アンドレア:ディノ・デ・ラウレンティス
エドワルド:デヴィッド・ストラザーン
※タグの関係でR18に投稿されていたことに気付き、なんやかんややっていたら話を削除してしまっていたので、表現などをちょこっといじって再投稿です。
異 郷 : 01
…………「人」は生まれるものではなく、形成されるものである。
我々は無垢に生まれながらも、自我の芽生えと時を同じくして、有形無形のあらゆる制約を周囲から課せられる。
曰く、人を殺してはいけない。
曰く、他者とは協力し合うべきである。
曰く、……。
それらを「価値観」として、何の疑問も持たぬよう骨身に叩きこまれて初めて、我々は周囲から、そして社会から「人」として扱われるのである。
しかし、ただ一つの理由から、その過程を経ても社会から「人」とは認められない存在がいる。
我々と同じ社会に暮らし、笑い泣き愛し合うことができてなお「人」とは成り得ない存在。
喰種
「人」として忌避されるべき行い、即ち人間を喰らうことでしか生きることができない彼らは、「人」に最も近く、最も遠い。だが、だからこそと言うべきか、喰種は人間が「人」になるために捨て去り、あるいはその身の内に抑え込んできた数多の衝動と感情を時に鮮明に表すことがある。
ひたすらに肉を求める欲望を。
我が子へ向ける無償の愛情を。
消して絶やさぬ希望を。
その輝きを目の当たりにした時、私は思うのだ。
美しい、と。
喰種は世界中人間が存在する所全てに存在する。その脅威に対応する組織もまた然り。
「
日本では「和修」、ひいてはCCGが担う喰種退治を、欧州イタリアの地で担うのはOSGと呼ばれる組織である。正式名称、
長い歴史を通じ、先達が文字通り命を賭して学んだ戦術と教皇庁の権威でもって、歴代の騎士達は万難を排して喰種と戦ってきたのである。少なくとも記録の上では。
「
しかしながら、騎士団結成から600年ばかり経ったこの現代のイタリアで、2人の喰種捜査官の行く手を阻んだのは、屈強な喰種の赫子でも、それと交わる背教者でもなく、「管轄」という名の見えない壁であった。
「一度引き揚げるとしよう。これ以上居ても収穫はなさそうだ。」
「
肩をすくめ、背中を丸めて路駐した車に戻る中年のイタリア人捜査官とその背中を追う若い日本人捜査官。随分と珍しい光景を見送ったカラビニエリは、あれが例の国際共同捜査班とやらかと記憶をほじくりかえす。世界各国の対喰種組織間の連携と質の向上のため云々という2、3か月前の通達の内容はかろうじて覚えていたが、まぁ、なんだっていい。ここはローマだ。どこから来ようがローマの流儀に従ってもらうさ。それより、昼食は何にするかな……。
時刻は13時半過ぎ。10月に入ったとはいえ日中はまだ強く照りつける陽射しに、先程の記憶は溶けて行った。
一方、カラビニエリから忘れ去られた2人は今日も今日とてさしたる成果を上げらず、自らの不徳を弁明する為、一路OSG本部へと車を走らせていた。
「本部に戻る前にバールでカフェを飲もうじゃないか。」
「14時から捜査会議です。本部まで車で20分はかかるんですよ。遅れればまたエドワルド捜査官から嫌味が飛んできます。」
「会議に出れば同じだ。どうせ言われるなら優雅に行きたい所だね。」
走らせていた、はずだった。
ハンドルを握り、あっけからんと言い放ったのは禿頭の中年イタリア人、アンドレア・アレッサンドリ。叩き上げの喰種捜査官として、豊富な経験と、知る人ぞ知る「特技」を持ち合わせているが、こと時間感覚とチームワークに関しては壊滅的といって良い。おかげで上司からの覚え目出度く、昨今は会議に出れば絶対零度のお褒めの言葉を頂戴してばかりである。
あまりの奔放ぶりに助手席の青年も物申したくなったか、片目を完全に隠すほどに長い髪の奥で目を細める。
「もう5日経ちました。国内で照合できる赫子痕にも該当無し。「食い逃げ」を前提に捜査範囲を拡大しては?」
「そっちは麗しのエドワルド捜査官にお任せするさ。越境捜査はお手のものだろう。」
「とはいえ、チーム単位での捜査活動が前提でしょう。単独行動をしながら情報共有の場にさえ碌に出向かないのは流石にどうかと…」
「向こうは聞きたくないと思ってるからさ。空気で察したんだよ。日本人みたいにな。それにな、単独で勝手に動いているわけじゃない。」
「指示があったので?よくエドワルド捜査官が許可しましたね。」
「いや、そうじゃない。」
「は?」
「お前がいるだろ。2人だ。」
「……」
