IS武闘伝   作:Crank

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レインvsラウラ! 起動する専用機Ⅳ

 レインのISは俺の白式のように白を基調としていた。だがいくつか普通のISとの差異も見られる。まずはその手の形状だ。限りなく人間に近い武骨な手、そしてその手をガードする手甲状のパーツも付いている。更には胸部パーツの存在だ。緑色の球体硝子をはめ込んだ青い胸部パーツは普通、全身装甲《フルスキン》のISでもなければ付いていない。絶対防御のせいで無駄な上に着脱の邪魔になるからだ。

 だから、俺でもレインの〝ヤマト〟が特殊であることが一目で分かった。

 

「ほう、日本の第三世代型が漸くお披露目か…………だが!」

 

 ラウラが大口径リボルバーカノンを連射する。しかしレインはそれを僅かに体を逸らすだけでかわしきった。既にラウラの射撃は見切ってしまったらしい。

 歯噛みをするラウラに向かって、今度はレインが攻め込んだ。背面ブースターから火を出して、一直線にラウラを目指す。

 

「愚か者め! お前では近付くこともできないと分からないのか!」

 

 右手を翳してラウラが吠える。AICで再びレインを止めるつもりだ。さっきと同じように。

 だがその瞬間、レインは方向転換と加速を行いAICを回避してラウラの背後に回り込んだ。

 

「何だと!」

 

 地上戦で完膚なきまでに叩き伏せられたラウラは驚きと焦りを隠せずにいた。完全に先程の再現になる。

 

「……空中で何故あの機動ができる?」

 

 箒が唸り声を上げた。正に問題はそこで、空中戦では武闘家としてのレインの技量は殆ど生かせない。そして純粋なIS操縦者としての技量はラウラの方が圧倒的に上だ。何故、レインは空中で圧倒できるのか。

 その答えはシャル大先生が導き出した。

 

「………………AICだ」

「え? それってラウラのシュヴァルツェア・レーゲンの装備じゃ?」

 

 俺の記憶が間違っているとは思えない。レインさえ苦しめた武器だからな。

 

「そう。でもあれは元々はPICの発展。理論の根底に同じ物があってもおかしくはないよ」

 

 つまりシャルの説明によれば、同じ物を発展させたから似たような武器になったということか。

 

「これは推測だけど、多分一部、恐らく脚部と接する空間をAICと似た理論で固定化して擬似的な足場を作ってるんだと思う」

「そうか、レインの動きの要は足。その理屈なら空中で地上戦の機動ができる」

 

 納得と感心をする箒だが、そこで話は終わることなくシャルは解説を続行する。

 

「イメージ・インターフェイスを使用することでレインの望む瞬間だけ足場を作れば普段の機動には邪魔にならないしエネルギーも節約できる。多分あれが、ヤマトが第三世代型たる所以だよ」

「………………でも、ラウラがAICを使うより速いレインの動きについていけるのか?」

 

 俺はレインの速さを知っている。実際ラウラですらレインを捉えきれていないのだ。そのスピードに合わせて脚部を固定化なんてできるだろうか。

 

「想像だけど、AICの働く空間を限定することで反応速度を上げているんだと思う」

 

 それがシャルの推測だった。確かにラウラのように目標を設定する時間をオミットすれば劇的に速くはなるだろう。しかし俺には他にも理由があるような気がしてならなかった。具体的は分からないから黙ってはいたが。

 

「破ぁ!」

 

 そんな考察をしている間に、ラウラはレインに殴り飛ばされていた。

 

「舐めるな!」

 

 追撃を抑える為に残った五本のワイヤーブレード全てを射出し、ラウラ自身もプラズマ手刀を構えた。

 

「AICは使わないのか?」

「効果がないから不使用?」

 

 俺と箒はラウラの動きに疑問を感じる。当たらないとはいえ当てれば勝利がほぼ確定するAICを…………? そんなことあるのか?

