IS武闘伝   作:Crank

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さて、皆さん。
レインとラウラの激闘の中、一夏はレインだけでなくラウラとの実力の差を知ってしまいます。
素人と代表候補生の大きな壁。しかし一夏には負けられない理由があるのです。
僅かな光明を見出さんと一夏の特訓が始まろうとしています。
それでは、IS武闘伝、Ready~Go!


特訓の一夏 鍛えよ勝つために!Ⅰ

 壁新聞。

 個々人が何らかの情報端末を携帯する現代において、著しく効力を疑問視される情報伝達手段だ。今時は壁の掲示物に歩行中、目を通す者は少なく、もっぱらやれアンドロイドだのギャラクシーだのとなったご時世。どこか寂しくも感じるが、それが現実だった。

 ところが、今日のIS学園においては、その常識が覆っていたのだ。

 

「ええ~! これ本当?」

「あのボーデヴィッヒさんが……」

 

 掲示板の前にできた人だかり。目当ては一枚の壁新聞。

 IS学園新聞部発行の最新号だ。

 

「おいおい……」

 

 俺はその人だかりの先頭で呆然としている。記事の内容は至って正確だ。現場にいた俺が保証する。だが、問題はその見出し。そこにはでかでかと――。

 〝一年最強決定! 誰か勝てる奴はいないのか!〟

 

「うわぁ……」

 

 そんな間の抜けた声を出してしまう。この見出しをセシリアや鈴が見たら、また一悶着ありそうだから。

 

「お、見たね、一夏君」

 

 後ろから声をかけられて振り返ると、そこにはカメラを持った黛先輩がにっこりと笑っていた。黛先輩が俺の袖を引くので、それに従って集団から離れる。

 壁新聞に集う生徒達を見渡せるぐらい距離をとると、黛先輩は生徒達を指差して、さらに笑顔を明るくした。

 

「いやぁ、一夏君のくれたデータのおかげで良い記事が書けたよ! 本当にありがとうね!」

 

 一面の写真は確かに俺が提供した映像データの一部を静止画に加工していた。サンシャイン・フィンガーを放つレインの姿が派手に載っていて、とても動画から抜き出したとは思えない出来だった。

 

「――って、そうじゃなく! 何なんですか、あの見出しは!」

「センセーショナルでしょ?」

 

 黛先輩は俺の訴えなどどこ吹く風で、楽しげにVサインなんてして見せた。

 

「最近では一番の発行部数になりそう。新聞部も安泰だわ」

 

 満足気な顔だが、問題はそこじゃない。

 

「あんな煽り方したら、セシリアとか鈴とかが怒るじゃないですか」

「うむうむ、切磋琢磨だね。若人はそうでなくっちゃ」

 

 俺の懸念を笑い飛ばす黛先輩に、俺は溜息を吐くしかなかった。もうここまで話題になっている以上、今更黛先輩に差し替えてもらったところで意味はないよな。後で二人を宥めるのは俺の仕事なんだろう。ああ、憂鬱だ。

 

「ところで一夏君」

 

 ポケット弄って、二枚の紙を俺に渡してきた黛先輩。俺はとりあえずそれを受け取ってそのチケットに書かれた文字を読んでみる。そこには〝高級中華三時間食べ放題〟の文字が躍っていた。

 

「これは?」

「この前言った情報提供のお礼」

 

 ああ、なんかそんなこと言ってたな。でもなんで二枚?

 

「女の子とデートに行けるでしょ?」

 

 楽しげな黛先輩であったが、俺はある疑問を持たざるを得なかった。

 

「中華の食べ放題デートって喜ぶ子いるんですか?」

「いやいや。デートはどこに行くかより、誰と行くかでしょ?」

 

 知りません。

 

「というか、俺にはデートに行くような相手もいませんし」

「ありゃ、一夏君は鈍感君だね。一夏君が誘えば二つ返事の子なんてダース単位でいるでしょうに」

「黛先輩から見た俺は、どんだけモテ男ですか……」

「ん~? 天然ジゴロ系ヒーローキャラ?」

 

 小首を傾げる黛先輩は可愛らしさをアピールしているのかもしれないが、俺はその発言内容に意識を捕らわれてそれどころじゃなかった。

 俺って周りから見たらそんな変なキャラなのか……?