にやり、と笑ったアンドレアに青年は一瞬面くらう。その言葉を反芻し、そして口から思わず飛び出そうになった罵倒をため息に変え、視線と共に窓の外に逃がした。呆れてものも言えぬとはこのことである。そんな赤子じみた言い訳がそう何度も通用するものか。だが悲しいかな、この中年に何を言っても暖簾に腕押しであると、この2週間ですでに思い知らされている。
「カフェは奢ってやるから、そう腐りなさんな。」
「……どの口がそれを言いますか。」
「これも捜査の内さ。」
「十分な実績があるなら、それも良いでしょう。ですが未だ「ルマーカ」の足取りを掴めていない状態でそれを言っても、エドワルド捜査官は認めませんよ。」
「…フン。」
全く、エドワルドエドワルドとやかましい
日本の喰種対策組織から出向してきて1ヵ月、こうして自分と組まされて早2週間余り。隣で捻くれている青年の、これぞ日本人というべき事務処理能力の高さと勤勉さ、そしてクソ真面目さにはこちらが閉口したいほどである。それでも、足で稼ぐ昔ながらの、
不貞腐れる青年の方も、何となくではあれど、隣の中年捜査官が自分を買ってくれていることは感じていた。それが嬉しいかどうかは全く別の問題であるが。そもそも今の状況全てが、彼の欠片も望んでいないことの積み重ねで成立したのだ。文句の一つも言いたくなろう。
アカデミーを五席で卒業後、CCGに入局して2年。地道に実績を積み重ねていた矢先に突如渡された1枚の紙切れによって、イタリアにおける共同捜査班への出向が決まった時は驚きはしたが、嬉しさもあった。
しかし、世話になった捜査官に挨拶に行った時、わりぃな、貧乏籤引かせちまったと書類から目も離さずに詫びられてその嬉しさも吹っ飛んだ。
「どういうことです?」
「鬼ツネのジイさんがな、正直乗り気じゃないんだわ。」
「とりあえず送っとけってんで、腕は立つ柿崎と、イタリア語できるって聞いたんでお前の名前を挙げといた。」
「柿崎準特等というと…」
「ああ、有馬のガキを目の敵にしてるあいつさ。俺もあのガキはいけすかねぇんだが使えることは確かだからな。あ、出発は1週間後な。」
だったら有馬三等を選んでくれとも言えず、あれよあれよという間に永遠の都で喰種を追いかける青年の日々が始まった。不慣れな土地で共に喰種と立ち向かうはずであった柿崎準特等は単独行動の結果、来伊2週間目に右腕だけで日本に帰る羽目に。相棒を無くした彼にあてがわれたのが、相棒すら置いていくと有名なベテラン捜査官だったのは出来の悪い冗談だろう。
「着いたぞ、若造。」
とはいえ、一日の大半を外回りに費やす彼は、周囲の評価にまだ疎い。
OSGの古株が、かつてどれほど優秀な新人にも決して歩調を合わせたことのなかったアンドレアが、よりにもよって日本人の若者をバールにまで連れまわしていると聞いて驚愕していることを青年は知らない。かつて一顧だにされなかったOSGの新人たちがやっかみ半分で青年に嫌味を投げつけるのも、アンドレアに引きずり回され上司の冷ややかな言葉で胃にメスを入れられるわが身の不幸を呪う青年には、見分けがつかないものであった。
「…14時6分。遅刻は確定ですね。」
「なんだ、まだ気にしてたのか。過去を悔やんでも何にもならんぞ。」
「……行きましょう。遅刻までして寄るんです。さぞ美味しいカフェなのでしょうね。」
アンドレアになんのかんのと言いつつも、遅刻の連絡すら入れずあっさりとバールに足を向ける青年も、相当にイタリアの空気に毒されていると言って良い。多くのイタリア人がそうするように、2人は実に気楽な様子で古いアパルタメントの1階にこぢんまりと納まるバールへと入っていった。
2/3:主人公の設定を調整。23歳で→21歳で+アカデミーを五席で卒業
2/4:再度主人公の設定を調整。一等への昇進を取り消し。
※喰種捜査官入局年齢について
CCGの養護施設上がりだと18歳にアカデミー入学後20歳で入局(11巻より)。
アカデミーエリート組の亜門さんが22歳、暁さんが21歳。Q'sとして特例措置が取られた可能性のある不知、瓜江が19歳。総議長の鶴の一声があった有馬さんが16歳程度で入局していることからも、CCGの新卒採用は最低でも20歳と仮定しています。
2/7追記:16歳で入局したハイルという奴がいました…。しかし、設定はこのままで行きます。作中の動きを見るに、彼女も逸般人の様ですので…。
主人公は原作を読む限りでは年齢不詳。ですが、有馬さんよりは年上かつ過激に動いても肉体年齢的に違和感がない年齢にしたかったので上記の様に調整。
頭でっかち滝澤さんが次席、「目だった成績を残さなかった」平子さんの例もあるので、免許の様に既定の訓練さえ通れば入局できるようですね。