IS武闘伝   作:Crank

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レインvsラウラ! 起動する専用機Ⅴ

「やり過ぎだ、馬鹿者」

 

 あの激しい戦いの後待っていたのは、千冬姉のお説教だった。今回は俺、戦ってないのに……。

 この場に呼び出しをくらったのは、俺とレインの二人だ。セシリアと鈴、それにラウラは医務室で治療を受けている。

 

「こう度々問題を起こされると、社会に不満でも持ってるのかと思ってしまうぞ。後で打鉄を破損したことについての始末書を提出しておけ」

 

 完全に呆れ調子の千冬姉に山田先生は苦笑いをしていた。俺達は盗んだバイクで走りだすような年齢は過ぎているんだけど。

 

「まあ、カッシュについてはこのぐらいか……。問題は織斑、お前だ」

 

 俺に向き合う千冬姉の目は……怒っていた。

 

「客席でのISの展開、バリアの解除、乱入、よくもまあここまでいろいろやってくれたものだ」

「あう……ごめんなさい」

 

 小さくなって謝るしかない。千冬姉が馬鹿にされた気がして、思わずカッとなってしまった。やり過ぎたとは思ってる。

 

「下手をしたら客席の他の生徒が巻き込まれていたんだぞ? お前がバリアを解除したときには射撃兵装がなくなっていたから良かったものの」

「……………………」

 

 とうとう謝罪の言葉すら出てこなくなってしまった。そうだ、俺のしたことはあの場にいた大勢の生徒を危険に晒す行為以外の何物でもない。

 なにが〝守りたい〟だ。ちょっと力を持ったからって調子に乗って。どれだけ恥ずかしい奴なんだ、俺は。

 

「あ、あの。でも緊急事態でしたし、仕方のない面も――」

「ない」

 

 凹んだ俺を慰めようとしたのか、恐る恐る声を掛けてくれた山田先生を、千冬姉は完全否定した。

 

「暴走したボーデヴィッヒが客席に襲いかかる可能性もあった。こいつは最悪の選択をしたんだ。山田先生、甘やかさないでください」

「は、はい…………すいません…………」

 

 山田先生が叱られるような形になってしまった。俺のせいで割りを食った形になって申し訳なく思う。だから俺も一緒になって山田先生と項垂れた。

 

「織斑、お前はあのとき、どうすべきだったか分かっているのか?」

 

 冷気すら感じる千冬姉の視線に気圧されつつも、俺は自分の反省を述べる。今更遅いかもしれないが、それでも、ああすれば、こうすればは頭を過るものなのだ。

 

「…………速やかに退避して、千ふ――織斑先生の指示を仰ぐべきでした」

「では、次からはそれができるか?」

 

 そう念を押され、俺は「はい」と口が答えそうになる。だがそれを、俺の心は押し止めた。手段は確かに不味かったし、冷静さを失った点は反省するべきところだ。しかし、その行動を起こさせた気持ちは恥じ入るものではないと思う。それが頭に引っかかって、素直に返事をするのを躊躇わせたのだ。

 たぶん、もう一度同じ状況になっても、俺は同じことをしてしまうかもしれない。

 

「………………はぁ」

 

 躊躇う俺の姿を見て、千冬姉はこめかみを押さえてため息を吐いていた。

 

「織斑には一か月の奉仕活動――男子専用施設の清掃と、一万字以上の反省文を提出を命じる」

「い、一万……」

 

 清掃は…………解る、かな。結局俺だけが使う施設なわけだし。トイレとか更衣室とか。でも反省文一万字って。謹慎とかの方が遥かに気楽なんだけど。

 

「謹慎に代わる処分だ。文句を言うな」

 

 そりゃ、文句はないけどさ……。

 千冬姉から告げられた以上、おそらく冗談ではないだろうし、俺がペナルティに異議を唱えられる立場とは思っていない。

 だけど、それだったら謹慎の方がマシだった。

 

「以上だ。解散!」

 

 明朗に告げて千冬姉が手を叩くと、その場の空気が切り替わる。話はもう終わりだろう。俺とレインは頭を下げて無言のまま退室した。

 ドアを閉め、視界から千冬姉の姿が完全に消えると、俺はふぅと溜息を吐く。何気なく視線をレインに向けこの後のことを聞こうとするが、俺の意識から一瞬そのことが消えてしまった。

 何も語ることなく、ただ黙って自分の握り拳を見つめていたのだ。

 その雰囲気に俺は飲まれてしまっていた。

 

