窓から十間ほど離れた場所で互いに睨み合う十六夜とレティシア。十六夜は地上から見上げ、レティシアは上空から見下ろしていた。
「箱庭の吸血鬼ってのは翼が生えてるのか?」
「ああ。翼で飛んでいる訳では無いがな。制空権を支配されるのは不満か?」
「いいや。ルールにそんなの無かったしな」
飄々と肩を竦める十六夜。立ち位置からして十六夜には不利な戦いだが、十六夜はそんなことを気にもしない。それを見たレティシアは己のギフトカードを取り出す。金と紅と黒の三色のコントラストで彩られたギフトカードを見て、黒ウサギが蒼白になって叫ぶ。
「レ、レティシア様!?そのギフトカードは」
「さがれ黒ウサギ。力試しとはいえ、コレが決闘であることに変わりは無い」
ギフトカードが輝き、その光の中から長柄の武具が顕現する。
「互いにランスを一打投擲する。受け止められねば敗北。悪いが先手は譲ってもらうぞ」
「いいぜ、譲ってやる」
レティシアは投擲用に作られたランスを頭上に掲げる。
「ハアッ!!」
呼吸を整え翼を広げ、全身を撓らせた反動で打ち出す。怒号と共に放たれた槍は瞬く間に摩擦で熱を帯び、一直線に十六夜めがけて落下していく。流星のごとく真っ直ぐに十六夜に向かって突き進むランス。それを見ても十六夜の表情は崩れない。それどころか獰猛に笑い。
「ハッ――しゃらくせえ!」
「「――は・・・・・・!?」」
素っ頓狂な声で驚くレティシアと黒ウサギ。俺はある程度予測してはいたが、改めて十六夜のデタラメさに舌を巻いた。人間にこんな芸当ができるとは思えないんだが、現に俺の前の奴はそんなデタラメをやってのけている。ただまあ十六夜が普通じゃねえのは今更だ。それよりも今考えるべきは、
「やり過ぎだバーカ」
レティシアの目の前まで第三次宇宙速度でせまる鉄塊を蹴りで全て叩き落とす。いくらレティシアが吸血鬼といえどこの速度で迫る鉄塊をまともにくらって無事で済むとは思えない。そして俺はレティシアのギフトカードを奪い取る。
「な、何を!」
「ギフトネーム・〝
「そんな・・・・ギフトネームが変わっている。鬼種は残っていても、神格が残ってない」
「っ・・・・・・」
さっと目を背けるレティシア。歩み寄った十六夜は白けたような呆れた表情で肩を竦ませた。
「なんだよ。もしかして元・魔王様のギフトって、吸血鬼のギフトしか残ってねえの?」
「そーなんだろうな・・・・・・見たところ武具なんかはある程度残してあるようだけどな・・・・・・」
十六夜は隠す素振りもなく盛大に舌打ちした。
「ハッ、どうりで歯ごたえが無いわけだ。他人に所有されたらギフトまで奪われるのかよ」
「それが出来るんだったら魔王は大量のギフトを持ってることになるわな・・・・・・多分無理だろ・・・・」
「その通りです。例え隷属させた相手とはいえ、合意無しにギフトを奪うことは不可能です」
つまりレティシアはどこかの誰かに自らギフトを差し出した事になる。どこぞの誰かは知らねえが、
「胸糞悪い話だな・・・・・オイ・・・・・」
「レティシア様は鬼種と神格の両方を兼ね備えていたからこそ〝魔王〟と自称するほどの力を持っていたはず。今の貴女はかっての十分の一にも満ちません。どうしてこんなことに・・・・・・!」
目をそらしたままうつむくレティシア。何かを言おうとしては言葉を飲み込む。そんな仕草を何度か繰り返す。しかし言うには至らず、また俯いてしまう。そんな中十六夜が鬱陶しそうに提案する。
「まあ、あれだ。話があるならとりあえず屋敷に戻ろうぜ」
沈鬱そうに頷く二人。そのときに異変は起きた。遠方から輝く褐色の光。その光を見て、レティシアが叫ぶ。
「あの光・・・・・・・・・ゴーゴンの威光!?まずい、見つかった!」
「あぁ?何に見つかったっつん・・・・・」
