IS武闘伝   作:Crank

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特訓の一夏 鍛えよ勝つために!Ⅲ

 一日の授業を終え放課後になると、俺は真っ直ぐにアリーナへと向かった。急いできたからか俺と箒とシャル以外の人間の姿は見えない。

 朝のやり取りで気合い込め直した俺だったが、結局日々の訓練しか上達の道はないと悟っている。怒りとか覚悟をきっかけに一気にパワーアップするのは、日頃からパワーアップできるだけの素地を身に付けておいた者だけだ。今はとりあえずできることをするしかない。

 

「さて、今日も頑張るか」

 

 口に出すと少しだけ気合いが入る。放課後のアリーナでのISを使った訓練も日常の一部となっていた。

 

「頑張るとは言うが、勝機はあるのか?」

 

 俺の言葉を聞きつけて、打鉄を纏った箒が問いかけてくる。

 ここは堂々と男らしく答えるしかあるまい。

 

「ない!」

「…………はぁ」

 

 正々堂々とした俺の意見に箒はため息で返答をする。

 気持ちは痛いほど分かるが失礼ってもんじゃないか? 俺だって勝ち目があるならそう言いたいさ。でも実際、今の俺の力じゃ絶対に勝てないんだから仕方ないだろ。現状を正しく認識して受け入れることも大事だぜ?

 

「まぁ、ラウラの実力は学生のそれを確かに超えているけどね」

 

 シャルのフォローが胸に沁みる。

 そうなのだ。ISの操縦技術は搭乗時間に正比例すると言われている。ならこの前までISとは無関係な超絶一般人だった俺より、軍属のラウラの方が圧倒的優位なのは仕方がない。

 言い訳にもならないけどな。

 

「そこに勝機を見出すための特訓だ」

 

 拳を握って俺は熱弁する。

 だいたい世界中の代表候補生は間違いなく俺より格上だ。俺が世界で下から数えたナンバーワンだからな。それぐらいの自覚はある。

 じゃあ俺は誰にも勝てないのか? 答えは否だ。弱者が強者に噛み付くなんてのはよくある話で、戦いに絶対なんてものはない。限りなくゼロに近くてもゼロじゃない。

 今俺のすべきことは、その僅かな可能性の少しでも大きくすることだ。

 

「待たせたか?」

 

 そんな風に話しているところに専用機〝ヤマト〟を装着したレインが現れた。今まではずっと打鉄を使っていただけに、こうして間近で専用機を見ると新鮮な気持ちになる。

 そしてそれはシャルも同じだったようだ。

 

「今日はヤマト(そっち)を使うんだ?」

「ああ、一度使ったからな。今まで半分意地になってただけだったし」

 

 肩を竦めるレインの様子からは、どこか清々しさを感じ取れた。胸の痞えがとれたようなそんな雰囲気だ。

 

「あれ? セシリアと鈴は?」

 

 いつも訓練に参加している二人の姿が見えない。てっきりレインと一緒に来るものだとばかり思っていたんだけどな。

 

「たぶん、ISの修理だよ」

 

 シャルが説明をしてくれた。

 

「ISには自己修復機能はあるけど、あそこまで破壊されたら、それだけじゃどれ程の時間がかかるか分からないからね。パーツを補強したり交換したりして暫くはそれに掛かりっきりじゃないかな」

 

 なるほど。つまり大怪我をしたら、ギプスを付けるなり移植手術をするなりの処置が必要ということか。ISの手入れは大変なんだな。俺も白式のメンテナンスをもっとできるようになろう。

 

 ちなみにギ()スではなくギ()スが正しい。

 

「それはラウラも同じだろう。今のうちに少しでも差を埋めてしまいたいところだ」

 

 レインの言葉に俺も気を引き締める。付け焼刃でも何でも今はやるしかない。

 …………そんなのばっかりだな、俺。

 

「だが、対策はあるのか? レインと同じ機動を一夏が実行できる訳がない」

 

 箒に断言されて、俺は少しばかり凹む。そりゃ箒の言は尤もなんだが、それでも少しは期待して欲しいと思ってしまうものだ。

 

「実際に一度、目の前で見せてもらったらどうかな。もしかしたら同じは無理でも似たようなことができるかもしれないし」

 