 

「さて、一夏君のモテモテマン列伝はこのぐらいにして――」

「そんな列伝はありません!」

「その件については後日調査し、紙面にて報告させていただきます」

「止めてください!」

 

 絶対ろくなことにならないから。

 

「何をしているんだ?」

「あれ、レイン?」

 

 いつの間にかレインが近づいていた。気配の消し方も一流だな。

 

「大声で騒いで、恥ずかしくないのか?」

『う…………』

 

 思わず俺と黛先輩が黙りこむ。よく見ると周囲の注目を集めていて、壁新聞を読んでいたはずの生徒達も視線を向けている。

 

「と、とりあえずこっちに……」

 

 俺は周囲の目に耐え切れず、二人の手を引いてその場を離れる。さすがに後をつけようと思っている子はいないみたいで、俺達は無事に集団から距離を取ることができた。廊下の角を曲がれば、もう完全にこちらの姿は見えなくなったはずだ。

 

「まあ、一夏君ってば積極的!」

「なっ!」

 

 黛先輩! わざとそういうこと言うの止めてください! レインの目が怖い!

 

「ふふ、冗談。一夏君ってからかうと面白いのよね」

「……面白くないです」

 

 茶目っけのつもりかもしれないが、本人からしたらいらぬ心労を増やしただけなんだから、とてもじゃないが黛先輩の言葉を受け入れる気にはなれない。疲労感の溜まった俺は、思わず弱音を吐いてしまう。

 

「……今日は、いつも以上にきついですね」

「ようやくレインちゃんの記事を書けたからね。話題性は一夏君と同格なのに、今までずっと取材拒否だったから」

 

 それでか。レインはその常識外れの能力で、黛先輩のパパラッチを完璧に回避して見せたからな。以前、早朝の組み手を隠し撮りしようとしたけど、一瞬で見つかってカメラを没収されてたし。

 

「あれだけ派手にやったんだ。覚悟はしていた」

「お~、男らしい発言!」

「………………」

 

 あれ? 何か黛先輩の褒め言葉に、レインの表情が陰ったような?

 

「じゃあ、私はそろそろ行くから! 二人とも、ありがとね!」

 

 そう言って敬礼するように手をかざし、黛先輩は駈け出した。

 

「あ、そうそう」

 

 ――と思ったら、急に振り返る。

 

「お礼に二人にちょっとだけお得情報! 今日は夕刊も出すから、読んどいた方が良いわよ!」

 

 それだけ告げると、黛先輩は再び前を向いて走り始める。もう振り返ることはなく、そのまま俺達の視界から消え去った。千冬姉に見つかったらどやされるぞ、廊下を走ったりしたら。

 それにしても一日に二回も発行とは豪勢な。

 

「けどレイン、今日は早かったんだな」

「ああ、少し用があって」

 

 俺達が言っているのは、レインの登校時間のことだ。レインは早朝の組み手の後、食事をしてからもギリギリまで修業をしている。型の確認だとかそう言った一人の修業を。

 

「用? 部活とか?」

「まだ部活は入っていない。時間が取れないんだ」

 

 榊原先生からの伝言は伝えたんだが、ある種マイペースなやつだな。きっと榊原先生、ヤキモキしてるぞ。しかも今回はこれだけの騒ぎを起こしたんだ。見る人が見れば、レインの身体能力の高さなんて一目瞭然だから、さらに騒がしくなりそうだな。

 

「特訓することにした」

「そうなのか」

 

 唐突なレインの言葉に思わず頷いていた。あの錆びた刀を使いこなせるように特訓するってことなのか? だとしたら早朝の組み手の時間を減らせるって話かもしれないな。

 

「だから早朝の組み手と、放課後のIS訓練を一時間増やす」

「ああ――――――え?」

 

 あれ? もしかして?

 

「特訓って…………俺の?」

「当然だ」

 

 当然なのか。

 

「理由を聞いても?」

「次の学年別トーナメントで、お前をラウラと戦わせる。途中で敗退されることも、ラウラに手も足も出ずに負けることないようにする為の特訓だ」

 

 そりゃ、俺も昨日の千冬姉モドキの件もあるから、ラウラとは一度しっかりと話はしたいと思ってたし、あの瞬間は怒りで我を失って挑みかかったりしたけど、なんでレインがそれを強く後押ししようとしてるんだ。そもそもラウラ、トーナメントに出れるのか?