「…………ん? どうした?」

 

 こちらの目線に気付いたレインが問いかけてくる。慌てて手を振って何でもないとアピールすると、それでレインは納得したのか追及をしてはこなかった。

 

「あ! 良かった、まだここにいたんですね!」

 

 突然割り込んでくる第三者の声。閉めたドアが再び相手山田先生が飛び出してきて、俺達の姿を認めると嬉しそうに笑った。

 

「どうしたんですか?」

 

 そう聞くと、山田先生は俺の目をじっと見つめてくる。少し、恥ずかしい……。

 

「あの、織斑先生のこと、悪く思わないでほしいんです」

 

 山田先生の口から出た言葉は、考えもしないものだった。俺が千冬姉を嫌うことなんてありえないんだが。

 

「厳しい課題だと思いますけど仕方がないんです」

 

 おそらく課題というのは、さっきの大量に出されたペナルティのことだろう。俺自身納得はしているから問題はない……不満はあるが。

 そこらあたりを察して、山田先生は来てくれたのかもしれない。

 

「実は、各国から圧力がかかっているんです」

「え……」

 

 驚きを隠すことができなかった。そもそもIS学園はあらゆる国家機関に属さないし、干渉することも国際条約で禁止されているはずだ。

 

「クラス対抗戦があんな形で中止になってしまったために、様々な機関から〝IS学園が唯一の男子操縦者の情報を秘匿するつもりだったのではないか〟と批判があるんです」

 

 確かにクラス対抗戦は、謎のISが乱入したことで中止になった。あのときは一年なんて大して注目されてないみたいな話だったけど、俺は特別に注目されてたのか。

 

「今度の学年別トーナメントまで織斑君が欠席ということになると、学園への外圧がさらに強くなるんです。でも、無罪放免という訳にもいかなくて……」

 

 そうか……。俺が謹慎の方がマシだと俺が思ったように、周囲にもそう受け取らせる処分が必要だったってことなんだろう。大人の世界は複雑なことだ。

 

「ありがとうございます、山田先生。でも、俺も今回の処分は当然だと思っているので」

「そうですか!」

 

 満面の笑みを浮かべる山田先生に、俺は弟として感謝の気持ちを持った。俺と千冬姉のことを本気で心配してくれてたんだな。

 

「二人はこれからどうするんですか?」

「ラウラに会いに行くつもりです」

 

 即答するレインに、俺と山田先生は驚きを隠せなかった。完膚なきまでに叩きのめした相手に会うのは勇気か蛮勇か。少なくとも俺は躊躇してしまうのだが。

 

「ボーデヴィッヒさんは医務室にいるはずです。検査中だったらいないかもしれませんけど」

「そうですか、ありがとうございます」

 

 山田先生に一礼してレインが歩き出した。俺も慌てて会釈をし、レインを追いかける。

 

「ラウラに何の用なんだ?」

 

 追いついた俺は横並びに歩きながらレインに問うと、視線が合うことなく答えが返ってきた。

 

「学年別トーナメントについてな」

 

 素っ気ない言葉で、内容も詳しくは語られないが、レインの真剣さは伝わってきたような気がする。ラウラの専用機は完全に破壊された。俺が確認したときには、あの千冬姉そっくりに変形する謎の機構のせいで原型すら残っていなかったのだ。もしラウラが出場するのであれば、ISをどう修復するのだろうか……。

 話をしながらも、俺達の脚は止まらない。そのおかげで気付いたときには、もう医務室の傍まで近づいていた。

 

「あれ?」

 

 俺とレインは顔を見合わせる。医務室からその場に相応しくない怒声――もとい言い争いの声が響いてきたからだ。

 不思議に思いながら近づいていくと、だんだんと声も内容も明瞭になってくる。その声に聞き覚えがあって、俺は一気に脱力してしまった。

 

「だから、あれは鈴さんが!」

「セシリアこそ何よ!」

 

 いつも通りの元気な二人に、安堵と同時に呆れの感情を抱いた。俺は溜息をついて慎重に医務室の扉を開ける。うっかり枕の一つでも飛んできそうな気がした。…………ま、そんなことは起こらなかったけど。

 

「鈴さんがもっとラウラさんを引き付けておくべきだったのではないですか!」

「はあ? あんたの射撃がヘボいからでしょ! 百発三中、いや二中が良いところだったでしょうが!」

 