 素晴らしいシャルの提案に、俺は気力を回復した。

 そうだ。最初からできないと諦めるもんじゃないよな。一度見て、一度挑戦して、それから考えても遅くはないはずだ。

 

「よし、レイン! ラウラ戦で使った高速機動を見せてくれ!」

 

 力強く頼み込む。ええ、駄目なら世界初、土下座するISの雄姿をご覧にいれるさ。

 だが俺のそんな後ろ向きかつ不毛な決意はどうやら無用だったらしい。顎に手を当て(本当に当てるとISの手が固く尖っているので痛いのかポーズだけだが)少し考え込んみ、結果俺に向かって構えを取ってくれた。

 専用機を装着した状態でのそれは、なかなかに威圧感と迫力がある。有機質と無機質の入り混じった圧迫感を感じずにはいられない。

 

「一夏、本気で打ち込んでこい」

 

 レインの真剣な眼差しに、俺も雪片弐型を正眼に構えることで答える。いつもからしている組み手通り、言葉なしの会話だ。

 

「はっ!」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)で距離を詰め、同時に袈裟切りを狙って斜めに切り落とす。

 だが刃が届く前にレインは俺の左に回り込んだ。

 異常なまでの速度だ。普段なら何が起きたか理解できなかっただろう。だが白式のハイパーセンサーがレインの動きを捕らえていた。視覚に頼らず、俺はその動きを知覚する。

 左足を軸に回転する。

 だがそこにレインの姿はない。

 俺の回転速度より速く、後方に回っていたのだ。

 しかしまだ認識できている。俺は更にスピードを上げて反転し、視界にレインを捕らえた。

 

「うりゃぁああ!」

 

 気合い一閃。回転の勢いを利用した横薙ぎ。レインの軌道と真逆のベクトルで雪片弐型を振るった。

 迫る刃をレインは一歩だけ後退してかわす。

 しまった!

 追撃がくる。そう判断し、俺は少しバランスを崩して力は入らなくはなるが、とりあえず雪片弐型の切り上げを放つ。

 だが雪片弐型の先にレインはいない。再びこちらの死角を突くように右手に移動をしていた。

 どうやら動きを見せるだけに徹するつもりのようだ。

 せめてガードくらいさせたいな。

 そんな意地を持たないではないが、この模擬戦の趣旨を忘れるわけにはいかない。

 レインの動きの中に、ラウラ打倒のヒントがあるかもしれないから。

 俺はISのハイパーセンサーをフルに活用してレインの動きを捉えようとする。二ヶ月も白式を使っているのだ。そのくらいならできる。

 右、左、左……。不規則に死角を突くレインの動きを、白式はしっかりと教えてくれた。

 相手の動きに合わせてタイミングを計る。一瞬だけでもレインを正面に捕らえたときがチャンスだ。レインの速度では一秒あるかどうか……。

 全ての感覚器官と白式のセンサーを最大に活用する。

 三。

 レインが方向転換をした。

 二。

 俺はそれを追わずに逆回転で迎え撃つ。

 一。

 視覚以外の感覚とセンサーで位置を確認。

 

「はぁあああああっ!」

 

 一気に雪片弐型を振り下ろした。

 しかし。

 

「くっ……」

 

 予想通りと言うべきか、俺の面を狙った打ち込みは空を切る。

 僅か半歩。だが絶対的な距離が刃とレインの間にあった。

 

「これが……」

 

 思わず感嘆の声が漏れる。シャルに言われた通りのことが起きている。

 知覚と認識の狭間の機動だ。

 センサーは完全にレインの動きを捉えているのに、俺の認識と予測を完全に裏切って回避している。生身では動きそのものが知覚できないから分からなかったがこれなら理解できた。機体の性能に頼ったままでは決して勝負にならない。レインに勝つには生身で追従できる〝見〟の力が必須なのだ。

 

「だけど!」

 

 戦う以上、勝つ意志だけは捨てられない。俺は一か八かの賭けに出た。

 動きに翻弄されるのであればあえてそれを無視する。目を閉じることで視覚に攪乱されることを防ぐ。

 ISのセンサーは脳に直接情報を伝達する。目を閉じてもデータはきちんと把握できた。

 後はタイミングだ。

 レインの機動は人間の無意識的な予測を裏切るもの。しかし戦う以上接近することは絶対に必要だ。離れたら必ず近付かなければならない。そのタイミングの先を抑える!

