉢巻が光り輝き消えた。これは間違いない。

 

「レインの……専用機」

 

 登録されているデータを読み取る。俺の知っているISよりシンプルで武骨な鎧武者のような姿。

 名前は〝ヤマト〟

 

「ふん! は! はぁああああ…………はぁ!」

 

 突きを放ち、蹴りを放ち、レインはその動きを確認する。

 そして、レインに指を指した。

 

「さあ、ここからが本当の〝ISでの〟ファイトの始まりだ」

「ISでの、ファイトだと…………」

 

 意識を再びレインに集中させ始めたラウラにレインが宣言する。

 

「ISファイト、レディィィィィ・ゴォオオオオオオオオオオ!」

 

 やっぱり、レインは負ける気がしない。

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