「あ、吹っ飛んだ」
黒ウサギが白い物体にタックルされ、街道の向こうの浅い水路まで吹っ飛び、派手に水飛沫を上げながら落下する。
「えぇー……」
俺は目を丸くしながら呆れていたが、それ以上に、店員は痛そうな頭を抱えていた。
「あれ何?」
「店のドッキリサービスとかか?」
「いやそれはねーだろ……」
そもそもなにより、フライングボディーアタックのドッキリサービスなんてゴメン被る。
「白夜叉様!?どうして貴方がこんな下層に!?」
「そろそろ黒ウサギが来る予感がしたからの!やっぱりウサギは触り心地が違うのう!」
はしゃいでるんだかセクハラしてんだか分からない声がするが、恐らくあの白いのと黒ウサギは旧知の中なんだろう。そうでなきゃ普通は怒る。
「ちょっと離れてください!」
白夜叉と呼ばれた少女の頭を黒ウサギがつかみ。無理やり剥がして放り投げる。
くるくる縦回転しながら飛んでくる少女を十六夜が足で受け止めた。
「てい」
「ゴバァ!お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」
「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」
ヤハハと笑いながら名乗る十六夜。
ここまでの一連の流れについてこれていなかった飛鳥が思い出したように白夜叉に声をかける。
「貴女はこの店の人?」
「おお、そうだとも。この〝サウザントアイズ〟の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。」
「なんで黒ウサギまで濡れる事に……」
「因果応報……かな」
『お嬢の言う通りや』
悲しげに服を絞る黒ウサギと濡れても全く気にしない白夜叉。
白夜叉はぐるりと見渡して
「ふふん。お前達が新しい黒ウサギの同士か。異世界の人間が私の元に来たということは……」
事は何だと言うのだ。なんかこいつからは十六夜と同じ匂いがするんだが……
「遂に黒ウサギが私のペットに」
「なりません!」
やっぱこいつ残念な人だ。そう思ったのは俺だけじゃないはずだ。
「まあいい。話があるなら店内で聞こう。」
そう言う白夜叉について行き、暖簾をくぐると庭に出た。店の大きさからは考えられない大きさだが今更この程度では驚かない。
「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」
和室に通され、上座に白夜叉が座り、対面するように俺達も座る。
「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている〝サウザントアイズ〟幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくりょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」
「はいはい、お世話になっております本当に」
投げやりな言葉で返す黒ウサギ。まあ世話になっているのは本当なのだろう。
「しかしその水樹、一体誰があの蛇神に、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵か?勇気か?」
「いえいえ。その水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしたのですよ」
自慢げに黒ウサギが言うと、白夜叉は驚き、
「なんと!?クリアではなく直接的に倒したとな!?ではその童は神格持ちの神童か?」
「それはないと思いますよ?神格持ちなら一目見れば分かるはずですから」
む、それもそうか。と納得する白夜叉。
神格とは生来の神様だけではなく、種の最高ランクに体を変幻させるギフトを指す。
蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に。
人に神格を与えれば現人神や神童に。
鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。
更に神格を持つことで他のギフトも強化される。箱庭にあるコミュニティの多くは各々の目的のための神格を手にいれることを第一目標とし、彼らは上層を目指して力を付けているのだ。
「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」
「知り合いもなにもあれに神格を与えたのはこの私だぞ。」
胸を張って呵々と豪快に笑う白夜叉。
それを聞いた十六夜が反応する。
「へえ?じゃあオマエはあのヘビより強いのか?」
「ふふん、当然だ。私は東側の〝
〝最強の主催者〟――――――その言葉に十六夜・飛鳥・耀の三人は一斉に瞳を輝かせる。俺はお茶を飲む。あ、旨い。
「そう…………ふふ。ではつまり貴女のゲームをクリアできれば、私達のコミュニティは東側最強ということになるのかしら?」
「無論、そうなるの」
「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」
三人は剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。白夜叉はそれに気づいた後に俺の方を向いて、
「おんしはどうじゃ?やはりこの白夜叉に挑戦するか?」
「……悪いが、負けるとわかってて戦うほど愚かじゃない。戦ってみたいのは山々だけどな」
そして呵々と笑うと、
「抜け目ない童たちだ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」
「え?ちょ、ちょっと御三方様!?」
「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」
「ノリがいいわね。そういうの好きよ」
「ふふ、そうか。――――――しかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」
「なんだ?」
白夜叉の着物の裾から向かい合う双女神の紋が刻まれた一枚のカードが出てくる。
そして壮絶な笑みで告げる。
「おんしらが望むのは決闘か?それとも対等な位置での挑戦か?」
刹那、世界が変わった。
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