 疾駆するレインにワイヤーが迫る――瞬間、レインは跳躍をした。

 空中で、飛翔ではなく、跳躍。シャルの推測は正しいようだ。

 

「何っ!」

 

 本日最大の驚愕を露わにするラウラ。

 

「ふんっ!」

 

 腰部に装備された棒を握ると光の刃が形成され、レインが落下と同時に振るうとワイヤーブレード斬り裂かれた。なんて斬れ味だ。

 

「くそっ!」

 

 右手のプラズマ手刀を繰り出したラウラだったが、レインにとってその程度の攻撃は止まっているのと変わらない。顔を掠めるそうな僅かな距離で回避をして反撃に移った。

 カウンターの蹴りが決まる。

 だがラウラは急激な加速でレインに体当たりを敢行した。

 瞬時加速《イグニッション・ブースト》。俺が良く使う接近戦での切り札だ。

 

「まだ隠し玉があったのか!」

 

 意表を突かれ箒は驚く。たまたま俺と同じ物を持っていたことは確かに想像していなかったが、俺の感想は箒とは違っていた。

 

「最悪だ……」

「どういうこと?」

 

 俺の呟きの意味が分からなかったのか、今までとは逆にシャルが俺に聞いてきた。ちょっと得意な気分になっちまうな。

 

「瞬時加速《イグニッション・ブースト》は格闘戦では戦況をひっくり返すこともできるけどな、それは攻撃に関してだ」

「攻撃?」

 

 不思議そうに箒が聞き返す。それは俺も最初全く同じ感想を抱いていた。

 

「スピードはあるけど直線的過ぎるんだ。だから回避や防御には絶対に使えない」

「…………確かに、機動だけを考えれば行動を読み易いからね。勿論……瞬時加速《イグニッション・ブースト》の速さを見切って反応できる能力がある前提だけど」

 

 そうなのだ。シャルの言う通り、瞬時加速《イグニッション・ブースト》は相手の隙を突いたりする分には有効だが、回避に使えばカウンターの餌食だ。

 今のラウラのように。

 

「…………がはっ」

 

 腹部にめり込んだレインの肘が、ラウラの体内から酸素を一気に叩き出す。苦し紛れの瞬時加速《イグニッション・ブースト》を使った体当たりを読んでいた訳ではないだろうが、恐らく咄嗟の反応でカウンターを打ち込んでいたのだ。

 くの字に折れ曲がるラウラの体を、顎への拳で叩き起こし後ろへよろめくと急接近からの飛び膝蹴り。

 膝を引くと同時に左右の連打を浴びせる。

 

「肘打ち! 裏拳! 正拳! だりゃああああああああ!」

 

 一撃一撃、ラウラの体が衝撃で歪んだ。

 だがレインは一切躊躇しない。

 

「はぁああああ!」

 

 右の回し蹴りを叩きこむと、あまりの威力にラウラの体が吹っ飛んだ。

 

「がはっ!」

 

 ラウラが地面に叩き付けられる。絶対防御が働いているとはいえ衝撃は伝わってるはずだ。

 

「ぐぅ…………」

 

 ダメージで体を起こすのが遅れる。だがレインは立てないラウラに攻撃はしなかった。静かに降下して地面に降り立つ。

 

「……貴様」

 

 歯噛みをして睨みつけるラウラ。

 

「どうやってAICを見切った!」

 

 ……? AICは随分前に攻略されたはずだ。ラウラは何を言っている?

 

「AICはイメージ・インターフェイスを利用している。その為に、お前は使用の際にどうしてもある程度意識の集中を必要とする。その際、お前の瞳孔は拡大する」

 

 まさか、ラウラは手を翳すことなくAICを発動できるのか? そしてレインはそれを見切った。瞳孔の拡大なんて、あの高速戦闘中に……いや、寧ろこの短時間でそんなAICの欠点を見切れるのか?

 

「馬鹿な、そんなことが…………」

 

 ラウラの言葉に続くのは、できるはずがないだろう。そう、俺と同様にラウラも信じられないんだ。いや俺とラウラだけじゃない。この場にいる誰もがレインの言っていることが可能だとは思えないだろう。

 しかし、できるはずがない、なんて言葉は無意味だ。例え俺達にできなくても、レインには可能だというだけの話なのだから。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。貴様の敗因は三つ。一つ、流派東方不敗に喧嘩を売ったこと。二つ、流派東方不敗を甘く見たこと。三つ、流派東方不敗の前で安易に切り札を使ったことだ」

 

 指を折り曲げレインは数える。そして、三本目の指を立てるとそれを折り曲げ拳を作った。

 

「流派東方不敗に、同じ技は二度通じない!」

「ふざけるな!」

 