 中では全身に包帯を巻き、仲良く隣通しのベッドで横になっているセシリアと鈴が角を突き合わせていた。思ったよりも元気そうで良かった良かった。

 

「お~、もう治療は終わったのか?」

 

 とりあえず場を和ませようと手を挙げて自己主張をする。その場にいたセシリアと鈴、それに箒とシャルも俺達のことに気付いてくれたらしく、こっちに視線を向けたくれた。

 

「あ、一夏。織斑先生の話は終わったの?」

「ああ。反省文の提出だってさ」

「当たり前だ。寧ろその程度でよく済んだものだ」

 

 俺の事情を理解しているシャルと箒に報告をする。表面上は箒の言う通りなのだが、山田先生の話を聞いた後だとあまり素直に頷けない。

 しかし問題は、ラウラにやられてそのあたりのことを知らないセシリアと鈴だ。俺達三人の会話を聞いてふくれっ面をしている。疎外感でも感じているんだろうか。

 

「二人とも怪我は大丈夫か?」

 

 話の流れを変えるために、俺は鈴達に話しかける。

 絶対防御があるとはいえ、致命傷に至らない怪我は負う。そうでなければハイタッチみたいな行為でさえ絶対防御が発動することになって、すぐにエネルギー切れだ。まあ、どのあたりまで防ぐかはある程度設定で弄れるらしいが。

 

「この程度、怪我のうちに入りませんわ」

 

 俺が心配をしても、セシリアは即座に否定をした。それが如何にもセシリアらしくて思わず吹き出してしまう。全身に包帯を巻いているのにそれだけ強がれるなんて、そのプライドは本物だ。

 

「…………一夏さん」

 

 だがそれが本人には不満らしい。頬を膨らましてこちらを睨みつけてきた。俺は

慌てて手を振り、馬鹿にする意図がないことを主張する。

 その様子が面白かったのか、周囲で笑いが巻き起こった。

 

「まったく、お前というやつは」

「馬鹿ね、馬鹿」

「一夏さんったら」

「一夏らしいよね」

「さすが織斑君!」

 

 ……………………待て、〝織斑君〟?

 

「黛さん?」

「いつもニコニコ貴方の隣、這い寄る新聞部員、黛薫子ですよ~」

 

 這い寄らないでください、コズミックなホラーにSAN値を削られかねないので。

 内心のツッコミはさておいて、いつも何やら二年生の黛先輩も医務室に来ていたようだ。黛さんは新聞部副部員で、俺も入学のときから記事を書かれ、写真を撮られていた。

 

「聞いたよ、今日の模擬戦のこと。まったく、私の知らないところで派手なことされたら困るじゃない」

「耳が早いな……」

 

 捲し立てる黛さんにレインが呟いた。なるほど、レインに取材に来たのか。あれだけやったんだから、これでレインも一躍有名人だな。

 

「カッシュさんには後でインタビューをするとして、実は織斑君にお願いがあるんだよね」

「お願いですか?」

 

 どうやら俺に用があるらしい。なんだろ、心当たりがない。

 

「お願い! 模擬戦の映像データを回して! 情報提供料は払うから!」

 

 手を合わせて黛さんが頭を下げた。

 確かにあのときは白式を起動していたから、映像がまだデータとして残ってはいる。それが欲しくてここに来たのか。

 俺はレインに視線でどうするか尋ねるが、興味がないとばかりに視線を逸らされた。

 だが黛さんはその間を、俺が躊躇っているのだと考えたのか、情報提供料の話を始める。

 

「ねえ、お願い! そのデータをくれたら三時間中華料理食べ放題のチケットあげる!」

 

 あ…………レインが少し反応した。武闘家は体が資本とか中華は内臓が鍛えられるとか言っていたからな。そこまで知っての提案だとしたら、黛さんの情報収集能力は異常だ。

 

「…………分かりました」

「やった! ありがとう、織斑君!」

 

 大げさに喜ぶ黛さんを見て、あの緊迫した戦いがもうずっと昔のことだったように感じられた。セシリアと鈴も元気そうだし。

 これで、レインとラウラの試合は終わったのだと、俺はようやく自分の中で整理をつけたのだった。

 そう……レインとラウラの戦いは…………。




皆さんお待ちかねぇ!
レインとラウラの戦いを受けて学園全体がトーナメントに向けて燃え上がる中、一夏は打倒ラウラの特訓を開始します。
そして急遽知らされるルール変更とは。
次回IS武闘伝「 特訓の一夏 鍛えよ勝つために!」にReady~Go!
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