 センサーが伝えてきた。

 距離が離れる。

 まだ来ない…………。

 まだだ…………。

 まだ……。

 

「今だ!」

 

 PICを全力で使用してその場で回転した。俗に言う回転斬りだ。生身では踏ん張りが利かないため威力が落ちるのだが、ISの加速力を利用すれば十分に必殺の技となる。

 全方位への攻撃ならばレインと言えどもかわせる筈がない!

 

「甘い!」

 

 戒めるようなレインの声が届いた。

 上だ。

 俺は思わず目を開けてしまう。そこには華麗な背面ジャンプで俺を飛び越えるレインの姿があった。

 飛ぶというよりは舞うと表現するべき美しさ。俺の意識はその光景に一瞬だが呑みこまれてしまった。

 

「こら!」

「あたっ!」

 

 着地と同時にレインに頭を叩かれる。呆然としたことがばれてしまったらしい。同級生に見とれてしまったという事実が恥ずかしく、思わず顔が熱くなってしまう。模擬戦中に不真面目な態度を取ってしまったことを咎めるように、箒とシャルがこっちを睨んでいた。

 

「まったく……。ぼーっとしてたら意味がないだろう?」

「悪い」

 

 呆れ顔のレインにばつが悪くて頭を下げるしかない。

 

「それで一夏、何か掴めたの?」

「ああ。俺には絶対に不可能なことがよく分かった」

 

 胸を張ってシャルに答えた。実際に相対してみてその有用性ははっきりと理解できるが、それ以上に現在の俺の実力ではとてもじゃないが実行できそうにない。しかし逆を言えば、そんな高次元の戦闘技能がラウラとの戦いでは必要だったということだ。少なくともISでの戦いでは。

 

「しかしそれだけでは対策にならないだろう。何かヒントは得られなかったのか?」

「はは…………」

 

 はっきり〝ない〟と言うのは口惜しかったので箒の問いかけには笑ってごまかす。結局次元が違いすぎてヒントにすらならなかったのだ。種の分かっているプロのマジックを見せられて呆然としたような心境に近い。

 とりあえず時間がない以上、現在の俺ができる方法で何か対策を立てるしかない。未来の俺への期待はこの際きっぱりと捨て去ろう。

 

「とにかくAICを防がないと一方的に痛めつけられて終わりだよ。それをどうするかから考えよう。レインは何か気付いたこととかある?」

「う~ん…………」

 

 シャルに話を振られて考え込むレインに視線が集中する。今のところ直接AICを体感したのはレインとセシリア、それに鈴の三人だ。実践の中で得た情報があるかもしれない。

 首を捻りながらレインは口を開いた。

 

「役に立ちそうなことは、まずAICのエネルギーは零落白夜で無効化できるだろうってことと、使用にはラウラの集中が必要の二つぐらいだ」

「でも零落白夜で無効化しようにも、刃以外を止められたら終わりだろう」

 

 その通りだ。箒の意見に俺も無言ながら賛同の意を示す。AICは全く見えない上に予兆もない。おまけにセシリアと鈴の戦いでは複数個所を同時に固定していた。零落白夜での無効化は期待できないだろう。

 

「じゃあラウラの集中を乱すか?」

「でも越界の瞳《ヴォーダン・オージェ》でラウラの知覚力はかなり高められてるはずだよ。そうそう混乱したりはしないと思う」

 

 俺の意見にはシャルから物言いがついた。その解説は確かにアリーナで受けた気がする。つまり人工的に知覚を強化したラウラですら翻弄したわけだ。俺が振り回されて終わるのも当然だったと言える。

 

「では腕の動きを見てかわすのはどうだ?」

「AICは腕を翳す必要はない。恐らくあれはイメージを明確化することと、相手に対しての威嚇だろう」

 

 実践で感じたであろう情報を提供して箒に反対するレインはやはり考え込んでいる様子だ。最近だんだん俺のコーチ兼セコンドみたいになっているような気がする。セシリア戦とか鈴戦とか。

 

「まあ、まだ時間もあるし対策はゆっくり考えようよ」

 

 シャルの言葉でとりあえず今日の対策会議は終了となった。その後俺達はいつも通りの訓練メニューをこなし放課後を有意義に利用する。ISの使い方でシャルの生徒となっていたレインの姿が少し新鮮だった。

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