 

「ラウラの見舞いに行ったのか?」

「ああ。疲労は酷かったが怪我は大したことなかったようだ」

 

 そうか、大丈夫そうなら良かった。そう言えば昨日、千冬姉に説教された後にラウラに会うとか言ってたな。

 でも、特訓か……。レインの特訓って地獄絵図しか想像できないんだが。

 とは言え、昨日の模擬戦を見てしまった以上、俺の実力じゃラウラと戦えないのは分かっている。クラス代表を決めるときのセシリアとの模擬戦もクラス対抗戦の鈴との試合も、付け焼刃の技術と短期で詰め込んだ戦闘勘、それと白式の性能に頼ってようやく短時間だけ互角に近い戦いができただけだ。勝てるか、と問われれば否定せざるを得ない。

 山田先生の話では、俺はトーナメントへの出場が決定している。どうせなら勝ちたい。

 

「分かった。またよろしく頼むよ」

 

 俺はそう手を差し伸べる。レインは俺の手をしっかりと握り、その力強さに有無を言わせぬ安心感を感じ取らされた。

 

「今回の特訓は、セシリアとの模擬戦のとき以上に厳しいものになる。覚悟しておけ」

「………………任せろ」

 

 少し弱気になったのは許してほしい。

 

「あ、そうだ」

 

 お食事券のことを思い出した俺は、握手していた手が離れると同時にポケットにとりあえずしまっていた食べ放題券を取りだした。

 

「何だ、それ?」

 

 不思議そうな顔をするレインにチケットを渡す。

 

「黛先輩が情報提供のお礼にって」

 

 簡潔に事情を説明すると、レインはチケットを押し返してきた。

 

「……情報提供をしたのはお前だ。お前が行け」

 

 俺はそれを再び渡す。

 

「いや、だってレイン行きたいんだろ?」

 

 押し返される。

 

「……………………行きたい、とは言ってない」

 

 渡す。

 

「いや、だって昨日中華食べ放題って聞いて反応してたじゃん」

 

 押す。

 

「……………………………………してない」

 

 また。

 

「ああ、もう分かった!」

 

 俺はとうとう我慢の限界に達して、ひったくるようにチケットを握りしめた。

 

「だったら二人で行くぞ! それなら文句ないだろ!」

 

 幸いチケットは二枚ある。

 

「……………………まあ、そこまで言うなら」

「よし! じゃあ、週末な! 日曜に行くからな!」

 

 ここは勢いで押し切ろう。珍しく歯切れの悪いレインの態度に、俺は主導権を握ることができたような気がした。謹慎じゃなくて良かったと思う。

 レインは目を閉じて考え込んでいる。中華を夢想でもしているんだろうか?

 しかし、勢いとはいえ黛先輩の言った通りになったな。これは一種の……デート、なのだろうか?

 

「……………………何か、違う」

 

 週末のことを想像するが、どうしてもデートという言葉が持つ甘い雰囲気を想像できない。いや、レインは可愛いよ? どっちかと言うと美人かもしれないけど。でもそれ以上にオーラが、違う。二人で出掛けるとなると、山籠りか一騎打ちしか想像できない。

 

「何が違う?」

 

 不思議そうな顔をレインが向けていた。

 ……聞こえたらしい。

 

「えっと………………」

 

 考えろ、俺! 何か何か何か何か何か何か何か何か――――。

 

「あ~~~~、黛先輩の新聞の見出し! もっと良いのがあるんじゃないかって」

「見出し? 何が書かれていたんだ?」

 

 ラッキー! レインはまだ見てなかったらしい。

 

「昨日のお前とラウラの模擬戦が新聞になって張り出されてるんだ。見てこいよ」

「ふむ。そうするか」

 

 では放課後、とレインは来た道を戻り始めた。つまりは放課後から猛特訓がスタートするわけだ。

 俺は覚悟を決めて教室に向かう。気合を入れないとな! 頑張れ、俺!

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