IS武闘伝   作:Crank

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 さて、皆さん。
 ここIS学園は未来のIS操縦者を育てるべく、世界中から才能ある少女を集めた教育機関なのですが、そこには未だ実験段階のISも多く有るのです。
 今日の対戦カードは織斑一夏vsセシリア・オルコット。セシリアの駆るブルー・ティアーズの最新兵器に素人の一夏はどう立ち向かうのでしょうか?
 それでは、IS武闘伝、Ready~Go!


零落白夜の輝き! 激突の白と蒼Ⅰ

 一週間があっと言う間に経過して、今日は月曜、セシリアとの決戦の日だ。

 俺、箒、そしてレインはここ第三アリーナAビットで、今始まらんとしている世紀の一戦に向けて緊張感を高めている。……いるはず。

 

「遅いな」

 

 箒が呟いた。

 そう、遅いのである。

 セシリアが? 否。俺が? 否。会場が? 否。

 

「いつになったらお前のISは来るんだ?」

 

 それは俺も聞きたいですよ、箒さん。

 授業で習ったのだが、IS……というよりISに必須なISコアは世界中に四六七個しかない。つまりそれが世界におけるISの上限なのだ。ISコアは完全なブラックボックスとなっていて、これを作れるのは篠ノ之束博士、つまりは箒のお姉さんしかいないのだが、その束さんは一定数以上のISコアの作成を拒否しており、おまけに現在絶賛行方不明である。

 だがその貴重なISを個人の専用機として所有している者がいる。それが国家代表であったりその候補生なのである。セシリアの言によるとエリート中のエリートらしい。

 そんな貴重な専用機持ちの中に俺も入ることになったらしい。何でも世界で唯一の男性IS適合者のデータはどうしても欲しいらしく、急遽俺専用のISの製作を行ったらしいのだ。

 まぁ、それがこうして決戦当日になっても届かないから待ちぼうけを喰らっているんだが。

 

「いまさらなんだが……」

「ん?」

「本当に一度もISに触らなかったな」

「そう言ったはずだ」

 

 時間つぶしも兼ねて少しだけ不安材料を吐露してみたが、レインはあっさりスルーした。いやもう言っても仕様がないのは分かってるんだけどさ、もうちょっとこう頼もしい言葉とか聞きたかったよ。

 

「しかし、一夏の言う通り、戦いの勘は一週間やそこらで戻る物ではないだろう?」

 

 おお、ナイスだ箒! 援護射撃に感謝!

 

「だから最終的には荒療治まで行ったんだ」

「………………思い出させるなよ」

 

 想像しただけで体が震える。

 当初は予定通り箒と手合わせをしていた。動かない体に鞭を打って箒相手に必死に食らいついていた。箒の方も手を抜けばすぐにレインにばれてしまい常に全力で俺に向かってくるのだ。おかげで全身痣だらけになってしまった。そして俺と箒はへとへとになって部屋へ戻り交代でシャワーを浴びて寝る。箒は時間が合えば大浴場に行っていたが俺は許可がないので毎日シャワー。疲れが完全に抜けきらなかった。俺さ、今日の戦いが終わったら温泉に行くんだ……(願望)。

 そういった面では同室の相手が箒で良かった。お互いに事情を良く理解しているから、即行で眠ってしまい睡眠だけはばっちりと確保していられたんだから。

 だが、四日目からはそれすら甘いことを俺は理解する。三時間あった箒との特訓が二時間に減らされたのだ。まぁ箒は少し楽になって良かったと思う。鍛えてるとは言え本来無関係なのに体力的限界まで付き合わせていたから。

 じゃぁ減った一時間はどうなったか。

 

「…………何度死ぬかと思ったことか」

「ちゃんと生かしてあるだろう」

 

 頭を抱えこむ俺に、レインが冷ややかな声を投げかけた。俺の恐怖心を理解していないようだ。

 レインの言葉通り俺は生かされた。つまりは最後の一時間を、レインと組み手させられたのだ。

 一切余力なしの組み手だった。勿論俺の余力が。

 箒相手のときはどう避けるか、どう捌くか、箒はどう攻めてくるか。そういったことを考える余地があった。

 だがレインの組み手は違う。息もつかせぬ連撃がこちらの回避行動ぎりぎりの所に飛んでくる。拳圧だけで頬が切れ、まるでワープでもしたかの様な蹴りが放たれるのだ。

 しかも威力は一撃必殺。

 あいつが組み手の前に手刀で古くなった木刀十本を両断した時、俺は死すら覚悟したよ。こんなのに狙われるんだから。避ける方も必死になる。文字通り当たれば必死だ。結構普段から自分にも他人にも厳しい箒が、俺の体を気遣って特訓の中止を言い出したくらいなんだから大概だ。

 

「擬似的に死に直面させることで潜在的な能力を引き出す、か。口で言えば簡単だが絶妙な手加減が必要だぞ」

「怪我させないように手加減するよりは楽だったよ」

 

 箒の言葉にあっさり返すレインの表情には、特に悪びれた様子もない。こいつは本当に俺に勝たせるつもり満々だったのだ。その為に地獄の特訓を俺に課した。下手したら本当に地獄行きだったけどな!