俺は最後まで聞くことが出来なかった。俺達を庇うように立つレティシア。その光がレティシアに当たった瞬間、レティシアが石化した。
「あぁ!?」
俺は驚く。そしてレティシアが石化すると同時に、光の差し込んだ方向から、翼の生えた靴を履いた騎士風の男達が大挙して押し寄せてきた。
「いたぞ!吸血鬼は石化させた!すぐに捕獲しろ!」
「例の〝ノーネーム〟もいるようだがどうする!?」
「邪魔するようなら構わん、切り捨てろ」
空を駆ける騎士達の言葉を聞いた十六夜は不機嫌そうに、なおかつ獰猛そうに、
「まいったな、生まれて初めておまけに扱われたぜ。どう思うよ?」
「マジでぶっ殺したい気分なんだよなぁ・・・・・」
十六夜の冗談のような声に割と本気の殺気が籠もった声で返す。正直苛ついた。
その間に、騎士達は石化したレティシアを捕獲し始める。
「これでいい・・・・・箱庭の外のコミュニティに売り飛ばすんだ・・・・・相手は一国規模のコミュニティなんだ。取り逃がしでもしたら――」
「箱庭の外ですって!?」
「だからなんだ?我らが首領が取り決めた話だ。部外者は黙っていろ」
騎士は突き放すように言い、空を飛ぶ。
「こ、この・・・・!これだけ無遠慮を働いていて比例をわびる一言も無いのですか!?」
激昂する黒ウサギ。しかし騎士はあくまで冷静に、見下した態度で
「こんな下層に本拠を構えるコミュニティに礼儀をつくしていては我らの旗に泥がつくわ、身の程を知れ名無しが」
「なっ・・・・・なんですって・・・・・」
黒ウサギはさらに激昂する。なおも続けようとする騎士が突然、苦しんだように悶え始める。
「黙れよクズ共・・・・・・」
俺は片手を握りつぶす用に握る。それだけで騎士の喉が潰れた。潰れたカエルのような悲鳴をあげて痙攣する騎士。それを見ながら俺は冷静に構えていた。
「身の程を知れ・・・・ね。確かに良い言葉だ。ただし身の程を知るのはテメエ等の方だ・・・・・・」
俺は騎士達の方に指をむけて、横になぞるように指をふる。それだけで前方の三人の騎士達の胸が刃物にでも切られたように裂ける。血を吹き出しながら騎士達が墜落する。さっきの一人を含め今ので合計四人死んだ。それでも後九十人近くいるが俺の敵じゃない。
「ハァ・・・・・・、薄汚ねぇテメエ等の血で人の敷地を汚すんじゃねえよ・・・・・・誰が掃除すると思ってんだコラ」
騎士達の表情が唖然とした顔で固まる。それもそうだ。俺はさっきから一歩も動いていない。それでも四人死んだ。自然と力量差が分かると言うものだ。
「んでまあ・・・・・・どうすっかなぁ・・・・・・正直お前等を殺す程度なら別に楽なんだけど・・・・・・さすがに死体片付けるのが面倒なんだよなぁ・・・・・・」
俺はぼやく。すると十六夜に右肩をつかまれる。
「んだよ?」
「その辺にしとけ」
真剣な十六夜と気怠げな俺。別に俺だって望んで奴らを殺したい訳じゃない。ただ自分より弱い奴から格下と言われたから苛ついただけだ。
「あん・・・・・消えた・・・・・?」
空は元から何事も無かったかのように星空が広がっていた。
「逃げ足だけは一流ってか・・・・・・どっちが格下なんだか・・・・・・」
「いや、よく聞いてみな」
聞く?と思っていると、さっきまで奴らがいた所から少し離れた場所で鎧のぶつかる音がする。どうやら透過するギフトでも使っているらしい。これからどうするかを少し考え、
「白夜叉の所にでも行くか?」
「ああ、それがいい。他の連中も呼んでな」
「アイツ等も?なんでまた」
「最悪その場でギフトゲームになる可能性もある。頭数は多い方が良いだろ」
なる程な。と納得し、他の連中を呼びに行く。春日部は寝てるとの事なので、ジンと飛鳥を連れて、俺達は〝サウザンドアイズ〟に向かう事にした。
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