 叫びながら大口径リボルバーカノンをラウラは撃つ。もしかしたらAICも発動させているのかもしれない。

 だがレインは、停止と加速を繰り返し、その全てを避けきっていく。二度と当たりはしないことは誰の目にも明らかだった。

 

「くっ!」

 

 ラウラが後退して距離をとる。あれは策というより、接近される圧力に耐えかねたように見えた。

 しかしレインの接近は遥かに速い。瞬間的な速度でいえば瞬時加速《イグニッション・ブースト》と同等もしくはそれ以上だ。逃げ切れる訳がない。

 

「刃ぁ!」

 

 再び光る剣を振るうっとリボルバーカノンの砲身が三分割される。もうあれでは撃てないだろう。残った武器はプラズマ手刀だけだ。

 

「構えろ、ラウラ!」

 

 レインが叫ぶ。

 握られた右拳が光った。

 

「超級!」

 

 あの構えはさっきラウラに打とうとした技だ。

 

「覇王!」

 

 ラウラが咄嗟に防御態勢を取った。

 両手で胸部と腹部をガードする。

 

「雷撃弾!」

 

 体を回転させながらのアッパーが炸裂した。

 ヤマトの腕は砕けることなく、逆に一撃でシュヴァルツェア・レーゲンの両手を破壊。

 それに止まらずガードを吹き飛ばしラウラの体を殴り飛ばした。

 

「ぐぁあああああああっ!」

 

 咆哮が上がった。その大きさが技の威力を物語っている。

 空中で体勢を立て直す余裕もなく、再び地面に叩きつけられたラウラは、それでも必死に立ち上がろうとする。

 

「……わ、私が……負ける?」

 

 鈴とセシリアの二人掛かりを退け、一度はレインを敗北寸前まで追い込んだ強者の姿はそこにはない。ただ自分の敗北を受け入れられない戦士の姿があるだけだった。

 誰の目にも勝敗は……決している。

 

「……私は……負けない。負ける訳にはいかない……」

 

 立ち上がるラウラを前に、レインは剣をしまって構えをとった。

 

「…………なら、これで終わりにしよう」

 

 力を込めていることが客席からでも分かる。完全に戦いを終わらせる必殺の一撃を放とうというのだ。

 

「はぁあああああ!」

 

 もはや反撃をする余力のないラウラに、レインは真正面から突っ込む。

 

「……力。…………力」

 

 小さな声で呟くだけで、もはやラウラはまともな思考すらできていないかもしれない。この一撃でラウラが気絶することを祈ることしか、俺にはできなかった。

 その瞬間――。

 

「力を寄越せぇええええええええええええええええええええええ!」

 

 ラウラの魂から飛び出したような叫び声が響いた。

 そして、レインにカウンターを叩きこんで吹き飛ばしていた。

 

「何だ……あれ?」

 

 俺の言葉にシャルですら答えない。固唾を呑んで事態を見守る。

 シュヴァルツェア・レーゲンの手に黒い刀状の物が握りこまれていた。そしてそれは、シュヴァルツェア・レーゲンの装甲が変形してできたものだったのだ。

 突如現れた武器に不意をつかれたレインは、顔面に思い切り食らって横っ跳びに壁に激突してしまっていた。

 そしてその間も、シュヴァルツェア・レーゲンの形は変わり続ける。全身がコールタールのような黒い粘性の物に変わっていき、ラウラの全身を覆う。

 そして完全にラウラを取り込んで、ISを纏った女の形状へとその外装を変化させた。

 

「あ、あれは…………」

 

 何だ、あれ? ISってあんな変形するのか?

 いや、それ以上に何であの形なんだ?

 あれは、俺のよく知ってる――。

 

「――――千冬姉?」

 

 その姿は、歩き方は、構え方は、暮桜を身に付けた千冬姉と酷似したいた。いや、同一と言っても良い。

 ふざけるな!

 俺の中での怒りのボルテージが一気に最大まで駆けあがった。

 

「あの野郎!」

「待て一夏!」

「放せ、箒!」

 

 走りだした俺を箒が抑え込んだ。

 

「どうするつもりだ!」

「決まってる! あいつをぶん殴る!」

「馬鹿を言うな!」

 

 何が馬鹿だ!