「パンチ・アイとかになってたらどうするつもりだったんだよ」

「そのうち似たような目に遭うから早いか遅いかだけの差だ」

 レインは事も無げに言っているが、俺の言うパンチ・アイとは格闘家が強烈なパンチなんかを貰ったことが原因で深いトラウマを残し、目の前を何かが横切ったりするだけで体が硬直してしまう症状のことだ。当然、ISの操縦なんてできるはずがなくなる。

 

「……熱くなりすぎたことは認める」

 

 初めてレインの口から反省の弁が出たことに、正直なところ驚きを禁じ得ない。もっと意固地になるかと思っていた。

 

「い、いや! 実際にはなってないしな! それに一度も直撃はなかったし、上手く加減してくれたんだろ!」

 

 慌てて言い訳じみたことを言ってしまう。不満を先に突きつけたのは俺だったのに、こう言われては言い返せなくなってしまう。狙っての行動ならなかなかの悪女だ。

 

「あ、織斑君! 届きましたよ、できたてのピッカピカ!」

 

 自動車販売店の店員が新車を納品に来たかのような台詞を明るい声で投げてきながら、我らが副担任の山田真耶先生が駆けてきた。

 

「来たか……」

 

 そう呟いて、レインは搬入口に視線を移した。重く黒い鉄の扉が鎮座している。

 ぎぎぎ、という重厚な音がしてゆっくりと搬入口の扉が開いていく。俺の心臓が高鳴る。興奮か緊張かよく分からないが、ここまで来た、という思いが溢れていく。

 扉が開ききった。

 ――白。

 そこにあったのは白い機体。純白と呼んで過言ではない白。

 肩部分のアーマーと脚部が角ばっていて『力』の象徴のように感じられる。そしてその中心部には人一人分の空間があった。

 

「……これがお前のIS『白式』だ」

 

 そうだ、これは俺のだ。俺をこいつは待っていた。あの席を俺の為に開けていた。

 ISの足元に立っていた千冬姉の言葉が自然と鼓膜を介して脳へと伝わり心へ染み込んでいく。

 俺の……『白式』。

 近寄って手で触れてみる。冷たい金属の感触が掌に伝わった。

 そのことに俺は違和感を覚えた。

 

「どうした?」

 

 隣にやって来ていた箒が不思議そうに俺の顔を見ている。俺はそれに「何でもない」とだけ答えた。初めてISを動かした入試のときは、もっと触れただけでいろんなことが頭の中へと流れ込んできたのに、今回はそれがない。

 俺は白式を見据えた。

 

「時間がない。『初期化《フォーマット》』と『最適化《フィッティング》』は実践の中で行え」

 

 小さく頷いて白式の中へと入り込む、と言うよりは体をはめ込むに近いか。脚部に足を通し腕部に手を通すと、白式は俺の体を固定する為に装甲を動かしてフィットさせた。抱きしめられるような錯覚を覚えたのは気のせいだろうか。

 瞬間、脳に直接情報が飛び込んでくる。視界がクリアになり周囲の状況が眼球の動きと無関係に認識できた。

 

「ハイパーセンサーも正常の様です」

 

 山田先生の言葉がやけにはっきりと聞き取れる。同時に俺の脳にはセシリア・オルコットとそのIS『ブルー・ティアーズ』の情報が検索・閲覧されていた。

 

「特殊装備有りの中距離タイプ」

 

 とりあえず分かったのはそれくらいだったが、その情報を聞いて反応したのはレインだった。

 

「中距離なら分がある。どれだけ時間がかかっても良い、何としても接近戦に持ち込め。間違っても撃ち合いに応じるな。このISの性能については知らんが、どちらにせよ素人同然の一夏が射撃戦を行えるとは思えん」

「射撃型なら接近戦は苦手かもしれない……か?」

「そうだ。勝機はおそらくそこしかない」

 

 まったく。たった一週間で俺のコーチ兼セコンドみたいなことになってやがる。こいつ武闘家よりもこういうのが向いてるんじゃないか? 人のサポートが板についてやがる。

 

「気分が悪かったりはしないな、一夏」

「ああ、そういうのはないよ」

 

 ハイパーセンサーとやらで強化された俺の耳は、普段なら決して捉えられないような千冬姉の声の震えも聴き分けられた。どうやら心配してくれているらしい。胸が暖かくなった。

 いや、多分ずっとそうだったんだろう。俺が気付かなかっただけで。IS学園に入学する前から、ISを動かす前から、誘拐される前からずっと俺のことをこうやって心配してくれていたんだ。教えてくれた白式には感謝だな。

 なら見せるしかない。いつまでも心配をかけっぱなしの子供じゃないって。守られるだけの存在じゃないって。

 千冬姉に比べたら本当にちっぽけな事かもしれないけど、俺も千冬姉を守ってみせるさ。

 

「行ってくるよ、千冬姉」

 

 ああ……千冬姉って呼んじまった。また叩かれるかな。でもいいか。千冬姉も一夏って呼んでたし、何より今は、この千冬姉の弟として戦いに臨むんだからな。

 

「一夏」

 

 箒も俺に話しかけてきた。

 沈黙。どう声をかけたらいいのか思案しているんだろう。目線が忙しなく動いている。だがそれも少しの間。箒は言葉を選んだらしい。軽く息を吸い込んだ。

 

「……勝って来い」

「……はは」

 

 思わず笑いが零れる。最近理不尽な目にはいろいろあってきたが、これは今までで一番の理不尽だ。勝ち目がないなんて分かりきってるのに。

 だから俺は笑って答えた。

 

「ああ!」

 

 力強くはっきりと。

 理不尽にだって挑んでやる。不可能にだって挑戦してやる。きっと何だってできる。

 俺と白式なら、必ずやれる!

 様々な情報が俺の脳内で次々と呈示されて更新されていく。初期化《フォーマット》の状況、白式の操作マニュアル、装備。

 だが全て今は不要だった。必要なのは、重要なのはたった一つ。ゲート解放まであと、二・〇五七一八四二二秒。

 この向こうに『敵』がいる。

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