 

「あれを見て、黙っていられるか!」

 

 全身を黒く染め上げた千冬姉モドキは、壁に叩きつけられたレインに斬りかかった。

 レインはそれをかわしているが、さっきまでより余裕が見えない。

 

「あの太刀筋は、あれは、千冬姉のものだ!」

 

 俺が憧れた、眩しいぐらいの剣をあいつは侮辱した! 許せるわけがない!

 

「来い、白式!」

 

 呼び出しと同時に零落白夜を発動! 最大出力でアリーナのバリアに叩きつける!

 箒は白式を展開したときに危険だから離れてくれた。

 これで遠慮はいらない!

 零落白夜のエネルギー無効化能力は、アリーナのバリアと数秒拮抗したが、即座に打ち消した。

 瞬間、瞬時加速《イグニッション・ブースト》でモドキへ斬りかかる。

 

「うわぁああああああああああああああああ!」

 

 それに気付いて反応をしたモドキだったが、関係ない! 必ず叩き斬ってやる!

 だが――。

 

「がはっ!」

 

 腹への強烈な衝撃で全身が止められた。いったい何が?

 

「…………レイン?」

 

 俺を止めたのはレインだった。どうやら蹴りを喰らったらしい。

 そう理解すると俺の怒りは再び燃え上がる。

 

「何のつもりだ、レイン!」

「何のつもりだと? それはこっちの台詞だ」

 

 背筋に寒気が走った。

 これは……恐怖? 何に?

 

「一夏、このファイトは私とラウラのファイトだ。邪魔立てするな」

「で、でもあいつは……」

「お前の事情は後にしろ。これは私とラウラのファイトだ」

 

 静かにそう告げたときにはもう俺を見てはいない。レインはモドキを真直ぐに見据えていた。

 そこで俺はようやく理解する。

 レインは、怒っていた。

 静かに、だがはっきりと。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 今にも震えそうな声でレインが呟く。俺はその声に息を呑んだ。これ程の怒気を感じるのは初めてで、立っているだけで息が苦しくなるプレッシャーがあった。

 だが、それを全く感じていないのかモドキはレインに斬りかかる。千冬姉の太刀筋で。

 

「…………師匠が言っていた。拳は己を映す鏡だと」

 

 しかしレインは、俺の知っている最強の太刀をその手で握りしめていた。片手で掴み取ったのだ。

 

「…………こんな空っぽの剣がお前か、ラウラ? 違うだろう。さっきまでのお前は。こんな力が欲しかったのか?」

 

 力が込められる。手が、いや全身が震えている。どれ程の力が籠っているのか想像もつかないが、レインの思いの丈が詰まっていた。

 

「目を覚ませ、ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

 

 剣が握り潰された。

 戦闘機さえ斬り裂くISの剣が、唯握りつぶされた。

 

「あぁああああああああああああああああああああ!」

 

 レインの怒りの叫びが響き、顔面へパンチが叩きこまれる。

 そして、右手を掲げるとその掌が光り始めた。

 あれは、レインが生身で放った…………。

 

「……! このIS、シャイニング・フィンガーが装備されているのか!」

 

 おそらく脳にISから直接情報が伝えられたんだろう。意表突かれ、思わず声を発してしまったレインは、すぐにモドキに意識を戻し、目の前に掲げた手を握りしめた。

 

「私のこの手が唸りを上げる! 炎と燃えて全てを砕く!」

 

 体勢を立て直そうとするモドキだったが、レインの方が速い。

 一気に加速し、握った拳を再び開いた。

 

「灼ぁああああああく熱! サンシャイン・フィンガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 光り輝くアイアンクローがモドキの胸部に炸裂し、装甲を融解させていく。

 その体勢からでもモドキは反撃をしようとする。だが、恐らく攻撃が内部のラウラにまで達したんだろう。急にもがき苦しむような動きを取り始めた。

 

「お前はぁ、邪魔だ!」

 

 レインの裂帛の気合が籠った叫びで、モドキはその動きを停止した。

 同時に装甲が再びコールタールのような物に戻っていく。その中からラウラも姿を現した。どうやら気絶しているらしい。

 レインはラウラを抱きかかえる。絵面だけなら完全に主人公とヒロインだ。

 ちゃんと呼吸をしていることを確認して、レインは空いた右手を握り込み、天に向かって翳した。

 そう、それは勝利宣言。

 この戦いは、レインの勝ちだ!

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